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第27話 五十センチ以上がメジャー
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「魔法科もイメージと違ったし、大人になるって、そういうことなのかな」
俺は思わず人生そのものを悟ったようなことを呟いてしまう。
「何それ? それより、頑張って薬を作ってよね」
俺の感慨はあっさり友葉によって打ち破られ、ついでに早くしろと急かされてしまうのだった。
「取り敢えず、サンプルとして十種類作ってきたぞ」
翌日。ぼさぼさ頭の朝倉が、目に隈を作った状態で教室にやって来た。だが、手にはサンプル薬が入った瓶が詰まる籠を持っていて、寝不足の理由がこれだと解る。
「さすがは朝倉先生」
それにすかさず賞賛を送るのは佳希だ。あのオッサンに、一体どれだけの魅力があるのだろうか。やはり女心が解らなくなる俺だ。
「十種類も出来たんですか?」
しかし、僅か三日でこれだけの薬を作ってしまえるのは、素直に尊敬できる。俺は朝倉が教壇の上に並べる薬をしげしげと眺めていた。
「まあ、組み合わせの問題だからな。惚れ薬の話が出た段階である程度の候補は絞ってあったし、十種類くらいは簡単だよ。問題は、得たい効果を正しく得られるかだからね」
朝倉は何でもないように言い、どうやって試そうかという顔をしている。
「アンデッドで試すんじゃないんですか?」
胡桃が昨日のアンデッドがいるのではと訊く。すると、アンデッドでの実験はもう終わっていると言った。
「終わってる」
「ああ。アンデッドで確認できるのは酩酊状態と強い幻覚作用が現われているか、だけだからね。実際にどう脳に働きかけているかは、残念ながらアンデッドでは確認できないんだ。彼らはすでに死んでいるから、思考することがないからね」
俺の疑問に、朝倉がとんとんとこめかみを叩きながら教えてくれた。なるほど、今どう見えているかは不明だというわけか。
「え? じゃあ、人体実験でもするんですか?」
と、横から旅人は俺たちでやる気じゃあと震えながら訊く。確かに、わざわざここに持ってきたということは、学生で試すつもりか。
「まさか。さすがにまだまだ安全性が確認できていないものを、人間に使うことはないよ。これから動物科に行くぞ」
「えっ」
「そこで、五十センチ以上のネズミを捕獲する」
「なるほど・・・・・・なるほど?」
ネズミの捕獲だって。しかも五十センチ以上だと!?
俺たちは唖然となり、また体力勝負かと溜め息を吐くのだった。
「皆さん。お久しぶりです」
動物科の牧場に行くと、草食恐竜類の食中毒の時にやって来た田中清乃が待ち構えていた。ぺこっと挨拶する姿は、ジャージ姿と相俟って学生みたいだ。
「お世話になります」
「いえいえ、こちらこそ。薬学科の皆さんが実験用にネズミを捕まえてくれるおかげで、肥料が食い破られる被害が少ないですからね」
朝倉の挨拶に、こちらこそと田中は笑っている。以外と持ちつ持たれつの関係らしい。
「でも、五十センチ以上ってそんなにいるんですか?」
俺は簡単に終わるのかと思わず訊くと
「メジャーですよ。下手すると一メートルあるやつが出てきて、さすがの動物科も腰を抜かすことがありますから」
あははっと、田中は明るく笑ってくれるが、俺たちは笑えない。隕石衝突で動物の七割ほどが巨大化しているが、ネズミもその傾向にあるらしい。しかし、街中には国家魔法師によって守護結界が張られているから、そういう危険動物が入ってくることはないのだ。
よって、俺たちはネズミというものを、今まで実際に見たことがない。魔法動物はそもそもが危険なものが多いので、当然、よほどの動物好きしかネズミまで知っているという人もいない。
「じゃあ、行くぞ。これを持って」
そんな初めてのことに呆然とする俺たちに、朝倉が何やら槍のようなものを配る。まさかこれで一突きにしろというのか。
「これは魔法工学科が作った、電気ショックを放つ槍だ。対象物にちょんとぶつけるだけで電気が走る。ちなみにこれはネズミにしか反応しないタイプのものだから、人間に当たっても安全だ」
朝倉がそう説明するので、俺は試しに旅人を突っつく。しかし、旅人は止めろよと顔を顰めるだけで、電気ショックを食らった様子はなかった。
「おおっ」
「魔法工学研究科って、たまに変なものを工作してるよね」
素直に驚く俺だが、佳希は白けた様子で槍を見つめていた。ううむ、植物馬鹿にこの槍の素晴らしさは解らないらしい。胡桃はどうかと思って見ると
「ネズミ、どこだろう」
すでに槍を構えて戦闘態勢に入っていた。
ヤバい。あの子の変なスイッチを押したぞ、この槍。
普段はほわわんとした女子のはずなのに、どうにも好戦的な面があって困る。俺は胡桃から距離を取り、旅人と佳希の間に陣取ることにした。
「飼料庫はこっちです」
そんな俺たちのそれぞれの反応を無視して、マイペースに田中が案内をしてくれる。
今日の動物科の敷地内は巨大な牛がのしのしと歩き、ユニコーンが学生を乗せて走り回り、他にも色んな動物が歩いていたりと賑やかだ。この間の食中毒事件で避難させられていた時と違い、他の動物からの攻撃も気にしなければならない。
「いやあ、いつ見ても凄いな、動物科」
「だな」
「でも、それを言ったら私たちの農園も、凄いって思われているけどな」
俺の意見に同意する旅人と違い、佳希からは冷静なツッコミが入る。まあ、確かに、うねうね動き回る植物だらけだ。
「まあ、凄いものばかりだから、こうやって科に分かれて研究しているんだよな」
で、旅人が何やら悟ったようなことを言う。
魔法学院って、精神修行の場か。
俺は思わず人生そのものを悟ったようなことを呟いてしまう。
「何それ? それより、頑張って薬を作ってよね」
俺の感慨はあっさり友葉によって打ち破られ、ついでに早くしろと急かされてしまうのだった。
「取り敢えず、サンプルとして十種類作ってきたぞ」
翌日。ぼさぼさ頭の朝倉が、目に隈を作った状態で教室にやって来た。だが、手にはサンプル薬が入った瓶が詰まる籠を持っていて、寝不足の理由がこれだと解る。
「さすがは朝倉先生」
それにすかさず賞賛を送るのは佳希だ。あのオッサンに、一体どれだけの魅力があるのだろうか。やはり女心が解らなくなる俺だ。
「十種類も出来たんですか?」
しかし、僅か三日でこれだけの薬を作ってしまえるのは、素直に尊敬できる。俺は朝倉が教壇の上に並べる薬をしげしげと眺めていた。
「まあ、組み合わせの問題だからな。惚れ薬の話が出た段階である程度の候補は絞ってあったし、十種類くらいは簡単だよ。問題は、得たい効果を正しく得られるかだからね」
朝倉は何でもないように言い、どうやって試そうかという顔をしている。
「アンデッドで試すんじゃないんですか?」
胡桃が昨日のアンデッドがいるのではと訊く。すると、アンデッドでの実験はもう終わっていると言った。
「終わってる」
「ああ。アンデッドで確認できるのは酩酊状態と強い幻覚作用が現われているか、だけだからね。実際にどう脳に働きかけているかは、残念ながらアンデッドでは確認できないんだ。彼らはすでに死んでいるから、思考することがないからね」
俺の疑問に、朝倉がとんとんとこめかみを叩きながら教えてくれた。なるほど、今どう見えているかは不明だというわけか。
「え? じゃあ、人体実験でもするんですか?」
と、横から旅人は俺たちでやる気じゃあと震えながら訊く。確かに、わざわざここに持ってきたということは、学生で試すつもりか。
「まさか。さすがにまだまだ安全性が確認できていないものを、人間に使うことはないよ。これから動物科に行くぞ」
「えっ」
「そこで、五十センチ以上のネズミを捕獲する」
「なるほど・・・・・・なるほど?」
ネズミの捕獲だって。しかも五十センチ以上だと!?
俺たちは唖然となり、また体力勝負かと溜め息を吐くのだった。
「皆さん。お久しぶりです」
動物科の牧場に行くと、草食恐竜類の食中毒の時にやって来た田中清乃が待ち構えていた。ぺこっと挨拶する姿は、ジャージ姿と相俟って学生みたいだ。
「お世話になります」
「いえいえ、こちらこそ。薬学科の皆さんが実験用にネズミを捕まえてくれるおかげで、肥料が食い破られる被害が少ないですからね」
朝倉の挨拶に、こちらこそと田中は笑っている。以外と持ちつ持たれつの関係らしい。
「でも、五十センチ以上ってそんなにいるんですか?」
俺は簡単に終わるのかと思わず訊くと
「メジャーですよ。下手すると一メートルあるやつが出てきて、さすがの動物科も腰を抜かすことがありますから」
あははっと、田中は明るく笑ってくれるが、俺たちは笑えない。隕石衝突で動物の七割ほどが巨大化しているが、ネズミもその傾向にあるらしい。しかし、街中には国家魔法師によって守護結界が張られているから、そういう危険動物が入ってくることはないのだ。
よって、俺たちはネズミというものを、今まで実際に見たことがない。魔法動物はそもそもが危険なものが多いので、当然、よほどの動物好きしかネズミまで知っているという人もいない。
「じゃあ、行くぞ。これを持って」
そんな初めてのことに呆然とする俺たちに、朝倉が何やら槍のようなものを配る。まさかこれで一突きにしろというのか。
「これは魔法工学科が作った、電気ショックを放つ槍だ。対象物にちょんとぶつけるだけで電気が走る。ちなみにこれはネズミにしか反応しないタイプのものだから、人間に当たっても安全だ」
朝倉がそう説明するので、俺は試しに旅人を突っつく。しかし、旅人は止めろよと顔を顰めるだけで、電気ショックを食らった様子はなかった。
「おおっ」
「魔法工学研究科って、たまに変なものを工作してるよね」
素直に驚く俺だが、佳希は白けた様子で槍を見つめていた。ううむ、植物馬鹿にこの槍の素晴らしさは解らないらしい。胡桃はどうかと思って見ると
「ネズミ、どこだろう」
すでに槍を構えて戦闘態勢に入っていた。
ヤバい。あの子の変なスイッチを押したぞ、この槍。
普段はほわわんとした女子のはずなのに、どうにも好戦的な面があって困る。俺は胡桃から距離を取り、旅人と佳希の間に陣取ることにした。
「飼料庫はこっちです」
そんな俺たちのそれぞれの反応を無視して、マイペースに田中が案内をしてくれる。
今日の動物科の敷地内は巨大な牛がのしのしと歩き、ユニコーンが学生を乗せて走り回り、他にも色んな動物が歩いていたりと賑やかだ。この間の食中毒事件で避難させられていた時と違い、他の動物からの攻撃も気にしなければならない。
「いやあ、いつ見ても凄いな、動物科」
「だな」
「でも、それを言ったら私たちの農園も、凄いって思われているけどな」
俺の意見に同意する旅人と違い、佳希からは冷静なツッコミが入る。まあ、確かに、うねうね動き回る植物だらけだ。
「まあ、凄いものばかりだから、こうやって科に分かれて研究しているんだよな」
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魔法学院って、精神修行の場か。
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