12 / 48
第12話 事故発生!
しおりを挟む
「銀杏的にはネズミはお気に召さないみたいだけど、たまに大型動物をあげれば大人しいし、なにより奴らはその場から動かないから、近づかなければ危険がない分、まだマシと言える」
さらに塩崎は不穏なことをぶっ込んでくれた。
大きな動物って何をあげているんだ? そして動くやつってなんだ?
俺と旅人、さらにまだコーヒー牛乳を吸っていた胡桃は固まる。
「動くとなると、ソテツでしょうか。あれはのしのしと移動するんですよね?」
しかし、第一志望がこの魔法薬学研究科だった佳希は、目を輝かせて質問している。
う、動くやつ、マジでいるんだ。俺は慌てて図鑑からソテツを調べる。
「これか。平均的に時速一メートルで移動することが知られている。自身になる実を投げつけて攻撃してくるが、この実は煮詰めると回復魔法薬になることが知られている、か。へえ」
本当に移動するんだと俺は感心してしまう。
「藤城君、ナイスだ。その通り。時速一メートルというゆっくりとした動きだが、ソテツは移動する。しかも実が回復魔法薬になるものだから、人間としては常にその実が欲しいというのに、気づいたらいなくなっていて困るんだ」
塩崎は俺の言葉を受けて、そう説明を付け足した。
確かに、回復魔法薬が必要だとなって、その実を収穫しようとしても、この間までいた場所にはいないってことになる。移動されると困るタイプのやつだ。
「他にも移動する樹木としてエゴノキというのが知られているが、これは日当たりが悪くなると自分で移動するという程度で害はなく、また、その成分についてはまだ研究が進んでいない」
塩崎はこれから面白い成分が見つかるかもなと目を輝かしている。ああ、やっぱりこの人も根っからの研究者だ。
「さて、では続けて毒成分を含むものを見ていこう。教科書63ページを開いて」
「知らないことだらけだな」
生き生きと語る塩崎を見ながら、中学までの勉強と魔法って、本当に基本しかなかったんだなと気づく俺だった。
刺激的な植物学の授業が終わり、次はややこしい内容が続く魔法科学の授業かと溜め息を吐いていると、いきなり巨大な閃光が襲ってきた。さらに遅れてどご~んという爆発音がする。
「な、なんだ?」
「また魔法工学研究科かしら」
すでに爆発音に慣れつつあるのか、俺と違って胡桃は呑気にそう言ってくれる。
ああ、工学科。この間も教室を吹っ飛ばしていたなと俺は思うものの、出来れば慣れたくない爆発だ。と、そこに思念伝達が脳内に流れてくる。
『魔法科で事故発生。怪我人が複数確認されています。魔法医学研究科、並びに魔法薬学研究科の学院生は、すぐにグラウンドに集合してください』
「えっ?」
「行くぞ。回復薬が必要だってことだ」
またまた驚く俺とは違い、佳希は素早く行動を開始する。俺たちも慌てて佳希に続いた。
「こっちだ」
と、建物の外に出ると須藤が待ち構えていた。その須藤に従って、魔法科が使っているグラウンドに向うことになる。
「うわっ」
しかし、グラウンドの手前から異常な状態になっていた。辺り一面が真っ黒焦げなのだ。
「こりゃあ、魔法同士が強く衝突して化学変化を起こした跡だな。大変だ。一年ども、腹に気合いを入れておけ」
須藤はこの先の状態が悪いと気づき、俺たちにそんな注意をしてくる。だが、俺も旅人も、さらに胡桃も足が竦んでいた。すぐに進めたのは佳希だけだった。
「ヤバいだろ」
「ああ」
「邪魔だ! 薬学科!!」
と、そんな俺の背中をわざと突き飛ばしてくる奴がいた。何だよとムカついて振り向くと、スクラブ姿の同い年くらいの男がいた。スクラブということは医学研究科だ。
「何だよ?」
「重傷者がいるというのにぼんやりするな。これだから薬での回復に頼る奴は困るよな」
「なっ」
明らかに俺だけを罵倒してくれた医学研究科の男は、そう言ってさっさとグラウンドへと向った。俺は腹が立ってその背中を追い掛ける。
「あいつ。藤城の性格を一瞬で見抜いたな」
「ねっ」
そんな俺の背中を見て、旅人と胡桃は思わず笑うと、慌ててグラウンドへと向った。
「うわあ」
だが、グラウンドのあちこち吹き飛ばされた状況や、あちこちで蹲るローブ姿の学生たちを見ると、怒りや義務感だけでは難しいものを感じさせられ、俺たちはまた立ち止まってしまう。
「応急処置が出来る医学科はこっちに来てくれ。魔法薬を運ぶのは、おい、そこの一年。頼むぞ」
しかし、ぼんやりしている時間はなかった。箒で飛んできた朝倉が、背中に背負っていた魔法薬の入るカバンを俺たちに渡してくる。
「回復魔法を使っている医学生たちのところに行って、必要な物を渡してくれ」
「はい」
「こっちにも薬品バッグあるよ」
先輩の雅が、他の先輩たちと駆けつけ、俺たちにバッグを持たせる。
「ほら、行け。こういう非常時に役立ってこそ、医学科や薬学科だぞ」
「は、はい」
戸惑っている俺たちは、朝倉の言葉で怪我人が待つグラウンドへと走り出す。俺は先ほど突き飛ばしてくれた男を見つけ、そちらに走った。
「このくらいで気を失うな。アンデッドになりたいのか?」
「ううっ」
腕を骨折したらしい男子学生に、医学科の男は無茶苦茶を言っている。しかし、怒りで何とか骨折した魔法科の男子学生は意識を保った。
「よし。起きていないと効力が薄くなるからな。ああ、薬学科。鎮痛剤を用意。骨折は回復魔法で何とかなるけど、痛みは続くからな」
「了解」
俺はむっとしつつも、的確な指示を出すこいつに従うしかない。
さらに塩崎は不穏なことをぶっ込んでくれた。
大きな動物って何をあげているんだ? そして動くやつってなんだ?
俺と旅人、さらにまだコーヒー牛乳を吸っていた胡桃は固まる。
「動くとなると、ソテツでしょうか。あれはのしのしと移動するんですよね?」
しかし、第一志望がこの魔法薬学研究科だった佳希は、目を輝かせて質問している。
う、動くやつ、マジでいるんだ。俺は慌てて図鑑からソテツを調べる。
「これか。平均的に時速一メートルで移動することが知られている。自身になる実を投げつけて攻撃してくるが、この実は煮詰めると回復魔法薬になることが知られている、か。へえ」
本当に移動するんだと俺は感心してしまう。
「藤城君、ナイスだ。その通り。時速一メートルというゆっくりとした動きだが、ソテツは移動する。しかも実が回復魔法薬になるものだから、人間としては常にその実が欲しいというのに、気づいたらいなくなっていて困るんだ」
塩崎は俺の言葉を受けて、そう説明を付け足した。
確かに、回復魔法薬が必要だとなって、その実を収穫しようとしても、この間までいた場所にはいないってことになる。移動されると困るタイプのやつだ。
「他にも移動する樹木としてエゴノキというのが知られているが、これは日当たりが悪くなると自分で移動するという程度で害はなく、また、その成分についてはまだ研究が進んでいない」
塩崎はこれから面白い成分が見つかるかもなと目を輝かしている。ああ、やっぱりこの人も根っからの研究者だ。
「さて、では続けて毒成分を含むものを見ていこう。教科書63ページを開いて」
「知らないことだらけだな」
生き生きと語る塩崎を見ながら、中学までの勉強と魔法って、本当に基本しかなかったんだなと気づく俺だった。
刺激的な植物学の授業が終わり、次はややこしい内容が続く魔法科学の授業かと溜め息を吐いていると、いきなり巨大な閃光が襲ってきた。さらに遅れてどご~んという爆発音がする。
「な、なんだ?」
「また魔法工学研究科かしら」
すでに爆発音に慣れつつあるのか、俺と違って胡桃は呑気にそう言ってくれる。
ああ、工学科。この間も教室を吹っ飛ばしていたなと俺は思うものの、出来れば慣れたくない爆発だ。と、そこに思念伝達が脳内に流れてくる。
『魔法科で事故発生。怪我人が複数確認されています。魔法医学研究科、並びに魔法薬学研究科の学院生は、すぐにグラウンドに集合してください』
「えっ?」
「行くぞ。回復薬が必要だってことだ」
またまた驚く俺とは違い、佳希は素早く行動を開始する。俺たちも慌てて佳希に続いた。
「こっちだ」
と、建物の外に出ると須藤が待ち構えていた。その須藤に従って、魔法科が使っているグラウンドに向うことになる。
「うわっ」
しかし、グラウンドの手前から異常な状態になっていた。辺り一面が真っ黒焦げなのだ。
「こりゃあ、魔法同士が強く衝突して化学変化を起こした跡だな。大変だ。一年ども、腹に気合いを入れておけ」
須藤はこの先の状態が悪いと気づき、俺たちにそんな注意をしてくる。だが、俺も旅人も、さらに胡桃も足が竦んでいた。すぐに進めたのは佳希だけだった。
「ヤバいだろ」
「ああ」
「邪魔だ! 薬学科!!」
と、そんな俺の背中をわざと突き飛ばしてくる奴がいた。何だよとムカついて振り向くと、スクラブ姿の同い年くらいの男がいた。スクラブということは医学研究科だ。
「何だよ?」
「重傷者がいるというのにぼんやりするな。これだから薬での回復に頼る奴は困るよな」
「なっ」
明らかに俺だけを罵倒してくれた医学研究科の男は、そう言ってさっさとグラウンドへと向った。俺は腹が立ってその背中を追い掛ける。
「あいつ。藤城の性格を一瞬で見抜いたな」
「ねっ」
そんな俺の背中を見て、旅人と胡桃は思わず笑うと、慌ててグラウンドへと向った。
「うわあ」
だが、グラウンドのあちこち吹き飛ばされた状況や、あちこちで蹲るローブ姿の学生たちを見ると、怒りや義務感だけでは難しいものを感じさせられ、俺たちはまた立ち止まってしまう。
「応急処置が出来る医学科はこっちに来てくれ。魔法薬を運ぶのは、おい、そこの一年。頼むぞ」
しかし、ぼんやりしている時間はなかった。箒で飛んできた朝倉が、背中に背負っていた魔法薬の入るカバンを俺たちに渡してくる。
「回復魔法を使っている医学生たちのところに行って、必要な物を渡してくれ」
「はい」
「こっちにも薬品バッグあるよ」
先輩の雅が、他の先輩たちと駆けつけ、俺たちにバッグを持たせる。
「ほら、行け。こういう非常時に役立ってこそ、医学科や薬学科だぞ」
「は、はい」
戸惑っている俺たちは、朝倉の言葉で怪我人が待つグラウンドへと走り出す。俺は先ほど突き飛ばしてくれた男を見つけ、そちらに走った。
「このくらいで気を失うな。アンデッドになりたいのか?」
「ううっ」
腕を骨折したらしい男子学生に、医学科の男は無茶苦茶を言っている。しかし、怒りで何とか骨折した魔法科の男子学生は意識を保った。
「よし。起きていないと効力が薄くなるからな。ああ、薬学科。鎮痛剤を用意。骨折は回復魔法で何とかなるけど、痛みは続くからな」
「了解」
俺はむっとしつつも、的確な指示を出すこいつに従うしかない。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です
カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」
数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。
ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。
「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」
「あ、そういうのいいんで」
「えっ!?」
異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ――
――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる