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第10話 猫乱入!?
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KSRの事件から二日後。暁良は相変わらず路人の研究室でバイトを続けていた。
「はあ」
片付けても片付けても路人が散らかしてくれるので仕事は一向に進まない。そもそも、このバイトは路人のお守りのようなところがある。だからまあ、片付けさえしていればいいのだが――
「ううん。これじゃあダメか」
路人を見ると、机に向かって新たな科学者狩り用の罠を製作中だった。あの事件で犯人確保に使ってしまい、手元に罠がなくなってしまったせいである。それだけだったらまだいいのだが、同時にブロックで東京タワーを作っているから困ったものだ。また散らかる。
「はあ」
暁良はこの不毛なバイトに疲れを感じて溜め息を吐いていた。しかし、今ではもう辞めようとは思わない。それはどうしても路人の正体を知りたいからだ。それに、のほほんとして周囲の空気なんて読まない奴だというのに、寂しさを抱えていることを知ってしまった。
「うわっ」
路人について考えていたら、その路人が思い切りブロックの入った箱をひっくり返した。ああ、やっぱり散らかしたよ。と暁良は遠い目になる。しかも路人はブロックを拾うことなく罠作製に集中してしまった。
「おおい、暁良。路人さんのは後でいいからこっちを片付けてくれ」
研究室の真ん中でゴミ袋を持つ暁良に、奥のまだ片付いていないエリアから出てきた翔摩が肩を揉みながら声を掛けてきた。
「お前は自分で片付けろよ!」
なぜ研究室の総てを片付けなければならないんだと暁良は怒鳴ったが、翔摩が大欠伸をしながらソファに座ったのでゴミ袋を押し付けられなかった。それに何だか疲れている。
「何?仕事?」
ここの仕事って相談解決以外にあるのかと、暁良は気になって訊く。そもそもここは路人の趣味のためにあるようなものではないのか。
「俺も一応は科学者だからな。仕事は自然と舞い込むんだよ。はあ、あのKSRの後始末もあったし、疲れる一方だ」
翔摩は目を擦りながら答える。同い年くらいの翔摩について、そういえば何も知らないなと暁良はその事実に今気づいた。
「翔摩って何歳なの?」
色々と聞きたいことはあるが、まずはそこから訊いた。すると翔摩は言っていなかったっけと頭を掻く。
「路人についてしか言わなかっただろうが。科学者って、お前も飛び級で大学を出ているってことか?」
暁良はゴミ袋をその場に放置し、翔摩の前に座った。今日はこいつについて詳しく知ろうと勝手に決める。
「そうだ。大学は11歳の時に卒業している。すぐに博士号も取ったな。今は19だ」
「へ、へえ」
年上だったのかと、暁良はその見た目からは想像できないと翔摩を見ていた。しかもさりげなく天才だとアピールしてきたなと腹が立った。
「昨日からやっているのは人工知能に関わることってところだな。チャットボットってあるだろ?あの話しかけたら答えてくれるスマホの音声認識にも使われているヤツ。あれの開発についてだったんだよ」
仕事についてもさらっと答えてくれるが、どういうことをしているのか今一つ理解できない。が、悔しいしどうせ理解できないから突っ込んだ質問はしないでおいた。
「ふうん。それってここの経費とは別なの?」
たしか人件費が急に増えても困るとか言っていなかったか。そしてそのせいで、あのKSRの事件に巻き込まれたのだ。そういえばバイト代はどうなったのだろう。
「俺の生活費だからな。路人さんと一緒にいたいからここにいるけど、生活費に関して迷惑は掛けられない。自分で稼げる分は稼ぐよ」
そこは完全に別と翔摩は欠伸をしながら説明してくれる。そういう迷惑を掛けないという発想があるのかと、ますますここが解らなくなった。
「お前と路人の関係って何?」
ともに天才で、しかも世間一般には小学生の時にもう大学を出ている。そんな二人がどうして一緒にいるのか。そもそも路人は何者で、翔摩も何者なのか。謎ばかり増えて困る。この研究室同様、片付かないだけでなくカオスだ。
「関係って――友達かな?」
しばらく悩み、適切な言葉が思い浮かばなかったのか友達と表現された。それに暁良はどう訊いていいのか解らなくなる。だからこの質問は棚上げにすることとなった。
「あっそ。それでKSRはどうなったんだ?後始末があったって言ったよな?」
翔摩のことも気になるが、あの事件もどうなったのか解らない。路人が罠にかかった慎也を放置して帰ってしまったせいだ。暁良は路人を追う係となり、あの後街中を二時間も一緒に歩く羽目になった。路人が気分を変えたいと言ったせいである。
「あれは揉み消しだな。結局は会社の体面を優先させたってわけだ。三宅に関しても、不倫を言いふらされるわけにはいかないと、会社に抱え込んだままにするらしい。で、俺たちには多額の口止め料が舞い込んだよ。あとで口座に振り込んどいてやる」
バイト代が確保できてよかったなと、ずれた答えをくれる翔摩だ。たしかにバイト代は気になるが、それよりも――
「健壱は大丈夫かな」
同い年の健壱のことが心配だ。あの中で唯一、本当に美弥の死の真相を知りたいと願っていた。そしてその思いが路人を動かしたのだ。それなのに、総てを揉み消すという決定になってしまい、どう思っているのだろう。
「あの息子な。家を出るって言ってたぞ。どうせ進学を期に出るつもりだったらしい。もともと馴染んでいなかったんだ。家族だからって仲がいいとは限らないし」
翔摩はしっかり健壱について聞き出していた。それは路人が気にしていることもあるのだろう。しかし、またしても気になることが出てきた。
お前も家族と上手くいっていないのか?」
路人も母親と何かある感じだった。こいつもなのかと暁良は驚く。
「――いいだろ、どうでも」
ぷいっと横を向いて答えるものだから、翔摩もまた家族と上手くいっていないのだとすぐに解ってしまった。こいつらって本当に嘘は吐けないんだなと、素直すぎる反応に笑ってしまった。
「何だよ」
「別に。天才科学者の弱点ってヤツだな」
むすっとするので暁良はそう揶揄った。すると翔摩の顔がますますむすっとなる。こういう感情表現が解りやすくて面白い。暁良の理系のイメージは、何だか冷たくって感情の起伏が少ないというものだ。しかし路人も翔摩もまったく違う。
「どわっ」
そんな和やかな空気をぶち壊す声が研究室の中に響く。今度は何をやらかしたと暁良が見ると、何故か路人は机の上にいた。しかも下を覗き込んで嫌そうな顔をしている。今度は一体何が起こったのだろう。まったく、奇矯なふるまいはどうにかならないのか。
「どうしたんです?」
非常事態に気づいた翔摩も驚いてソファから立ち上がった。するとニャーという声がする。
「猫?」
暁良は路人が見ているものに気づいてソファから立ち上がるとそっと近づいた。すると路人の机の下に大きめの茶色い猫がいた。しかもちょっと不細工だ。
「俺、猫ダメ。というか動物無理」
路人は机の上に避難したままぷるぷる首を横に振る。意外すぎるのか、やっぱりかと思えるのか不明な弱点に、暁良は仕方ないなと猫を抱き抱えた。結構重い。
「どこから入り込んだんだ?」
翔摩が困ったなと研究室の中を見回すと、入り口に小さな女の子が立っていた。その子は路人の動きに驚いたようで、中に入るきっかけが見つからないという顔をしている。
「あ、君の猫なの?」
暁良もその子に気づき、猫を抱えて近づいた。すると女の子は嬉しそうな顔をしたかと思ったが、すぐに俯いてしまう。これは何かあるなと、猫を抱えたまま暁良は困惑した。
「ねえ」
「その子、ここで預かって」
暁良が顔を覗き込むと、女の子はそう言って走り去ってしまった。暁良は重たい猫のせいで咄嗟に追えない。
「えっ、ちょっと」
この子って、この猫を預かれってことか。いや、それは相談解決の仕事の範囲を超えるだろうと暁良は困る。
「ただいま。って、猫?」
そこに瑛真が帰って来て、暁良の腕の中の猫を撫でる。おかげで余計に追いかけられなかった。
「瑛真さん。今、女の子が」
「いたね。何、その子のなの?」
話は早いが追いかけるつもりはないらしい。机の上にいる路人を見て、大丈夫よと宥めることを先決してしまった。
「大丈夫じゃない。猫なんて預からないよ。絶対に嫌だ!」
もはや駄々っ子のような言い方で路人は猫を全力拒否する。
「えっと」
「また厄介事だな」
猫を抱えたまま困る暁良に、翔摩は呆れた調子で言うのだった。
「はあ」
片付けても片付けても路人が散らかしてくれるので仕事は一向に進まない。そもそも、このバイトは路人のお守りのようなところがある。だからまあ、片付けさえしていればいいのだが――
「ううん。これじゃあダメか」
路人を見ると、机に向かって新たな科学者狩り用の罠を製作中だった。あの事件で犯人確保に使ってしまい、手元に罠がなくなってしまったせいである。それだけだったらまだいいのだが、同時にブロックで東京タワーを作っているから困ったものだ。また散らかる。
「はあ」
暁良はこの不毛なバイトに疲れを感じて溜め息を吐いていた。しかし、今ではもう辞めようとは思わない。それはどうしても路人の正体を知りたいからだ。それに、のほほんとして周囲の空気なんて読まない奴だというのに、寂しさを抱えていることを知ってしまった。
「うわっ」
路人について考えていたら、その路人が思い切りブロックの入った箱をひっくり返した。ああ、やっぱり散らかしたよ。と暁良は遠い目になる。しかも路人はブロックを拾うことなく罠作製に集中してしまった。
「おおい、暁良。路人さんのは後でいいからこっちを片付けてくれ」
研究室の真ん中でゴミ袋を持つ暁良に、奥のまだ片付いていないエリアから出てきた翔摩が肩を揉みながら声を掛けてきた。
「お前は自分で片付けろよ!」
なぜ研究室の総てを片付けなければならないんだと暁良は怒鳴ったが、翔摩が大欠伸をしながらソファに座ったのでゴミ袋を押し付けられなかった。それに何だか疲れている。
「何?仕事?」
ここの仕事って相談解決以外にあるのかと、暁良は気になって訊く。そもそもここは路人の趣味のためにあるようなものではないのか。
「俺も一応は科学者だからな。仕事は自然と舞い込むんだよ。はあ、あのKSRの後始末もあったし、疲れる一方だ」
翔摩は目を擦りながら答える。同い年くらいの翔摩について、そういえば何も知らないなと暁良はその事実に今気づいた。
「翔摩って何歳なの?」
色々と聞きたいことはあるが、まずはそこから訊いた。すると翔摩は言っていなかったっけと頭を掻く。
「路人についてしか言わなかっただろうが。科学者って、お前も飛び級で大学を出ているってことか?」
暁良はゴミ袋をその場に放置し、翔摩の前に座った。今日はこいつについて詳しく知ろうと勝手に決める。
「そうだ。大学は11歳の時に卒業している。すぐに博士号も取ったな。今は19だ」
「へ、へえ」
年上だったのかと、暁良はその見た目からは想像できないと翔摩を見ていた。しかもさりげなく天才だとアピールしてきたなと腹が立った。
「昨日からやっているのは人工知能に関わることってところだな。チャットボットってあるだろ?あの話しかけたら答えてくれるスマホの音声認識にも使われているヤツ。あれの開発についてだったんだよ」
仕事についてもさらっと答えてくれるが、どういうことをしているのか今一つ理解できない。が、悔しいしどうせ理解できないから突っ込んだ質問はしないでおいた。
「ふうん。それってここの経費とは別なの?」
たしか人件費が急に増えても困るとか言っていなかったか。そしてそのせいで、あのKSRの事件に巻き込まれたのだ。そういえばバイト代はどうなったのだろう。
「俺の生活費だからな。路人さんと一緒にいたいからここにいるけど、生活費に関して迷惑は掛けられない。自分で稼げる分は稼ぐよ」
そこは完全に別と翔摩は欠伸をしながら説明してくれる。そういう迷惑を掛けないという発想があるのかと、ますますここが解らなくなった。
「お前と路人の関係って何?」
ともに天才で、しかも世間一般には小学生の時にもう大学を出ている。そんな二人がどうして一緒にいるのか。そもそも路人は何者で、翔摩も何者なのか。謎ばかり増えて困る。この研究室同様、片付かないだけでなくカオスだ。
「関係って――友達かな?」
しばらく悩み、適切な言葉が思い浮かばなかったのか友達と表現された。それに暁良はどう訊いていいのか解らなくなる。だからこの質問は棚上げにすることとなった。
「あっそ。それでKSRはどうなったんだ?後始末があったって言ったよな?」
翔摩のことも気になるが、あの事件もどうなったのか解らない。路人が罠にかかった慎也を放置して帰ってしまったせいだ。暁良は路人を追う係となり、あの後街中を二時間も一緒に歩く羽目になった。路人が気分を変えたいと言ったせいである。
「あれは揉み消しだな。結局は会社の体面を優先させたってわけだ。三宅に関しても、不倫を言いふらされるわけにはいかないと、会社に抱え込んだままにするらしい。で、俺たちには多額の口止め料が舞い込んだよ。あとで口座に振り込んどいてやる」
バイト代が確保できてよかったなと、ずれた答えをくれる翔摩だ。たしかにバイト代は気になるが、それよりも――
「健壱は大丈夫かな」
同い年の健壱のことが心配だ。あの中で唯一、本当に美弥の死の真相を知りたいと願っていた。そしてその思いが路人を動かしたのだ。それなのに、総てを揉み消すという決定になってしまい、どう思っているのだろう。
「あの息子な。家を出るって言ってたぞ。どうせ進学を期に出るつもりだったらしい。もともと馴染んでいなかったんだ。家族だからって仲がいいとは限らないし」
翔摩はしっかり健壱について聞き出していた。それは路人が気にしていることもあるのだろう。しかし、またしても気になることが出てきた。
お前も家族と上手くいっていないのか?」
路人も母親と何かある感じだった。こいつもなのかと暁良は驚く。
「――いいだろ、どうでも」
ぷいっと横を向いて答えるものだから、翔摩もまた家族と上手くいっていないのだとすぐに解ってしまった。こいつらって本当に嘘は吐けないんだなと、素直すぎる反応に笑ってしまった。
「何だよ」
「別に。天才科学者の弱点ってヤツだな」
むすっとするので暁良はそう揶揄った。すると翔摩の顔がますますむすっとなる。こういう感情表現が解りやすくて面白い。暁良の理系のイメージは、何だか冷たくって感情の起伏が少ないというものだ。しかし路人も翔摩もまったく違う。
「どわっ」
そんな和やかな空気をぶち壊す声が研究室の中に響く。今度は何をやらかしたと暁良が見ると、何故か路人は机の上にいた。しかも下を覗き込んで嫌そうな顔をしている。今度は一体何が起こったのだろう。まったく、奇矯なふるまいはどうにかならないのか。
「どうしたんです?」
非常事態に気づいた翔摩も驚いてソファから立ち上がった。するとニャーという声がする。
「猫?」
暁良は路人が見ているものに気づいてソファから立ち上がるとそっと近づいた。すると路人の机の下に大きめの茶色い猫がいた。しかもちょっと不細工だ。
「俺、猫ダメ。というか動物無理」
路人は机の上に避難したままぷるぷる首を横に振る。意外すぎるのか、やっぱりかと思えるのか不明な弱点に、暁良は仕方ないなと猫を抱き抱えた。結構重い。
「どこから入り込んだんだ?」
翔摩が困ったなと研究室の中を見回すと、入り口に小さな女の子が立っていた。その子は路人の動きに驚いたようで、中に入るきっかけが見つからないという顔をしている。
「あ、君の猫なの?」
暁良もその子に気づき、猫を抱えて近づいた。すると女の子は嬉しそうな顔をしたかと思ったが、すぐに俯いてしまう。これは何かあるなと、猫を抱えたまま暁良は困惑した。
「ねえ」
「その子、ここで預かって」
暁良が顔を覗き込むと、女の子はそう言って走り去ってしまった。暁良は重たい猫のせいで咄嗟に追えない。
「えっ、ちょっと」
この子って、この猫を預かれってことか。いや、それは相談解決の仕事の範囲を超えるだろうと暁良は困る。
「ただいま。って、猫?」
そこに瑛真が帰って来て、暁良の腕の中の猫を撫でる。おかげで余計に追いかけられなかった。
「瑛真さん。今、女の子が」
「いたね。何、その子のなの?」
話は早いが追いかけるつもりはないらしい。机の上にいる路人を見て、大丈夫よと宥めることを先決してしまった。
「大丈夫じゃない。猫なんて預からないよ。絶対に嫌だ!」
もはや駄々っ子のような言い方で路人は猫を全力拒否する。
「えっと」
「また厄介事だな」
猫を抱えたまま困る暁良に、翔摩は呆れた調子で言うのだった。
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