10 / 56
第10話 もう顔が真っ赤!
しおりを挟む
「ふわああ」
「おや、寝不足ですか」
「あっ、はい」
翌日。いつものように早く出勤したのはいいが、ついつい欠伸が出てしまった。
昨日は完全に目が醒めてしまった後、ずっと一覧表を見つめていて、気が付いたら朝方の四時だった。そこから慌てて眠ったものの、寝不足なのは否めない。
光琳寺に泊ったから普段より通勤時間は短かったものの眠い。しかも間の悪いことに欠伸したのを法明に目撃されてしまうとは。恥ずかしいことこの上ない。
「あまり根を詰めて勉強するのは駄目ですよ。一気に勉強するのはいいことのように思えますが、どうしても忘れる部分が多くなり、効率が悪くなりますからね。通用するのは定期テストの勉強くらいですよ」
「はい。それは解っているんですけど、ちょっと調べ物をしていて」
「そうだったんですか。それでちゃんと理解できましたか?」
「えっと」
そこでちらっと法明の顔を見て、ついあの飴に関して意見を求めたくなってしまった。しかし、それは駄目だと桂花は自分に言い聞かせる。ここで答えを聞いてしまったら簡単だろう。でも、それって憧れの、それも薬剤師になるきっかけをくれたあの人を裏切るような気がしてしまう。
尤も、漢方薬だという肝心な部分を忘れていた時点で裏切っている気もするが。それでも、飴の正体を突き止めるのは自分の力でやりたかった。
「どうされました。やっぱり風邪ですか?」
いつの間にか法明が傍に来ていて、熱でもあるのかと顔を覗き込まれる。その至近距離の整った顔にかっと顔が赤くなるのを自覚し、そっと距離を取った。
「だ、大丈夫です。本当に寝不足なだけですから。それに寝不足なのも調べたいことがあってつい夢中になっちゃっただけですし。その調べ物も、もう少し自力で頑張ってみます」
「そうですか。夢中になっていたのならば仕方ありませんね。でも、無理しないでくださいね。なかなか答えが見つからないとなれば、その知識自体が自分の中に欠けているこということもあります。習得できていないことは誰かに教わるのが一番ですからね。それに体調も、悪かったらすぐに行ってくださいね。今も少し顔が赤いみたいですけど」
「あっ、その、赤いのは、ちょっと暑いからですよ。今日は寒かったから厚着しちゃったなあ。薬局の中は暖かいですねえ。今は暑く感じちゃいます」
白々しくはははっと笑って、桂花はまだ着替えていなかったのを幸いと休憩室に飛び込んだ。そして、いきなり間近に顔があるのはヤバいって、と頬っぺたを両手で包んで身悶えてしまう。
あの爽やかで整った顔が鼻先五センチ以内にあったかと思うと、思い出しても心臓がバクバクだ。
「しかも、顔が似てるのよねえ、やっぱり」
昨日の夜、はっきりとあの日の出来事を思い出したせいか、法明の顔がますますあの人にそっくりに思えてしまう。目鼻立ちなんて、まるで双子のように似ているように思った。そう思うとさらに心臓のドキドキを加速させていた。
本当に同一人物だったらどうしよう。あの時は老け顔だっただけかしら。その可能性も浮上してくる。
ということは、法明は忘れているだけなのか。それはちょっと悲しい。もしくは双子で出会ったのはもう一人の方とか。
いやいや、妄想がどんどん膨らんでいる。これは拙い。もはやあり得ない可能性の世界だ。
「ヤバいわ」
「何やってんだ、気色悪いなあ」
「ぎゃあああ」
そんな身悶えているところに声を掛けられ、桂花は思わず全力で叫んでしまった。振り向いてみると、弓弦が耳を押さえている。今日もチャラチャラした感じのファッションに身を包み、まるで今からパンクロックバンドのライブにでも行くかのようだ。一体そのファッションセンスはどこから来るのだろう。薬学部にあんなタイプはいなかったけどなあと、関係ないことを考える。
「なんつう声を出すんだよ、お前は。うるせえな」
そんなチャラ男である弓弦が、思い切り顔を顰めて不機嫌になる。するとますます不良っぽい。しかし、今は弓弦のファッションなんて問題ではなかった。さっきの状況を見られたのが問題だ。
「せ、先輩が突然失礼なことを言うからですよ」
見られて恥ずかしい桂花は大声で言い返していた。すると弓弦の顔がますます不機嫌になる。そこからいつも通りの泥仕合だ。
「失礼って。一人でくねくねくねくねしていたお前が悪い」
「くねくねなんてしてません」
「してた。ばっちり目撃したぜ。こうやってくねくねやってただろうが」
そう言うと弓弦は意地悪く両手を頬に当てて、腰をくねくねとさせて見せる。
「そんなこと、断じてしてないです」
「いいや、してた」
「大丈夫ですか?」
そこにひょこっと法明が顔を出して、一体何事かと心配していた。それに二人揃って何でもないですと答えるところは、息がぴったりだ。くだらない口げんかで法明に迷惑を掛けたくはない。
「おや、寝不足ですか」
「あっ、はい」
翌日。いつものように早く出勤したのはいいが、ついつい欠伸が出てしまった。
昨日は完全に目が醒めてしまった後、ずっと一覧表を見つめていて、気が付いたら朝方の四時だった。そこから慌てて眠ったものの、寝不足なのは否めない。
光琳寺に泊ったから普段より通勤時間は短かったものの眠い。しかも間の悪いことに欠伸したのを法明に目撃されてしまうとは。恥ずかしいことこの上ない。
「あまり根を詰めて勉強するのは駄目ですよ。一気に勉強するのはいいことのように思えますが、どうしても忘れる部分が多くなり、効率が悪くなりますからね。通用するのは定期テストの勉強くらいですよ」
「はい。それは解っているんですけど、ちょっと調べ物をしていて」
「そうだったんですか。それでちゃんと理解できましたか?」
「えっと」
そこでちらっと法明の顔を見て、ついあの飴に関して意見を求めたくなってしまった。しかし、それは駄目だと桂花は自分に言い聞かせる。ここで答えを聞いてしまったら簡単だろう。でも、それって憧れの、それも薬剤師になるきっかけをくれたあの人を裏切るような気がしてしまう。
尤も、漢方薬だという肝心な部分を忘れていた時点で裏切っている気もするが。それでも、飴の正体を突き止めるのは自分の力でやりたかった。
「どうされました。やっぱり風邪ですか?」
いつの間にか法明が傍に来ていて、熱でもあるのかと顔を覗き込まれる。その至近距離の整った顔にかっと顔が赤くなるのを自覚し、そっと距離を取った。
「だ、大丈夫です。本当に寝不足なだけですから。それに寝不足なのも調べたいことがあってつい夢中になっちゃっただけですし。その調べ物も、もう少し自力で頑張ってみます」
「そうですか。夢中になっていたのならば仕方ありませんね。でも、無理しないでくださいね。なかなか答えが見つからないとなれば、その知識自体が自分の中に欠けているこということもあります。習得できていないことは誰かに教わるのが一番ですからね。それに体調も、悪かったらすぐに行ってくださいね。今も少し顔が赤いみたいですけど」
「あっ、その、赤いのは、ちょっと暑いからですよ。今日は寒かったから厚着しちゃったなあ。薬局の中は暖かいですねえ。今は暑く感じちゃいます」
白々しくはははっと笑って、桂花はまだ着替えていなかったのを幸いと休憩室に飛び込んだ。そして、いきなり間近に顔があるのはヤバいって、と頬っぺたを両手で包んで身悶えてしまう。
あの爽やかで整った顔が鼻先五センチ以内にあったかと思うと、思い出しても心臓がバクバクだ。
「しかも、顔が似てるのよねえ、やっぱり」
昨日の夜、はっきりとあの日の出来事を思い出したせいか、法明の顔がますますあの人にそっくりに思えてしまう。目鼻立ちなんて、まるで双子のように似ているように思った。そう思うとさらに心臓のドキドキを加速させていた。
本当に同一人物だったらどうしよう。あの時は老け顔だっただけかしら。その可能性も浮上してくる。
ということは、法明は忘れているだけなのか。それはちょっと悲しい。もしくは双子で出会ったのはもう一人の方とか。
いやいや、妄想がどんどん膨らんでいる。これは拙い。もはやあり得ない可能性の世界だ。
「ヤバいわ」
「何やってんだ、気色悪いなあ」
「ぎゃあああ」
そんな身悶えているところに声を掛けられ、桂花は思わず全力で叫んでしまった。振り向いてみると、弓弦が耳を押さえている。今日もチャラチャラした感じのファッションに身を包み、まるで今からパンクロックバンドのライブにでも行くかのようだ。一体そのファッションセンスはどこから来るのだろう。薬学部にあんなタイプはいなかったけどなあと、関係ないことを考える。
「なんつう声を出すんだよ、お前は。うるせえな」
そんなチャラ男である弓弦が、思い切り顔を顰めて不機嫌になる。するとますます不良っぽい。しかし、今は弓弦のファッションなんて問題ではなかった。さっきの状況を見られたのが問題だ。
「せ、先輩が突然失礼なことを言うからですよ」
見られて恥ずかしい桂花は大声で言い返していた。すると弓弦の顔がますます不機嫌になる。そこからいつも通りの泥仕合だ。
「失礼って。一人でくねくねくねくねしていたお前が悪い」
「くねくねなんてしてません」
「してた。ばっちり目撃したぜ。こうやってくねくねやってただろうが」
そう言うと弓弦は意地悪く両手を頬に当てて、腰をくねくねとさせて見せる。
「そんなこと、断じてしてないです」
「いいや、してた」
「大丈夫ですか?」
そこにひょこっと法明が顔を出して、一体何事かと心配していた。それに二人揃って何でもないですと答えるところは、息がぴったりだ。くだらない口げんかで法明に迷惑を掛けたくはない。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

報酬はその笑顔で
鏡野ゆう
ライト文芸
彼女がその人と初めて会ったのは夏休みのバイト先でのことだった。
自分に正直で真っ直ぐな女子大生さんと、にこにこスマイルのパイロットさんとのお話。
『貴方は翼を失くさない』で榎本さんの部下として登場した飛行教導群のパイロット、但馬一尉のお話です。
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる