3 / 56
第3話 疫病神!?
しおりを挟む
しかも、まず何がどこにあるのか。それを覚えるだけでも大変である。ここで戸惑っていては戦力にならない。特に漢方薬は種類も多くてさらに名前がややこしい。西洋医薬品もまたしかり。だから四月の間は三人の手伝いをしながら医薬品がどの位置にあるのかを覚えていく期間でもあった。
「あった」
解熱鎮痛剤として第一医薬品としても販売されている、もちろん調剤薬局のものはそれより少し効果が強い、ロキソニンを見つけると、桂花はいそいそと法明の元へと運ぶ。
「はい、大丈夫です」
合っているかどうか、法明がちゃんとチェックしてから患者に渡すのは当たり前。新米であろうとなかろうと、必ず二重チェックをして渡すのだ。薬剤師が渡す薬を間違っては患者の病状を悪化させることになるから、これは絶対に行わなければならないことの一つだ。
「あ、こっちもお願い。ツムラの一番」
「はい」
ついで円から処方箋を渡されて指示される。ツムラの一番とは葛根湯のことだ。葛根湯もまたドラッグストアで購入することが出来るものだ。漢方薬でもこれほど有名なものであれば桂花だって難なく解る。
それにしても、処方箋によると葛根湯だけの処方か。これは肩こりが原因での処方だろうか。それとも風邪の初期症状だろうか。色々と考えさせられる。
「二週間分っと」
こうしてバタバタとしているうちにあっという間に午前中は終わり、昼休憩を少し押した時間でようやく患者が途切れた。再開する三時まで、少しの間ゆっくりすることが出来る。まずは全員で奥の休憩室に移動し、そこでお弁当タイムだ。
「はあ。今日は多かったですね」
まだまだ雑用係の桂花だが、今日はこの薬局に就職して以来の多さだった。四月一日から働いて今日で二週間になるが、これほどドタバタしたことはない。朝慌てて詰め込んだ弁当を開けると、思わず溜め息を吐いてしまう。
「そうですね。花粉症の方も多かったですけど、季節の変わり目とあって風邪の症状を示している人もいましたね。季節が変わる時期は気の乱れが生じやすいですから、これは当然というべきですけど」
法明が自分で作ったという弁当を広げながら、困ったものですねと呟くと
「そうですね。四月に入っても天候が安定しないのと、たまにある寒の戻りのせいでしょうか。春というのは精神的にも不調をきたしやすいですしね。頭痛を訴える人も多かったように思います」
円が手作りサンドイッチを食べつつ付け足した。気が滅入って頭が重いというのは、春先にありがちな症状だった。
「どうだろうな。本当に春のせいだけかな。うちが流行るっていうのは悪い予兆だぜ。そろそろあいつが来るかもよ」
しかし、そんな二人とは全く違う意見を述べるのが、ずるずるとカップ麺を啜る弓弦だ。毎日違う種類のカップ麺を食べるのが拘りのようで、唯一手作り弁当ではない。しかも今日はキムチラーメンという、午後の業務に支障をきたしそうなものを食べていた。休憩室の中にもむわっとキムチの匂いが充満している。しかし、気になるのはキムチラーメンよりあいつという単語だ。
「あいつって、そんな疫病神みたいな人がいるんですか」
桂花が訊ねると、円がしっと指を立てる。言っちゃ駄目と、本当に疫病神が来るかのような反応だ。
「噂をすれば影が差すと言いますからね。業務時間外にしましょうか。総てが終わってからならばまだ大丈夫でしょう」
さらにはそれを補強するかのように法明が遠い目をするので、一体誰が来るんだと桂花はより一層気になる。しかも、その人が来るとここが忙しくなるってどういうことだろう。よほどの問題児なのか。それともすぐに体調を崩す人なのか。
「あいつは業務時間外でも来るけどなあ。それにしても疫病神か。言い得て妙だ。あいつにぴったりだぜ」
しかし、そんな二人に無駄だと思うぞと弓弦はにやにやと笑っている。ひょっとして弓弦は来てほしいのか。でも、疫病神であることは認めている。ううむ、ますます解らない。
ともかく、この薬局としてはあまり好ましくない人がやって来る前触れだと、誰もが思っているらしい。一体どんな奴なのやら。しかし、どんな人であろうとも、忙しい理由にされるというのはどうなのだろう。しかもあの真面目な法明までが禁忌事項にしているのも気になる。
「あった」
解熱鎮痛剤として第一医薬品としても販売されている、もちろん調剤薬局のものはそれより少し効果が強い、ロキソニンを見つけると、桂花はいそいそと法明の元へと運ぶ。
「はい、大丈夫です」
合っているかどうか、法明がちゃんとチェックしてから患者に渡すのは当たり前。新米であろうとなかろうと、必ず二重チェックをして渡すのだ。薬剤師が渡す薬を間違っては患者の病状を悪化させることになるから、これは絶対に行わなければならないことの一つだ。
「あ、こっちもお願い。ツムラの一番」
「はい」
ついで円から処方箋を渡されて指示される。ツムラの一番とは葛根湯のことだ。葛根湯もまたドラッグストアで購入することが出来るものだ。漢方薬でもこれほど有名なものであれば桂花だって難なく解る。
それにしても、処方箋によると葛根湯だけの処方か。これは肩こりが原因での処方だろうか。それとも風邪の初期症状だろうか。色々と考えさせられる。
「二週間分っと」
こうしてバタバタとしているうちにあっという間に午前中は終わり、昼休憩を少し押した時間でようやく患者が途切れた。再開する三時まで、少しの間ゆっくりすることが出来る。まずは全員で奥の休憩室に移動し、そこでお弁当タイムだ。
「はあ。今日は多かったですね」
まだまだ雑用係の桂花だが、今日はこの薬局に就職して以来の多さだった。四月一日から働いて今日で二週間になるが、これほどドタバタしたことはない。朝慌てて詰め込んだ弁当を開けると、思わず溜め息を吐いてしまう。
「そうですね。花粉症の方も多かったですけど、季節の変わり目とあって風邪の症状を示している人もいましたね。季節が変わる時期は気の乱れが生じやすいですから、これは当然というべきですけど」
法明が自分で作ったという弁当を広げながら、困ったものですねと呟くと
「そうですね。四月に入っても天候が安定しないのと、たまにある寒の戻りのせいでしょうか。春というのは精神的にも不調をきたしやすいですしね。頭痛を訴える人も多かったように思います」
円が手作りサンドイッチを食べつつ付け足した。気が滅入って頭が重いというのは、春先にありがちな症状だった。
「どうだろうな。本当に春のせいだけかな。うちが流行るっていうのは悪い予兆だぜ。そろそろあいつが来るかもよ」
しかし、そんな二人とは全く違う意見を述べるのが、ずるずるとカップ麺を啜る弓弦だ。毎日違う種類のカップ麺を食べるのが拘りのようで、唯一手作り弁当ではない。しかも今日はキムチラーメンという、午後の業務に支障をきたしそうなものを食べていた。休憩室の中にもむわっとキムチの匂いが充満している。しかし、気になるのはキムチラーメンよりあいつという単語だ。
「あいつって、そんな疫病神みたいな人がいるんですか」
桂花が訊ねると、円がしっと指を立てる。言っちゃ駄目と、本当に疫病神が来るかのような反応だ。
「噂をすれば影が差すと言いますからね。業務時間外にしましょうか。総てが終わってからならばまだ大丈夫でしょう」
さらにはそれを補強するかのように法明が遠い目をするので、一体誰が来るんだと桂花はより一層気になる。しかも、その人が来るとここが忙しくなるってどういうことだろう。よほどの問題児なのか。それともすぐに体調を崩す人なのか。
「あいつは業務時間外でも来るけどなあ。それにしても疫病神か。言い得て妙だ。あいつにぴったりだぜ」
しかし、そんな二人に無駄だと思うぞと弓弦はにやにやと笑っている。ひょっとして弓弦は来てほしいのか。でも、疫病神であることは認めている。ううむ、ますます解らない。
ともかく、この薬局としてはあまり好ましくない人がやって来る前触れだと、誰もが思っているらしい。一体どんな奴なのやら。しかし、どんな人であろうとも、忙しい理由にされるというのはどうなのだろう。しかもあの真面目な法明までが禁忌事項にしているのも気になる。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
大江戸闇鬼譚~裏長屋に棲む鬼~
渋川宙
ライト文芸
人間に興味津々の鬼の飛鳥は、江戸の裏長屋に住んでいた。
戯作者の松永優介と凸凹コンビを結成し、江戸の町で起こるあれこれを解決!
同族の鬼からは何をやっているんだと思われているが、これが楽しくて止められない!!
鬼であることをひた隠し、人間と一緒に歩む飛鳥だが・・・
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
裏公務の神様事件簿 ─神様のバディはじめました─
只深
ファンタジー
20xx年、日本は謎の天変地異に悩まされていた。
相次ぐ河川の氾濫、季節を無視した気温の変化、突然大地が隆起し、建物は倒壊。
全ての基礎が壊れ、人々の生活は自給自足の時代──まるで、時代が巻き戻ってしまったかのような貧困生活を余儀なくされていた。
クビにならないと言われていた公務員をクビになり、謎の力に目覚めた主人公はある日突然神様に出会う。
「そなたといたら、何か面白いことがあるのか?」
自分への問いかけと思わず適当に答えたが、それよって依代に選ばれ、見たことも聞いたこともない陰陽師…現代の陰陽寮、秘匿された存在の【裏公務員】として仕事をする事になった。
「恋してちゅーすると言ったのは嘘か」
「勘弁してくれ」
そんな二人のバディが織りなす和風ファンタジー、陰陽師の世直し事件簿が始まる。
優しさと悲しさと、切なさと暖かさ…そして心の中に大切な何かが生まれる物語。
※BLに見える表現がありますがBLではありません。
※現在一話から改稿中。毎日近況ノートにご報告しておりますので是非また一話からご覧ください♪
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~
Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。
おいしいご飯がたくさん出てきます。
いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。
助けられたり、恋をしたり。
愛とやさしさののあふれるお話です。
なろうにも投降中
いたずら妖狐の目付け役 ~京都もふもふあやかし譚
ススキ荻経
キャラ文芸
【京都×動物妖怪のお仕事小説!】
「目付け役」――。それは、平時から妖怪が悪さをしないように見張る役目を任された者たちのことである。
しかし、妖狐を専門とする目付け役「狐番」の京都担当は、なんとサボりの常習犯だった!?
京の平和を全力で守ろうとする新米陰陽師の賀茂紬は、ひねくれものの狐番の手を(半ば強引に)借り、今日も動物妖怪たちが引き起こすトラブルを解決するために奔走する!
これは京都に潜むもふもふなあやかしたちの物語。
第8回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました!
エブリスタにも掲載しています。
お料理好きな福留くん
八木愛里
ライト文芸
会計事務所勤務のアラサー女子の私は、日頃の不摂生がピークに達して倒れてしまう。
そんなときに助けてくれたのは会社の後輩の福留くんだった。
ご飯はコンビニで済ませてしまう私に、福留くんは料理を教えてくれるという。
好意に甘えて料理を伝授してもらうことになった。
料理好きな後輩、福留くんと私の料理奮闘記。(仄かに恋愛)
1話2500〜3500文字程度。
「*」マークの話の最下部には参考にレシピを付けています。
表紙は楠 結衣さまからいただきました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる