国立第三魔法学院魔法薬学研究科は今日も平和です(たぶん)

渋川宙

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第13話 医学科の早瀬大狼

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 俺はリュック式になっているカバンを大きく広げると、鎮痛剤と書かれた瓶を出して渡す。
「注射器」
 と医学科の奴が指示を出してくる。
「えっと、これか」
 俺は慣れないながらも注射器を探し出して渡す。
「ついでに回復魔法薬も出してくれ。俺の魔力が切れる」
「あ、ああ」
 やはりまだ一年生のようで、骨折だけでもかなり魔力を使ったようだ。回復魔法は集中力がいるし、怪我の程度に合わせて魔力を相手にごっそり分け渡すことになるから大変だ、というのは魔法科学の授業で習っていた。
「薬学科。こっちもヘルプ」
 と、近くで治療に当たっていた医学科の女子が呼んでくる。俺は回復薬を渡してすぐにそちらに向った。
「うわっ」
 しかし、治療されている子の怪我を見て、俺は顔を顰めてしまった。全身に火傷の痕がある。魔法科の三年の男子らしいが、これは酷い。出血はすでにこの医学科の女子が止めてくれているが、それでもまだまだ大怪我だ。
「大丈夫、治せるわ。それよりも後方支援をお願い。うちのエースの早瀬と組めるんだから、あんたを信用するわ」
 が、医学科女子からそう言われて、俺はきょとんとする。
「早瀬」
「あいつよ。早瀬大狼はやせたいろう。一年にして回復魔法を自在に操れるの。って、知り合いじゃないの?」
「あ、いえ」
 スクラブ姿の女子が小首を傾げる姿は可愛いが、あの憎い男の名前はどうでもよかった。っていうかあいつ、顔だけでなく名前もかっこよすぎじゃね?
「私は医学科三年の笠原結かさはらゆいよ。よろしく」
「は、はい。一年の藤城です」
「じゃあ、すぐに鎮痛剤を用意して。軟膏タイプだと助かるわ。皮膚の再生はかなり辛いわよ。あと、魔法回復薬も用意しておいて。スポドリ並に飲むと思う」
「わ、解りました」
 回復魔法と聞くと、痛みもなく治りそうな気がするが、人間の治癒力を最大限に引き出しつつ回復させるから、それなりに回復させられる側もダメージがあるのだという。魔法といえども万能ではないのだ。
「行くわよ」
「はい」
 カバンの中の回復薬ありったけを並べ、次にチューブに入った鎮痛剤を用意する。
「ぐっ」
 ぽわっと傷口が光って治療が始めると、患者が呻く。すでに痛みが走っているらしい。
「回復するまで我慢して。一部分ずつしかいけないのが大変だわ」
「手伝います」
 と、そこに骨折の治療を終えた早瀬がやって来た。
「お願い。藤城君は治った場所に次々軟膏を塗って。一時的に痛みを止めないと、相当な激痛になるからね」
「はい」
 こうして三人で治療を進めていく。俺は二人が魔法を使って回復させた場所に薬を塗りながら、二人にどんどん回復薬を渡していた。
「よし、終わり」
「内臓は大丈夫でしょうか」
 笠原が火傷の治療が終わったというと同時に、早瀬が懸念を口にする。
「それはここでは判断できないわ。ああ、丁度いい。藤井先生。この学生をお願いします」
 通りがかった医学科の教授、といっても学生と変わらない見た目の眼鏡女子、藤井寿里《ふじいじゅり》を笠原は呼び止める。
「よくやった。内科分野は任せなさい。まだ患者がいる。行け」
「はい」
「お願いします」
 笠原と早瀬は素早く他の患者の元に向う。が、俺はどうすればと困ってしまう。
「薬学科」
「はいっ」
 そんな俺に藤井が声を掛けて来て、びくっとなる。見た目は学生っぽいが声は高圧的で怖かった。スクラブ姿も様になっていて、いかにも医学科の先生という感じがする。胸は小さめだ。
「お前も疲れているだろう」
「えっ」
 しかし、その藤井が俺の頭に手を乗せる。と、すっと疲れが消えた。
「回復しておいた」
「あ、ありがとうございます」
「ほら、早瀬のヘルプに入れ」
「は、はい」
 またあいつかよと思いつつも、俺は慌てて早瀬の傍にカバンを持って駆けつける。
「あっ」
 と、そこで手当を受けているのは友葉だった。右足が真っ赤になっている。
「真央」
「大丈夫か」
「う、うん」
「知り合いか?」
 早瀬が手早く患部を確認しながら訊いてくる。
「あ、ああ。幼馴染み」
「ふうん」
 しかし、反応はどうでも良さそうなもので、カチンとくる。だったら訊くな。
「止血はすでに終わっている。次は裂傷を塞ぐが、かなり痛いぞ。何ならこの薬学科にしがみつけ」
 が、次に早瀬が友葉にとんでもない提案をしていて、ぽかんと口を開けるしかない。あまりのことに痛みも忘れているようだ。
「えっと」
 それは友葉も同じで、困惑した顔になっている。それはそうだろう。痛いからって、俺にしがみつく理由にはならない。
「ほら。早くしろ。藤城、痛み止めを先に注射するからそれも出して」
「あ、ああ」
 確定なのかよと呆れたが、骨が見えそうなほどの大怪我に俺は素早く友葉の横に動く。そして鎮痛剤を出して早瀬に渡した。
「ご、ごめんね」
「これも俺の仕事ってことだろ」
 俺は恥ずかしかったものの、友葉の手を取った。すると、友葉はぎゅっと握り返してくる。やはり痛いと言われると怖いのだろう。
「うっ」
 その間に早瀬が患部の近くに注射をしてきて、友葉は顔を顰める。友葉は昔から注射が苦手なのだ。
「大丈夫」
「うん」
「行くぞ」
 そこに早瀬が声を掛けて来て、一気に魔力を患部に注入し始める。
「ううっ」
 鎮痛剤で痛みの感じ方は鈍くなっているはずだが、それでも痛いようだ。ぎゅっと俺の手を必死に握り締める。
「まだ続くぞ」
「は、はいっ」
 友葉は涙目ながらも頷く。
「回復薬は?」
 俺は友葉の手を握りつつも、かなり難航している治癒に訊ねた。
「出してくれ。かなり大きいな。爆風をまともに足に受けてしまったんだろう」
 早瀬は回復薬を受け取りながら、俺に傷の具合を教えてくれる。
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