国立第三魔法学院魔法薬学研究科は今日も平和です(たぶん)

渋川宙

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第12話 事故発生!

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「銀杏的にはネズミはお気に召さないみたいだけど、たまに大型動物をあげれば大人しいし、なにより奴らはその場から動かないから、近づかなければ危険がない分、まだマシと言える」
 さらに塩崎は不穏なことをぶっ込んでくれた。
 大きな動物って何をあげているんだ? そして動くやつってなんだ?
 俺と旅人、さらにまだコーヒー牛乳を吸っていた胡桃は固まる。
「動くとなると、ソテツでしょうか。あれはのしのしと移動するんですよね?」
 しかし、第一志望がこの魔法薬学研究科だった佳希は、目を輝かせて質問している。
 う、動くやつ、マジでいるんだ。俺は慌てて図鑑からソテツを調べる。
「これか。平均的に時速一メートルで移動することが知られている。自身になる実を投げつけて攻撃してくるが、この実は煮詰めると回復魔法薬になることが知られている、か。へえ」
 本当に移動するんだと俺は感心してしまう。
「藤城君、ナイスだ。その通り。時速一メートルというゆっくりとした動きだが、ソテツは移動する。しかも実が回復魔法薬になるものだから、人間としては常にその実が欲しいというのに、気づいたらいなくなっていて困るんだ」
 塩崎は俺の言葉を受けて、そう説明を付け足した。
 確かに、回復魔法薬が必要だとなって、その実を収穫しようとしても、この間までいた場所にはいないってことになる。移動されると困るタイプのやつだ。
「他にも移動する樹木としてエゴノキというのが知られているが、これは日当たりが悪くなると自分で移動するという程度で害はなく、また、その成分についてはまだ研究が進んでいない」
 塩崎はこれから面白い成分が見つかるかもなと目を輝かしている。ああ、やっぱりこの人も根っからの研究者だ。
「さて、では続けて毒成分を含むものを見ていこう。教科書63ページを開いて」
「知らないことだらけだな」
 生き生きと語る塩崎を見ながら、中学までの勉強と魔法って、本当に基本しかなかったんだなと気づく俺だった。


 刺激的な植物学の授業が終わり、次はややこしい内容が続く魔法科学の授業かと溜め息を吐いていると、いきなり巨大な閃光が襲ってきた。さらに遅れてどご~んという爆発音がする。
「な、なんだ?」
「また魔法工学研究科かしら」
 すでに爆発音に慣れつつあるのか、俺と違って胡桃は呑気にそう言ってくれる。
 ああ、工学科。この間も教室を吹っ飛ばしていたなと俺は思うものの、出来れば慣れたくない爆発だ。と、そこに思念伝達が脳内に流れてくる。
『魔法科で事故発生。怪我人が複数確認されています。魔法医学研究科、並びに魔法薬学研究科の学院生は、すぐにグラウンドに集合してください』
「えっ?」
「行くぞ。回復薬が必要だってことだ」
 またまた驚く俺とは違い、佳希は素早く行動を開始する。俺たちも慌てて佳希に続いた。
「こっちだ」
 と、建物の外に出ると須藤が待ち構えていた。その須藤に従って、魔法科が使っているグラウンドに向うことになる。
「うわっ」
 しかし、グラウンドの手前から異常な状態になっていた。辺り一面が真っ黒焦げなのだ。
「こりゃあ、魔法同士が強く衝突して化学変化を起こした跡だな。大変だ。一年ども、腹に気合いを入れておけ」
 須藤はこの先の状態が悪いと気づき、俺たちにそんな注意をしてくる。だが、俺も旅人も、さらに胡桃も足が竦んでいた。すぐに進めたのは佳希だけだった。
「ヤバいだろ」
「ああ」
「邪魔だ! 薬学科!!」
 と、そんな俺の背中をわざと突き飛ばしてくる奴がいた。何だよとムカついて振り向くと、スクラブ姿の同い年くらいの男がいた。スクラブということは医学研究科だ。
「何だよ?」
「重傷者がいるというのにぼんやりするな。これだから薬での回復に頼る奴は困るよな」
「なっ」
 明らかに俺だけを罵倒してくれた医学研究科の男は、そう言ってさっさとグラウンドへと向った。俺は腹が立ってその背中を追い掛ける。
「あいつ。藤城の性格を一瞬で見抜いたな」
「ねっ」
 そんな俺の背中を見て、旅人と胡桃は思わず笑うと、慌ててグラウンドへと向った。
「うわあ」
 だが、グラウンドのあちこち吹き飛ばされた状況や、あちこちで蹲るローブ姿の学生たちを見ると、怒りや義務感だけでは難しいものを感じさせられ、俺たちはまた立ち止まってしまう。
「応急処置が出来る医学科はこっちに来てくれ。魔法薬を運ぶのは、おい、そこの一年。頼むぞ」
 しかし、ぼんやりしている時間はなかった。箒で飛んできた朝倉が、背中に背負っていた魔法薬の入るカバンを俺たちに渡してくる。
「回復魔法を使っている医学生たちのところに行って、必要な物を渡してくれ」
「はい」
「こっちにも薬品バッグあるよ」
 先輩の雅が、他の先輩たちと駆けつけ、俺たちにバッグを持たせる。
「ほら、行け。こういう非常時に役立ってこそ、医学科や薬学科だぞ」
「は、はい」
 戸惑っている俺たちは、朝倉の言葉で怪我人が待つグラウンドへと走り出す。俺は先ほど突き飛ばしてくれた男を見つけ、そちらに走った。
「このくらいで気を失うな。アンデッドになりたいのか?」
「ううっ」
 腕を骨折したらしい男子学生に、医学科の男は無茶苦茶を言っている。しかし、怒りで何とか骨折した魔法科の男子学生は意識を保った。
「よし。起きていないと効力が薄くなるからな。ああ、薬学科。鎮痛剤を用意。骨折は回復魔法で何とかなるけど、痛みは続くからな」
「了解」
 俺はむっとしつつも、的確な指示を出すこいつに従うしかない。
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