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第26話 ダメージがこっちに来る
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「皆さん、頑張ってね。ああ、これも追加で」
でもって遠藤、持ってきたショウマという昔から漢方として使われる植物の根っこも追加してくれた。これがまあ、元気に根っこだけでうねうねと動いていてキモい。
「ったく、どいつもこいつも動きやがって」
俺は大人しくしやがれと、片っ端からハエトリソウを毟り、ショウマを刻んでいたのだった。
昼休みになると、大狼がアンデッドを伴って薬学科にやって来た。スクラブ姿も目立つが、青白い顔で立っているアンデッドも目立つ。惚れ薬に関わっていない天がたまたま通りがかって、ぎょっとした顔をしている。
アンデッドは女で、生前は可愛らしい感じだったのだろうなという雰囲気だが、やはり怖い。長い髪は隕石衝突前に流行ったという幽霊映画を思い出させるし、長いローブと魔女らしい帽子が意味深だ。
「うわあ。本物はやっぱり凄いですね」
「もう復活して随分立つんだな。臭いがしない」
が、そのアンデッドに興味津々なのが女子二人だ。遠慮なく近づくと、ふむふむと色々観察している。
「復活して三年だそうだ。防腐処理はしっかりしてあるし、毎日風呂に入れているから臭わんのは当たり前だ。惚れ薬の実験やすり替えのための人体実験用に連れてきた」
でもって、大狼はとんでもないことをさらっと言う。
「あ、アンデッドで実験するのか」
「ああ。すり替えくらいならばアンデッドでも出来るからな。薬に関しては解らんが、朝倉先生が試したいと言っている」
大狼がそこに座れとアンデッドに命じると、アンデッドは大人しく教室の隅の席に座った。
「それで薬学科、薬は出来そうなのか」
俺の前に大狼は座ると、どうなんだと訊いてくる。にやにやと笑っている顔が非常にムカつく。
「俺たちは基礎的な部分しか手伝えないから、どうなのか解らないよ。こっちは午前中、悲鳴を上げる植物どもを延々とすり潰していただけだからな」
だから俺はふんっと鼻を鳴らして答える。
「ほう。大変だな」
が、意外にも大狼は感心したような顔をした。
一体何なんだろう、こいつって。俺はその反応が不可解だが、ムカつく気持ちは半減したから良しとするか。
「こちらは藤井先生から有効なすり替えに関して講義を受けてきた。それによると、惚れ薬を併用するのならば、それほど難なくすり替えられるだろうということだ。すり替える対象は、増田ほど魅力的でなくても問題ないらしい」
しかも真面目にそんなことをやっていたと報告されて、俺はどう反応していいのか解らない。
「藤井先生ってあれだろ。マッドサイエンティストとして有名な藤井寿里」
と、横から旅人が割って入ってきた。藤井はあの魔法科の事故の時に回復してもらった恩があるが、マッドサイエンティスト?
「何だそれ」
「知らないのか。弱冠十九歳でアンデッド研究の権威って言われているんだと」
旅人はあれあれと、教室の隅に座り、女子たちにきゃっきゃと遊ばれているアンデッドを指差す。
「マジか」
「マジだ」
答えたのは大狼だ。その顔が、珍しく引き攣っている。何か良くないことを知っているのだろう。俺は聞きたい気持ち半分、聞きたくない気持ち半分で、どう言葉を返せばいいのか解らない。
それにしても、学生と変わらない感じがするなと思ったが、マジで若かったのか。まだ十代で先生とは驚きである。ということは、それだけ凄い研究をやったということだろう。アンデッドで。
やっぱり、何があったのか聞かないのが身のためだ。
「まあ、だからアンデッドを簡単に貸してくれたわけだよ」
そして大狼も遠い目だ。まさかすり替え魔法の実験をアンデッドでするとは、この男も思っていなかったというわけか。
「何だろうな。紬ちゃんを助けたいけど、俺たちにダメージが蓄積していく」
「だな」
「うん」
俺の呟きに、大狼も旅人も疲れたように同意してくれるのだった。
夕方。またまた俺の背中に激突してくれる友葉は、問題の紬と一緒だった。
「よう」
「こ、こんにちは。あの、惚れ薬を作ってくれていると聞いて、嬉しくて来ちゃいました」
俺が友葉の頭をぐりぐりとしつつ紬に声を掛けると、紬は期待に満ちた目を俺に向けてくれる。
(止めてっ。罪悪感が募る)
俺は増田を惚れさせるための薬ではなく、紬を他のものに惚れさせる薬を作っているのだ。真っ直ぐな期待は困ってしまう。
「凄いよね。さすがは薬学科」
本当のことを言うなよと、友葉は俺のスニーカーの指先を踏んづけてくれる。地味に痛い。
「本当に。ああ、増田先生。もうすぐ私の腕の中で、私のためだけに微笑んでくださるのね」
でもって紬はまたまた夢見るモードに突入だ。
って、紬の腕の中に増田がいるの? 逆じゃないの?
「なあ。紬ちゃんって普段はどんな子なんだ?」
俺は彼女の妄想を聞く度に、女子というものが解らなくなる。
「普段は普通の子よ。増田先生に対してだけおかしいのよ。私も、紬のことが解らなくなるけど、増田先生が変なフェロモンを出しているせいだって思うようにしてる」
そして友葉からは、何かと酷い言葉が出てくる。
全責任を増田に押しつけるんじゃありません。そう注意したいところだが、増田は増田でヤバい男なので、あまり庇ってやる気もおきない。
ああ、小さい頃は憧れた魔法使いが、どんどん穢れた存在になる。俺はそう嘆きたい。
でもって遠藤、持ってきたショウマという昔から漢方として使われる植物の根っこも追加してくれた。これがまあ、元気に根っこだけでうねうねと動いていてキモい。
「ったく、どいつもこいつも動きやがって」
俺は大人しくしやがれと、片っ端からハエトリソウを毟り、ショウマを刻んでいたのだった。
昼休みになると、大狼がアンデッドを伴って薬学科にやって来た。スクラブ姿も目立つが、青白い顔で立っているアンデッドも目立つ。惚れ薬に関わっていない天がたまたま通りがかって、ぎょっとした顔をしている。
アンデッドは女で、生前は可愛らしい感じだったのだろうなという雰囲気だが、やはり怖い。長い髪は隕石衝突前に流行ったという幽霊映画を思い出させるし、長いローブと魔女らしい帽子が意味深だ。
「うわあ。本物はやっぱり凄いですね」
「もう復活して随分立つんだな。臭いがしない」
が、そのアンデッドに興味津々なのが女子二人だ。遠慮なく近づくと、ふむふむと色々観察している。
「復活して三年だそうだ。防腐処理はしっかりしてあるし、毎日風呂に入れているから臭わんのは当たり前だ。惚れ薬の実験やすり替えのための人体実験用に連れてきた」
でもって、大狼はとんでもないことをさらっと言う。
「あ、アンデッドで実験するのか」
「ああ。すり替えくらいならばアンデッドでも出来るからな。薬に関しては解らんが、朝倉先生が試したいと言っている」
大狼がそこに座れとアンデッドに命じると、アンデッドは大人しく教室の隅の席に座った。
「それで薬学科、薬は出来そうなのか」
俺の前に大狼は座ると、どうなんだと訊いてくる。にやにやと笑っている顔が非常にムカつく。
「俺たちは基礎的な部分しか手伝えないから、どうなのか解らないよ。こっちは午前中、悲鳴を上げる植物どもを延々とすり潰していただけだからな」
だから俺はふんっと鼻を鳴らして答える。
「ほう。大変だな」
が、意外にも大狼は感心したような顔をした。
一体何なんだろう、こいつって。俺はその反応が不可解だが、ムカつく気持ちは半減したから良しとするか。
「こちらは藤井先生から有効なすり替えに関して講義を受けてきた。それによると、惚れ薬を併用するのならば、それほど難なくすり替えられるだろうということだ。すり替える対象は、増田ほど魅力的でなくても問題ないらしい」
しかも真面目にそんなことをやっていたと報告されて、俺はどう反応していいのか解らない。
「藤井先生ってあれだろ。マッドサイエンティストとして有名な藤井寿里」
と、横から旅人が割って入ってきた。藤井はあの魔法科の事故の時に回復してもらった恩があるが、マッドサイエンティスト?
「何だそれ」
「知らないのか。弱冠十九歳でアンデッド研究の権威って言われているんだと」
旅人はあれあれと、教室の隅に座り、女子たちにきゃっきゃと遊ばれているアンデッドを指差す。
「マジか」
「マジだ」
答えたのは大狼だ。その顔が、珍しく引き攣っている。何か良くないことを知っているのだろう。俺は聞きたい気持ち半分、聞きたくない気持ち半分で、どう言葉を返せばいいのか解らない。
それにしても、学生と変わらない感じがするなと思ったが、マジで若かったのか。まだ十代で先生とは驚きである。ということは、それだけ凄い研究をやったということだろう。アンデッドで。
やっぱり、何があったのか聞かないのが身のためだ。
「まあ、だからアンデッドを簡単に貸してくれたわけだよ」
そして大狼も遠い目だ。まさかすり替え魔法の実験をアンデッドでするとは、この男も思っていなかったというわけか。
「何だろうな。紬ちゃんを助けたいけど、俺たちにダメージが蓄積していく」
「だな」
「うん」
俺の呟きに、大狼も旅人も疲れたように同意してくれるのだった。
夕方。またまた俺の背中に激突してくれる友葉は、問題の紬と一緒だった。
「よう」
「こ、こんにちは。あの、惚れ薬を作ってくれていると聞いて、嬉しくて来ちゃいました」
俺が友葉の頭をぐりぐりとしつつ紬に声を掛けると、紬は期待に満ちた目を俺に向けてくれる。
(止めてっ。罪悪感が募る)
俺は増田を惚れさせるための薬ではなく、紬を他のものに惚れさせる薬を作っているのだ。真っ直ぐな期待は困ってしまう。
「凄いよね。さすがは薬学科」
本当のことを言うなよと、友葉は俺のスニーカーの指先を踏んづけてくれる。地味に痛い。
「本当に。ああ、増田先生。もうすぐ私の腕の中で、私のためだけに微笑んでくださるのね」
でもって紬はまたまた夢見るモードに突入だ。
って、紬の腕の中に増田がいるの? 逆じゃないの?
「なあ。紬ちゃんって普段はどんな子なんだ?」
俺は彼女の妄想を聞く度に、女子というものが解らなくなる。
「普段は普通の子よ。増田先生に対してだけおかしいのよ。私も、紬のことが解らなくなるけど、増田先生が変なフェロモンを出しているせいだって思うようにしてる」
そして友葉からは、何かと酷い言葉が出てくる。
全責任を増田に押しつけるんじゃありません。そう注意したいところだが、増田は増田でヤバい男なので、あまり庇ってやる気もおきない。
ああ、小さい頃は憧れた魔法使いが、どんどん穢れた存在になる。俺はそう嘆きたい。
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