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第3話 憧れは国家魔法師
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こうして無事に教科書の配布も終えると
「いやあ、入学式なんて久々で、何を話していいか解らないなあ」
と、塩崎が再び不安になることを言ってくれる。
「いつも一人か二人ですからね。四人は珍しい」
しかもそれを須藤は否定せずに、四人いるなんて奇跡なんて言い出すものだからさらに不安だ。
「どんだけ人気ないんだよ」
「なあ」
俺の呟きに、旅人もびっくりだよと引いていた。
「まあ、ここの利点は脱落しないってことだからな。あまり初めから多くの学生が入って来られても困る」
しかし、朝倉の言葉で、俺たちはどういうことと首を傾げた。
「そんなことも知らないのか?」
俺たちの反応に、信じられないと、ここが第一志望の佳希が非難の声を上げる。俺はそう言われても、魔法科にしか興味なかったからさと、口の中でもごもごと言い訳を呟いてしまう。
そう、みんながみんな、第一志望に魔法科と書いてしまうように、魔法使いの代名詞たる魔法科に入ってそこを卒業し、国家魔法師という身分を貰うことが、この世界では成功者の証だ。それ以外というのはぼんやりとしたイメージでやり過ごされている。特に一回目の受験である十五才なんて、そんなものだ。
「まあまあ。朝倉先生、説明してあげてください」
今にもケンカしそうな新入生に、塩崎は困り顔で朝倉にそう頼む。朝倉は面倒臭そうな顔をしたが
「魔法薬学研究科は、その名前が示す通り、薬学を研究するところだ。つまり、昔でいうところの科学者を養成することを目的としている。国家資格が絡むことも、また適性が問題になることも少ないため、基本的に途中選抜というものがない。つまり、論文を書いて卒業認定を受けるまで、ちゃんと面倒をみる」
と簡潔に説明した。
「えっ、それって他の学科だと中退させられるってこと?」
俺がびっくりして質問すると、朝倉はそうだと頷いた。
「だから魔法学院では年齢制限の上限がないんだ。魔法科を脱落した後、他の学科に入学し直すのもよし、もう一度修行し直して魔法科を受けるのもいいというわけだな。とはいえ、国家魔法師になれるのは三十才までと、ここには年齢制限があるから、魔法科は実質二十五才までしか受験できない」
「へえ」
そういう説明を、多分、義務教育の中学校でされたと思うのだが、いかんせん、俺はホームルームをことごとく寝ていた。まさに初耳づくしだ。
「お前らも研究者が向いていないと思えば、魔法科に再チャレンジしていいぞ。まあ、そんな気にはならないだろうけどな」
そんな俺に向けて、朝倉はなぜか自信満々にそう断言してくれるのだった。
入学式は何だかよく解らないまま終わり、俺たちは配られた教科書をそれぞれのロッカーにぶち込み、今日のところはお開きとなった。授業は明日からみっちりあるということで、もう帰ってもいいのだそうだ。
「そういうところは、中学までとは違うよな」
帰っていいと言われても、そこらをぶらぶらしたくなるのが学生だ。俺たち新入生四人は、キャンパスの中を歩きながらあれこれと話し合う。
「高校に進む奴とかびっくりだよね。俺、一刻も早く魔法を使いたいから、すぐに魔法学院を選んだけどさ」
俺がそう言うと
「ああ、解る。俺も普通の勉強って無理だったな。それに高校って、魔法が弱い奴が行くってイメージが強すぎるし」
と旅人も同意する。
そう、隕石によって大きく変わってしまった世界だが、高校は未だに存在していた。魔法学院の試験に魔法が一定以上使えることとあるように、魔力には個人差があり、魔法学院の基準に全く到達しない人たちもいる。そういう人たちは素直に高校生をやっているわけだ。
そうやって高校生をやった人たちは大体、官僚養成が目的の大学に入り、そのまま公務員になることが多いのだとか。何とも夢のない将来だ。魔法がなかった世界ではそういうルートを進むのが立派な大人だったというから恐れ入る。
「私は高校も魅力的だったけどなあ。でも、魔力がそこそこあるってバレちゃってたから、高校に行きますって言えなかったんだよねえ」
しかし、胡桃は高校に行きたかったなと少し拗ねた顔をしていた。これはこれで意外だ。
「そうなのか?」
「うん。勉強、好きだもん」
「へえ」
凄いね。俺は素直にそう思う。しかし、魔法薬学研究科はまさにお勉強のようなので、胡桃は向いているのだろう。裏を返せば俺には向いていない。
「ヤバいなあ」
「まあまあ。先のことは解らないって。それに」
旅人はそこでくいっとキャンパスの奥を指差す。何だと思っていたら、二階建ての家くらいある牛に引きずられる学生がいた。首に鎖を掛けてそれを引っ張っているのだが、何の役にも立っていない。
「あれよりはマシだろ」
「魔法動物研究科か」
あれってもう牛って呼べないよなと、俺は呆れてしまう。学生はずるずると引きずられ、全く制止を掛けられないようだ。
「体力がいるというが、あれは悲惨だな」
変人の佳希まで同情した。大変すぎるぞ、魔法動物研究科。
「うちも勉強メインだけど、医学も実験ばかりで大変だっていうよね」
胡桃は二階建て相当の牛は見なかったことにして話題を切り替えた。
「ああ。それで魔法工学は実習が多いっていうもんな。どこも似たり寄ったり大変なんだよ。魔法科だけが特殊で」
そして旅人も、何事もなかったかのように、そうまとめてくれるのだった。
「いやあ、入学式なんて久々で、何を話していいか解らないなあ」
と、塩崎が再び不安になることを言ってくれる。
「いつも一人か二人ですからね。四人は珍しい」
しかもそれを須藤は否定せずに、四人いるなんて奇跡なんて言い出すものだからさらに不安だ。
「どんだけ人気ないんだよ」
「なあ」
俺の呟きに、旅人もびっくりだよと引いていた。
「まあ、ここの利点は脱落しないってことだからな。あまり初めから多くの学生が入って来られても困る」
しかし、朝倉の言葉で、俺たちはどういうことと首を傾げた。
「そんなことも知らないのか?」
俺たちの反応に、信じられないと、ここが第一志望の佳希が非難の声を上げる。俺はそう言われても、魔法科にしか興味なかったからさと、口の中でもごもごと言い訳を呟いてしまう。
そう、みんながみんな、第一志望に魔法科と書いてしまうように、魔法使いの代名詞たる魔法科に入ってそこを卒業し、国家魔法師という身分を貰うことが、この世界では成功者の証だ。それ以外というのはぼんやりとしたイメージでやり過ごされている。特に一回目の受験である十五才なんて、そんなものだ。
「まあまあ。朝倉先生、説明してあげてください」
今にもケンカしそうな新入生に、塩崎は困り顔で朝倉にそう頼む。朝倉は面倒臭そうな顔をしたが
「魔法薬学研究科は、その名前が示す通り、薬学を研究するところだ。つまり、昔でいうところの科学者を養成することを目的としている。国家資格が絡むことも、また適性が問題になることも少ないため、基本的に途中選抜というものがない。つまり、論文を書いて卒業認定を受けるまで、ちゃんと面倒をみる」
と簡潔に説明した。
「えっ、それって他の学科だと中退させられるってこと?」
俺がびっくりして質問すると、朝倉はそうだと頷いた。
「だから魔法学院では年齢制限の上限がないんだ。魔法科を脱落した後、他の学科に入学し直すのもよし、もう一度修行し直して魔法科を受けるのもいいというわけだな。とはいえ、国家魔法師になれるのは三十才までと、ここには年齢制限があるから、魔法科は実質二十五才までしか受験できない」
「へえ」
そういう説明を、多分、義務教育の中学校でされたと思うのだが、いかんせん、俺はホームルームをことごとく寝ていた。まさに初耳づくしだ。
「お前らも研究者が向いていないと思えば、魔法科に再チャレンジしていいぞ。まあ、そんな気にはならないだろうけどな」
そんな俺に向けて、朝倉はなぜか自信満々にそう断言してくれるのだった。
入学式は何だかよく解らないまま終わり、俺たちは配られた教科書をそれぞれのロッカーにぶち込み、今日のところはお開きとなった。授業は明日からみっちりあるということで、もう帰ってもいいのだそうだ。
「そういうところは、中学までとは違うよな」
帰っていいと言われても、そこらをぶらぶらしたくなるのが学生だ。俺たち新入生四人は、キャンパスの中を歩きながらあれこれと話し合う。
「高校に進む奴とかびっくりだよね。俺、一刻も早く魔法を使いたいから、すぐに魔法学院を選んだけどさ」
俺がそう言うと
「ああ、解る。俺も普通の勉強って無理だったな。それに高校って、魔法が弱い奴が行くってイメージが強すぎるし」
と旅人も同意する。
そう、隕石によって大きく変わってしまった世界だが、高校は未だに存在していた。魔法学院の試験に魔法が一定以上使えることとあるように、魔力には個人差があり、魔法学院の基準に全く到達しない人たちもいる。そういう人たちは素直に高校生をやっているわけだ。
そうやって高校生をやった人たちは大体、官僚養成が目的の大学に入り、そのまま公務員になることが多いのだとか。何とも夢のない将来だ。魔法がなかった世界ではそういうルートを進むのが立派な大人だったというから恐れ入る。
「私は高校も魅力的だったけどなあ。でも、魔力がそこそこあるってバレちゃってたから、高校に行きますって言えなかったんだよねえ」
しかし、胡桃は高校に行きたかったなと少し拗ねた顔をしていた。これはこれで意外だ。
「そうなのか?」
「うん。勉強、好きだもん」
「へえ」
凄いね。俺は素直にそう思う。しかし、魔法薬学研究科はまさにお勉強のようなので、胡桃は向いているのだろう。裏を返せば俺には向いていない。
「ヤバいなあ」
「まあまあ。先のことは解らないって。それに」
旅人はそこでくいっとキャンパスの奥を指差す。何だと思っていたら、二階建ての家くらいある牛に引きずられる学生がいた。首に鎖を掛けてそれを引っ張っているのだが、何の役にも立っていない。
「あれよりはマシだろ」
「魔法動物研究科か」
あれってもう牛って呼べないよなと、俺は呆れてしまう。学生はずるずると引きずられ、全く制止を掛けられないようだ。
「体力がいるというが、あれは悲惨だな」
変人の佳希まで同情した。大変すぎるぞ、魔法動物研究科。
「うちも勉強メインだけど、医学も実験ばかりで大変だっていうよね」
胡桃は二階建て相当の牛は見なかったことにして話題を切り替えた。
「ああ。それで魔法工学は実習が多いっていうもんな。どこも似たり寄ったり大変なんだよ。魔法科だけが特殊で」
そして旅人も、何事もなかったかのように、そうまとめてくれるのだった。
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