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第10話 もやもやするなあ
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二人で空いている席に座ると、すぐに思念を読んでメニューが運ばれてくる。俺は宣言通り、この店で一番デカいパフェ。友葉はイチゴたっぷりのクレープだった。
「なんか、久しぶりだね。こうやって二人で甘い物を食べるなんて」
はむっとクレープに噛みつく姿は、見慣れているはずなのに可愛いと思ってしまう。俺はそうだなと素っ気なく返しつつ、こいつもいつの間にか年頃の女子なんだなと、訳の解らないことを考える。
「美味しい」
いつも自分に纏わり付き、たまには小言を言うだけの友葉は、はむはむと上機嫌にクレープを食べ続けて、俺の煩悩を容赦なく刺激してくる。ぺろっとクリームを舐める舌に、俺はごくっと唾を飲み込んでいた。
(ああ、やばっ。ってか、友葉に色目使うとか、俺、ないわ~)
自分の危険に気づき、俺はぶんぶんと首を横に振る。そしてパフェの一番上にあったアイスクリームの塊を一気に口に放り込んだ。
「冷たっ」
が、当然のように冷たさが襲い、ついでに頭がキーンとくる。
「もう、何やってるの?」
「い、いや」
慌てて横に付いていたメロンを食べつつ、お前が意外に可愛いからだろと、口の中でもごもごと言い訳する。
「ああ、もう。真央といると悩んでいるのが馬鹿馬鹿しくなってくるなあ」
「どういう意味だよ」
くすくすと笑う友葉に、俺は悩みが飛ぶんだったらいいけどと、複雑な気分になりつつ、巨大パフェを食い進める。
(くそっ、マジでデカい。ってか、これ、入ってるのビールジョッキじゃん)
俺はあまりの量に食い切れるかなあと遠い目だ。
「私、なんで魔法科に受かったんだろう」
しかし、思考をパフェに逃がしている場合ではなかった。イチゴのクレープを食べ終えた友葉が、溜め息とともに重たい一言を放ってくれる。
「魔法科、大変なのか?」
俺は大量に詰め込まれているコーンフレークと格闘しながら、それとなく訊く。ここであんまり深刻そうに訊ねては駄目だ。
「大変、だよ。なんか常に順位を付けられるっていうか。四年後の国家魔法師の試験のことをずっと意識しなきゃいけないっていうか」
友葉はカフェオレを追加注文しながらぼやく。だが、それって凄く贅沢な悩みだと、国家魔法師の資格試験にすら挑戦できない俺は思ってしまった。
この先、俺は魔法薬学研究科で四年間過ごしても、得られるのは魔法薬学学士という、卒業したことを表す学位だけだ。これは隕石がぶつかる前の大学と変わらない。
もちろん、魔法学院を卒業し、しかも薬学を修めたというのは証明されるから、それに見合った職業には就ける。でも、決して国家魔法師にはなれないのだ。
受験の結果は、将来に大きく影響する。いくら再チャレンジ出来るとはいえ、国家魔法師になるための魔法科の入学は凄く遠い。
「今日もね。瞬間移動魔法の試験があったの。でも、私、決められた距離までワープ出来なくてさ。もう、その後の補習が大変だったんだよね」
「へえ」
しゃりしゃりとコーンフレークを食べながら、俺なんて瞬間移動魔法なんて使えねーぜと劣等感を煽られる。
(ああ、やっぱ、凄え壁があるんだよな、魔法科と他の学科って)
つい数ヶ月前まで、当たり前に入学できると思っていた自分をぶん殴りたくなってきた。
「その後の炎系魔法も駄目でさ。ああもう、受かったの、偶然なのかも。入ったら凄い人ばっかりなんだよ」
それでも、受かった友葉の愚痴は止まらない。自分がそれにチャレンジ出来ていることが恵まれているなんて、思ってもいないのだろう。
「ふうん」
おかげで、俺の相槌は適当になり、コーンフレークを食う速度だけが上がっていく。
「そんなに食べて、大丈夫?」
「大丈夫だよ。牧場中の草むしりをした後だからな」
お前らが格好良く魔法使いらしいことをやっている時、俺たちは雑草をむしり取ってるんだぜ。そう言えたら、どれだけいいか。
でも、周りが優秀すぎて凹んでいる友葉には言えるわけもなく、ひたすらこれでもかと詰め込まれたコーンフレークを食い続けるしかないのだった。
「魔法科って、一年の退学率がめっちゃ高いっていうもんね。やっぱ凄い実力主義なんだ」
「みたいだな」
翌日。俺は昨日溜め込んだもやもやを旅人に向けて放っていた。すると、魔法科の半分は一年で退学するという情報を入手することになったのだ。
入るのも大変ならば、卒業するのも大変。そして最後は国家魔法師の試験が待ち構えている。そう考えると、凄い場所だ。
「でも、みんなの憧れだから、仕方ないよね。国家魔法師になれば、隕石ゾーンへの冒険が認められたり、国の危機に立ち向かったり、色んな所が資格を翳せば入れたりと幅広いし」
旅人は隕石への冒険をしたかったなあとぼやく。
「お前、それに憧れてんの? 俺は普通に国家間の対抗試合に出たかっただけだけど」
俺は国家魔法師の憧れがマニアック過ぎないと呆れてしまう。
「こら。足を止めるな!」
と、駄弁っていたら、問題の魔法科の教授、越智瑠美に怒鳴られた。三十代のこの教授は何かと怖い。そして俺たちは今、そんな先生が監督する体育という名の魔法学の授業中だ。が、ランニングって黙ってやっていると辛い。
「なんか、久しぶりだね。こうやって二人で甘い物を食べるなんて」
はむっとクレープに噛みつく姿は、見慣れているはずなのに可愛いと思ってしまう。俺はそうだなと素っ気なく返しつつ、こいつもいつの間にか年頃の女子なんだなと、訳の解らないことを考える。
「美味しい」
いつも自分に纏わり付き、たまには小言を言うだけの友葉は、はむはむと上機嫌にクレープを食べ続けて、俺の煩悩を容赦なく刺激してくる。ぺろっとクリームを舐める舌に、俺はごくっと唾を飲み込んでいた。
(ああ、やばっ。ってか、友葉に色目使うとか、俺、ないわ~)
自分の危険に気づき、俺はぶんぶんと首を横に振る。そしてパフェの一番上にあったアイスクリームの塊を一気に口に放り込んだ。
「冷たっ」
が、当然のように冷たさが襲い、ついでに頭がキーンとくる。
「もう、何やってるの?」
「い、いや」
慌てて横に付いていたメロンを食べつつ、お前が意外に可愛いからだろと、口の中でもごもごと言い訳する。
「ああ、もう。真央といると悩んでいるのが馬鹿馬鹿しくなってくるなあ」
「どういう意味だよ」
くすくすと笑う友葉に、俺は悩みが飛ぶんだったらいいけどと、複雑な気分になりつつ、巨大パフェを食い進める。
(くそっ、マジでデカい。ってか、これ、入ってるのビールジョッキじゃん)
俺はあまりの量に食い切れるかなあと遠い目だ。
「私、なんで魔法科に受かったんだろう」
しかし、思考をパフェに逃がしている場合ではなかった。イチゴのクレープを食べ終えた友葉が、溜め息とともに重たい一言を放ってくれる。
「魔法科、大変なのか?」
俺は大量に詰め込まれているコーンフレークと格闘しながら、それとなく訊く。ここであんまり深刻そうに訊ねては駄目だ。
「大変、だよ。なんか常に順位を付けられるっていうか。四年後の国家魔法師の試験のことをずっと意識しなきゃいけないっていうか」
友葉はカフェオレを追加注文しながらぼやく。だが、それって凄く贅沢な悩みだと、国家魔法師の資格試験にすら挑戦できない俺は思ってしまった。
この先、俺は魔法薬学研究科で四年間過ごしても、得られるのは魔法薬学学士という、卒業したことを表す学位だけだ。これは隕石がぶつかる前の大学と変わらない。
もちろん、魔法学院を卒業し、しかも薬学を修めたというのは証明されるから、それに見合った職業には就ける。でも、決して国家魔法師にはなれないのだ。
受験の結果は、将来に大きく影響する。いくら再チャレンジ出来るとはいえ、国家魔法師になるための魔法科の入学は凄く遠い。
「今日もね。瞬間移動魔法の試験があったの。でも、私、決められた距離までワープ出来なくてさ。もう、その後の補習が大変だったんだよね」
「へえ」
しゃりしゃりとコーンフレークを食べながら、俺なんて瞬間移動魔法なんて使えねーぜと劣等感を煽られる。
(ああ、やっぱ、凄え壁があるんだよな、魔法科と他の学科って)
つい数ヶ月前まで、当たり前に入学できると思っていた自分をぶん殴りたくなってきた。
「その後の炎系魔法も駄目でさ。ああもう、受かったの、偶然なのかも。入ったら凄い人ばっかりなんだよ」
それでも、受かった友葉の愚痴は止まらない。自分がそれにチャレンジ出来ていることが恵まれているなんて、思ってもいないのだろう。
「ふうん」
おかげで、俺の相槌は適当になり、コーンフレークを食う速度だけが上がっていく。
「そんなに食べて、大丈夫?」
「大丈夫だよ。牧場中の草むしりをした後だからな」
お前らが格好良く魔法使いらしいことをやっている時、俺たちは雑草をむしり取ってるんだぜ。そう言えたら、どれだけいいか。
でも、周りが優秀すぎて凹んでいる友葉には言えるわけもなく、ひたすらこれでもかと詰め込まれたコーンフレークを食い続けるしかないのだった。
「魔法科って、一年の退学率がめっちゃ高いっていうもんね。やっぱ凄い実力主義なんだ」
「みたいだな」
翌日。俺は昨日溜め込んだもやもやを旅人に向けて放っていた。すると、魔法科の半分は一年で退学するという情報を入手することになったのだ。
入るのも大変ならば、卒業するのも大変。そして最後は国家魔法師の試験が待ち構えている。そう考えると、凄い場所だ。
「でも、みんなの憧れだから、仕方ないよね。国家魔法師になれば、隕石ゾーンへの冒険が認められたり、国の危機に立ち向かったり、色んな所が資格を翳せば入れたりと幅広いし」
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「お前、それに憧れてんの? 俺は普通に国家間の対抗試合に出たかっただけだけど」
俺は国家魔法師の憧れがマニアック過ぎないと呆れてしまう。
「こら。足を止めるな!」
と、駄弁っていたら、問題の魔法科の教授、越智瑠美に怒鳴られた。三十代のこの教授は何かと怖い。そして俺たちは今、そんな先生が監督する体育という名の魔法学の授業中だ。が、ランニングって黙ってやっていると辛い。
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