上 下
5 / 53

第5話 試してください

しおりを挟む
「よ、よろしくお願いします。予約した宮脇です」
 琴実はもうすっかり亮翔のイケメンっぷりにやられていて、顔を赤らめながら頭を下げた。
 その姿をがっくんが見たらショックを受けると思うよ。そのくらい解りやすい態度だ。
「宮脇さんですね。そして、お連れの中森さん。どうぞこちらに。先ずは一服どうぞ」
 亮翔は座布団を勧め、二人はそこに正座することになる。しかし、慣れていないから、すぐにもぞもぞと動いてしまった。
「ああ。どうぞ足は崩してください。緊張したままでは話したいことも話せませんから」
「は、はい」
 二人はお言葉に甘えて、足を崩して楽な姿勢になった。とはいえ、パンツスタイルの琴実は足を動かしやすいが、千鶴はスカートだから難しい。結局はどこか堅苦しいままだ。
「どうぞ。粗茶ですが。お茶請けもありますよ」
「ありがとうございます」
「いえいえ。このお代が三百円に含まれていますから」
「あっ、そうか」
「三百円?」
 千鶴が首を傾げていると、相談料として三百円をお納めくださいと書かれていたのだという。琴実は無理矢理誘ったから千鶴の分の三百円も出すよと男前だった。
「ああ、そうなんだ。まあ、そうだよね」
 無料でここまでしてくれるわけないかと千鶴は納得する。
 しかも三百円って良心的な値段だ。それでお茶とお菓子までついて来るならば、お得感もある。
 お菓子は四国のお菓子の代名詞、一六タルトだった。頬張ると柚子の香りが口に広がり美味しい。お茶もちゃんとお抹茶でいい香りのするものだった。
「さて、宮脇さんのご相談をお伺いしましょうか」
 二人がお菓子とお茶でほっとしたのを見計らい、亮翔が二人の前に座った。手には数珠と小さな扇子があり、本格的な感じがする。
 にっこりと微笑まれると、琴実はほうっと息を吐き出した。そして最近彼氏の様子がおかしいと説明する。
「ふうむ。彼女である琴実さんの好みとは全く違う小物や服をよく見ておられると。しかし、他にお付き合いしている女性の影はなさそうだというわけですね」
「はい」
 女子高生の恋愛相談なんてバカバカしいと思われるかと考えていたが、亮翔は真剣に頷きながら聞いてくれる。それに琴実も安心したようで、何故でしょうと困り顔を浮かべた。
「ふうむ。因みにその高梨君にお姉さんか妹さんはいらっしゃいますか」
「いいえ。一人っ子です。だから、身内にプレゼントするにしても、お母さんくらいだと思うんです」
「なるほど。そして、ちりめんの手鏡は高梨君の部屋にあったと」
「はい」
 琴実が頷くと、亮翔はどうしたものかと考えるように顎を撫でた。じゃらりと手に持っていた数珠が音を立てる。しかしそれもすぐで、閃いたという顔をした。
「一つ、試していただけますか。ただし、高梨君がどんな反応をしても、いつも通りに受け入れてあげる。それが条件ですけど」
「えっ」
 悪戯を思いついたかのような笑顔で亮翔がそう言うので、千鶴は大丈夫かと顔を顰める。すると亮翔がこちらを見た。
「ああ。彼女にそのままの姿を見せるとは限らないですね。中森さん、あなたも高梨君を知っていますよね」
「は、はい」
 琴実にやらせようとしていたことを、どうやら千鶴にやらせるつもりらしい。千鶴は最大限に警戒しつつも頷いた。
 この坊主は二面性がある。危険なことだったら自分が代わりにやるのはいいが、琴実のこともがっくんのことも守らなきゃいけない。
「いい目をされていますね。そんなあなたなら大丈夫でしょう」
 しかし、そんな警戒をどう解釈したのか、亮翔はそんなことを言う。それに合わせて琴実も
「お願い、協力して」
 と頼んできたから、ますます何を言われても断れなくなってしまった。これは腹を括るしかないらしい。
「解りました。何をすればいいんですか?」
 千鶴はぎっと亮翔に挑むかのように問い掛けていた。



「どうして解ったんですか?」
 数日後、亮翔からの依頼を実行した千鶴は、琴実とがっくんがやって来る前に亮翔に問い質していた。
 今日ここに三人で集まって亮翔に報告する予定だったが、どうにも納得できない。というわけで、ご近所特権で先に乗り込んだのだ。丁度よく、亮翔は作務衣姿で箒を片手に境内の掃除をしていたので、千鶴は突進してしまった。
「どうしてって、高梨君の行動はヒントの塊だったじゃないですか」
 しかし、問い詰められた亮翔はしれっとそんなことを言う。
 いやいや、全く解らないから琴実は二人分のお代、六百円を払ってまで相談したのだ。どうしてさらっと解ったと言えるのか。
「で、その様子だと見立て通りだったわけですね。高梨君はあなたと楽しくお買い物をし、女子トークに花を咲かせたと」
「は、はい」
 千鶴は頷いた。
 そう、亮翔に頼まれたのは今度の休日にがっくんと買い物に行くこと。それも女子が好むお店を回ることだった。そしてカフェでお喋り。そのお誘いをする際に
「琴実から聞いて、あなたのこと解ってるから安心して。目一杯可愛いお店を巡ろうね」
 と言い添えることと言われていた。学校で琴実が遠くからこっそり見守る中、そうお誘いしたわけだが、がっくんは当然ながらびっくりしていた。しかし、すぐにとても嬉しそうに笑顔になると
「ありがとう。なんだ、やっぱり琴実、気づいてたんだ。ずっと言えなくて、困っていたんだよね」
 とはにかんだように言ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幻影のアリア

葉羽
ミステリー
天才高校生探偵の神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、とある古時計のある屋敷を訪れる。その屋敷では、不可解な事件が頻発しており、葉羽は事件の真相を解き明かすべく、推理を開始する。しかし、屋敷には奇妙な力が渦巻いており、葉羽は次第に現実と幻想の境目が曖昧になっていく。果たして、葉羽は事件の謎を解き明かし、屋敷から無事に脱出できるのか?

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

学園ミステリ~桐木純架

よなぷー
ミステリー
・絶世の美貌で探偵を自称する高校生、桐木純架。しかし彼は重度の奇行癖の持ち主だった! 相棒・朱雀楼路は彼に振り回されつつ毎日を過ごす。 そんな二人の前に立ち塞がる数々の謎。 血の涙を流す肖像画、何者かに折られるチョーク、喫茶店で奇怪な行動を示す老人……。 新感覚学園ミステリ風コメディ、ここに開幕。 『小説家になろう』でも公開されています――が、検索除外設定です。

少年の嵐!

かざぐるま
ミステリー
小6になった春に父を失った内気な少年、信夫(のぶお)の物語りです。イラスト小説の挿絵で物語を進めていきます。

友よ、お前は何故死んだのか?

河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」 幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。 だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。 それは洋壱の死の報せであった。 朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。 悲しみの最中、朝倉から提案をされる。 ──それは、捜査協力の要請。 ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。 ──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?

時雨荘

葉羽
ミステリー
時雨荘という静かな山間の別荘で、著名な作家・鳴海陽介が刺殺される事件が発生する。高校生の天才探偵、葉羽は幼馴染の彩由美と共に事件の謎を解明するために動き出す。警察の捜査官である白石涼と協力し、葉羽は容疑者として、鳴海の部下桐生蓮、元恋人水無月花音、ビジネスパートナー九条蒼士の三人に注目する。 調査を進める中で、葉羽はそれぞれの容疑者が抱える嫉妬や未練、過去の関係が事件にどのように影響しているのかを探る。特に、鳴海が残した暗号が事件の鍵になる可能性があることに気づいた葉羽は、容疑者たちの言動や行動を鋭く観察し、彼らの心の奥に隠された感情を読み解く。 やがて、葉羽は九条が鳴海を守るつもりで殺害したことを突き止める。嫉妬心と恐怖が交錯し、事件を引き起こしたのだった。九条は告白し、鳴海の死の背後にある複雑な人間関係と感情の絡まりを明らかにする。 事件が解決した後、葉羽はそれぞれの登場人物が抱える痛みや後悔を受け止めながら、自らの探偵としての成長を誓う。鳴海の思いを胸に、彼は新たな旅立ちを迎えるのだった。

人形の家

あーたん
ミステリー
田舎に引っ越してきた ちょっとやんちゃな中学3年生の渚。 呪いがあると噂される人形の家があるその地域 様子のおかしい村人 恐怖に巻き込まれる渚のお話

【毎日20時更新】アンメリー・オデッセイ

ユーレカ書房
ミステリー
からくり職人のドルトン氏が、何者かに殺害された。ドルトン氏の弟子のエドワードは、親方が生前大切にしていた本棚からとある本を見つける。表紙を宝石で飾り立てて中は手書きという、なにやらいわくありげなその本には、著名な作家アンソニー・ティリパットがドルトン氏とエドワードの父に宛てた中書きが記されていた。 【時と歯車の誠実な友、ウィリアム・ドルトンとアルフレッド・コーディに。 A・T】 なぜこんな本が店に置いてあったのか? 不思議に思うエドワードだったが、彼はすでにおかしな本とふたつの時計台を巡る危険な陰謀と冒険に巻き込まれていた……。 【登場人物】 エドワード・コーディ・・・・からくり職人見習い。十五歳。両親はすでに亡く、親方のドルトン氏とともに暮らしていた。ドルトン氏の死と不思議な本との関わりを探るうちに、とある陰謀の渦中に巻き込まれて町を出ることに。 ドルトン氏・・・・・・・・・エドワードの親方。優れた職人だったが、職人組合の会合に出かけた帰りに何者かによって射殺されてしまう。 マードック船長・・・・・・・商船〈アンメリー号〉の船長。町から逃げ出したエドワードを船にかくまい、船員として雇う。 アーシア・リンドローブ・・・マードック船長の親戚の少女。古書店を開くという夢を持っており、謎の本を持て余していたエドワードを助ける。 アンソニー・ティリパット・・著名な作家。エドワードが見つけた『セオとブラン・ダムのおはなし』の作者。実は、地方領主を務めてきたレイクフィールド家の元当主。故人。 クレイハー氏・・・・・・・・ティリパット氏の甥。とある目的のため、『セオとブラン・ダムのおはなし』を探している。

処理中です...