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第29話 可愛いけどデカい
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「それで、ネズミは捕まったの?」
胡桃はそれよりも、と今日の本来の目的は遂げられたのかと訊く。せっかく魔法工学科の作った槍を使おうと思ったのに、その前にゴキブリで倒れて悔しかったようだ。
「ああ、何とか五匹は捕まったよ。槍でちょんと突くだけだから、捕獲自体は簡単だったし。でも、食料庫に巣を作っていたネズミのほとんどはあのゴに食われた後だった」
俺はあそこにゴキブリがいた理由が、ネズミを狙うためだったと明かす。馬鹿でかくなったやつは、今では肉食になっているので、五十センチ以上もあるネズミをぼりぼりむしゃむしゃと食うのだ。
「うわあ。倒れて良かったかも」
胡桃は目の前で見てしまったゴキブリの衝撃を思い出し、ぶるっと身震いをする。やはり、あの見た目はインパクトが強烈なのだ。
「魔法学院で調達できなかったから、朝倉はそこらで駆除されたはずのネズミをもらいに行くって意気揚々と出掛けていったぜ。まったく、貰える先があるんだったら、捕獲に駆り出さないでほしいよな」
俺がそう文句を言うと
「何事も経験だ。そのチャンスを逃がさずに生かそうとしてくれる、先生の心遣いだ」
と朝倉大好きの佳希に否定される。
(ああ、もう。好きにして)
いい加減、この訳の解らない惚れ薬騒動から解放されたくなる俺だった。
ネズミというが、今やどれも隕石衝突前で言うところのカピバラサイズだ。たとえ種類としてはハツカネズミ(今ではこの名称は正しくなく、ニジュウネンネズミと呼ばれているが)でもカピバラだ。俺は檻に入ったそいつらの顔を見て、可愛いけどデカすぎだよなと思う。しかも二十匹もいるとなると、かなりの圧を感じる。
「さて、無事に調達できたから、どうやって実験するかを見せよう」
そう言ってにこにこと笑っているのは、朝倉ではなく須藤だった。実験が出来て嬉しいと満面の笑みを浮かべる姿は、どう見てもマッドサイエンティストである。医学研究科の藤井のことは言えない。
「女性教師が強すぎる件、って感じだよな」
「ああ」
俺の呟きに、旅人は何とも言えない表情で頷いてくれる。
ちなみに、朝倉は薬学の研究で忙しいだけでなく、国家魔法師としての仕事もあるので、毎日のように学生の相手は出来ないのだ。思えば、奴が学科長でもないのに授業の受け持ちを免除されている理由には、国家魔法師であることも含まれていたわけである。
「ネズミに飲ませるんですか?」
佳希も実験が出来て嬉しいとばかりに質問する。
「女性陣が強すぎる件、だな」
「今更だな」
俺の言い直しに、旅人は入学当初から知ってたよと溜め息を吐く。
「飲ませるのは難しいから、静脈注射でやっていく。人間の子どもくらいの体重があるからな。濃度はそれに合せて調整することになる」
それに答えた須藤は、ペットボトルくらいの大きさがある注射器を取り出して言った。
いやいや、デカくないか?
俺は注射器のイメージが覆るだろと呆れる。すると須藤がびしっと俺の顔を指差し
「これは針先を替えることで使い回しが出来て便利だ。ついでにネズミの皮膚は強くて、普通サイズの注射器の針が通らない。このサイズに合わせた太い針でようやく通る」
とデカい理由を教えてくれた。
なるほど・・・・・・なるほど・・・・・・
俺は納得しかねるが、納得するしかないなと、呆れつつも頷いた。薬学科にいると、どうにもこういう場面が多い気がする。他の科もこんな感じなのか? 今度大狼に確認しようとそう心に誓う。
「今回は二匹ずつ、同じ薬を注入して反応を見る。二人一組になって、五種類ずつ、つまり十匹に注射な」
と、別のことを考えていたら、とんでもない指示が須藤から飛んでくる。
「えっ」
「先生がやるんじゃないですか?」
てっきり須藤がやるところを見物するだけだと思っていた俺と旅人は驚いた。
「アホか。それでは授業にならないだろう。動物実験は過去に止めるべきという風潮があったが、今や人間より頑丈で危険な生物だらけだからな。安心して取り組め」
「いやいや」
安心する着地点がおかしいと、俺は呆れてしまう。
「まあ、動物でやってヤバいようだったら、人間には無理だな」
旅人もなんか変だよなと感じつつ、須藤の言い分を飲むしかないのだった。
「藤城、しっかり抑えろ」
「はいはい」
さて、ペアはまた佳希と組むことになった俺は、デカいネズミに背後から抱きついていた。こうやって暴れないように取り押さえるのが、一番確実なのだという。
ちなみに昨日の段階で検査は済んでいて、余計な病気や魔法を持っていないと解っているから出来る手法だ。そこらを歩いているネズミは、いくら可愛くても抱きついてはいけない。魔法成分の多い土の中に巣を作ることが多いから、未知の病気や魔法を持っている可能性があり、色々と危険なのだ。
「ちゅう、じゅうううっ、ちゅうぅ」
色んな鳴き声を上げて抵抗するネズミに、俺は動くと危ないぞと抱きつき続ける。
「では」
で、そんなネズミの前足部分に、ぶすっと佳希が注射をぶっ刺す。静脈の位置は須藤が特定してくれているので、躊躇いなく打つことが重要だ。
「入った」
「おし」
佳希が注射器を離すと、俺はネズミを一匹用の檻に押し入れて、ようやく終了。どっと疲れるが、あと九回繰り返さなければならない。
「ぎゃあああ。噛んだ!」
と、必ず何かトラブルに巻き込まれる男、旅人が悲鳴を上げる。見ると、腕をがりがりと囓られている。
「甘噛みだ。落ち着け」
救出に入った須藤が、こいつらは草食だと落ち着かせる。が、大きい動物に囓られるのは結構怖い。
「くう。大人しくしてくれよ」
旅人はネズミに抱きついたまま、勘弁してくれと泣き顔だ。抱きつかれているネズミはしれっとした顔をしている。まあ、当たり前か。
胡桃はそれよりも、と今日の本来の目的は遂げられたのかと訊く。せっかく魔法工学科の作った槍を使おうと思ったのに、その前にゴキブリで倒れて悔しかったようだ。
「ああ、何とか五匹は捕まったよ。槍でちょんと突くだけだから、捕獲自体は簡単だったし。でも、食料庫に巣を作っていたネズミのほとんどはあのゴに食われた後だった」
俺はあそこにゴキブリがいた理由が、ネズミを狙うためだったと明かす。馬鹿でかくなったやつは、今では肉食になっているので、五十センチ以上もあるネズミをぼりぼりむしゃむしゃと食うのだ。
「うわあ。倒れて良かったかも」
胡桃は目の前で見てしまったゴキブリの衝撃を思い出し、ぶるっと身震いをする。やはり、あの見た目はインパクトが強烈なのだ。
「魔法学院で調達できなかったから、朝倉はそこらで駆除されたはずのネズミをもらいに行くって意気揚々と出掛けていったぜ。まったく、貰える先があるんだったら、捕獲に駆り出さないでほしいよな」
俺がそう文句を言うと
「何事も経験だ。そのチャンスを逃がさずに生かそうとしてくれる、先生の心遣いだ」
と朝倉大好きの佳希に否定される。
(ああ、もう。好きにして)
いい加減、この訳の解らない惚れ薬騒動から解放されたくなる俺だった。
ネズミというが、今やどれも隕石衝突前で言うところのカピバラサイズだ。たとえ種類としてはハツカネズミ(今ではこの名称は正しくなく、ニジュウネンネズミと呼ばれているが)でもカピバラだ。俺は檻に入ったそいつらの顔を見て、可愛いけどデカすぎだよなと思う。しかも二十匹もいるとなると、かなりの圧を感じる。
「さて、無事に調達できたから、どうやって実験するかを見せよう」
そう言ってにこにこと笑っているのは、朝倉ではなく須藤だった。実験が出来て嬉しいと満面の笑みを浮かべる姿は、どう見てもマッドサイエンティストである。医学研究科の藤井のことは言えない。
「女性教師が強すぎる件、って感じだよな」
「ああ」
俺の呟きに、旅人は何とも言えない表情で頷いてくれる。
ちなみに、朝倉は薬学の研究で忙しいだけでなく、国家魔法師としての仕事もあるので、毎日のように学生の相手は出来ないのだ。思えば、奴が学科長でもないのに授業の受け持ちを免除されている理由には、国家魔法師であることも含まれていたわけである。
「ネズミに飲ませるんですか?」
佳希も実験が出来て嬉しいとばかりに質問する。
「女性陣が強すぎる件、だな」
「今更だな」
俺の言い直しに、旅人は入学当初から知ってたよと溜め息を吐く。
「飲ませるのは難しいから、静脈注射でやっていく。人間の子どもくらいの体重があるからな。濃度はそれに合せて調整することになる」
それに答えた須藤は、ペットボトルくらいの大きさがある注射器を取り出して言った。
いやいや、デカくないか?
俺は注射器のイメージが覆るだろと呆れる。すると須藤がびしっと俺の顔を指差し
「これは針先を替えることで使い回しが出来て便利だ。ついでにネズミの皮膚は強くて、普通サイズの注射器の針が通らない。このサイズに合わせた太い針でようやく通る」
とデカい理由を教えてくれた。
なるほど・・・・・・なるほど・・・・・・
俺は納得しかねるが、納得するしかないなと、呆れつつも頷いた。薬学科にいると、どうにもこういう場面が多い気がする。他の科もこんな感じなのか? 今度大狼に確認しようとそう心に誓う。
「今回は二匹ずつ、同じ薬を注入して反応を見る。二人一組になって、五種類ずつ、つまり十匹に注射な」
と、別のことを考えていたら、とんでもない指示が須藤から飛んでくる。
「えっ」
「先生がやるんじゃないですか?」
てっきり須藤がやるところを見物するだけだと思っていた俺と旅人は驚いた。
「アホか。それでは授業にならないだろう。動物実験は過去に止めるべきという風潮があったが、今や人間より頑丈で危険な生物だらけだからな。安心して取り組め」
「いやいや」
安心する着地点がおかしいと、俺は呆れてしまう。
「まあ、動物でやってヤバいようだったら、人間には無理だな」
旅人もなんか変だよなと感じつつ、須藤の言い分を飲むしかないのだった。
「藤城、しっかり抑えろ」
「はいはい」
さて、ペアはまた佳希と組むことになった俺は、デカいネズミに背後から抱きついていた。こうやって暴れないように取り押さえるのが、一番確実なのだという。
ちなみに昨日の段階で検査は済んでいて、余計な病気や魔法を持っていないと解っているから出来る手法だ。そこらを歩いているネズミは、いくら可愛くても抱きついてはいけない。魔法成分の多い土の中に巣を作ることが多いから、未知の病気や魔法を持っている可能性があり、色々と危険なのだ。
「ちゅう、じゅうううっ、ちゅうぅ」
色んな鳴き声を上げて抵抗するネズミに、俺は動くと危ないぞと抱きつき続ける。
「では」
で、そんなネズミの前足部分に、ぶすっと佳希が注射をぶっ刺す。静脈の位置は須藤が特定してくれているので、躊躇いなく打つことが重要だ。
「入った」
「おし」
佳希が注射器を離すと、俺はネズミを一匹用の檻に押し入れて、ようやく終了。どっと疲れるが、あと九回繰り返さなければならない。
「ぎゃあああ。噛んだ!」
と、必ず何かトラブルに巻き込まれる男、旅人が悲鳴を上げる。見ると、腕をがりがりと囓られている。
「甘噛みだ。落ち着け」
救出に入った須藤が、こいつらは草食だと落ち着かせる。が、大きい動物に囓られるのは結構怖い。
「くう。大人しくしてくれよ」
旅人はネズミに抱きついたまま、勘弁してくれと泣き顔だ。抱きつかれているネズミはしれっとした顔をしている。まあ、当たり前か。
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