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最終話 新たな一歩
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三日後。暁良があの雑居ビルの研究室を訪れると、綺麗に片付いて引越しした後だった。がらんと広がる空間に、この一週間が嘘だったかのように思えてしまう。しかし、一つだけ残されたクマのぬいぐるみが、ここに路人がいたことを物語っていた。
「こんなに広かったのかよ」
あの後、路人とは何も話さずに別れてしまった。それはもちろん、紀章ととある約束をしたからだ。路人も路人で、戻ることの苦しさがあるせいか何も語らなかった。ただ一言
「じゃあね」
それだけだった。
「まったく。格好つけても無駄だぜ」
どれだけ落ち込んでいるか。そんなのはすぐに解ってしまう。路人に無理してもらっても、こっちが納得できないだけだ。それが生きてきた世界が違うとの言葉で片付かないほど、もう今の路人を知ってしまった。
残されていたぬいぐるみを拾い、暁良は改めて覚悟を決めた。あのバカには俺みたいなバカが丁度いい。ちょっとした息抜きにしかならないかもしれないが、それでも必要なはずだ。
「大体さ。なんでこれを置いていくんだよ。滅茶苦茶会いたいんじゃん」
このクマのぬいぐるみは、暁良がいた間ずっと持っていたものだ。暁良が前のぬいぐるみを捨ててしまい、意地になって大きなヤツを買ってきた。実は研究室の奥底にまだまだクマのぬいぐるみは大量にあったというのにだ。
「待っていろよ。半年だ」
今は9月。紀章が急いで用意した特例の飛び級実施は12月だ。そして、順調にいけば再会は4月。
「問題は俺の脳みそ。はあ、工学部かあ」
ぬいぐるみを抱え、もう一度研究室を見渡す。こことまったく同じとはいかなくても――
「お前はのほほんとしているのが一番なんだよ」
これを路人に届けるぞ。それを目標に加え、暁良は新たな人生の第一歩を踏み出した。
大学に戻った路人は、それまでの遊んでいた間が嘘のようにまた無表情で無気力な空気を纏っていた。しかしちゃんと仕事するとの約束通り、嫌がっていた科学技術省の立ち上げへの話し合いにも参加し、予算編成時には意見を出すとの積極性をみせていた。
「物凄い差だな」
「仕方ないわよ」
そんな路人に従って仕事と研究をサポートする翔摩と瑛真はそうこっそり囁き合うしかない。果たして暁良は大丈夫なのか。路人には絶対に言うなと言われているのは、たぶん不安もあるからだろうと思っている。
「はあ」
路人は一人、大学の廊下を進みながら思わず溜め息を吐いてしまう。息が詰まる。何をしていても無味乾燥だ。解っていて戻ったというのに、それが常に苦しくなる。やはりもう少し気持ちを落ち着けてからがよかったなと思うも、暁良に無理強いしようとする紀章や穂波がいてはどうしようもない。
「おや、一色先生。戻られたんですね」
「君こそ」
そんな路人に嫌味な声で話しかけてきたのは佑弥だ。その佑弥にお互い様だろと路人は睨んでしまう。
佑弥はあの後、紀章から説教を食らっただけでなく反省文の提出、さらに二度と科学者狩りをしないとの誓約書まで書かされていたことを知っている。そうまでして放逐しないのは、やはり佑弥も必要な人材だからだ。この大学に入れるだけの能力を持つ、しかも飛び級を利用しているとなると、そう簡単に辞めろと言えないのは路人がよく知るところだ。
「お互い、人生を早く決め過ぎたってことですね」
佑弥は面白くないと、今までどおりになってしまった路人を揶揄うのを諦めて去って行った。その手にはノートパソコンがあった。また新たな研究を始めたということのようだ。
「人生を早く決め過ぎた、か」
自分で決めたんじゃないけどねと、路人は思わず愚痴が出そうになった。すると今度は礼詞の姿が目に入る。
「――」
「――早くあの資料を出してくれ」
黙り込む路人に、礼詞もそれだけを言って去って行く。二人の関係は、あの屋上での出来事以来よりぎくしゃくしてしまっていた。礼詞は元の路人に戻ってほっとしている反面、あれほど生き生きとした姿を見てしまうと何が正しいのか解らなくなると困惑している。
一方、路人も礼詞が総ての発端だと思うので口を利きたくなかった。暁良に目を付けたのは、やはり礼詞だ。穂波がやったのは科学者狩りの犯人である佑弥を捕まえることだけ。それで科学者とは何か。路人が自主的に考えるだろうと思ったらしい。しかしそれでも路人が戻らず、結果として礼詞は仲良くなった暁良を人質にすることを決めたのだ。その後、紀章が絡んできたことで話がよりややこしくなってしまったわけで、どうにも頭が混乱する。
「はあ」
またしても溜め息が漏れていた。あの研究室にいた時、こんなにも溜め息を吐いただろうかと、またあそこに戻りたくなる自分がいて困る。
色々な発端となった科学者狩りは、佑弥が止めたからといって納まるものではなかった。まだ世の中の矛盾は解決していない。それに将来への不安も払拭していない。それが、科学者狩りの流行を支えている。それは仕方のないことだ。
「ここに戻ったのは、その矛盾を解決するためだ。うん」
そうすれば暁良ものびのびと生きられるよねと、路人は自分に言い聞かせる。これは礼詞と会う前に、戻るならば何をすべきかと悩んでいて出した答えでもある。
「はあ」
しかし、口からは溜め息だけが漏れるのだった。
そして半年後。新年度がスタートして数日が経った日――
路人がいつものように研究室でパソコンを操作していると、研究室のドアをノックする音がした。
「はい。今、手が離せないんだ。勝手に入って」
路人はどうせ新年度の仕事を持ってきた誰かだろうと思ってそう答えた。
「失礼しまーす」
しかし、ドアを開けて入って来た人物はそんなふざけた声を出す。しかも声に聞き覚えがあった。路人が驚いて振り返ると、制服ではなく私服姿の暁良がいる。
「――えっ?」
「はは。驚いた。成功だな」
ものの見事に固まる路人に、暁良は大笑いだ。それにつられ、必死にこのことを黙っていた翔摩と瑛真も笑い始める。
「えっ?ええっ?」
俺だけ知らないのと、路人は大混乱だ。そこには今までの無表情が嘘のように、あの時と同じのほほんとした空気が戻る。本当に解りやすい。
「無事に合格できたわけだ。それとも単に見学か?」
翔摩がそう訊くと、暁良は舐めるなよと学生証を取り出す。それは確かにここ、国立最先端理工大学の学生証だ。しかも工学部ロボット工学科とある。それは今、路人が教授を務める学科であった。
「えっ。だって暁良」
その学生証を取り上げて見た路人は、自分が戻ったからそれで飛び級の話は終わったのではと混乱が増す。
「あんなお前を見て放っておけるほど、俺は非情じゃないの。まったく、この半年、というか四か月の地獄を思うと何度か後悔したけどな。あの山名っておっさん、一切容赦しねえんだもん」
もう怖かったと、暁良は紀章のスパルタ授業を思い出して肩を竦める。
「そりゃあ、教育の鬼だからね。俺も子どもの頃、怖かったな」
ようやく暁良が傍にいるのだという実感が湧き、路人はそんな相槌を打った。すると、あれを知るとお前が嫌になった理由も解るよと暁良が返してくる。
「あそこみたいだ」
そんな軽い会話に、路人は自分の肩から力が抜けるのを感じだ。この半年、気を張り続けていたのだとようやく気付く。
「それに、ほら」
完全にのほほんモードに戻った路人に、暁良は廊下に置いておいたクマのぬいぐるみを持ち上げて路人に渡す。
「あっ」
「これ置いておいてさ。だってもくそもないだろ。後悔した時、役に立ったよ」
受け取った路人はそれはもう見たことがないくらいに笑顔だ。そんな路人に暁良は頭を掻きながら言う。負けそうになった時、このぬいぐるみを見て奮起していた。まあ、何度かムカついて殴ったりもしたが。
「――ここに来るって、決めてくれてありがとう」
頭を掻く暁良に、路人は素直に礼を述べていた。それに暁良は顔を赤くする。こんなストレートに感謝されるとは思ってもいなかったのだ。
「あっ!これよりでかいクマのぬいぐるみがある」
なんか違う話題と、研究室の中に目を向けるとバカでかいクマのぬいぐるみがあった。大人が抱き付いても持ち上げられないほどの大きなぬいぐるみに、暁良はまた買ったのかと呆れる。
「それは、お母さんから」
「あっ」
恥ずかしそうに言う路人に、そういえばあの時に贈るとの約束をしていたなと、あちらも約束を果たしたのかと暁良はほっとする。
「あの人にも色々と世話になったよ。特に優斗と哲彰が」
穂波は迷惑を掛けた詫びとして、二人の進路相談に乗ってくれたのだ。そのおかげか、優斗は今まで悩んでいた天文学への道を進むことに決め、哲彰はなぜか農業工学というものに興味を示して勉強に勤しんでいる。二人は普通に受験するので今年が勝負の年だ。
「へえ。二人も科学者の道を選んだんだ。狩ってたのに」
「そうだな。俺もここに入ったし」
奇妙なものだと、暁良は自分の選択を呆れた思いで振り返ってしまう。あれだけ嫌で、あれだけ嫌っていた科学者に、ただ路人と一緒にいたいからという理由だけでなろうとしている。数学も物理も大嫌いだったのに、紀章のスパルタのおかげでちゃんと理解できた。
「これからもよろしく」
路人がクマのぬいぐるみを抱えていない方の手を差し出してくる。
「もう片付けだけってわけにはいかないんだから、整理整頓は頑張ってくれよ」
暁良もその手を取り、にやっと笑っていた。
こうして、暁良は路人と出会ったせいで、科学者としての道を歩み始めることになったのだった。
「こんなに広かったのかよ」
あの後、路人とは何も話さずに別れてしまった。それはもちろん、紀章ととある約束をしたからだ。路人も路人で、戻ることの苦しさがあるせいか何も語らなかった。ただ一言
「じゃあね」
それだけだった。
「まったく。格好つけても無駄だぜ」
どれだけ落ち込んでいるか。そんなのはすぐに解ってしまう。路人に無理してもらっても、こっちが納得できないだけだ。それが生きてきた世界が違うとの言葉で片付かないほど、もう今の路人を知ってしまった。
残されていたぬいぐるみを拾い、暁良は改めて覚悟を決めた。あのバカには俺みたいなバカが丁度いい。ちょっとした息抜きにしかならないかもしれないが、それでも必要なはずだ。
「大体さ。なんでこれを置いていくんだよ。滅茶苦茶会いたいんじゃん」
このクマのぬいぐるみは、暁良がいた間ずっと持っていたものだ。暁良が前のぬいぐるみを捨ててしまい、意地になって大きなヤツを買ってきた。実は研究室の奥底にまだまだクマのぬいぐるみは大量にあったというのにだ。
「待っていろよ。半年だ」
今は9月。紀章が急いで用意した特例の飛び級実施は12月だ。そして、順調にいけば再会は4月。
「問題は俺の脳みそ。はあ、工学部かあ」
ぬいぐるみを抱え、もう一度研究室を見渡す。こことまったく同じとはいかなくても――
「お前はのほほんとしているのが一番なんだよ」
これを路人に届けるぞ。それを目標に加え、暁良は新たな人生の第一歩を踏み出した。
大学に戻った路人は、それまでの遊んでいた間が嘘のようにまた無表情で無気力な空気を纏っていた。しかしちゃんと仕事するとの約束通り、嫌がっていた科学技術省の立ち上げへの話し合いにも参加し、予算編成時には意見を出すとの積極性をみせていた。
「物凄い差だな」
「仕方ないわよ」
そんな路人に従って仕事と研究をサポートする翔摩と瑛真はそうこっそり囁き合うしかない。果たして暁良は大丈夫なのか。路人には絶対に言うなと言われているのは、たぶん不安もあるからだろうと思っている。
「はあ」
路人は一人、大学の廊下を進みながら思わず溜め息を吐いてしまう。息が詰まる。何をしていても無味乾燥だ。解っていて戻ったというのに、それが常に苦しくなる。やはりもう少し気持ちを落ち着けてからがよかったなと思うも、暁良に無理強いしようとする紀章や穂波がいてはどうしようもない。
「おや、一色先生。戻られたんですね」
「君こそ」
そんな路人に嫌味な声で話しかけてきたのは佑弥だ。その佑弥にお互い様だろと路人は睨んでしまう。
佑弥はあの後、紀章から説教を食らっただけでなく反省文の提出、さらに二度と科学者狩りをしないとの誓約書まで書かされていたことを知っている。そうまでして放逐しないのは、やはり佑弥も必要な人材だからだ。この大学に入れるだけの能力を持つ、しかも飛び級を利用しているとなると、そう簡単に辞めろと言えないのは路人がよく知るところだ。
「お互い、人生を早く決め過ぎたってことですね」
佑弥は面白くないと、今までどおりになってしまった路人を揶揄うのを諦めて去って行った。その手にはノートパソコンがあった。また新たな研究を始めたということのようだ。
「人生を早く決め過ぎた、か」
自分で決めたんじゃないけどねと、路人は思わず愚痴が出そうになった。すると今度は礼詞の姿が目に入る。
「――」
「――早くあの資料を出してくれ」
黙り込む路人に、礼詞もそれだけを言って去って行く。二人の関係は、あの屋上での出来事以来よりぎくしゃくしてしまっていた。礼詞は元の路人に戻ってほっとしている反面、あれほど生き生きとした姿を見てしまうと何が正しいのか解らなくなると困惑している。
一方、路人も礼詞が総ての発端だと思うので口を利きたくなかった。暁良に目を付けたのは、やはり礼詞だ。穂波がやったのは科学者狩りの犯人である佑弥を捕まえることだけ。それで科学者とは何か。路人が自主的に考えるだろうと思ったらしい。しかしそれでも路人が戻らず、結果として礼詞は仲良くなった暁良を人質にすることを決めたのだ。その後、紀章が絡んできたことで話がよりややこしくなってしまったわけで、どうにも頭が混乱する。
「はあ」
またしても溜め息が漏れていた。あの研究室にいた時、こんなにも溜め息を吐いただろうかと、またあそこに戻りたくなる自分がいて困る。
色々な発端となった科学者狩りは、佑弥が止めたからといって納まるものではなかった。まだ世の中の矛盾は解決していない。それに将来への不安も払拭していない。それが、科学者狩りの流行を支えている。それは仕方のないことだ。
「ここに戻ったのは、その矛盾を解決するためだ。うん」
そうすれば暁良ものびのびと生きられるよねと、路人は自分に言い聞かせる。これは礼詞と会う前に、戻るならば何をすべきかと悩んでいて出した答えでもある。
「はあ」
しかし、口からは溜め息だけが漏れるのだった。
そして半年後。新年度がスタートして数日が経った日――
路人がいつものように研究室でパソコンを操作していると、研究室のドアをノックする音がした。
「はい。今、手が離せないんだ。勝手に入って」
路人はどうせ新年度の仕事を持ってきた誰かだろうと思ってそう答えた。
「失礼しまーす」
しかし、ドアを開けて入って来た人物はそんなふざけた声を出す。しかも声に聞き覚えがあった。路人が驚いて振り返ると、制服ではなく私服姿の暁良がいる。
「――えっ?」
「はは。驚いた。成功だな」
ものの見事に固まる路人に、暁良は大笑いだ。それにつられ、必死にこのことを黙っていた翔摩と瑛真も笑い始める。
「えっ?ええっ?」
俺だけ知らないのと、路人は大混乱だ。そこには今までの無表情が嘘のように、あの時と同じのほほんとした空気が戻る。本当に解りやすい。
「無事に合格できたわけだ。それとも単に見学か?」
翔摩がそう訊くと、暁良は舐めるなよと学生証を取り出す。それは確かにここ、国立最先端理工大学の学生証だ。しかも工学部ロボット工学科とある。それは今、路人が教授を務める学科であった。
「えっ。だって暁良」
その学生証を取り上げて見た路人は、自分が戻ったからそれで飛び級の話は終わったのではと混乱が増す。
「あんなお前を見て放っておけるほど、俺は非情じゃないの。まったく、この半年、というか四か月の地獄を思うと何度か後悔したけどな。あの山名っておっさん、一切容赦しねえんだもん」
もう怖かったと、暁良は紀章のスパルタ授業を思い出して肩を竦める。
「そりゃあ、教育の鬼だからね。俺も子どもの頃、怖かったな」
ようやく暁良が傍にいるのだという実感が湧き、路人はそんな相槌を打った。すると、あれを知るとお前が嫌になった理由も解るよと暁良が返してくる。
「あそこみたいだ」
そんな軽い会話に、路人は自分の肩から力が抜けるのを感じだ。この半年、気を張り続けていたのだとようやく気付く。
「それに、ほら」
完全にのほほんモードに戻った路人に、暁良は廊下に置いておいたクマのぬいぐるみを持ち上げて路人に渡す。
「あっ」
「これ置いておいてさ。だってもくそもないだろ。後悔した時、役に立ったよ」
受け取った路人はそれはもう見たことがないくらいに笑顔だ。そんな路人に暁良は頭を掻きながら言う。負けそうになった時、このぬいぐるみを見て奮起していた。まあ、何度かムカついて殴ったりもしたが。
「――ここに来るって、決めてくれてありがとう」
頭を掻く暁良に、路人は素直に礼を述べていた。それに暁良は顔を赤くする。こんなストレートに感謝されるとは思ってもいなかったのだ。
「あっ!これよりでかいクマのぬいぐるみがある」
なんか違う話題と、研究室の中に目を向けるとバカでかいクマのぬいぐるみがあった。大人が抱き付いても持ち上げられないほどの大きなぬいぐるみに、暁良はまた買ったのかと呆れる。
「それは、お母さんから」
「あっ」
恥ずかしそうに言う路人に、そういえばあの時に贈るとの約束をしていたなと、あちらも約束を果たしたのかと暁良はほっとする。
「あの人にも色々と世話になったよ。特に優斗と哲彰が」
穂波は迷惑を掛けた詫びとして、二人の進路相談に乗ってくれたのだ。そのおかげか、優斗は今まで悩んでいた天文学への道を進むことに決め、哲彰はなぜか農業工学というものに興味を示して勉強に勤しんでいる。二人は普通に受験するので今年が勝負の年だ。
「へえ。二人も科学者の道を選んだんだ。狩ってたのに」
「そうだな。俺もここに入ったし」
奇妙なものだと、暁良は自分の選択を呆れた思いで振り返ってしまう。あれだけ嫌で、あれだけ嫌っていた科学者に、ただ路人と一緒にいたいからという理由だけでなろうとしている。数学も物理も大嫌いだったのに、紀章のスパルタのおかげでちゃんと理解できた。
「これからもよろしく」
路人がクマのぬいぐるみを抱えていない方の手を差し出してくる。
「もう片付けだけってわけにはいかないんだから、整理整頓は頑張ってくれよ」
暁良もその手を取り、にやっと笑っていた。
こうして、暁良は路人と出会ったせいで、科学者としての道を歩み始めることになったのだった。
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