7 / 48
第7話 牧草地は多種多様
しおりを挟む
牧草地は草食恐竜類が食中毒を起こしたとして、一時的に閉鎖されていた。おかげで馬鹿でかい牛やペガサスに追い掛けられることなく、ゆっくり捜索できる。
「とはいえ、ここは動物たちの食事の場だ。早く特定してやらないと後が大変だ」
雅がそう言いながらしゃがむ。俺たちもしゃがんでみたが、いかんせん、まだ勉強を始めて三日だ。草の形がそれぞれ違うのは解っても、どれがどれだか解らない。
「牧草って、同じ草が生えているんじゃないんですね」
胡桃の意見に、俺も旅人も大きく頷く。
「牧草でメジャーなのは隕石の激突前から変わっていないそうだ。畜産業に関わることだから、真っ先に調べられたのだろう。これがアルファルファ、こっちがオーチャードグラスだ」
しかし、第一志望が薬学研究科という佳希は違った。二つの草を抜いて、名前を教えてくれる。
「おっ、凄いじゃん、市村ちゃん。そう、牧草っていうのは百五十年前からそんなに変化はないし、栄養価が少し変わったくらいで、危ない成分は含まれていないんだ。野菜も半分くらいは昔と変わらず食べられたように、危険のない植物というのも意外と多いんだよ」
雅はぐっと親指を立てて教えてくれる。最初はツンケンした人なのかと思っていたのに、意外とお茶目だ。
「ここの牧草に植えられているのは、今、市村ちゃんが言った二つに、このチモシーってのと、イタリアンライグラスの四種類だ。この四つ以外の草を取り敢えず探してくれ」
ぱっと見ではどれも同じに見える草だが、房がついていたり実のようなものが付いていたりする。名前はすぐに覚えられないが、特徴は覚えやすそうだ。
「では、散らばれ。端から中心に向って行くんだ。移動魔法が使える奴、あっちの端を頼む」
雅が牧場の反対側を指差してそう言うと、名乗り出たのは胡桃だった。
「じゃあ、行ってきます」
そう言うと、あっさり姿を消してみせる。
「羨ましい」
「なっ」
移動魔法が苦手な俺と旅人は、大人しく歩いて行ける距離に向う。佳希はというと、すでに地面に這いつくばり、真剣に草を探している。これはサボっていられない。
「頑張るしかないか」
ぐったりした草食恐竜類の姿を思い出し、俺も牧草が茂る地面を睨み付けたのだった。
牧草地に這いつくばること一時間。中心に集まった薬学研究科のメンバーは、それぞれ牧草とは違うと判断した草を大量に持っていた。
「やっぱり農園や近くに山もあるから、別の種類が混ざっているな」
予想以上に豊富に採れたことに、雅は呆れてしまう。これでは食中毒を起こした植物を特定するのは大変そうだ。
「おおっ、やっているな」
と、そこに気怠げな朝倉の声がした。声がした方を見ると、箒に乗った朝倉の姿がある。
「先生」
「恐竜たちの命に危険はなさそうだと判断したから、こっちの応援に来たぞ。で、牧草以外にそんなにもあったのか」
朝倉は地面に降り立つと、こいつは沢山採れたなと、一年生の抱える草を眺める。そして、それぞれが抱える山の中から、何本か引っこ抜いていく。
「これとこれ、それにこれが怪しいかな。この三つ、かなりの数が生えていたんじゃないの?」
そして三種類の草を五人に示す。
「はい。いっぱいありました」
俺が答えると、先輩の雅も同意してくれた。
「群生する草ですね」
「そう。あれだけ身体の大きな動物が集団で食中毒を起こすとなると、それなりの数があったはずだ。そして食べ尽くしてはいないだろうと判断すると、成長が早くまた群生する植物に特定できる」
「おおっ」
朝倉の説明に、初めて教授らしいと実感した俺だ。朝倉は基本的に授業を受け持っておらず、研究室に籠もっているから尚更だ。意外にも学科長の塩崎は授業を受け持っている。
「さすがは魔法薬学会の至宝。すぐに判別されるなんて」
雅はキラキラとした目で朝倉を見ていた。それは佳希も同じで、うんうんと頷いている。
「えっ、朝倉先生って、超凄い先生なの?」
俺は失礼にも本人がそこにいるのに訊ねてしまう。
「凄いんだよ。ここ十年の研究成果は総て朝倉先生のものと言っても過言じゃないんだから」
雅はそう言って俺を睨むが、残念ながら魔法薬学素人である。偉人もへっぽこも知らない。
「そんな話はどうでもいい。まずこの三種類の成分の特定だな。須藤先生と合流して実験するぞ」
朝倉はやる気なくそう言うと、自分だけ先に箒で帰って行ったのだった。
実験実技Ⅰの授業をしていた教室に戻ると、まず一年生たちは怪しい草たちを刻むように命じられた。
「半分はみじん切り、もう半分はすり潰すまでやってね」
須藤に指示されるまま、俺たちは慣れない包丁で草を刻み、ごりごりとすり鉢で草をすり潰す。
「みじん切りにしたやつは顕微鏡にセット。すり潰したやつは試験管に入れて。試薬を入れて反応を見るよ」
「まさに実験だ」
この間のビーカーに入った薬を魔法で変換するのとは違い、百五十年前もやっていた手法に俺は興奮してしまう。
「なんか不思議な気分になるな」
これは旅人も同じようで、うきうきと試験管に薬草の汁を入れていく。
「平岡は遠心分離機を使って、これを分離して」
「はい」
先輩の雅はより高度な実験を命じられている。それを見ていると、いつか俺たちもああやって任されることがあるのかなと、ちょっとドキドキしてしまう。
「とはいえ、ここは動物たちの食事の場だ。早く特定してやらないと後が大変だ」
雅がそう言いながらしゃがむ。俺たちもしゃがんでみたが、いかんせん、まだ勉強を始めて三日だ。草の形がそれぞれ違うのは解っても、どれがどれだか解らない。
「牧草って、同じ草が生えているんじゃないんですね」
胡桃の意見に、俺も旅人も大きく頷く。
「牧草でメジャーなのは隕石の激突前から変わっていないそうだ。畜産業に関わることだから、真っ先に調べられたのだろう。これがアルファルファ、こっちがオーチャードグラスだ」
しかし、第一志望が薬学研究科という佳希は違った。二つの草を抜いて、名前を教えてくれる。
「おっ、凄いじゃん、市村ちゃん。そう、牧草っていうのは百五十年前からそんなに変化はないし、栄養価が少し変わったくらいで、危ない成分は含まれていないんだ。野菜も半分くらいは昔と変わらず食べられたように、危険のない植物というのも意外と多いんだよ」
雅はぐっと親指を立てて教えてくれる。最初はツンケンした人なのかと思っていたのに、意外とお茶目だ。
「ここの牧草に植えられているのは、今、市村ちゃんが言った二つに、このチモシーってのと、イタリアンライグラスの四種類だ。この四つ以外の草を取り敢えず探してくれ」
ぱっと見ではどれも同じに見える草だが、房がついていたり実のようなものが付いていたりする。名前はすぐに覚えられないが、特徴は覚えやすそうだ。
「では、散らばれ。端から中心に向って行くんだ。移動魔法が使える奴、あっちの端を頼む」
雅が牧場の反対側を指差してそう言うと、名乗り出たのは胡桃だった。
「じゃあ、行ってきます」
そう言うと、あっさり姿を消してみせる。
「羨ましい」
「なっ」
移動魔法が苦手な俺と旅人は、大人しく歩いて行ける距離に向う。佳希はというと、すでに地面に這いつくばり、真剣に草を探している。これはサボっていられない。
「頑張るしかないか」
ぐったりした草食恐竜類の姿を思い出し、俺も牧草が茂る地面を睨み付けたのだった。
牧草地に這いつくばること一時間。中心に集まった薬学研究科のメンバーは、それぞれ牧草とは違うと判断した草を大量に持っていた。
「やっぱり農園や近くに山もあるから、別の種類が混ざっているな」
予想以上に豊富に採れたことに、雅は呆れてしまう。これでは食中毒を起こした植物を特定するのは大変そうだ。
「おおっ、やっているな」
と、そこに気怠げな朝倉の声がした。声がした方を見ると、箒に乗った朝倉の姿がある。
「先生」
「恐竜たちの命に危険はなさそうだと判断したから、こっちの応援に来たぞ。で、牧草以外にそんなにもあったのか」
朝倉は地面に降り立つと、こいつは沢山採れたなと、一年生の抱える草を眺める。そして、それぞれが抱える山の中から、何本か引っこ抜いていく。
「これとこれ、それにこれが怪しいかな。この三つ、かなりの数が生えていたんじゃないの?」
そして三種類の草を五人に示す。
「はい。いっぱいありました」
俺が答えると、先輩の雅も同意してくれた。
「群生する草ですね」
「そう。あれだけ身体の大きな動物が集団で食中毒を起こすとなると、それなりの数があったはずだ。そして食べ尽くしてはいないだろうと判断すると、成長が早くまた群生する植物に特定できる」
「おおっ」
朝倉の説明に、初めて教授らしいと実感した俺だ。朝倉は基本的に授業を受け持っておらず、研究室に籠もっているから尚更だ。意外にも学科長の塩崎は授業を受け持っている。
「さすがは魔法薬学会の至宝。すぐに判別されるなんて」
雅はキラキラとした目で朝倉を見ていた。それは佳希も同じで、うんうんと頷いている。
「えっ、朝倉先生って、超凄い先生なの?」
俺は失礼にも本人がそこにいるのに訊ねてしまう。
「凄いんだよ。ここ十年の研究成果は総て朝倉先生のものと言っても過言じゃないんだから」
雅はそう言って俺を睨むが、残念ながら魔法薬学素人である。偉人もへっぽこも知らない。
「そんな話はどうでもいい。まずこの三種類の成分の特定だな。須藤先生と合流して実験するぞ」
朝倉はやる気なくそう言うと、自分だけ先に箒で帰って行ったのだった。
実験実技Ⅰの授業をしていた教室に戻ると、まず一年生たちは怪しい草たちを刻むように命じられた。
「半分はみじん切り、もう半分はすり潰すまでやってね」
須藤に指示されるまま、俺たちは慣れない包丁で草を刻み、ごりごりとすり鉢で草をすり潰す。
「みじん切りにしたやつは顕微鏡にセット。すり潰したやつは試験管に入れて。試薬を入れて反応を見るよ」
「まさに実験だ」
この間のビーカーに入った薬を魔法で変換するのとは違い、百五十年前もやっていた手法に俺は興奮してしまう。
「なんか不思議な気分になるな」
これは旅人も同じようで、うきうきと試験管に薬草の汁を入れていく。
「平岡は遠心分離機を使って、これを分離して」
「はい」
先輩の雅はより高度な実験を命じられている。それを見ていると、いつか俺たちもああやって任されることがあるのかなと、ちょっとドキドキしてしまう。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

シェイドシフト〜滅びかけた世界で暗躍する〜
フライハイト
ファンタジー
ある日地球に《神裁の日》が訪れる。
日本の政府が運営する研究所ではとある物質の研究がなされていた。
だがある日その物質はとある理由で暴走し地球を飲み込んでしまう。
何故、暴走したのか?その裏には《究明機関》という物質を悪用しようとする組織の企みがあったからだった。
神裁の日、組織の連中は研究所から研究データを盗もうとするがミスを犯してしまった。
物質に飲み込まれた地球は急な環境変化で滅びの一途を辿ったと思われたが、
人類、そして他の生物たちは適応し逆にその物質を利用して生活をするようになった。
だが、その裏ではまだ《究明機関》は存在し闇で動いている。
そんな中、その研究所で研究者をやっていた主人公は神判の日に死んだと思われたが生と死の狭間で神近しい存在《真理》に引き止められ《究明機関》を壊滅させるため神裁の日から千年経過した地球に転生し闇から《究明機関》を壊滅させるため戦う。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です
カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」
数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。
ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。
「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」
「あ、そういうのいいんで」
「えっ!?」
異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ――
――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる