30 / 48
第30話 実験は大変なものである
しおりを挟む
ともかく、たまに噛みついてくる以外は大人しいネズミだ。大きくなったことで動きがゆっくりになったため、性格も大人しくなったというところか。
「ところでさ、小型化した生物っているのか?」
動物科が飼っている動物ってどれも大きいし、害獣や害虫は軒並み大きいので、俺はふと疑問になる。
「いるぞ。ペンギンは小さくなったし、キリンも小さくなったな。まあ、代わりに麒麟が現われて、名称がごちゃついているが。他にも象も小型になったな。これは飛ぶためだと言われている。ちなみにペンギンは瞬間移動を習得したためだそうだ」
「へえ」
薬学のついでに何でも調べる佳希のおかげで、小型化した動物もいることを知った俺だ。何度も言うが、隕石衝突で動植物は総て魔法の影響で変わってしまっているので、知らないものが多い。
さらにネズミが入って来れないように魔法結界が張られているように、一般人が魔法獲得動物を知る機会はとても少ないのだ。
「よし。次の薬に移るぞ」
駄弁っている間に佳希がちゃんと注射を打ち終え、俺はデカくて動かないネズミを檻に押し込むのだった。
「疲れたな」
「ああ」
昼間で掛かってネズミに薬を打ち終え、後は経過観察となったのでのんびりしている俺たちだ。食事を取りながらネズミを見るというシュールな光景だが、楽なことには変わりがない。が、そんなのんびりしている中、旅人だけはぼろぼろである。
「お前、ネズミが好きな臭いでも発しているのか?」
あの後もガジガジと囓られた旅人を見て、佳希は興味津々だ。ひょっとして何かネズミが好む成分を発しているのではと考え始める。
「止めてくれよ。ってか、なんで俺だけ」
「あっ、これじゃない?」
ぼやく旅人の白衣に何かが着いていると指摘。俺たちはそこを覗き込むと、確かに黄色い染みが出来ている。
「何だ、これ?」
「見たところ、薬品が付いたか、それとも、動物の小便が付いたか」
佳希の言葉に、言い方があるだろと俺は呆れる。旅人に至ってはうげっという顔をして白衣を脱ぐ。
「昨日は付いていなかったのに」
「じゃあ、ネズミに引っ掛けられたんだな。あいつら、気づいたら小便してたし」
俺の言葉に、マジかよと顔を顰める旅人。しかし、小便くらいで囓られるか。
「面白い。後で田中先生に確認しよう」
そう言った佳希が旅人の白衣を預かり、旅人は予備の白衣を着て溜め息を吐くのだった。
「面白いな」
「それはどっちがですか?」
「どっちもだ」
夕方。ネズミの様子を見に来た朝倉が、旅人の白衣に付いていたのはオスがメスを呼ぶために付着させるフェロモンだと知り、興味津々だった。が、もちろんネズミの結果も気になっている。
「これが着くと、オスは敵が来たと反応して攻撃、メスはオスが来たと思って様子を窺い、気に食わなければ攻撃するってことか」
「いや、ネズミに気に入られても仕方ないんですけど、全部に攻撃された俺って何ですか?」
あんまりだよと、踏んだり蹴ったりの旅人はぼやく。
「さて、動物の行動は興味深いが、こっちの結果はどうかな?」
朝倉はようやくフェロモンの話題を切り上げて、二十個並んだ檻の様子を見る。すると、目を回している個体や酩酊状態の個体、何の変化もない個体とそれぞれの反応を見せている。
「Bは駄目だな。ネズミで目を回しているとなると、人間じゃあ死ぬ可能性がある。Cは反応不明か。Gも駄目。吐いた跡がある」
朝倉がざざっと確認して、使えないものを弾く。ネズミで解ったことは、三つは使用不可能ということだ。
「Aはほどよく酔っているな。これはアンデッドの結果とも一致する。有望だ。後は、もう少し実験してみる必要があるか。一応、夢を見ているような状態みたいだな。しかし、ただ睡眠促進剤として働いているだけかもしれない」
その他は以上のように、反応がまだどちらとも取れないとの結果だった。このまま一晩様子を見て、追加で実験するかどうか決めるという。
「はあ。薬が出来るまでって、色んな手間が掛かるんですね」
俺はそれぞれの反応を見せるネズミを見ながら、もっと魔法薬学という名称そのものに、ぱぱっと出来ると思っていた。
「昔から薬の開発とは慎重を要するものだよ。特に隕石衝突後は色んなことが変わってしまったからね。人間での実験までの手順は煩雑だ」
朝倉はこれでも簡単にやっている方だよと教えてくれる。俺は奥深いんだなと感心するしかなかった。
「さて、続きは俺がやるから、君たちは帰ってもいいぞ。そうそう。野良アンデッドが彷徨いているという話があるそうだ。気をつけるように」
「は?」
「野良?」
帰るのはいいとして、変な注意じゃないかと俺たちは固まる。
「まさか、魔法師の呪縛を振り切ったんですか?」
しかし、アンデッドにまで詳しい佳希がそう訊ねた。そう言えば、アンデッドには従わせるための魔法を使っているんだったっけ。
「もしくは、使役していた魔法師が何らかの理由で亡くなったか、だろうな。ともかく、国家魔法師が片付けるまでは注意してくれ。野良化すると一気に凶暴になるのが奴らだからな。見つけたらすぐに近くの建物に避難すること」
「はい」
俺たちは返事をすると、危なそうだから固まって帰ろうということになった。ついでに友葉にも思念伝達を送って一緒に帰るかと問う。
「友葉と紬ちゃんも一緒に帰るって」
「おっ。問題の夢見る少女だね」
それに反応したのは朝倉だ。この実験の発端となっただけに、朝倉も紬に興味があるらしい。
「ところでさ、小型化した生物っているのか?」
動物科が飼っている動物ってどれも大きいし、害獣や害虫は軒並み大きいので、俺はふと疑問になる。
「いるぞ。ペンギンは小さくなったし、キリンも小さくなったな。まあ、代わりに麒麟が現われて、名称がごちゃついているが。他にも象も小型になったな。これは飛ぶためだと言われている。ちなみにペンギンは瞬間移動を習得したためだそうだ」
「へえ」
薬学のついでに何でも調べる佳希のおかげで、小型化した動物もいることを知った俺だ。何度も言うが、隕石衝突で動植物は総て魔法の影響で変わってしまっているので、知らないものが多い。
さらにネズミが入って来れないように魔法結界が張られているように、一般人が魔法獲得動物を知る機会はとても少ないのだ。
「よし。次の薬に移るぞ」
駄弁っている間に佳希がちゃんと注射を打ち終え、俺はデカくて動かないネズミを檻に押し込むのだった。
「疲れたな」
「ああ」
昼間で掛かってネズミに薬を打ち終え、後は経過観察となったのでのんびりしている俺たちだ。食事を取りながらネズミを見るというシュールな光景だが、楽なことには変わりがない。が、そんなのんびりしている中、旅人だけはぼろぼろである。
「お前、ネズミが好きな臭いでも発しているのか?」
あの後もガジガジと囓られた旅人を見て、佳希は興味津々だ。ひょっとして何かネズミが好む成分を発しているのではと考え始める。
「止めてくれよ。ってか、なんで俺だけ」
「あっ、これじゃない?」
ぼやく旅人の白衣に何かが着いていると指摘。俺たちはそこを覗き込むと、確かに黄色い染みが出来ている。
「何だ、これ?」
「見たところ、薬品が付いたか、それとも、動物の小便が付いたか」
佳希の言葉に、言い方があるだろと俺は呆れる。旅人に至ってはうげっという顔をして白衣を脱ぐ。
「昨日は付いていなかったのに」
「じゃあ、ネズミに引っ掛けられたんだな。あいつら、気づいたら小便してたし」
俺の言葉に、マジかよと顔を顰める旅人。しかし、小便くらいで囓られるか。
「面白い。後で田中先生に確認しよう」
そう言った佳希が旅人の白衣を預かり、旅人は予備の白衣を着て溜め息を吐くのだった。
「面白いな」
「それはどっちがですか?」
「どっちもだ」
夕方。ネズミの様子を見に来た朝倉が、旅人の白衣に付いていたのはオスがメスを呼ぶために付着させるフェロモンだと知り、興味津々だった。が、もちろんネズミの結果も気になっている。
「これが着くと、オスは敵が来たと反応して攻撃、メスはオスが来たと思って様子を窺い、気に食わなければ攻撃するってことか」
「いや、ネズミに気に入られても仕方ないんですけど、全部に攻撃された俺って何ですか?」
あんまりだよと、踏んだり蹴ったりの旅人はぼやく。
「さて、動物の行動は興味深いが、こっちの結果はどうかな?」
朝倉はようやくフェロモンの話題を切り上げて、二十個並んだ檻の様子を見る。すると、目を回している個体や酩酊状態の個体、何の変化もない個体とそれぞれの反応を見せている。
「Bは駄目だな。ネズミで目を回しているとなると、人間じゃあ死ぬ可能性がある。Cは反応不明か。Gも駄目。吐いた跡がある」
朝倉がざざっと確認して、使えないものを弾く。ネズミで解ったことは、三つは使用不可能ということだ。
「Aはほどよく酔っているな。これはアンデッドの結果とも一致する。有望だ。後は、もう少し実験してみる必要があるか。一応、夢を見ているような状態みたいだな。しかし、ただ睡眠促進剤として働いているだけかもしれない」
その他は以上のように、反応がまだどちらとも取れないとの結果だった。このまま一晩様子を見て、追加で実験するかどうか決めるという。
「はあ。薬が出来るまでって、色んな手間が掛かるんですね」
俺はそれぞれの反応を見せるネズミを見ながら、もっと魔法薬学という名称そのものに、ぱぱっと出来ると思っていた。
「昔から薬の開発とは慎重を要するものだよ。特に隕石衝突後は色んなことが変わってしまったからね。人間での実験までの手順は煩雑だ」
朝倉はこれでも簡単にやっている方だよと教えてくれる。俺は奥深いんだなと感心するしかなかった。
「さて、続きは俺がやるから、君たちは帰ってもいいぞ。そうそう。野良アンデッドが彷徨いているという話があるそうだ。気をつけるように」
「は?」
「野良?」
帰るのはいいとして、変な注意じゃないかと俺たちは固まる。
「まさか、魔法師の呪縛を振り切ったんですか?」
しかし、アンデッドにまで詳しい佳希がそう訊ねた。そう言えば、アンデッドには従わせるための魔法を使っているんだったっけ。
「もしくは、使役していた魔法師が何らかの理由で亡くなったか、だろうな。ともかく、国家魔法師が片付けるまでは注意してくれ。野良化すると一気に凶暴になるのが奴らだからな。見つけたらすぐに近くの建物に避難すること」
「はい」
俺たちは返事をすると、危なそうだから固まって帰ろうということになった。ついでに友葉にも思念伝達を送って一緒に帰るかと問う。
「友葉と紬ちゃんも一緒に帰るって」
「おっ。問題の夢見る少女だね」
それに反応したのは朝倉だ。この実験の発端となっただけに、朝倉も紬に興味があるらしい。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です
カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」
数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。
ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。
「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」
「あ、そういうのいいんで」
「えっ!?」
異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ――
――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる