国立第三魔法学院魔法薬学研究科は今日も平和です(たぶん)

渋川宙

文字の大きさ
上 下
33 / 48

第33話 野良アンデッド

しおりを挟む
「しかし、なんであのオッサンが増田先生の憧れなんだ?」
 昨日は紬と増田を宥めるので終わってしまったが、この疑問が解決していないぞと俺は気づく。
 昼休み。これからまた惚れ薬開発の時間となるのだが、そもそもなぜ増田は朝倉のストーカーなんてやっているのだろうか。
「調べろよ」
 そんな俺の疑問につっけんどんに言ってくれるのは、よく解らない展開になっているのに、まだ付き合わされている大狼だ。
「調べて出てくるのか?」
 俺が訊くと
「国家魔法師の資格を持っているんだったら、魔法省に色々と登録されているはずだろ。アクセス申請すれば、すぐに朝倉先生の情報を教えてくれるはずだ」
 大狼が大元に問い合わせろよと冷たい。
「面倒だよ。ってか、わざわざ魔法省にそんなこと問い合わせたくねえし」
 俺は勘弁と、この話題を打ち切った。
 ちなみに何かと出てくる魔法省は、そのまんま、魔法に関することを一手に引き受けている省庁だ。隕石衝突の混乱後にすぐに設置され、国家魔法師の認定から危険魔法動物の特定まで、なんでもやらされている省である。そして、この魔法学院も魔法省の管轄となっている。
「ふっ。仕方がない。私が教えてやろう」
 と、そこに昼飯を購買に買いに行っていた佳希が、偉そうにふんぞり返ってくれる。おかげで大きな胸が強調されまくっていた。
「調べたのか?」
 俺は突き出された胸をこっそり目で堪能しながら、魔法省に問い合わせたのかと訊く。
「そんな面倒なことをしなくても、増田先生に聞けばいいだけだ。私は朝倉先生を尊敬する同志。そのことを伝えたら、色々と教えてくれた」
「あっそ」
 なんという恐ろしい共通の話題なんだ。俺は呆れつつも、それで問題の発端となっている朝倉への拗らせはどうなっているのかと訊ねる。
「ああ。これを見てくれ」
 佳希はそう言うと、白衣のポケットからコピー用紙を取り出した。広げられたそこには、二十年前の新聞が印刷されている。
「なになに。『天才少年現る! 十五才で国家魔法師に特別認定された朝倉小太郎』って、ええっ!?」
 俺はその新聞記事を読んで、思い切り仰け反ってしまう。
「そう。ビックリだろ。魔法学院に飛び級という制度があることも初めて知ったが、朝倉先生の魔法能力は飛び抜けているらしいんだ。この翌年には国家間の魔法対抗試合に出て、当時世界一位の称号を手に入れている」
「くう。あのオッサン、どこまで天才なんだよ」
 俺は、あのボサボサ頭のオッサンにこれだけ秘められた能力があるのが信じられんと、がしがしと頭を掻き毟る。
「増田が憧れる理由は解った。でも、今は魔法薬学の権威なんだよな。その間に何があったんだ?」
 大狼は俺からコピー用紙を奪い取ると、朝倉の人生に一体何がと真剣な目だ。
「確かに、今は国家魔法師の記章を白衣のポケットに入れちまう、適当なオッサンだぜ」
 なんで朝倉関係でこんなに謎が出てくるんだよと、俺はやれやれと溜め息を吐く。しかし、身近にとんでもない人物がいたことが発覚したわけだ。そりゃあ、今をときめく増田も、二十年前だから子どもながらに衝撃を受けたはずで、思わず追い掛けてしまうことだろう。
「何なんだろうな」
「もう、天才同士で勝手にやっていてくれって思うな」
 俺と大狼の意見が珍しく一致した時
『緊急警報! 魔法師指揮下にないアンデッドを確認!! 学生の皆さんは、至急校舎内に避難してください』
 と頭の中に思念伝達が鳴り響く。
「魔法師指揮下にないアンデッドって」
「野良アンデッドか。昨日の騒動ですっかり忘れていたけど、増田がグラウンドの近くで見たって言ってたぞ」
 そうだ。昨日、紬のことがなければ、増田は朝倉とアンデッドの捕獲に向うはずだった。
「きゃあああ」
 と、校舎の外から悲鳴が聞こえた。誰かがアンデッドに出くわしてしまったらしい。
「この近くかよ」
「マジか。野良は危険だぞ。凶暴化していることが多いんだ」
 驚いて廊下に出る俺を追い掛けながら、大狼は注意しろと警告してくる。
「凶暴化」
「ああ。アンデッドってのは、そもそも凶暴なものだからな」
「マジで」
(そういう情報、もう少し早く言って欲しかったぜ)
 昨日、紬を探しに出た時に出会わなくてよかった。あと、友葉をからかって悪かったなと思う。
 と、そっと外を覗いてみると
「なんでこっちに来るのよ~!?」
「げっ、胡桃!」
 なんと、胡桃がアンデッドに追い掛けられていた。アンデッドはマントに帽子と、この間大狼が連れてきたのと同じ格好をしているが、体格からして男であるらしい。
「こっちだ」
 と、そこに話題の朝倉が箒で駆けつけ、胡桃の白衣を掴んで引っ張り上げる。が、アンデッドはさらに追い掛け、胡桃の白衣を掴んで一緒に箒に乗ろうとする。
「いやあああ。なんで付いてくるの!? ってか臭っ!!」
 胡桃は自分の白衣を掴むアンデッドにパニックだ。
「くっ」
 そして、二人分の重さが掛かって、朝倉がバランスを崩しそうになる。箒が不安定にふるふると震え始めた。
「拙いぞ」
「行くしかないな」
 俺たちはそれを見て、避難している場合じゃないと校舎から飛び出す。
「先生」
「アンデッドを引き剥がしてくれ! 攻撃はこちらから防ぐ!!」
 朝倉は根性で箒の制御をすると、俺たちに助勢してくれと頼んだ。
「了解」
「腕と足を折るんだ」
 頷く俺と、アンデッドに容赦ない大狼の指示が飛ぶ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...