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第41話 納得できねえ
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「何なんだよ、これ」
戸惑うしかない。百の言葉で説明されても解らなかっただろう姫神の融合。それが実際に起こると、こんなにも怖いものなのか。
そして気づく。本当に自分の中に姫神がいるのだ。どうやら俺は、婚姻の儀という言葉に引っ張られ過ぎていたらしい。
ということは、その勘違いを起こしたのも――
「紫龍」
俺は悔しそうにこちらを見つめる紫龍を、憐みの目で見てしまった。この一連の出来事が、微妙に噛み合っていない理由。それは紫龍が自分の思惑を姫神の想いに乗せて利用したせいだ。
彼女は王を辞めたがっている。そして、俺と――
「聖夜!」
と、そこに萌音たちが教会へとなだれ込んできた。五人全員が抜刀した状態、さらにその先頭に聖姫がいる状況に、俺は何がどうなってるんだと驚く。
「なんだ、無事のようだな」
そして踏み込んできた萌音たちも、もっと大変な状況になっているだろうと想定していただけに、俺がぴんぴんしているので驚いた。
「無事、ではないんですけど」
俺は萌音の反応は間違ってるんだけどなあと不満だ。しかし、全員がこの超絶展開について行けず、また、誰も反撃できないらしい状況に固まってしまっている。
「まあいい」
萌音は俺の言葉に溜め息を吐くと、つかつかと紫龍の元へと歩み寄った。それからその手を掴み背中へと回す。
「総て姫神様がそこの聖姫様を通じて語ってくださいました。ご同行願います。それから、姫神教会全員、軍へと出頭するように」
凛とした萌音の声が礼拝堂に響き、この事件はここで終止符が打たれたのだった。
帝が国家反逆罪を犯す。
この前代未聞の事態に、大騒動があったのは言うまでもない。しかし、俺がすでに姫神の力を得ていたことから、代替わりはあっさりと了承され、政治そのものに大きな空白は出来なかった。
ただ、国は大きな変革を迫られた。建国の王と同様に姫神を宿す王が誕生したのだ。それまでの信仰否定から、いきなり信仰肯定へと切り替えるのは容易ではない。だがこれも、姫神教会をそのまま吸収することで、なんとなく上手くいきそうな予感だ。民衆はすでに姫神の存在を受け入れていたから、あとは政治家たちの脳みそを変えるだけである。
その姫神教会はトップを南夏聖姫に代え、補佐に桜宮悟明が入ることで国家の保護を受けることになったのだから、世の中、何がどうなるか解らないものだ。
「結局、俺だけ被害者じゃねえか」
いきなり帝の地位を押し付けられることになった俺は、納得いかんと吠える。すると、宰相である東春瑞樹が
「俺だって何一つ納得してねえんだよ」
と乱暴に返してくれるのが、ここ数か月の毎度の光景となっている。とはいえ、何を言おうと姫神が俺の中にいる事実が、この結果から逃れられないことを伝えてくる。
「結局のところ、紫龍の心の揺れに気づいた姫神が、新たな王を擁立するために動き出した、というのが真相だったわけだよな」
俺は数か月前までは紫龍が座っていた場所に座り、やれやれと溜め息を吐く。
玉座。
この景色を自分が見ることになるなんて、人生で一度たりとも想像したことがなかった。「なんかせいや」とからかわれていた俺だが、王に成り代わってやりたいなんて思ったことはない。なんかせいの範疇を越えている。
「元帥の報告によると、姫神も最初から陛下を新たな王にと考えていたわけではないようです。そもそも、姫神は最初の王で男にはこりごりと思っていたのだとか。ですから、再び男と融合するなんてあり得ないと思っていたそうです」
「へえ」
初耳の報告に、俺は何とも言えない顔をするしかない。
男はもう嫌。そう思っていたから、ずっとこの国は女帝だったのか。なるほど、これもまた勘違いしていたことだ。姫神なのだから、女の身体がいいのだろうというミスリード。しかし、それもあえて姫神が起こしていた勘違いかもしれない。
ともかく、この姫神様は最強なのだ。俺は自分の身体の中に入り込んだ姫神の力を借りる度にそれを実感中だ。
建国の王が力に驕ってしまうのも解る、この万能感。とすれば、人間臭いと感じた姫神教会の設立も、意外と姫神の入れ知恵だったのかもしれない。
とはいえ、俺に対し、姫神は何も語らない。俺がこうすべきだろうかと考えた時、ちょいっと力を貸してくれるだけだ。このことから、男はこりごりというのも間違いではないのだろうと理解できる。
戸惑うしかない。百の言葉で説明されても解らなかっただろう姫神の融合。それが実際に起こると、こんなにも怖いものなのか。
そして気づく。本当に自分の中に姫神がいるのだ。どうやら俺は、婚姻の儀という言葉に引っ張られ過ぎていたらしい。
ということは、その勘違いを起こしたのも――
「紫龍」
俺は悔しそうにこちらを見つめる紫龍を、憐みの目で見てしまった。この一連の出来事が、微妙に噛み合っていない理由。それは紫龍が自分の思惑を姫神の想いに乗せて利用したせいだ。
彼女は王を辞めたがっている。そして、俺と――
「聖夜!」
と、そこに萌音たちが教会へとなだれ込んできた。五人全員が抜刀した状態、さらにその先頭に聖姫がいる状況に、俺は何がどうなってるんだと驚く。
「なんだ、無事のようだな」
そして踏み込んできた萌音たちも、もっと大変な状況になっているだろうと想定していただけに、俺がぴんぴんしているので驚いた。
「無事、ではないんですけど」
俺は萌音の反応は間違ってるんだけどなあと不満だ。しかし、全員がこの超絶展開について行けず、また、誰も反撃できないらしい状況に固まってしまっている。
「まあいい」
萌音は俺の言葉に溜め息を吐くと、つかつかと紫龍の元へと歩み寄った。それからその手を掴み背中へと回す。
「総て姫神様がそこの聖姫様を通じて語ってくださいました。ご同行願います。それから、姫神教会全員、軍へと出頭するように」
凛とした萌音の声が礼拝堂に響き、この事件はここで終止符が打たれたのだった。
帝が国家反逆罪を犯す。
この前代未聞の事態に、大騒動があったのは言うまでもない。しかし、俺がすでに姫神の力を得ていたことから、代替わりはあっさりと了承され、政治そのものに大きな空白は出来なかった。
ただ、国は大きな変革を迫られた。建国の王と同様に姫神を宿す王が誕生したのだ。それまでの信仰否定から、いきなり信仰肯定へと切り替えるのは容易ではない。だがこれも、姫神教会をそのまま吸収することで、なんとなく上手くいきそうな予感だ。民衆はすでに姫神の存在を受け入れていたから、あとは政治家たちの脳みそを変えるだけである。
その姫神教会はトップを南夏聖姫に代え、補佐に桜宮悟明が入ることで国家の保護を受けることになったのだから、世の中、何がどうなるか解らないものだ。
「結局、俺だけ被害者じゃねえか」
いきなり帝の地位を押し付けられることになった俺は、納得いかんと吠える。すると、宰相である東春瑞樹が
「俺だって何一つ納得してねえんだよ」
と乱暴に返してくれるのが、ここ数か月の毎度の光景となっている。とはいえ、何を言おうと姫神が俺の中にいる事実が、この結果から逃れられないことを伝えてくる。
「結局のところ、紫龍の心の揺れに気づいた姫神が、新たな王を擁立するために動き出した、というのが真相だったわけだよな」
俺は数か月前までは紫龍が座っていた場所に座り、やれやれと溜め息を吐く。
玉座。
この景色を自分が見ることになるなんて、人生で一度たりとも想像したことがなかった。「なんかせいや」とからかわれていた俺だが、王に成り代わってやりたいなんて思ったことはない。なんかせいの範疇を越えている。
「元帥の報告によると、姫神も最初から陛下を新たな王にと考えていたわけではないようです。そもそも、姫神は最初の王で男にはこりごりと思っていたのだとか。ですから、再び男と融合するなんてあり得ないと思っていたそうです」
「へえ」
初耳の報告に、俺は何とも言えない顔をするしかない。
男はもう嫌。そう思っていたから、ずっとこの国は女帝だったのか。なるほど、これもまた勘違いしていたことだ。姫神なのだから、女の身体がいいのだろうというミスリード。しかし、それもあえて姫神が起こしていた勘違いかもしれない。
ともかく、この姫神様は最強なのだ。俺は自分の身体の中に入り込んだ姫神の力を借りる度にそれを実感中だ。
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とはいえ、俺に対し、姫神は何も語らない。俺がこうすべきだろうかと考えた時、ちょいっと力を貸してくれるだけだ。このことから、男はこりごりというのも間違いではないのだろうと理解できる。
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