南夏聖夜は陰謀に好かれる!?~姫神信仰の謎~

渋川宙

文字の大きさ
上 下
42 / 42

最終話 俺のすべきこと

しおりを挟む
「それで、反逆者の処罰ですが、陛下は本当にこれでよろしいのですか」
 呆れている俺に向けて、今日はこれがメインの議題ですと瑞樹が話を元に戻した。
 反逆者。かつての帝、紫龍。
 彼女をどうすべきか。これが一番の難題であるのは誰の目にも明らかだ。普通に考えれば死罪。情状酌量するとしても、姫籠山への流罪というのが妥当な線だ。
 俺はこの件が話し合われるまで知らなかったのだが、昔から、姫籠山は流刑の地でもあったらしい。ここ百年ほどは安定した治世が続き、政治犯がいなかったために使われることがなかったが、ちゃんと人が住める場所があるのだそうだ。
 ちなみに姫神教会の連中が手に入れた石も、この居住可能区域から採ってきたものだという。姫神はこの国の総てを把握しているから、その場所を教えることも簡単だったようだ。
「仕方ないだろう。姫神が望む結末はこれだ」
 つらつらとあれこれ考えさせられるが、この反逆の結末もまた姫神が用意している。いや、紫龍の気持ちを汲み取って、上手くその流れを作ってくれている。結局俺たちは、どれだけ姫神を封じようと、また信仰しようと、彼女の掌の上から逃げることは出来ないのだ。
「では、そのように発表いたします。姫神様の決定とあれば、国民は文句を言いますまい。また、対外的な面に関しましては、西秋家の方で上手くやってもらいましょう」
 瑞樹はそこで苦笑すると
「確かに貧乏くじを引いたな、南夏聖夜。いや、失礼。聖夜陛下。改名もまた、姫神の御心に適うものだったというわけですね。咲夜国の王に相応しきお名前です」
 嫌味ったらしくそう言ってくれる。
 俺はそれにふんっと鼻を鳴らすと
「夜って漢字が好きだっただけだよ」
 認めて堪るかと言い返していた。

 三日後。俺と紫龍の婚姻の儀が執り行われることが、正式に発表されたのだった。



「聖夜」
 牢から解放され、俺の正妻として輿入れが決まった紫龍は、ベッドに座る俺の前で縮こまっている。彼女が纏うのは白い単衣のみ。この後何をするつもりなのか、紫龍も嫌というほど解っているだろう。
「……」
 いや、俺もいきなりこの展開を望んでいたわけじゃないんだけど。
 そう言い訳しても、状況は彼女の弱みにつけ込んだ、嫌な男になっている。おかげで俺は黙り込むしかない。
 婚姻の儀はまだ終わっていない。それなのに、どうして紫龍が寝室に呼ばれたかと言えば、貴族四家から誠意を示せと言われたからだという。つまり、さっさとその処女を俺に捧げ、二度と逃げないと誓えというわけだ。紫龍はあの姫神教会で行おうとした姫神融合で、俺と交わるつもりだったわけだから、婚姻の前にやっても問題ないだろうと判断されたというのもある。
 しかし、破滅願望の末に俺と寝ようとしたことと、これから夫になる俺と寝るのは心の持ちようが違うだろう。というか、俺がどういう気持ちで抱いていいのかも解らない。
 単衣だけの紫龍は、その豊かな胸と細い腰つきを俺に余すことなく見せつけている。その肢体に、俺は十分に興奮するのだが、なんか困る。
 なんかせいや、なんか困る。変なフレーズが出来上がる。
「聖夜」
 と、俺が困惑して天井を睨み付けていたら、紫龍の方から動き出し、俺の足元にやって来て、小動物のように見上げてくれる。
「ぐっ」
 胸の谷間がばっちり視界に入ってしまい、俺は唸る。
 顔は前々から好みだ。身体つきは今まで分厚い着物で謎のベールに包まれていたが、これほど女性らしいとは驚きだ。そして何より十七歳と年下。十九歳の俺の理想の女が目の前にいるのだ。
「私との結婚は、嫌なの?」
「違う!」
 だから、俺は紫龍の問いに全力で答えていた。おかげで紫龍がびっくりした顔をする。
「あ、ああ、ごめん。その」
「その?」
「お前は王家の重圧から逃げたいと思っていたんだろ。それなのに、俺が王になるとはいえ、また王家に戻るのは、いいのか?」
「あっ」
 ずっと問い掛けたかった、俺の確認。それに紫龍は大きく目を見開く。それからぎゅっと胸の前で拳を握り締めると
「一人じゃないなら、聖夜と一緒ならば、大丈夫」
 頬を赤く染めてそんなことを言うのだから、俺は鼻血が出るかと思った。
「お、俺と一緒なら」
 思わず鼻を押さえながら、それでも念押しするように確認する。ここで逃げたいと言えば、俺は王様特権で何とか逃がす。しかし、ここで俺と寝てしまえば、もう逃げることは出来ない。もしも再び逃げようと画策すれば、今度こそ死罪だ。だからこそ、ここはしっかりと確認しなければならないと思っていた。
「もう。相変わらず、ちょっと抜けてるよね」
 そんな俺に、ようやくいつもの調子に戻った紫龍がくすりと笑う。そのギャップに俺は色々とドキドキさせられたが
「なんだよ」
 言い返さずにはいられない。俺の親切を何だと思ってるんだ。
「もう」
 紫龍はそんな俺の横に座り、するりと俺の首に腕を絡めると
「私はあなたを支える存在になりたいって、国家反逆罪まで犯したんだけど」
 と囁いてきた。
「あっ」
 それはそうだ。こいつは俺を王にして、その妻になる気だった。それが、ちょっと形を変えて叶った。
「やっぱ、被害者は俺だけじゃねえか」
 そう呟くと、遠慮は要らねえなと俺は紫龍を押し倒していた。



 無事に婚姻の儀を終えてからの俺は大忙しだった。今まで鎖国状態だった国を門戸開放し、近代化を推し進め、そして、姫神が望む理想の国を作りあげる。
 それは「なんかせいや」とからかわれ続けた俺には、大き過ぎるやるべきことだったが
「俺の理想が、出来上がるんだもんなあ」
 軍部に飛び出した頃よりも充足感に満たされている。
 王宮は未だ古風なままだが、周囲はどんどん近代化していく。大きく変わりゆく町並みを見つめて、俺は紫龍の手を握るとにっこりと笑うのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...