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第4話 和臣の部屋
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「誰もいないっていうのは珍しいしな」
そう自分に言い訳し、台所からゆっくりと歩いて回ることにした。家の間取りは頭に入っているが、どこかリフォームしていないかなと思ってみたりする。尤も、それならば信明がすでに言っているだろうが。変化は期待できないか。
台所の横はお風呂、その風呂場の角にあるのがトイレだ。そこから北側の廊下を進むと、物置きの二畳間があり、先ほどの茶の間に戻って来る。その先は信明と沙希が夫婦で使う部屋だ。
そこで西側へと廊下を進むと、今度は志津の使う部屋へと出る。そして南側へと廊下は折れ、悠人が使う部屋へと戻って来る。平屋建てなので、くるくると回っていると戻ってきてしまう寸法だ。しかもどの部屋もふすまで隔てられているだけで、実は突っ切っていくこともできる。そのまま自分の部屋を通り過ぎ、玄関へと出る。そしてちょっと右側に行くと、和臣の部屋だ。悪いかなと思いつつふすまを開けて覗いてみると、本棚と大きな机が目に入った。
「机がメインってところが和臣さんらしいなあ」
部屋の印象が和臣らしくて笑ってしまう。と、同時にどんな本があるのか。気になってしまって悠人はこそこそと中に入る。別に咎められることはないだろうが、プライベートな空間に勝手に入るのは、罪悪感のようなものがある。
「へえ。意外と推理小説とか読むんだ」
でもって、その本棚に並んでいた本が意外で驚いてしまう。現在の研究からして人工知能とかロボットとか、そういう関係の本やSF小説が並んでいるのかと思いきや、本棚の大半は推理小説だった。ひょっとしたら、専門的な本は東京に持って行ってしまったのかもしれない。ということは、ここに残された推理小説は気分転換に呼んでいたものだろうか。
「あっ、赤本もある」
さらに本棚の下の方には、受験生時代に使った参考書や赤本が並んでいた。残しているなんて几帳面というか、ずぼらというか。悠人だったら真っ先に捨ててしまうけどなと思いつつ、どういう勉強をしていたのか気になる。T大に入るための勉強はどんなものなのか。
「参考書は見ても大丈夫だよね。日記じゃないんだし」
誰もいないのに言い訳して、何冊か適当に開いてみる。すると、中は意外と綺麗だった。使っていないのかと疑ってしまいそうになるが、折り目が付いているから、これで勉強したのは間違いないだろう。しかし、見事に書き込みがない。
「書き込まないタイプか」
しかし、蛍光ペンで線を引いた箇所もないというのはびっくりだ。勉強の仕方なんて人それぞれだが、ここまで徹底して書き込まない理由はなんだろう。これは帰って来たら参考までにやり方を訊いてみよう。部屋に入ったことは、そこで謝ればいい。
「おっ、悠人君。そこにいたか」
「うわっ」
そんなことを考えていたら、廊下から信明に声を掛けられた。家に誰もいないと思い込んでいたから、本気で驚いてしまう。いつの間にか田んぼから戻ってきていたらしい。軽トラックの音を聞き逃してしまうなんて、ちょっと恥ずかしかった。
「悪い悪い。急に声を掛けたら驚くのは当然か。って、ああ、参考書か。どれもこれも俺にはさっぱりな内容ばっかりだ。どうしてあんなに勉強ができる子が出来たんだろうねえ。俺の遺伝子ではねえよな。沙希が優秀だったからかな」
ははっと笑う信明にほっとし、悠人は本棚に参考書を戻してから部屋を出た。それにしても、信明と和臣は確かに性格が正反対で、見た目も沙希に似たのだろうというのは納得する。しかし、勉強もなのか。先ほど沙希が理系科目は苦手だったと言っていたことから、てっきり信明の影響かと思ったのに。
「そうそう。俺は勉強なんてからきしできないよ。そもそも、ガキの頃から農家を継ぐつもりだったから農業高校に行ったからなあ。余計に一般的な勉強はさっぱりだ。あっ、それより、ちょっと暇なら畑を手伝ってくれんか」
「いいですよ」
呼びに来た理由を知り、悠人はすぐに頷いた。どうせ勉強なんて、ここに滞在する一週間のうちの三日ほどすればいい方だ。受験を意識してはいるが、まだ二年生。切羽詰まっているわけではない。結局のところだらだらしちゃうのが夏休みだ。
「晩飯に使う分の野菜を採ろう。今日は天ぷらだぞ」
「天ぷらですか。いいですね、解りました」
普段は家で天ぷらを揚げることはないので、悠人はラッキーと思った。共働きの両親では、揚げ物をしている時間がないのは仕方がない。出来合いの天ぷらだって美味しい。でも、やっぱり揚げたてを食べたいと思うのは仕方のない心情だ。
「相変わらず、あっちは忙しいんだな」
「ええ。父は今や部長ですからね。あちこちの会議に呼び出さていますよ」
「なるほど。俺には絶対に出来ない仕事だな。まず座りっぱなしが無理だ」
「ははっ」
そんなことを言いつつ畑に出て天ぷらに使う野菜と、それとサラダに使う野菜を採ることになった。売り物用の野菜だけでなく、家で食べる用にカボチャやトウモロコシも少しずつ栽培されているのだ。
ちなみに売り物として栽培されているのはキュウリとトマト、それにスイカだ。どれも少しずつだが、それで丁度いいのだという。冬は冬で白菜を作っているのだから忙しい。さらに少し離れたところではお米も作っていた。
そう自分に言い訳し、台所からゆっくりと歩いて回ることにした。家の間取りは頭に入っているが、どこかリフォームしていないかなと思ってみたりする。尤も、それならば信明がすでに言っているだろうが。変化は期待できないか。
台所の横はお風呂、その風呂場の角にあるのがトイレだ。そこから北側の廊下を進むと、物置きの二畳間があり、先ほどの茶の間に戻って来る。その先は信明と沙希が夫婦で使う部屋だ。
そこで西側へと廊下を進むと、今度は志津の使う部屋へと出る。そして南側へと廊下は折れ、悠人が使う部屋へと戻って来る。平屋建てなので、くるくると回っていると戻ってきてしまう寸法だ。しかもどの部屋もふすまで隔てられているだけで、実は突っ切っていくこともできる。そのまま自分の部屋を通り過ぎ、玄関へと出る。そしてちょっと右側に行くと、和臣の部屋だ。悪いかなと思いつつふすまを開けて覗いてみると、本棚と大きな机が目に入った。
「机がメインってところが和臣さんらしいなあ」
部屋の印象が和臣らしくて笑ってしまう。と、同時にどんな本があるのか。気になってしまって悠人はこそこそと中に入る。別に咎められることはないだろうが、プライベートな空間に勝手に入るのは、罪悪感のようなものがある。
「へえ。意外と推理小説とか読むんだ」
でもって、その本棚に並んでいた本が意外で驚いてしまう。現在の研究からして人工知能とかロボットとか、そういう関係の本やSF小説が並んでいるのかと思いきや、本棚の大半は推理小説だった。ひょっとしたら、専門的な本は東京に持って行ってしまったのかもしれない。ということは、ここに残された推理小説は気分転換に呼んでいたものだろうか。
「あっ、赤本もある」
さらに本棚の下の方には、受験生時代に使った参考書や赤本が並んでいた。残しているなんて几帳面というか、ずぼらというか。悠人だったら真っ先に捨ててしまうけどなと思いつつ、どういう勉強をしていたのか気になる。T大に入るための勉強はどんなものなのか。
「参考書は見ても大丈夫だよね。日記じゃないんだし」
誰もいないのに言い訳して、何冊か適当に開いてみる。すると、中は意外と綺麗だった。使っていないのかと疑ってしまいそうになるが、折り目が付いているから、これで勉強したのは間違いないだろう。しかし、見事に書き込みがない。
「書き込まないタイプか」
しかし、蛍光ペンで線を引いた箇所もないというのはびっくりだ。勉強の仕方なんて人それぞれだが、ここまで徹底して書き込まない理由はなんだろう。これは帰って来たら参考までにやり方を訊いてみよう。部屋に入ったことは、そこで謝ればいい。
「おっ、悠人君。そこにいたか」
「うわっ」
そんなことを考えていたら、廊下から信明に声を掛けられた。家に誰もいないと思い込んでいたから、本気で驚いてしまう。いつの間にか田んぼから戻ってきていたらしい。軽トラックの音を聞き逃してしまうなんて、ちょっと恥ずかしかった。
「悪い悪い。急に声を掛けたら驚くのは当然か。って、ああ、参考書か。どれもこれも俺にはさっぱりな内容ばっかりだ。どうしてあんなに勉強ができる子が出来たんだろうねえ。俺の遺伝子ではねえよな。沙希が優秀だったからかな」
ははっと笑う信明にほっとし、悠人は本棚に参考書を戻してから部屋を出た。それにしても、信明と和臣は確かに性格が正反対で、見た目も沙希に似たのだろうというのは納得する。しかし、勉強もなのか。先ほど沙希が理系科目は苦手だったと言っていたことから、てっきり信明の影響かと思ったのに。
「そうそう。俺は勉強なんてからきしできないよ。そもそも、ガキの頃から農家を継ぐつもりだったから農業高校に行ったからなあ。余計に一般的な勉強はさっぱりだ。あっ、それより、ちょっと暇なら畑を手伝ってくれんか」
「いいですよ」
呼びに来た理由を知り、悠人はすぐに頷いた。どうせ勉強なんて、ここに滞在する一週間のうちの三日ほどすればいい方だ。受験を意識してはいるが、まだ二年生。切羽詰まっているわけではない。結局のところだらだらしちゃうのが夏休みだ。
「晩飯に使う分の野菜を採ろう。今日は天ぷらだぞ」
「天ぷらですか。いいですね、解りました」
普段は家で天ぷらを揚げることはないので、悠人はラッキーと思った。共働きの両親では、揚げ物をしている時間がないのは仕方がない。出来合いの天ぷらだって美味しい。でも、やっぱり揚げたてを食べたいと思うのは仕方のない心情だ。
「相変わらず、あっちは忙しいんだな」
「ええ。父は今や部長ですからね。あちこちの会議に呼び出さていますよ」
「なるほど。俺には絶対に出来ない仕事だな。まず座りっぱなしが無理だ」
「ははっ」
そんなことを言いつつ畑に出て天ぷらに使う野菜と、それとサラダに使う野菜を採ることになった。売り物用の野菜だけでなく、家で食べる用にカボチャやトウモロコシも少しずつ栽培されているのだ。
ちなみに売り物として栽培されているのはキュウリとトマト、それにスイカだ。どれも少しずつだが、それで丁度いいのだという。冬は冬で白菜を作っているのだから忙しい。さらに少し離れたところではお米も作っていた。
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