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第22話 地元民に名物は要らない
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それからまた車で移動し、近所の人が良く利用するというスーパーへとやって来た。まだ十一時前とあって、イートインスペースはそれほど混雑していなかった。多くの座席は空席で、買い物に来たらしいおばさんたちが、自販機で買ったカップのコーヒーを飲みつつ喋っているくらいだ。
「意外とメニューが豊富」
しかし、スーパーのイートインコーナーと侮ってはいけない。作っているのは一店舗だけなのだが、うどんやラーメンだけでなく、ホットドックやピザなんかもあった。どうやらお総菜コーナーと作っている場所と同じであるらしく、あれこれと提供できるようになっていた。
「この辺って食うところがないからさ。初めはうどんだけだったんだけど、あれよあれよとメニュー拡大したんだよね。昼飯をささっと食べるのに丁度いいんだよ」
にししっと笑って哲太が説明してくれる。確かに周囲は田んぼや畑が多いから、飲食店は必然的に少ない。しかし、神社周辺の商店街は飲食店が多かった気がする。あそこまで出れば、昼ご飯には困らないのではないか。
「ああ、あっちはね。観光客用だろ。地元の奴らは使わないよ。混んでいるしおめかししている奴ばっかりだしね。農作業したどろどろの服で入り難いじゃん。というか、地元民に名物は要らない」
「ははっ」
確かにねと、悠人も同意する。関西人だが毎日のようにたこ焼きが欲しいかと訊かれると、要らないと答えるだろう。そういうものだ。たまに食べることはあっても、日常的に使う場所としてだったら名物を売る必要ない。
「ということで、ここが丁度いいわけだよ。観光客はほとんどここに来ないしね」
「なるほどねえ」
哲太はうどんとホットドックの二品、悠人は醤油ラーメンにした。和臣はまだ胃が起動していないと言い、コーヒーだけとなった。
「和臣さんって小食だよね。昔からたくさん食べているところって見たことがないや」
「そうそう。こいつの弁当の小ささにびびったよ。女子かって思ったね。俺の弁当なんてこいつの弁当の二個分はあったぞ」
哲太がこのくらいだったぞと手で示した大きさは、確かに女子がよく使っていそうなサイズだった。しかも一段しかなかったという。
「仕方ないだろ。食えないんだから」
「農家の息子とは思えないよな。食卓にだって一杯ご飯とおかずが載っていただろうに。ああ、そうか。だから東京で大学院生なんて出来るのか」
「どこがどう繋がれば俺の現状の話になるんだ。大学院まで進学したのは単に昔から勉強が好きだっただけだ」
哲太のずれた意見を、和臣は冷静に訂正していく。そのあまりに慣れた様子に、ちょっと気になってしまう。二人は高校の同級生らしいが、これほど性格が真逆なのに仲良くできていたのが不思議だ。
「あの、二人ってどうやって仲良くなったんですか。それに、ひょっとして高校でもこんな感じだったんですか」
「まあね。こいつは理系のしかも進学組で、俺は農業科だったけど、一年の時からつるんでるよ。出会いは入学式だったかな。変わった奴がいるなって話しかけたんだ」
「勝手にまとわりついて来たんよ。こっちは一人で静かに過ごしたかったというのに」
「まあまあ、いいじゃねえか。そうじゃなきゃお前、ぼっち確定だっただろ」
「余計なお世話なんだよ。ぼっちの何が悪い」
「ははっ」
非常に解りやすい関係だと、悠人は思わず笑ってしまう。要するに一方的に哲太が巻き込んでいたわけか。そして和臣は邪魔だなと思いつつも、それに付き合っていたという構図らしい。
「そうそう。だってこいつ、面白いじゃん。まあ、理系クラスの奴って独特な奴が多かったなあ。なんか普通科の中でも違う感じがするっていうか。怪しいオーラを放っているというか。あっ、今軽くディスちゃったけど、ひょっとして悠人も理系だったりする」
「ええ、残念ながら」
「マジか。いや、独特って悪い意味じゃないんだよ。突出しているっていうか。でも、こいつらとは違って悠人君は普通だよな。話しやすい気がする」
「はっきりディスったって言った後でそう釈明されても困るんですけど。それに話しやすいという評価も喜んでいいのかどうなのか悩んじゃいますよ」
それに普通って言うが、多くは悠人と似たようなタイプだと思う。もちろん和臣タイプも多いのは事実だが、基本的に至って普通の男子高校生だ。
「いやいや。悪いけど理系は普通の男子高校生じゃないよ。これは断言できる。数学が好きになるってだけで特殊能力身に付けているようなもんじゃん」
「いやいや、そんなことないでしょ」
どんな偏見だよと、哲太の意見に驚いてしまう。というか、数学が特殊能力ならば高校の授業に存在しないと思うのだが。必要だからこそ、学校でわざわざ勉強しているのだろうし。
「いや、俺ら農業科の数学なんて、お前らから見たら一年の初めで終わりそうな内容だぞ。教科書もぴらっぴらだったぞ」
「そ、そうなんですか」
「その代わり、農業科は特殊な授業が多いけどな。野菜の生育の仕方とか、肥料の作り方とか」
ここぞとばかりに和臣がそう反撃する。そろそろ頭も本格的に起きてきたようだ。先ほどまでよりシャキッとしている。
「意外とメニューが豊富」
しかし、スーパーのイートインコーナーと侮ってはいけない。作っているのは一店舗だけなのだが、うどんやラーメンだけでなく、ホットドックやピザなんかもあった。どうやらお総菜コーナーと作っている場所と同じであるらしく、あれこれと提供できるようになっていた。
「この辺って食うところがないからさ。初めはうどんだけだったんだけど、あれよあれよとメニュー拡大したんだよね。昼飯をささっと食べるのに丁度いいんだよ」
にししっと笑って哲太が説明してくれる。確かに周囲は田んぼや畑が多いから、飲食店は必然的に少ない。しかし、神社周辺の商店街は飲食店が多かった気がする。あそこまで出れば、昼ご飯には困らないのではないか。
「ああ、あっちはね。観光客用だろ。地元の奴らは使わないよ。混んでいるしおめかししている奴ばっかりだしね。農作業したどろどろの服で入り難いじゃん。というか、地元民に名物は要らない」
「ははっ」
確かにねと、悠人も同意する。関西人だが毎日のようにたこ焼きが欲しいかと訊かれると、要らないと答えるだろう。そういうものだ。たまに食べることはあっても、日常的に使う場所としてだったら名物を売る必要ない。
「ということで、ここが丁度いいわけだよ。観光客はほとんどここに来ないしね」
「なるほどねえ」
哲太はうどんとホットドックの二品、悠人は醤油ラーメンにした。和臣はまだ胃が起動していないと言い、コーヒーだけとなった。
「和臣さんって小食だよね。昔からたくさん食べているところって見たことがないや」
「そうそう。こいつの弁当の小ささにびびったよ。女子かって思ったね。俺の弁当なんてこいつの弁当の二個分はあったぞ」
哲太がこのくらいだったぞと手で示した大きさは、確かに女子がよく使っていそうなサイズだった。しかも一段しかなかったという。
「仕方ないだろ。食えないんだから」
「農家の息子とは思えないよな。食卓にだって一杯ご飯とおかずが載っていただろうに。ああ、そうか。だから東京で大学院生なんて出来るのか」
「どこがどう繋がれば俺の現状の話になるんだ。大学院まで進学したのは単に昔から勉強が好きだっただけだ」
哲太のずれた意見を、和臣は冷静に訂正していく。そのあまりに慣れた様子に、ちょっと気になってしまう。二人は高校の同級生らしいが、これほど性格が真逆なのに仲良くできていたのが不思議だ。
「あの、二人ってどうやって仲良くなったんですか。それに、ひょっとして高校でもこんな感じだったんですか」
「まあね。こいつは理系のしかも進学組で、俺は農業科だったけど、一年の時からつるんでるよ。出会いは入学式だったかな。変わった奴がいるなって話しかけたんだ」
「勝手にまとわりついて来たんよ。こっちは一人で静かに過ごしたかったというのに」
「まあまあ、いいじゃねえか。そうじゃなきゃお前、ぼっち確定だっただろ」
「余計なお世話なんだよ。ぼっちの何が悪い」
「ははっ」
非常に解りやすい関係だと、悠人は思わず笑ってしまう。要するに一方的に哲太が巻き込んでいたわけか。そして和臣は邪魔だなと思いつつも、それに付き合っていたという構図らしい。
「そうそう。だってこいつ、面白いじゃん。まあ、理系クラスの奴って独特な奴が多かったなあ。なんか普通科の中でも違う感じがするっていうか。怪しいオーラを放っているというか。あっ、今軽くディスちゃったけど、ひょっとして悠人も理系だったりする」
「ええ、残念ながら」
「マジか。いや、独特って悪い意味じゃないんだよ。突出しているっていうか。でも、こいつらとは違って悠人君は普通だよな。話しやすい気がする」
「はっきりディスったって言った後でそう釈明されても困るんですけど。それに話しやすいという評価も喜んでいいのかどうなのか悩んじゃいますよ」
それに普通って言うが、多くは悠人と似たようなタイプだと思う。もちろん和臣タイプも多いのは事実だが、基本的に至って普通の男子高校生だ。
「いやいや。悪いけど理系は普通の男子高校生じゃないよ。これは断言できる。数学が好きになるってだけで特殊能力身に付けているようなもんじゃん」
「いやいや、そんなことないでしょ」
どんな偏見だよと、哲太の意見に驚いてしまう。というか、数学が特殊能力ならば高校の授業に存在しないと思うのだが。必要だからこそ、学校でわざわざ勉強しているのだろうし。
「いや、俺ら農業科の数学なんて、お前らから見たら一年の初めで終わりそうな内容だぞ。教科書もぴらっぴらだったぞ」
「そ、そうなんですか」
「その代わり、農業科は特殊な授業が多いけどな。野菜の生育の仕方とか、肥料の作り方とか」
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