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第24話 悩むなあ
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「それよりも、俺はばあちゃんがこの話題を持ち込んだことが気になるんだ。なぜ志津さんはわざわざそんな話を悠人君にしたのか。しかも興味があるはずだと言ったことが気になって仕方がないね」
そして、和臣は麦茶を飲み終えると、そう言って今日は空席の志津が座る辺りを見た。志津は今日、あの噂をした老人ホームに行っている。今日はお風呂の日だとかで、にこにこと出かけて行くのを悠人は見送った。年を取ると自分で背中を洗い難いから、老人ホームのサービスを利用しているのだという。なるほど、元気そうに見えてもやっぱりお年寄りなんだなと実感したものだ。
「確かになあ。ばあちゃんは思慮深いっていうか、ま、和臣の性格は隔世遺伝なんじゃねえかって思うことがあるくらいに、余計なことは言わねえからな」
それにうんうんと同意する信明だ。息子の目から見ても、志津はそういう性格だと断言する。それはあまりここに来ない悠人だって解るくらいだから、よほどしっかりした真面目な性格なのだ。そんな人がわざわざ怪談まがいの噂話をし、親戚の子と孫に謎を解くように嗾ける。これこそ謎だった。
「つまり、揶揄う目的で言い始めたのではないだろう。しかし、治安を気にしてということもないはずだ。本当に不審者ならばまず、青年団に言うだろうからね。俺に言うよりも確実だし、そもそも危ない奴だったら特にそうだろう」
「ああ、宮本さんか」
「そう。もしくは父さんたちが参加している寄り合いだ。治安に関わるならば、どちらかに相談するのが無難だろう。確認して警察に連絡するかどうか、そういう判断をしなければいけない。それなのに、悠人が興味を持つだろうと言って話題にしている。どうにも妙だ。ばあちゃんは確実に校舎を利用している人を知っているんだよ」
「なるほど。ああ、和臣さんも興味を持つって言ってましたね。それって不思議な奴が出入りしているからって理由じゃなかったんだ」
どうしてこの町の部外者である二人が興味を持つと言って話題にしたのか。確かに気になるところだ。それも、誰もが真面目だと思う人が口にした。これがどうにも違和感を覚える。
「そう。ばあちゃんは不審者ではないと知っていて、それでもあえて怪談めいた話をしているんだ。最大の謎はばあちゃんだよ。あえて俺たちを校舎に関わらせようとしているんだ」
だからか、和臣はそう断言して嫌だなと肩を竦める。どうやら積極的ではなかった理由は、何かに巻き込まれようとしていると察知してのことだったらしい。
「じゃあ、利用方法が俺や和臣さんの興味があることってこと」
「だろうね」
利用者ではなく、その利用していることに対して関わらせたい。ううん、でも、それだったらその人を紹介してくれればいいのではないか。どうしてこんな回りくどい方法を採ったのだろう。
「ううん。何を企んでいるのかねえ」
信明はううんと唸った。そして沙希に意見を求めるように視線を向けるが、何も聞いていないと苦笑されるだけだ。
「でも、変な人じゃないなら良かったわ。まったく、もうちょっと綺麗な服を着ればいいのに、どうしてあんなによれよれの服を着るのかしら。私は不審者だって信じちゃったじゃないの」
そして、沙希の問題はやはり見た目であって、どういう人かは気にならないらしい。不審者でなければそれでよしという立場だった。
「俺と悠人が興味を持つ、か。やはり、あの可能性しかなさそうだな」
そして和臣は、また一人で納得してしまうのだった。
昼食後、和臣は大学にいる共同研究者と電話会議をするというので、悠人は一人で過ごすことになった。今日こそ勉強するかと、ごそごそとカバンの底から夏休みの宿題を取り出した。
「はあ」
しかし、開け放たれたふすまと廊下の戸のためにセミの鳴き声が聞こえ、さらに爽やかな田舎の風を受けていると、どうして宿題なんてっていう思いに駆られてしまう。こんな長閑な場所にいるのに、あくせく勉強なんてしたくない。そんな気持ちにさせられる。おかげでテーブルの上に問題集とノートを広げたものの、すぐにペンは止まってしまった。そしてしばらく、頬杖を突いてぼんやりとしてしまう。
「和臣さんもこの環境で勉強してたんだよな。すごいなあ」
ここに来ると、毎年夏休みをしているなと実感する。だからか、何もすることがなく、ぼんやりとする。こんなこと、都会ではまず無理だ。何かが気になるし、やることがなくても何かをしてしまう。そういう生活になってしまう。
しかし、ここは邪魔するものが何もない。実は勉強には適した環境なのではないか。それにしても、忙しなく行き交う人がいないだけで、こんなにも気分というのは変わるものだろうかと、悠人は不思議になっていた。去年まではそんなことを思わなかったのに、ひょっとして疲れているのだろうか。
「まあ、もうすぐ受験生だしなあ」
ここに来た目的の一つは、和臣に進路の相談に乗ってもらうことだった。ここ三日、あれこれと相談に乗ってもらっているし、実際に和臣がやっていることも見せてもらって、その目的は達成されている。しかし、人工知能の研究に進むかと言われると、まだ保留という気分だ。自分が人工知能でやってみたいことがない。
だから、まだ自分の中で何がしたいと具体的にないものの、人工知能でいいかという決め手がない。それでは、他の分野と変わりがないのだ。化学を選ぶにしても、こうやりたいが見つからないまま。生物学は興味がないし、数学も天才的に出来るわけじゃないから却下。選択肢はそれほどないくせに、これといった決め手がない。
そして、和臣は麦茶を飲み終えると、そう言って今日は空席の志津が座る辺りを見た。志津は今日、あの噂をした老人ホームに行っている。今日はお風呂の日だとかで、にこにこと出かけて行くのを悠人は見送った。年を取ると自分で背中を洗い難いから、老人ホームのサービスを利用しているのだという。なるほど、元気そうに見えてもやっぱりお年寄りなんだなと実感したものだ。
「確かになあ。ばあちゃんは思慮深いっていうか、ま、和臣の性格は隔世遺伝なんじゃねえかって思うことがあるくらいに、余計なことは言わねえからな」
それにうんうんと同意する信明だ。息子の目から見ても、志津はそういう性格だと断言する。それはあまりここに来ない悠人だって解るくらいだから、よほどしっかりした真面目な性格なのだ。そんな人がわざわざ怪談まがいの噂話をし、親戚の子と孫に謎を解くように嗾ける。これこそ謎だった。
「つまり、揶揄う目的で言い始めたのではないだろう。しかし、治安を気にしてということもないはずだ。本当に不審者ならばまず、青年団に言うだろうからね。俺に言うよりも確実だし、そもそも危ない奴だったら特にそうだろう」
「ああ、宮本さんか」
「そう。もしくは父さんたちが参加している寄り合いだ。治安に関わるならば、どちらかに相談するのが無難だろう。確認して警察に連絡するかどうか、そういう判断をしなければいけない。それなのに、悠人が興味を持つだろうと言って話題にしている。どうにも妙だ。ばあちゃんは確実に校舎を利用している人を知っているんだよ」
「なるほど。ああ、和臣さんも興味を持つって言ってましたね。それって不思議な奴が出入りしているからって理由じゃなかったんだ」
どうしてこの町の部外者である二人が興味を持つと言って話題にしたのか。確かに気になるところだ。それも、誰もが真面目だと思う人が口にした。これがどうにも違和感を覚える。
「そう。ばあちゃんは不審者ではないと知っていて、それでもあえて怪談めいた話をしているんだ。最大の謎はばあちゃんだよ。あえて俺たちを校舎に関わらせようとしているんだ」
だからか、和臣はそう断言して嫌だなと肩を竦める。どうやら積極的ではなかった理由は、何かに巻き込まれようとしていると察知してのことだったらしい。
「じゃあ、利用方法が俺や和臣さんの興味があることってこと」
「だろうね」
利用者ではなく、その利用していることに対して関わらせたい。ううん、でも、それだったらその人を紹介してくれればいいのではないか。どうしてこんな回りくどい方法を採ったのだろう。
「ううん。何を企んでいるのかねえ」
信明はううんと唸った。そして沙希に意見を求めるように視線を向けるが、何も聞いていないと苦笑されるだけだ。
「でも、変な人じゃないなら良かったわ。まったく、もうちょっと綺麗な服を着ればいいのに、どうしてあんなによれよれの服を着るのかしら。私は不審者だって信じちゃったじゃないの」
そして、沙希の問題はやはり見た目であって、どういう人かは気にならないらしい。不審者でなければそれでよしという立場だった。
「俺と悠人が興味を持つ、か。やはり、あの可能性しかなさそうだな」
そして和臣は、また一人で納得してしまうのだった。
昼食後、和臣は大学にいる共同研究者と電話会議をするというので、悠人は一人で過ごすことになった。今日こそ勉強するかと、ごそごそとカバンの底から夏休みの宿題を取り出した。
「はあ」
しかし、開け放たれたふすまと廊下の戸のためにセミの鳴き声が聞こえ、さらに爽やかな田舎の風を受けていると、どうして宿題なんてっていう思いに駆られてしまう。こんな長閑な場所にいるのに、あくせく勉強なんてしたくない。そんな気持ちにさせられる。おかげでテーブルの上に問題集とノートを広げたものの、すぐにペンは止まってしまった。そしてしばらく、頬杖を突いてぼんやりとしてしまう。
「和臣さんもこの環境で勉強してたんだよな。すごいなあ」
ここに来ると、毎年夏休みをしているなと実感する。だからか、何もすることがなく、ぼんやりとする。こんなこと、都会ではまず無理だ。何かが気になるし、やることがなくても何かをしてしまう。そういう生活になってしまう。
しかし、ここは邪魔するものが何もない。実は勉強には適した環境なのではないか。それにしても、忙しなく行き交う人がいないだけで、こんなにも気分というのは変わるものだろうかと、悠人は不思議になっていた。去年まではそんなことを思わなかったのに、ひょっとして疲れているのだろうか。
「まあ、もうすぐ受験生だしなあ」
ここに来た目的の一つは、和臣に進路の相談に乗ってもらうことだった。ここ三日、あれこれと相談に乗ってもらっているし、実際に和臣がやっていることも見せてもらって、その目的は達成されている。しかし、人工知能の研究に進むかと言われると、まだ保留という気分だ。自分が人工知能でやってみたいことがない。
だから、まだ自分の中で何がしたいと具体的にないものの、人工知能でいいかという決め手がない。それでは、他の分野と変わりがないのだ。化学を選ぶにしても、こうやりたいが見つからないまま。生物学は興味がないし、数学も天才的に出来るわけじゃないから却下。選択肢はそれほどないくせに、これといった決め手がない。
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