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第22話 怪しい
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「今度こそ厄介事か」
隠さないと判断した法明に対し、弓弦は無遠慮に問い掛ける。その素早さに思わず桂花は弓弦の足を踏んでいた。
「いてっ」
「もう少し間合いを考えなさいよ」
「うるせえなあ。間合いもくそもないだろ。厄介事が舞い込もうとしているんだぞ。緊急かつ早急に止めなきゃ駄目だろ」
「あの、お二人ともそんな心配するような案件ではありませんから、どうぞ落ち着いてください」
「本当ですか」
「本当か」
桂花と弓弦のケンカを止めようとした法明だが、その二人から同じタイミングで嘘を吐くなと睨まれる羽目になる。法明は困ったような顔をしたが、心配かけているのは自分かと溜め息を吐く。
「詳しくは後で篠原さんが来た時にお話ししますよ。ともかく、危険なことではありません」
「ふうん」
一先ず隠し事はしないという言質が取れたことに安心したのか、弓弦はそれ以上の追及はしなかった。そして、入って来た患者の処方箋を受け取るために、調剤室を出て行ってしまう。しかし、残された桂花は納得できず法明を見てしまう。すると法明も困った顔をしたままだった。
「あの、本当に大丈夫ですか。変なことを頼まれているようでしたら、ガツンと言わないと駄目ですよ。優しい態度を見せるとつけあがる人っているんですから。善意のつもりが悪事に手を貸しているってこともあるんですからね」
「え、ええ。それは大丈夫ですし、篠原さんはそんな人じゃないですよ。それよりその、緒方さん。篠原さんのお話はかなり突飛な内容も出てくるかと思いますが、驚かないでくださいね。緒方さんはここの一員ですし、僕としても隠し事はあまりしたくありませんから」
「は、はい」
隠し事はしたくない。そう言われただけでも、この幼馴染みだけでやっていた薬局の一員になれたようで嬉しい。
しかし、薬局で一体どんな突飛な話題を繰り広げようというのか。いや、そもそも篠原陽明自体が怪しいのだが、この点についても教えてくれるのだろうか。職業だって神主兼陰陽師というのも怪しいし、そんな人が薬剤師の法明を頼っているというのも怪しい。
まさか、合法ぎりぎりの薬でも調剤させようとしているのか。漢方薬には使い方を間違えれば毒になるものが数多くある。そういう点で利用されているのかもしれない。あくまで薬剤師が調合したとあれば、合法性は担保される。篠原はそれを狙っているのか。
「あの、本当に大丈夫ですからね」
どんどん険しい顔をする桂花に、法明は思わずそう念押しするのだった。
お昼時であることを気遣ってか、それとも今から怪しい依頼をするからか、陽明は和菓子を手土産に持ってやって来た。それは色とりどりのおはぎで、思わず四人は声を揃えて綺麗と感嘆を漏らしたほどだ。
「凄いだろ」
「ええ」
「なんか、意外ですね。おはぎなんて小豆ときなこと青のりがあればいいって感じなのかと思っていたのに」
「けっ、気障だな。格好つけたいだけだろ」
「篠原さんってインスタ映えとか気にするタイプですか」
そして感嘆の先に続いた法明、円、弓弦に桂花の感想が個性的で、陽明は思い切り苦笑している。そして、インスタはやっていないと、桂花の質問にだけ答えた。
「見た目が綺麗なものは大好きだけどね。わざわざ誰かにシェアしようとは思わないかな。SNSって面倒だし自分が満足できればそれでいいよ」
「へえ」
「何を格好つけてやがる。理由はただ一つ、陰陽師だもんな。不特定多数に見られるような写真なんて上げられないだろ。どんな呪いを仕掛けられるか解ったもんじゃない」
感心する桂花に向けて、嘘を吐かれているんだぞと念押ししてくる弓弦だ。本気で陽明のことが嫌いらしい。ついでに邪推した理由が恐ろしいんですけど。何、呪いって。
「まあまあ、人それぞれですよ。お茶を淹れますね」
ふとすると険悪な雰囲気になりそうな休憩室に、法明は今日のお茶を全員に振舞った。今日のお茶は僅かに苦みのある味わいで、甘いおはぎに合いそうな味だった。
隠さないと判断した法明に対し、弓弦は無遠慮に問い掛ける。その素早さに思わず桂花は弓弦の足を踏んでいた。
「いてっ」
「もう少し間合いを考えなさいよ」
「うるせえなあ。間合いもくそもないだろ。厄介事が舞い込もうとしているんだぞ。緊急かつ早急に止めなきゃ駄目だろ」
「あの、お二人ともそんな心配するような案件ではありませんから、どうぞ落ち着いてください」
「本当ですか」
「本当か」
桂花と弓弦のケンカを止めようとした法明だが、その二人から同じタイミングで嘘を吐くなと睨まれる羽目になる。法明は困ったような顔をしたが、心配かけているのは自分かと溜め息を吐く。
「詳しくは後で篠原さんが来た時にお話ししますよ。ともかく、危険なことではありません」
「ふうん」
一先ず隠し事はしないという言質が取れたことに安心したのか、弓弦はそれ以上の追及はしなかった。そして、入って来た患者の処方箋を受け取るために、調剤室を出て行ってしまう。しかし、残された桂花は納得できず法明を見てしまう。すると法明も困った顔をしたままだった。
「あの、本当に大丈夫ですか。変なことを頼まれているようでしたら、ガツンと言わないと駄目ですよ。優しい態度を見せるとつけあがる人っているんですから。善意のつもりが悪事に手を貸しているってこともあるんですからね」
「え、ええ。それは大丈夫ですし、篠原さんはそんな人じゃないですよ。それよりその、緒方さん。篠原さんのお話はかなり突飛な内容も出てくるかと思いますが、驚かないでくださいね。緒方さんはここの一員ですし、僕としても隠し事はあまりしたくありませんから」
「は、はい」
隠し事はしたくない。そう言われただけでも、この幼馴染みだけでやっていた薬局の一員になれたようで嬉しい。
しかし、薬局で一体どんな突飛な話題を繰り広げようというのか。いや、そもそも篠原陽明自体が怪しいのだが、この点についても教えてくれるのだろうか。職業だって神主兼陰陽師というのも怪しいし、そんな人が薬剤師の法明を頼っているというのも怪しい。
まさか、合法ぎりぎりの薬でも調剤させようとしているのか。漢方薬には使い方を間違えれば毒になるものが数多くある。そういう点で利用されているのかもしれない。あくまで薬剤師が調合したとあれば、合法性は担保される。篠原はそれを狙っているのか。
「あの、本当に大丈夫ですからね」
どんどん険しい顔をする桂花に、法明は思わずそう念押しするのだった。
お昼時であることを気遣ってか、それとも今から怪しい依頼をするからか、陽明は和菓子を手土産に持ってやって来た。それは色とりどりのおはぎで、思わず四人は声を揃えて綺麗と感嘆を漏らしたほどだ。
「凄いだろ」
「ええ」
「なんか、意外ですね。おはぎなんて小豆ときなこと青のりがあればいいって感じなのかと思っていたのに」
「けっ、気障だな。格好つけたいだけだろ」
「篠原さんってインスタ映えとか気にするタイプですか」
そして感嘆の先に続いた法明、円、弓弦に桂花の感想が個性的で、陽明は思い切り苦笑している。そして、インスタはやっていないと、桂花の質問にだけ答えた。
「見た目が綺麗なものは大好きだけどね。わざわざ誰かにシェアしようとは思わないかな。SNSって面倒だし自分が満足できればそれでいいよ」
「へえ」
「何を格好つけてやがる。理由はただ一つ、陰陽師だもんな。不特定多数に見られるような写真なんて上げられないだろ。どんな呪いを仕掛けられるか解ったもんじゃない」
感心する桂花に向けて、嘘を吐かれているんだぞと念押ししてくる弓弦だ。本気で陽明のことが嫌いらしい。ついでに邪推した理由が恐ろしいんですけど。何、呪いって。
「まあまあ、人それぞれですよ。お茶を淹れますね」
ふとすると険悪な雰囲気になりそうな休憩室に、法明は今日のお茶を全員に振舞った。今日のお茶は僅かに苦みのある味わいで、甘いおはぎに合いそうな味だった。
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