国立第三魔法学院魔法薬学研究科は今日も平和です(たぶん)

渋川宙

文字の大きさ
上 下
21 / 48

第21話 緊急・惚れ薬は作れるのか会議

しおりを挟む
「つまり、妄想が行き着くところに行っちゃってるわけか」
「そうなんだよ・・・・・・って、え?」
 三人とは違う声が聞こえて、俺はびっくりしてしまう。驚いて振り返ると、そこには会いたくもない大狼の姿があった。今日も医学科らしくスクラブを着ている。が、白衣だらけの薬学科では目立つことこの上ない。
「な、何でお前がここに?」
「別に薬学科の建物にいるのは珍しいことじゃない。朝倉先生との打ち合わせがあるからな。そしたら惚れ薬なんて妙な話題が聞こえてくるから気になってな」
「って、最初から立ち聞きしてたんかい!」
 最悪だなと俺は顔を顰める。が、大狼はその紬という女は危ないなと、しっかり議論に加わる気だ。
「危ないわよね。で、藤城の彼女からの本当の相談は、友達の暴走をどうすればいいか、でしょ」
「彼女じゃねえよ、幼馴染みな」
 胡桃の言葉をしっかり訂正しつつ、確かにそちらが本題だと腕を組む。
「ふむ。聡明そうな彼女のことだ。それが妥当だろう」
 でもって大狼が友葉を褒めるから、なんかむっとする。が、大狼は
「彼女じゃねえんだろ?」
 とにやっと笑いやがった。くっそ腹立つ。
「まあ、ともかく、願望を叶えてやりたい気持ちもあるけど、このままだと問題を起こしかねないし、そうなったら魔法科を退学になって、さらに危ないことを起こすかもしれないから、どうにかしたいんだと」
 俺は仕方ないと、友葉の意見を披露した。これは紬が妄想に耽っている間に、こそこそとやり取りした内容だ。
「ふむ。そうなると、惚れ薬より幻覚を見せる薬でも・・・・・・ああ、しかし、それは隕石衝突前と同じで副作用が強いからな」
「幻覚ねえ・・・・・・って、え?」
 また別の声が聞こえて、俺たちは慌てて振り返る。と、朝倉がいた。
「早瀬君が戻ってこないと思ったら、うちの学生たちと仲が良かったんだね」
 くくっと、朝倉は楽しい話題が聞けたよと満足そうだ。
 しかし、俺はここって立ち聞きする奴が多くないかと頭を抱えたくなる。
「先生だったらどう問題を解決するのがいいと思いますか?」
 すかさずそう質問するのは佳希だ。さすがは、佳希にとって憧れの存在。だが、その風貌は増田と真逆でぼさぼさの冴えないおっさんだ。
「かなり難しい問題だねえ。心の問題っていうのは、魔法が使えるようになった現代でも、なかなか解決しないものだよ」
 朝倉は教室まで入ってくると、どかっと机に座る。完全に居座る気だ。
「ううん。先生から増田先生に打診は、無理ですか?」
 俺は手っ取り早い方法が使えるのではと訊ねたが
「まあ、可能だけども、忙しいからね、彼。そう簡単に学生の問題に協力してくれるとは思えないよ。この間も強力な回復薬を一ダース奪っていったし」
 と、朝倉はスケジュール的に無理だと言ってくれる。意外と仲がいいようだ。
「回復薬って、この間作ったやつですか?」
「そうそう。せっかく在庫が増えたと思ったところを根こそぎやられたからね。また作る羽目になったよ」
 とほほと、朝倉は肩を落とした。先生同士でも色々とあるようだ。が、問題は今それではない。
「ううん。増田先生が説得してくれたら早そうなのに」
「いや、ますます誤解を助長するだろ」
「だよな」
 俺の意見を旅人が瞬時に否定してくれて、俺もがっくり肩を落とす。そう簡単に片づく問題ではないか。
「ううん。でも、会えないままだと思いは募りっぱなしよね。増田先生がせめて魔法科一年のために講演をなさるとかは?」
 胡桃が閃いたと手を挙げる。それに朝倉もそれは可能かもねと頷いた。
「打診はしておこう。しかし、すぐには無理だ。その間、彼女の症状を抑える何かがいる」
「抑える何か」
 俺はそう言われても、解決策なんてなさそうだぞと首を捻る。
「その子に増田以外に夢中になれる男子が現われるとか」
 ぱちんと指を鳴らして大狼が提案する。名前と同じく仕草もキザな野郎だ。
「増田に匹敵するなんて無理だろ」
「まあな」
 俺の言葉に大狼はあっさり頷くが
「惚れ薬が本当にあれば、それは可能だろうね」
 と、朝倉がにやっと笑って怖いことを言ってくれるのだった。



「はい! というわけで、緊急・惚れ薬は作れるのか会議です」
「いやいや。なんでそうなる?」
 俺がツッコんだ相手は遠藤だ。ちなみに教室には他に須藤も塩崎も、そして言い出しっぺの朝倉の姿もある。ついでに大狼も巻き込まれていた。
「なんで俺まで」
 と大狼は不満そうだったが
「乗りかかった船だ。医学科としての意見を頼む」
 朝倉があっけらかんとそう言うので反論の余地なしだった。
「まあ、面白そうな議題よね」
 須藤はくすっと笑い
「新しい薬を作ることは、我々の使命ですからね。とはいえ、惚れ薬が出来た場合、すぐに禁止薬物になりそうですけど」
 塩崎がのほほんと付け加えてくれる。
 よって、一年を中心に先生を巻き込んでの惚れ薬作成は決定事項になってしまった。
「な、なんでこんなことに」
 相談された俺が一番訳が解らない状況だ。が、こうなった理由はやはり増田慶太を守らなければならないという使命感があるからだろう。増田とは、それだけ凄い存在なのだ。
「似たような事案が過去にもあったそうだからね。解決策が出来るのはいいそうだ」
 朝倉が増田から聞き出したと、そんなことまで付け加えてくれる。
 マジか。イケメンも大変だな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...