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第17話 両親とは対立しやすい?
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「このお茶と、ですか」
「ええ。これって作っている薬師寺さんの性格が反映されていますよね。おそらく、同じ配合でそこの緒方が作ったとしても、この味にはならないと思うんです」
「なるほど。確かにそうですね。分量というのはきっちりミリグラム単位で決めているわけではありませんから、微妙に変化すると思います」
「ですよね。どんなに正確になぞってみても微妙な差が出るものだと思います。それと同じで、イラストも最終的には小さな差の世界なんです。それを自分独特の色というとカッコイイですけど、要するに世間に多数ある中のベースをどれにして自分のものとするか、そこからどうやって表現していくか。それを突き詰められるかなんです。同じお茶でも味が異なるように、そういう小さな差異が大きな差を生み出す世界なんですよ。それを理解してやっていけるか、というのも大きなハードルですね。しかも他と被らないものを見つけなければならないですから」
「なるほど」
「しかもイラストの上手い下手も、実は微妙に変化する部分があるんですよね。ある一定の能力から上は、その時の審査員や世の中の流れの中にある好みや嗜好が反映されて出来上がるものなんですよ。総てが自らのオリジナルを通せばいいわけじゃなくて、評価される時期を逃してしまえば、いいイラストも日の目を見ないことだってあります」
「ははあ。タイミングも大事だということですね」
「へえ」
桂花は思わず感嘆の声を漏らしてしまった。そんなことなんてさっぱり考えていないように見えるのに、複雑にあれこれ考えているわけか。思えば高校生の頃からあれこれ理屈を考えるタイプだったような気がする。それも周囲にそんなことを気取られないようにしていたところがあった。
「難しいんですよ。評価が得られたからそれで万事オッケーとはいかない。だからこそまず、本人がそのことを了承して将来を考えて行かなければいけない。一度認められたからといって安泰じゃない。そこも念頭に置いておかなければ駄目です。さらに、両親の説得は難問ですね。最初に強固に反対している場合、認められるには時間が掛かります。そこはどう折り合いをつけるかになってきますね。ひょっとしたらそこで親子の仲が悪くなることもあるし、その場で了解を得られたとしても、全面的に了解してくれているとは思わない方がいいでしょうね」
そこで何かを思い出したように、潤平の顔が僅かに曇った。しかし、すぐに平静な表情に戻る。
「落合さんも色々とあったようですが、やはりすぐには認められなかったんですか」
「今もですよ。そんなふざけた商売をするのならば家に帰って来るなと、まだ言っています。この間も今からやり直せと電話で説教を食らったくらいですからね。まったく、両親の頭の固さにはびっくりさせられますね。でも、だからこそ、家族との間に溝が出来る可能性もあるってことは考えておかないと駄目です。とはいえ、どういうことであっても、好きなことを突き詰めようとすれば誰かと衝突するものですよ。両親というのは最も対立しやすい相手なのかもしれません」
「ええ、そうですね」
それには心当たりがあるのか、法明も少し寂しそうな顔をした。その表情は意外なもので、薬剤師として順調に歩む彼からは想像できない顔だ。桂花は反対されることって、一体何があったんだろうと気になってしまう。
「今村さん、いらっしゃいましたよ」
しかし、法明の悩みは聞き出すことが出来なかった。円がやって来た唯花を連れて相談室に入って来たためだ。
「いらっしゃい」
「こ、こんにちは」
唯花は入り口でぺこりと頭を下げると、法明と潤平を交互に見つめた。その人がイラストレーターなのかと、ちょっと探るような視線だ。すると潤平がすかさずに立ち上がって、ポケットから青を基調とした綺麗な色合いの名刺を取り出して名乗った。
「はじめまして。AOKIの名称で活動しているイラストレーターです」
「あっ」
その名前を聞いたことがあるようで、唯花は信じられないという顔で潤平を見つめている。そう、潤平のペンネームはAOKI。それはイラストに様々な青色を多用していることから来ているそうだ。
「ええ。これって作っている薬師寺さんの性格が反映されていますよね。おそらく、同じ配合でそこの緒方が作ったとしても、この味にはならないと思うんです」
「なるほど。確かにそうですね。分量というのはきっちりミリグラム単位で決めているわけではありませんから、微妙に変化すると思います」
「ですよね。どんなに正確になぞってみても微妙な差が出るものだと思います。それと同じで、イラストも最終的には小さな差の世界なんです。それを自分独特の色というとカッコイイですけど、要するに世間に多数ある中のベースをどれにして自分のものとするか、そこからどうやって表現していくか。それを突き詰められるかなんです。同じお茶でも味が異なるように、そういう小さな差異が大きな差を生み出す世界なんですよ。それを理解してやっていけるか、というのも大きなハードルですね。しかも他と被らないものを見つけなければならないですから」
「なるほど」
「しかもイラストの上手い下手も、実は微妙に変化する部分があるんですよね。ある一定の能力から上は、その時の審査員や世の中の流れの中にある好みや嗜好が反映されて出来上がるものなんですよ。総てが自らのオリジナルを通せばいいわけじゃなくて、評価される時期を逃してしまえば、いいイラストも日の目を見ないことだってあります」
「ははあ。タイミングも大事だということですね」
「へえ」
桂花は思わず感嘆の声を漏らしてしまった。そんなことなんてさっぱり考えていないように見えるのに、複雑にあれこれ考えているわけか。思えば高校生の頃からあれこれ理屈を考えるタイプだったような気がする。それも周囲にそんなことを気取られないようにしていたところがあった。
「難しいんですよ。評価が得られたからそれで万事オッケーとはいかない。だからこそまず、本人がそのことを了承して将来を考えて行かなければいけない。一度認められたからといって安泰じゃない。そこも念頭に置いておかなければ駄目です。さらに、両親の説得は難問ですね。最初に強固に反対している場合、認められるには時間が掛かります。そこはどう折り合いをつけるかになってきますね。ひょっとしたらそこで親子の仲が悪くなることもあるし、その場で了解を得られたとしても、全面的に了解してくれているとは思わない方がいいでしょうね」
そこで何かを思い出したように、潤平の顔が僅かに曇った。しかし、すぐに平静な表情に戻る。
「落合さんも色々とあったようですが、やはりすぐには認められなかったんですか」
「今もですよ。そんなふざけた商売をするのならば家に帰って来るなと、まだ言っています。この間も今からやり直せと電話で説教を食らったくらいですからね。まったく、両親の頭の固さにはびっくりさせられますね。でも、だからこそ、家族との間に溝が出来る可能性もあるってことは考えておかないと駄目です。とはいえ、どういうことであっても、好きなことを突き詰めようとすれば誰かと衝突するものですよ。両親というのは最も対立しやすい相手なのかもしれません」
「ええ、そうですね」
それには心当たりがあるのか、法明も少し寂しそうな顔をした。その表情は意外なもので、薬剤師として順調に歩む彼からは想像できない顔だ。桂花は反対されることって、一体何があったんだろうと気になってしまう。
「今村さん、いらっしゃいましたよ」
しかし、法明の悩みは聞き出すことが出来なかった。円がやって来た唯花を連れて相談室に入って来たためだ。
「いらっしゃい」
「こ、こんにちは」
唯花は入り口でぺこりと頭を下げると、法明と潤平を交互に見つめた。その人がイラストレーターなのかと、ちょっと探るような視線だ。すると潤平がすかさずに立ち上がって、ポケットから青を基調とした綺麗な色合いの名刺を取り出して名乗った。
「はじめまして。AOKIの名称で活動しているイラストレーターです」
「あっ」
その名前を聞いたことがあるようで、唯花は信じられないという顔で潤平を見つめている。そう、潤平のペンネームはAOKI。それはイラストに様々な青色を多用していることから来ているそうだ。
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