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第18話 朝顔脱走事件
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爆発事故やら魔法植物の採取やら、でかいイベントも終わって、しばらくは何事もなく勉学に勤しむ日々となるかと思えば、そうはならないのが魔法学院だ。
『おおい。農園の朝顔類が脱走しようとしている。捕獲だ!』
今日も今日とて事件が起こり、朝顔脱走が発生する。須藤からの緊急思念伝達を受け、昼休み中だというのに俺たちは立ち上がることになる。
「蔓を伸すタイプの植物って、絞め殺そうとするタイプと脱走するタイプに分かれるよな」
俺たちは白衣を着たまま農園に向けて走りつつ、やれやれと溜め息だ。
「それだけ活きがいいってことだ。いい薬品になるぞ」
しかし、横を走る佳希は、もう十分に薬として使えるんじゃないかと笑っている。
(脱走し始めたら使えるようになる薬って、絶対に間違ってるよね)
類似のツッコミを入学して一か月で何度も繰り返している俺は、やれやれと溜め息だ。と、農園に出たところで
「危ない!」
という注意が飛んでくる。
「うわっ」
先頭を走っていた旅人が驚きの声を上げ、俺は急ブレーキ。と、旅人が何かを抱き留めていた。が、それがぼろぼろの衣服を纏う人間だと気づいた瞬間
「ぎゃああああ!」
誰より先に俺が悲鳴を上げてしまった。
「アンデッドだ」
しかし、目を輝かせるのは胡桃だ。何かとアンデッドに詳しい胡桃は、やっぱり興味があったらしい。
「本当だ。出来たてか」
そして同じく興味津々の佳希が、旅人に近づくと、抱きついているアンデッドをしげしげと眺める。
「いや、あの助けて。って、臭い」
抱きつかれている旅人は、死臭が凄いんですけどと泣き顔だ。しかし、俺は近づきたくないし、女子二人は初めて見るアンデッドに興味津々で、全く助けてくれる人がいない。
「おおっ、ありがとう」
と、そこにようやく注意をした人、医学研究科の笠原結が顔を見せた。そして平然とした様子でアンデッドを旅人から引き剥がし、蹴りを加えてから抱きかかえた。
「先輩。見つかりましたか?」
さらに二度と会いたくない人物だった大狼もやって来る。が、俺たちを見て顔を顰めた。
「何やってんだ? 薬学科」
挑発的に睨んでくる。が、俺はそれでようやく目的を思い出した。
「おい。アンデッドに構っている場合じゃないぞ。朝顔が逃げちまう」
「ああ、そうだった」
「じゃあ」
俺に続いて素早く駆け出す佳希と胡桃に、俺はどうすればいいんだと泣き顔の旅人は
「お前は即シャワーだな」
と大狼によって、医学研究科のある建物へと連行されたのだった。
「うおおおっ、絡まってる」
「そっちに行くな!」
で、アンデッド畑を抜けた先、夏に向けてぐんぐん成長中の朝顔たちが、一斉にわらわら動いていて大変な状況になっていた。俺たちは蔓を掴み、逃げないように引っ張るのが、今度は絡みついてきて困る。
「これを使え」
と、騒動が起こると意外にも素早くやって来る男、朝倉が箒に跨がりながら何かを投げてくる。すると、朝顔が一斉にそちらに向って動き始めた。
「い、一体」
「朝顔類が好む魚粉入り腐葉土だよ。あいつらだって植物だからな。栄養には目がないんだ」
朝倉の説明に、そこだけ植物らしさを発揮されてもねえと呆れてしまう。しかも魚粉が好きなのか。
「ほら、ぼうっとするな。今の間に根元を縛るんだ。ほら、これ」
朝倉が白衣のポケットから紐を取り出して投げてくるので、俺はそれをキャッチすると大慌てで縛り始める。しかし、朝顔は逃げようとうねうね動き、どうやって縛ればいいのか解らない。ようやく縛れたと思っても、にゅるんと逃げてくれる。
「ああ、それじゃあ、駄目だ。こう!」
見かねた佳希が俺から紐を奪うと、びっくりする速度で縛り上げた。それに思わず俺は拍手を送ってしまう。
魔法薬学好きの胸がデカい変人を、今日初めて尊敬した。
「庭で朝顔は育てたことがあるからな」
が、自宅で逃げる朝顔を栽培していたと言われると、尊敬の念は萎む。
「そ、そうなんだ」
「ああ。それより次々行くぞ」
佳希は須藤先生が大変だと走って行く。そう言えば、最初に思念伝達を送ってきて以来、その姿を見ていなかった。
「おい、須藤先生がどこにいるのか知ってるのか?」
「こ、ここだ」
「うおっ」
と、朝顔の花に吸い付かれながら、よろよろと戻って来た須藤の姿があった。どうやら真っ先に脱走した朝顔を追い掛け、農園を離れていたらしい。が、奮闘の後が凄かった。
普段はぴっちりと着こなしている服が朝顔によってぼろぼろ。顔や頭には朝顔の花が吸い付き、見ようによっては綺麗だが、やっぱり大変な姿だ。それでもエロっぽさを損なわないのだから、そこはさすがと言うべきか。
「先生」
そこに佳希が戻ってきて、先ほどから朝顔たちがガツガツ食べている腐葉土を持ってくる。すると、朝顔たちはすぐに須藤を離れて腐葉土に群がった。
「助かった」
「いえ。それより先生は回復薬を」
「そうだな」
全く、今年の朝顔は元気すぎると、帰って行く須藤の後ろ姿は歴戦の戦士のようだった。
「カッコイイ」
「うん」
珍しく、佳希と意見の一致したのだった。
『おおい。農園の朝顔類が脱走しようとしている。捕獲だ!』
今日も今日とて事件が起こり、朝顔脱走が発生する。須藤からの緊急思念伝達を受け、昼休み中だというのに俺たちは立ち上がることになる。
「蔓を伸すタイプの植物って、絞め殺そうとするタイプと脱走するタイプに分かれるよな」
俺たちは白衣を着たまま農園に向けて走りつつ、やれやれと溜め息だ。
「それだけ活きがいいってことだ。いい薬品になるぞ」
しかし、横を走る佳希は、もう十分に薬として使えるんじゃないかと笑っている。
(脱走し始めたら使えるようになる薬って、絶対に間違ってるよね)
類似のツッコミを入学して一か月で何度も繰り返している俺は、やれやれと溜め息だ。と、農園に出たところで
「危ない!」
という注意が飛んでくる。
「うわっ」
先頭を走っていた旅人が驚きの声を上げ、俺は急ブレーキ。と、旅人が何かを抱き留めていた。が、それがぼろぼろの衣服を纏う人間だと気づいた瞬間
「ぎゃああああ!」
誰より先に俺が悲鳴を上げてしまった。
「アンデッドだ」
しかし、目を輝かせるのは胡桃だ。何かとアンデッドに詳しい胡桃は、やっぱり興味があったらしい。
「本当だ。出来たてか」
そして同じく興味津々の佳希が、旅人に近づくと、抱きついているアンデッドをしげしげと眺める。
「いや、あの助けて。って、臭い」
抱きつかれている旅人は、死臭が凄いんですけどと泣き顔だ。しかし、俺は近づきたくないし、女子二人は初めて見るアンデッドに興味津々で、全く助けてくれる人がいない。
「おおっ、ありがとう」
と、そこにようやく注意をした人、医学研究科の笠原結が顔を見せた。そして平然とした様子でアンデッドを旅人から引き剥がし、蹴りを加えてから抱きかかえた。
「先輩。見つかりましたか?」
さらに二度と会いたくない人物だった大狼もやって来る。が、俺たちを見て顔を顰めた。
「何やってんだ? 薬学科」
挑発的に睨んでくる。が、俺はそれでようやく目的を思い出した。
「おい。アンデッドに構っている場合じゃないぞ。朝顔が逃げちまう」
「ああ、そうだった」
「じゃあ」
俺に続いて素早く駆け出す佳希と胡桃に、俺はどうすればいいんだと泣き顔の旅人は
「お前は即シャワーだな」
と大狼によって、医学研究科のある建物へと連行されたのだった。
「うおおおっ、絡まってる」
「そっちに行くな!」
で、アンデッド畑を抜けた先、夏に向けてぐんぐん成長中の朝顔たちが、一斉にわらわら動いていて大変な状況になっていた。俺たちは蔓を掴み、逃げないように引っ張るのが、今度は絡みついてきて困る。
「これを使え」
と、騒動が起こると意外にも素早くやって来る男、朝倉が箒に跨がりながら何かを投げてくる。すると、朝顔が一斉にそちらに向って動き始めた。
「い、一体」
「朝顔類が好む魚粉入り腐葉土だよ。あいつらだって植物だからな。栄養には目がないんだ」
朝倉の説明に、そこだけ植物らしさを発揮されてもねえと呆れてしまう。しかも魚粉が好きなのか。
「ほら、ぼうっとするな。今の間に根元を縛るんだ。ほら、これ」
朝倉が白衣のポケットから紐を取り出して投げてくるので、俺はそれをキャッチすると大慌てで縛り始める。しかし、朝顔は逃げようとうねうね動き、どうやって縛ればいいのか解らない。ようやく縛れたと思っても、にゅるんと逃げてくれる。
「ああ、それじゃあ、駄目だ。こう!」
見かねた佳希が俺から紐を奪うと、びっくりする速度で縛り上げた。それに思わず俺は拍手を送ってしまう。
魔法薬学好きの胸がデカい変人を、今日初めて尊敬した。
「庭で朝顔は育てたことがあるからな」
が、自宅で逃げる朝顔を栽培していたと言われると、尊敬の念は萎む。
「そ、そうなんだ」
「ああ。それより次々行くぞ」
佳希は須藤先生が大変だと走って行く。そう言えば、最初に思念伝達を送ってきて以来、その姿を見ていなかった。
「おい、須藤先生がどこにいるのか知ってるのか?」
「こ、ここだ」
「うおっ」
と、朝顔の花に吸い付かれながら、よろよろと戻って来た須藤の姿があった。どうやら真っ先に脱走した朝顔を追い掛け、農園を離れていたらしい。が、奮闘の後が凄かった。
普段はぴっちりと着こなしている服が朝顔によってぼろぼろ。顔や頭には朝顔の花が吸い付き、見ようによっては綺麗だが、やっぱり大変な姿だ。それでもエロっぽさを損なわないのだから、そこはさすがと言うべきか。
「先生」
そこに佳希が戻ってきて、先ほどから朝顔たちがガツガツ食べている腐葉土を持ってくる。すると、朝顔たちはすぐに須藤を離れて腐葉土に群がった。
「助かった」
「いえ。それより先生は回復薬を」
「そうだな」
全く、今年の朝顔は元気すぎると、帰って行く須藤の後ろ姿は歴戦の戦士のようだった。
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