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第29話 大学が企業?
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「大学が企業ってどういうのをやるわけ。ってか、何でやるの」
「ああ、それは今は大学も予算が足りないし、技術を余らせておくのはもったいないからって企業を作って売り込むんだよ。学生たちに起業を促しているところも多いからね。特に申請しているK大学は盛んにやっているはずだよ。となると、何らかの実証実験ってところかな。植物の栽培かもしれないし、何かを開発するのかもしれないよ。ともかく大きな空間が必要なことだな。そうなると、廃校ってのは安く利用できていいのかもしれない」
そんな疑問には和哉が答えてくれた。さすがは自らも起業した人。そこら辺の事情はこちらが詳しいだろう。
「つまり、学校くらいに大きくないと出来ないことってことか」
「ああ。教室ってかなり広いし、幾つもあるから便利だよね。それと管理が必要なものだよね。栽培系だとすると、農作物のように露地で栽培できないものだったり、温度管理が必要だったり、そういうことも学校だとやり易いんだ。何にせよ、目撃されたのは大学関係者だったわけだ。その人は先に入って何か準備中ってところかな。何をするにも、下準備は必要だからね。放置されていた学校の中を掃除するのも一つだろう。ただ、まだ雑草を刈る気分にはなっていないってわけか」
ははっと笑って和哉は締め括る。しかし、準備するのならば尚更のこと、草刈りはやったほうがいいのではないか。
「問題は何者か、か。K大だったな。少し検索してみるか」
「おっ、いいね。ホームページを開くってわけか」
「まあね」
和臣はそう言ってスマホで検索を開始しようとした。しかし、メールが入っているのに気づいて、先にこっちを処理させてくれと立ち上がって出て行ってしまった。
「忙しいみたいだな」
「だね。今、和臣は今D一か。じゃあ、あれこれ忙しいよね」
哲太の質問にさらっと答える和哉だが、D一って何だ。そこですかさず悠人は質問する。これだけ年齢の近い大人が集まることはないのだ。聞けることは聞いておくに限る。
「ああ、そうか。高校生じゃまだ馴染みがないね。D一は博士課程一年ってことさ。大学院は修士課程二年とその後の博士課程が存在するんだ。修士の場合はMって省略するんだよ。まあ、中には修士課程って名前ではなく博士課程前期後期って分けているところもあるけどね」
「へえ。大学院も色々なんだ」
「そうそう。悠人君はもちろん理系だよね。だったら、なおのこと大学院まで総合的に考えないとね。やはり学部だけで終わってしまうと、専門的なことが身につかないまま、中途半端になってしまうから。あっ、ひょっとしてコンピュータ系に進むのかな。だったらぜひ、大学院を出たらうちで働かないか。新規のプログラミング言語を作っていくっていうのは、それはもう楽しいものだよ」
「い、いえ。まだコンピュータ系とは決めてないんですけど。その、プログラミングもよく解ってないですし」
「えっ、そうなの。それでも大丈夫だよ。プログラミングなんて要は慣れさ。それに、和臣を見てたら、そっちに行きたくならないかい。あれだけ熱中できることなんだ。面白そうだろ」
「ううん、まあ、そうですね。でも、正直、今年初めて人工知能をやってるって知ったんで、具体的なイメージが持てていないんです」
「マジか。奴の無口も重度だね。自分のやっていることって、あっちこっちで言いたくなるはずなんだけど。俺なんて自分のプログラミング言語が動いた瞬間から、これ凄いでしょって世界中に言い触らしているようなものなのに」
和哉はけたけたと笑う。この人、お酒を飲むと笑い上戸になるらしい。笑う頻度が格段に多くなっている。そんな愉快な雰囲気に、悠人もコンピュータっていいかもと思えてきた。
「あいつ、人工知能なんてやってんのか。かあ、東京に行った奴は、訳の分からんことばっかりやって」
でもって、哲太はそんなことを言っている。どうやら東京に対して相当なコンプレックスがあるようだ。嫌いだというのを隠さず、ついでに何でも東京に絡めて愚痴を言っている。
「俺はこっちがいいと思うけどね。東京なんていいことないよ。人は多いし、渋滞しているし、電車に乗ってもぎゅうぎゅうだし。物は高いしせわしないし。こっちで起業して正解だって思うね」
対して、和哉は地方都市がいいと主張する。ううむ、確かにどこもごみごみしているのが都会だ。車があればという注釈は付くが、自由にすいすい移動するには田舎だろう。
「それにウェブがあるから場所なんてどこでもいいしね。いつでもあらゆる場所にアクセスできる。今の世の中、わざわざ東京にいる意味ってあんまりないよ。そりゃあ、企業形態によっては都会じゃないと駄目ってのもあるのは事実だけどね。ウェブ上で処理できる人間はわざわざ都会にいる必要はない。というわけで、俺は早々にこっちに戻って来たな」
さらに和哉はそんな持論を展開した。たしかにネット環境さえ問題なければ、田舎でもいいのだろう。コンピュータ系で、さらにネット上で処理できるのならば当然の発想だ。物価を問題視しているのならば尚更のことだろう。
「ああ、それは今は大学も予算が足りないし、技術を余らせておくのはもったいないからって企業を作って売り込むんだよ。学生たちに起業を促しているところも多いからね。特に申請しているK大学は盛んにやっているはずだよ。となると、何らかの実証実験ってところかな。植物の栽培かもしれないし、何かを開発するのかもしれないよ。ともかく大きな空間が必要なことだな。そうなると、廃校ってのは安く利用できていいのかもしれない」
そんな疑問には和哉が答えてくれた。さすがは自らも起業した人。そこら辺の事情はこちらが詳しいだろう。
「つまり、学校くらいに大きくないと出来ないことってことか」
「ああ。教室ってかなり広いし、幾つもあるから便利だよね。それと管理が必要なものだよね。栽培系だとすると、農作物のように露地で栽培できないものだったり、温度管理が必要だったり、そういうことも学校だとやり易いんだ。何にせよ、目撃されたのは大学関係者だったわけだ。その人は先に入って何か準備中ってところかな。何をするにも、下準備は必要だからね。放置されていた学校の中を掃除するのも一つだろう。ただ、まだ雑草を刈る気分にはなっていないってわけか」
ははっと笑って和哉は締め括る。しかし、準備するのならば尚更のこと、草刈りはやったほうがいいのではないか。
「問題は何者か、か。K大だったな。少し検索してみるか」
「おっ、いいね。ホームページを開くってわけか」
「まあね」
和臣はそう言ってスマホで検索を開始しようとした。しかし、メールが入っているのに気づいて、先にこっちを処理させてくれと立ち上がって出て行ってしまった。
「忙しいみたいだな」
「だね。今、和臣は今D一か。じゃあ、あれこれ忙しいよね」
哲太の質問にさらっと答える和哉だが、D一って何だ。そこですかさず悠人は質問する。これだけ年齢の近い大人が集まることはないのだ。聞けることは聞いておくに限る。
「ああ、そうか。高校生じゃまだ馴染みがないね。D一は博士課程一年ってことさ。大学院は修士課程二年とその後の博士課程が存在するんだ。修士の場合はMって省略するんだよ。まあ、中には修士課程って名前ではなく博士課程前期後期って分けているところもあるけどね」
「へえ。大学院も色々なんだ」
「そうそう。悠人君はもちろん理系だよね。だったら、なおのこと大学院まで総合的に考えないとね。やはり学部だけで終わってしまうと、専門的なことが身につかないまま、中途半端になってしまうから。あっ、ひょっとしてコンピュータ系に進むのかな。だったらぜひ、大学院を出たらうちで働かないか。新規のプログラミング言語を作っていくっていうのは、それはもう楽しいものだよ」
「い、いえ。まだコンピュータ系とは決めてないんですけど。その、プログラミングもよく解ってないですし」
「えっ、そうなの。それでも大丈夫だよ。プログラミングなんて要は慣れさ。それに、和臣を見てたら、そっちに行きたくならないかい。あれだけ熱中できることなんだ。面白そうだろ」
「ううん、まあ、そうですね。でも、正直、今年初めて人工知能をやってるって知ったんで、具体的なイメージが持てていないんです」
「マジか。奴の無口も重度だね。自分のやっていることって、あっちこっちで言いたくなるはずなんだけど。俺なんて自分のプログラミング言語が動いた瞬間から、これ凄いでしょって世界中に言い触らしているようなものなのに」
和哉はけたけたと笑う。この人、お酒を飲むと笑い上戸になるらしい。笑う頻度が格段に多くなっている。そんな愉快な雰囲気に、悠人もコンピュータっていいかもと思えてきた。
「あいつ、人工知能なんてやってんのか。かあ、東京に行った奴は、訳の分からんことばっかりやって」
でもって、哲太はそんなことを言っている。どうやら東京に対して相当なコンプレックスがあるようだ。嫌いだというのを隠さず、ついでに何でも東京に絡めて愚痴を言っている。
「俺はこっちがいいと思うけどね。東京なんていいことないよ。人は多いし、渋滞しているし、電車に乗ってもぎゅうぎゅうだし。物は高いしせわしないし。こっちで起業して正解だって思うね」
対して、和哉は地方都市がいいと主張する。ううむ、確かにどこもごみごみしているのが都会だ。車があればという注釈は付くが、自由にすいすい移動するには田舎だろう。
「それにウェブがあるから場所なんてどこでもいいしね。いつでもあらゆる場所にアクセスできる。今の世の中、わざわざ東京にいる意味ってあんまりないよ。そりゃあ、企業形態によっては都会じゃないと駄目ってのもあるのは事実だけどね。ウェブ上で処理できる人間はわざわざ都会にいる必要はない。というわけで、俺は早々にこっちに戻って来たな」
さらに和哉はそんな持論を展開した。たしかにネット環境さえ問題なければ、田舎でもいいのだろう。コンピュータ系で、さらにネット上で処理できるのならば当然の発想だ。物価を問題視しているのならば尚更のことだろう。
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