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第24話 陰陽師のライバルは遠藤
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「遠藤というのは俺のライバルさ。要するに同業者だね。悪質な男だ」
「ええっと、それは陰陽師としてのってことですか?」
「そう。同じ陰陽師なんだ。しかもあちらは善意なんて一切ない悪事専門の陰陽師でね。呪いやら疫病を流行らせるのやらに加担する、とんでもない男だよ。さらに言えば金に汚いところがある。呪いを頼んだ奴には大金を吹っかける、儲けるためならば手段を択ばない奴だよ」
「へ、へえ」
それってあなたのイメージにぴったりですけど、とは口が裂けても言えない感想だ。
しかも、ライバルがそういう怪しいことをしているのならば、陽明だってその手のことをやっているのではないか。陰陽師は呪いも掛けられると認めているようなものだ。危険な奴であることに変わりはないだろう。
「君、今、非常に失礼なことを考えていたね」
だが、考えていることが陽明にバレてしまったらしい。にやりと笑われる。
「い、いえ」
桂花は慌てて澄ました顔をしておいた。危ない危ない。この人に弱みを握られると何をさせられるか解らない。法明に迷惑を掛けることになるかもしれないのだ。気を付けないと。
「そりゃあ俺も陰陽師である以上、呪いを引き受けることはあるさ。必要悪というものは存在するからね。しかし、あくまで必要だと感じた場合のみ。そればかりやるわけじゃない。というより、それ以外の仕事の方が多いんだよ。地鎮祭って言葉くらいは聞いたことがあるだろ。ああいう仕事が主なものだね。そして、その主な仕事を複雑にしてくれるのが遠藤なのさ」
「へ、へえ」
咄嗟に否定するんじゃなかった。呪うこともあるんじゃん。
しかし、この人はその遠藤という陰陽師が掛けた呪いを解いているということか。しかもそれがメインになってしまうんだ。何だか意外な気がするが、そうでなければ法明が嫌々だろうと協力するはずないかとも思う。
「それじゃあ、今回も誰かが呪われたんですか」
「いや。さっきも言ったようにメインは地鎮、この地を鎮めることだ。そして呪いの根源となっているのはここらを治める水神の方でね。遠藤の奴、あろうことか水源を穢して龍神を怒らせたんだよ。まったく、どれだけ大変にすれば気が済むんだと、捕まえて怒鳴りたいところだよ。だが、そちらは大詰めだ。ラストは少しばかり薬師寺の力を借りたいんだが、それに関しては大きな問題はない。あらかたは片付いているんだ。それよりも、ダイレクトにその龍神の怒り狂った邪気を飲み込んでしまった人がいてね。そちらが本題だ」
「はあ」
龍神って、本当にいるのだろうか。まず桂花にはそちらが納得できない。しかも邪気をダイレクトに飲み込んだというのはどういうことだろう。
「ん? ひょっとして、その龍神が住む場所の水を飲んじゃったってことですか」
しかし、何故かあっさりと閃いてしまった。すると、陽明が見直したぞという顔で桂花に向けて笑った。
「おっ、鋭いね。ご明察だ。その人はここに長く住むご老人でね。未だに井戸水を使うことが多いらしい。だから、龍神の住む場所から直接流れてくる水を知らず知らずのうちに飲んでしまったんだ。まあ、京都では地下水を使うのは珍しくないし、美味しい水だってそこらにある。うっかり飲んでしまうのは仕方ないよね。ただ、今回は薬師寺を狙ったために、その水神の治める水というのが、ここら辺の生活用の水だったんだ。ある程度のお祓いを済ませていたことと、薬師寺には警告したから薬局にいる人たちが飲んだり触れたりすることはなかったものの」
「飲んでしまった人がいる、と」
では、以前にやって来た時の用事というのは、井戸の水を飲まないようにというものだったのか。この薬局には井戸はないものの、法明の家にはあるのだろうか。ううむ、まだまだ疑問は尽きないが、ともかく、陽明はその水を飲んでしまった人を助けたいらしい。
「それで、その人は」
「ここの患者でもある池内路代さんだ」
「ええっ」
あまりに意外な名前に、桂花は思わず仰け反ってしまっていた。
「ええっと、それは陰陽師としてのってことですか?」
「そう。同じ陰陽師なんだ。しかもあちらは善意なんて一切ない悪事専門の陰陽師でね。呪いやら疫病を流行らせるのやらに加担する、とんでもない男だよ。さらに言えば金に汚いところがある。呪いを頼んだ奴には大金を吹っかける、儲けるためならば手段を択ばない奴だよ」
「へ、へえ」
それってあなたのイメージにぴったりですけど、とは口が裂けても言えない感想だ。
しかも、ライバルがそういう怪しいことをしているのならば、陽明だってその手のことをやっているのではないか。陰陽師は呪いも掛けられると認めているようなものだ。危険な奴であることに変わりはないだろう。
「君、今、非常に失礼なことを考えていたね」
だが、考えていることが陽明にバレてしまったらしい。にやりと笑われる。
「い、いえ」
桂花は慌てて澄ました顔をしておいた。危ない危ない。この人に弱みを握られると何をさせられるか解らない。法明に迷惑を掛けることになるかもしれないのだ。気を付けないと。
「そりゃあ俺も陰陽師である以上、呪いを引き受けることはあるさ。必要悪というものは存在するからね。しかし、あくまで必要だと感じた場合のみ。そればかりやるわけじゃない。というより、それ以外の仕事の方が多いんだよ。地鎮祭って言葉くらいは聞いたことがあるだろ。ああいう仕事が主なものだね。そして、その主な仕事を複雑にしてくれるのが遠藤なのさ」
「へ、へえ」
咄嗟に否定するんじゃなかった。呪うこともあるんじゃん。
しかし、この人はその遠藤という陰陽師が掛けた呪いを解いているということか。しかもそれがメインになってしまうんだ。何だか意外な気がするが、そうでなければ法明が嫌々だろうと協力するはずないかとも思う。
「それじゃあ、今回も誰かが呪われたんですか」
「いや。さっきも言ったようにメインは地鎮、この地を鎮めることだ。そして呪いの根源となっているのはここらを治める水神の方でね。遠藤の奴、あろうことか水源を穢して龍神を怒らせたんだよ。まったく、どれだけ大変にすれば気が済むんだと、捕まえて怒鳴りたいところだよ。だが、そちらは大詰めだ。ラストは少しばかり薬師寺の力を借りたいんだが、それに関しては大きな問題はない。あらかたは片付いているんだ。それよりも、ダイレクトにその龍神の怒り狂った邪気を飲み込んでしまった人がいてね。そちらが本題だ」
「はあ」
龍神って、本当にいるのだろうか。まず桂花にはそちらが納得できない。しかも邪気をダイレクトに飲み込んだというのはどういうことだろう。
「ん? ひょっとして、その龍神が住む場所の水を飲んじゃったってことですか」
しかし、何故かあっさりと閃いてしまった。すると、陽明が見直したぞという顔で桂花に向けて笑った。
「おっ、鋭いね。ご明察だ。その人はここに長く住むご老人でね。未だに井戸水を使うことが多いらしい。だから、龍神の住む場所から直接流れてくる水を知らず知らずのうちに飲んでしまったんだ。まあ、京都では地下水を使うのは珍しくないし、美味しい水だってそこらにある。うっかり飲んでしまうのは仕方ないよね。ただ、今回は薬師寺を狙ったために、その水神の治める水というのが、ここら辺の生活用の水だったんだ。ある程度のお祓いを済ませていたことと、薬師寺には警告したから薬局にいる人たちが飲んだり触れたりすることはなかったものの」
「飲んでしまった人がいる、と」
では、以前にやって来た時の用事というのは、井戸の水を飲まないようにというものだったのか。この薬局には井戸はないものの、法明の家にはあるのだろうか。ううむ、まだまだ疑問は尽きないが、ともかく、陽明はその水を飲んでしまった人を助けたいらしい。
「それで、その人は」
「ここの患者でもある池内路代さんだ」
「ええっ」
あまりに意外な名前に、桂花は思わず仰け反ってしまっていた。
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