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第8話 電気魔法成分
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ちなみに実験器具は魔法工学に基づいて、隕石衝突前の機材を再現したものだ。というわけで、一見するとただの電子機器である。しかし、隕石衝突後の世界では電子機器というものが珍しいわけで、これを使えるというだけでもテンションが上がる。
「遠心分離機って、カッコイイよなあ」
「そうだな」
俺たちは顕微鏡に向いつつ、これだって今では珍しい骨董品だが、あっちがいいなと羨ましそうに雅を見てしまう。と、そこにすかさず須藤の注意が入る。
「こら、手元に集中しろ。食中毒を起こす原因に魔法が原因の場合もある。その場合、顕微鏡で覗くと細胞壁が赤く光っているはずだ。特に刻んで刺激を与えてやるとよく光る。というわけで、光っていないかチェック」
「はい」
須藤の説明に頷き、俺は顕微鏡を覗き込んだ。ほう、植物の細胞ってこうなっているのか、と感心しつつも目を凝らしていると
「ん?」
きらっと光った気がした。しかし、それは赤色ではなかった。しかもしばらくするときらきらと煌めき始める。
「なんだ、これ?」
同じく覗き込んでいた佳希も、不可解だと声を上げる。どうやらこの現象が見えているのは俺だけではないらしい。
「どうした?」
須藤が俺たちのところにやって来て、顕微鏡を貸せと佳希に変わって覗き込んだ。そしてしばらくじっと見ていたが
「これは珍しい」
と驚いた声を上げる。
「珍しいんですか」
俺にはきらきら光る草でしかないのだがと、首を傾げてしまう。そして、光り輝く草というのは、隕石衝突後では珍しくないはずだがと不思議になってしまう。
「刻んでから光りを強く発するのは、この草に電気属性がある証拠だ。しかし、こんな風に群生する草で電気属性があるのを確認したのは初めてのことだ。本来、電気属性を有するのは、もっと大きな植物で、しかも単体で生息しているものなんだ。これは新たな発見だ」
須藤は興奮した口調で説明してくれる。なるほど、沢山雑草のように生える草には、電気属性のものは少ないのか。
「って、電気って」
「あの恐竜も電気を属性として持っているんじゃあ」
俺と旅人は顔を見合わせる。それに、そうだろうと須藤は頷いた。
「竹内、どういうことか理解したか?」
そしてまだ覗き込んでいる胡桃に、食中毒の原因は解ったかと訊ねる。
「は、はいっ。電気の溜め込みすぎですね」
胡桃はきらきら光る細胞に気を取られていたが、それでも、ちゃんと原因に辿り着いていた。元気よく答えて、雅にくすっと笑われている。
「そうだ。本来体内に蓄電できる容量を越えてしまったために、腹痛を起こして食中毒の症状を見せていたんだ。なるほど、それならば嘔吐症状がなかったのも頷ける。出したいものは電気だったんだからな」
須藤はそう答えると、雅にどうだと確認する。
「はい。電気魔法成分が出ました」
雅はこれですと、印刷されたデータを須藤に渡す。須藤はそれを俺に渡すと
「朝倉先生にこれを見せて、必要な薬を貰ってこい」
と命じたのだった。
「うおっ、凄い」
「昔あったという薬局みたい」
さて、朝倉の研究室を訪れた俺たち一年生四人は、初めて見た研究室の内部に驚きの声を上げた。ちなみに薬局と言ったのは佳希だ。それはそれがどういうものなのか、さっぱり解らない。取り敢えず、この部屋のように薬が棚に一杯入っている状態なのだろうとは想像出来た。
そう、朝倉の研究室の壁の一面は、様々な薬が置かれる棚が占拠していた。薬草が乾燥した状態で瓶詰めされているものもあれば、錠剤やカプセルにされてそれがシート状のものに保存されているものもある。他にもシロップや粉薬もあった。その棚とは別に、生の状態の薬草も他の棚に沢山置かれている。
まさに、ここに来れば必要な薬が手に入るという状態だった。
「薬局を知っているとは凄いな」
朝倉は佳希の言葉に苦笑しつつ、データを確認するとすぐにその薬が入っている棚に向った。そして粉薬を持ってくる。
「これは誤って飲み込んでしまった電気魔法を排出する薬だ。元になっているのは電気魔法に対して阻害行為をするホワイトゴーストという植物だな」
そして薬について簡単に説明してくれる。しかし、俺はホワイトゴーストという植物が解らない。
「あれですよね」
佳希が研究室の窓際の鉢植えを指差した。朝倉はそうだと頷くと、その鉢植えを持ってきてくれた。ホワイトゴーストはその名前の通り白っぽ葉っぱをした、アロエのような植物だった。
「これに、そうだな。発電性のあるバオバブが、ああ、あった」
朝倉はホワイトゴーストの鉢植えを俺に持たせて、自分はバオバブという奇妙な木っぽい植物を持ってくる。そしてホワイトゴーストの鉢植えに近づけると
「うおっ」
ばちんっという大きな音がした。しかし、ホワイトゴーストを持つ俺は別に痛くない。
「あ、あれ」
「バオバブの発電攻撃をホワイトゴーストが無効化したんだよ。こういう植物の反応を応用すると、電子機器の制御も出来るんだ。とはいえ、魔法工学では別の方法を用いているけどね」
「へえ」
世の中、知らないことに溢れているんだな。俺はホワイトゴーストの鉢植えをしげしげと見つめてしまう。
「さて、一年諸君。君たちの知的好奇心が満足されたところで、早く困っている恐竜を助けに行ってやってくれ」
朝倉は俺の頭をぽんっと叩くと、そう言ってあるだけの粉薬をくれたのだった。
「遠心分離機って、カッコイイよなあ」
「そうだな」
俺たちは顕微鏡に向いつつ、これだって今では珍しい骨董品だが、あっちがいいなと羨ましそうに雅を見てしまう。と、そこにすかさず須藤の注意が入る。
「こら、手元に集中しろ。食中毒を起こす原因に魔法が原因の場合もある。その場合、顕微鏡で覗くと細胞壁が赤く光っているはずだ。特に刻んで刺激を与えてやるとよく光る。というわけで、光っていないかチェック」
「はい」
須藤の説明に頷き、俺は顕微鏡を覗き込んだ。ほう、植物の細胞ってこうなっているのか、と感心しつつも目を凝らしていると
「ん?」
きらっと光った気がした。しかし、それは赤色ではなかった。しかもしばらくするときらきらと煌めき始める。
「なんだ、これ?」
同じく覗き込んでいた佳希も、不可解だと声を上げる。どうやらこの現象が見えているのは俺だけではないらしい。
「どうした?」
須藤が俺たちのところにやって来て、顕微鏡を貸せと佳希に変わって覗き込んだ。そしてしばらくじっと見ていたが
「これは珍しい」
と驚いた声を上げる。
「珍しいんですか」
俺にはきらきら光る草でしかないのだがと、首を傾げてしまう。そして、光り輝く草というのは、隕石衝突後では珍しくないはずだがと不思議になってしまう。
「刻んでから光りを強く発するのは、この草に電気属性がある証拠だ。しかし、こんな風に群生する草で電気属性があるのを確認したのは初めてのことだ。本来、電気属性を有するのは、もっと大きな植物で、しかも単体で生息しているものなんだ。これは新たな発見だ」
須藤は興奮した口調で説明してくれる。なるほど、沢山雑草のように生える草には、電気属性のものは少ないのか。
「って、電気って」
「あの恐竜も電気を属性として持っているんじゃあ」
俺と旅人は顔を見合わせる。それに、そうだろうと須藤は頷いた。
「竹内、どういうことか理解したか?」
そしてまだ覗き込んでいる胡桃に、食中毒の原因は解ったかと訊ねる。
「は、はいっ。電気の溜め込みすぎですね」
胡桃はきらきら光る細胞に気を取られていたが、それでも、ちゃんと原因に辿り着いていた。元気よく答えて、雅にくすっと笑われている。
「そうだ。本来体内に蓄電できる容量を越えてしまったために、腹痛を起こして食中毒の症状を見せていたんだ。なるほど、それならば嘔吐症状がなかったのも頷ける。出したいものは電気だったんだからな」
須藤はそう答えると、雅にどうだと確認する。
「はい。電気魔法成分が出ました」
雅はこれですと、印刷されたデータを須藤に渡す。須藤はそれを俺に渡すと
「朝倉先生にこれを見せて、必要な薬を貰ってこい」
と命じたのだった。
「うおっ、凄い」
「昔あったという薬局みたい」
さて、朝倉の研究室を訪れた俺たち一年生四人は、初めて見た研究室の内部に驚きの声を上げた。ちなみに薬局と言ったのは佳希だ。それはそれがどういうものなのか、さっぱり解らない。取り敢えず、この部屋のように薬が棚に一杯入っている状態なのだろうとは想像出来た。
そう、朝倉の研究室の壁の一面は、様々な薬が置かれる棚が占拠していた。薬草が乾燥した状態で瓶詰めされているものもあれば、錠剤やカプセルにされてそれがシート状のものに保存されているものもある。他にもシロップや粉薬もあった。その棚とは別に、生の状態の薬草も他の棚に沢山置かれている。
まさに、ここに来れば必要な薬が手に入るという状態だった。
「薬局を知っているとは凄いな」
朝倉は佳希の言葉に苦笑しつつ、データを確認するとすぐにその薬が入っている棚に向った。そして粉薬を持ってくる。
「これは誤って飲み込んでしまった電気魔法を排出する薬だ。元になっているのは電気魔法に対して阻害行為をするホワイトゴーストという植物だな」
そして薬について簡単に説明してくれる。しかし、俺はホワイトゴーストという植物が解らない。
「あれですよね」
佳希が研究室の窓際の鉢植えを指差した。朝倉はそうだと頷くと、その鉢植えを持ってきてくれた。ホワイトゴーストはその名前の通り白っぽ葉っぱをした、アロエのような植物だった。
「これに、そうだな。発電性のあるバオバブが、ああ、あった」
朝倉はホワイトゴーストの鉢植えを俺に持たせて、自分はバオバブという奇妙な木っぽい植物を持ってくる。そしてホワイトゴーストの鉢植えに近づけると
「うおっ」
ばちんっという大きな音がした。しかし、ホワイトゴーストを持つ俺は別に痛くない。
「あ、あれ」
「バオバブの発電攻撃をホワイトゴーストが無効化したんだよ。こういう植物の反応を応用すると、電子機器の制御も出来るんだ。とはいえ、魔法工学では別の方法を用いているけどね」
「へえ」
世の中、知らないことに溢れているんだな。俺はホワイトゴーストの鉢植えをしげしげと見つめてしまう。
「さて、一年諸君。君たちの知的好奇心が満足されたところで、早く困っている恐竜を助けに行ってやってくれ」
朝倉は俺の頭をぽんっと叩くと、そう言ってあるだけの粉薬をくれたのだった。
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