蓮華薬師堂薬局の処方箋

渋川宙

文字の大きさ
上 下
17 / 56

第17話 両親とは対立しやすい?

しおりを挟む
「このお茶と、ですか」
「ええ。これって作っている薬師寺さんの性格が反映されていますよね。おそらく、同じ配合でそこの緒方が作ったとしても、この味にはならないと思うんです」
「なるほど。確かにそうですね。分量というのはきっちりミリグラム単位で決めているわけではありませんから、微妙に変化すると思います」
「ですよね。どんなに正確になぞってみても微妙な差が出るものだと思います。それと同じで、イラストも最終的には小さな差の世界なんです。それを自分独特の色というとカッコイイですけど、要するに世間に多数ある中のベースをどれにして自分のものとするか、そこからどうやって表現していくか。それを突き詰められるかなんです。同じお茶でも味が異なるように、そういう小さな差異が大きな差を生み出す世界なんですよ。それを理解してやっていけるか、というのも大きなハードルですね。しかも他と被らないものを見つけなければならないですから」
「なるほど」
「しかもイラストの上手い下手も、実は微妙に変化する部分があるんですよね。ある一定の能力から上は、その時の審査員や世の中の流れの中にある好みや嗜好が反映されて出来上がるものなんですよ。総てが自らのオリジナルを通せばいいわけじゃなくて、評価される時期を逃してしまえば、いいイラストも日の目を見ないことだってあります」
「ははあ。タイミングも大事だということですね」
「へえ」
 桂花は思わず感嘆の声を漏らしてしまった。そんなことなんてさっぱり考えていないように見えるのに、複雑にあれこれ考えているわけか。思えば高校生の頃からあれこれ理屈を考えるタイプだったような気がする。それも周囲にそんなことを気取られないようにしていたところがあった。
「難しいんですよ。評価が得られたからそれで万事オッケーとはいかない。だからこそまず、本人がそのことを了承して将来を考えて行かなければいけない。一度認められたからといって安泰じゃない。そこも念頭に置いておかなければ駄目です。さらに、両親の説得は難問ですね。最初に強固に反対している場合、認められるには時間が掛かります。そこはどう折り合いをつけるかになってきますね。ひょっとしたらそこで親子の仲が悪くなることもあるし、その場で了解を得られたとしても、全面的に了解してくれているとは思わない方がいいでしょうね」
 そこで何かを思い出したように、潤平の顔が僅かに曇った。しかし、すぐに平静な表情に戻る。
「落合さんも色々とあったようですが、やはりすぐには認められなかったんですか」
「今もですよ。そんなふざけた商売をするのならば家に帰って来るなと、まだ言っています。この間も今からやり直せと電話で説教を食らったくらいですからね。まったく、両親の頭の固さにはびっくりさせられますね。でも、だからこそ、家族との間に溝が出来る可能性もあるってことは考えておかないと駄目です。とはいえ、どういうことであっても、好きなことを突き詰めようとすれば誰かと衝突するものですよ。両親というのは最も対立しやすい相手なのかもしれません」
「ええ、そうですね」
 それには心当たりがあるのか、法明も少し寂しそうな顔をした。その表情は意外なもので、薬剤師として順調に歩む彼からは想像できない顔だ。桂花は反対されることって、一体何があったんだろうと気になってしまう。
「今村さん、いらっしゃいましたよ」
 しかし、法明の悩みは聞き出すことが出来なかった。円がやって来た唯花を連れて相談室に入って来たためだ。
「いらっしゃい」
「こ、こんにちは」
 唯花は入り口でぺこりと頭を下げると、法明と潤平を交互に見つめた。その人がイラストレーターなのかと、ちょっと探るような視線だ。すると潤平がすかさずに立ち上がって、ポケットから青を基調とした綺麗な色合いの名刺を取り出して名乗った。
「はじめまして。AOKIの名称で活動しているイラストレーターです」
「あっ」
 その名前を聞いたことがあるようで、唯花は信じられないという顔で潤平を見つめている。そう、潤平のペンネームはAOKI。それはイラストに様々な青色を多用していることから来ているそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いたずら妖狐の目付け役 ~京都もふもふあやかし譚

ススキ荻経
キャラ文芸
【京都×動物妖怪のお仕事小説!】 「目付け役」――。それは、平時から妖怪が悪さをしないように見張る役目を任された者たちのことである。 しかし、妖狐を専門とする目付け役「狐番」の京都担当は、なんとサボりの常習犯だった!? 京の平和を全力で守ろうとする新米陰陽師の賀茂紬は、ひねくれものの狐番の手を(半ば強引に)借り、今日も動物妖怪たちが引き起こすトラブルを解決するために奔走する! これは京都に潜むもふもふなあやかしたちの物語。 第8回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました! エブリスタにも掲載しています。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

マキノのカフェで、ヒトヤスミ ~Café Le Repos~

Repos
ライト文芸
田舎の古民家を改装し、カフェを開いたマキノの奮闘記。 やさしい旦那様と綴る幸せな結婚生活。 試行錯誤しながら少しずつ充実していくお店。 カフェスタッフ達の喜怒哀楽の出来事。 自分自身も迷ったり戸惑ったりいろんなことがあるけれど、 ごはんをおいしく食べることが幸せの原点だとマキノは信じています。 お店の名前は 『Cafe Le Repos』 “Repos”るぽ とは フランス語で『ひとやすみ』という意味。 ここに訪れた人が、ホッと一息ついて、小さな元気の芽が出るように。 それがマキノの願いなのです。 - - - - - - - - - - - - このお話は、『Café Le Repos ~マキノのカフェ開業奮闘記~』の続きのお話です。 <なろうに投稿したものを、こちらでリライトしています。>

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私の主治医さん - 二人と一匹物語 -

鏡野ゆう
ライト文芸
とある病院の救命救急で働いている東出先生の元に運び込まれた急患は何故か川で溺れていた一人と一匹でした。救命救急で働くお医者さんと患者さん、そして小さな子猫の二人と一匹の恋の小話。 【本編完結】【小話】 ※小説家になろうでも公開中※

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...