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第40話 強大な呪力

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「まずは受け入れのための精進潔斎です。一日、この拝殿にて姫神に祈りを捧げてもらいます」
 悟明に掴まれたことで、俺の呪力が再び暴走を始める。ぐるぐると渦巻き、この教会を破壊しようとするかのように大きくなる。
「精進潔斎だと」
 この場所で、そんなことが出来るわけがない。それ以前に、ここに一日もいたら、呪力の暴走が抑えられなくなる。まさか先ほどのように磔にする気か。
「縛るわけないでしょう。ただ、ここで寝ていてくださればいいだけです」
 悟明はそんな俺の思考を読み、すでにあなたは王なんですよと笑ってくれる。しかし、そんなことを言いながらも、横に控える男は呪符と注射器を持っている。
 寝るというのは、強制的に意識を奪うということらしい。
「はっ。それが王にすることか?」
 俺は無理やり進められてなるものかともがくが、足の自由は奪われたままだ。そして、足に力が入らないと、座っていることもままならない。一度体勢を崩してしまうと、そのまま座り直すことさえ出来なかった。
「くそっ」
「そのような御姿を皆の前でなさってはいけませんよ」
 いけしゃあしゃあとそう言いながら、悟明は俺の両脇に手を入れて身を起こす。だが、それは助け起こすためだけではなく
「やれ」
 動きを封じて注射しやすいようにするためだ。
「ぐぅ」
 ただでさえ悟明に触れられると呪力の暴走が強まるというのに、ほぼ身体を密着した状態になると、それはもう暴風に晒されているかのようだった。
「ああっ」
 俺は悟明と距離を保とうともがき続ける。その行動は本能的で、考えてやっていることではない。動く手を出鱈目に動かし、上半身を捻って悟明の拘束から脱出しようとする。
「大人しくしろ」
 だから、脅すようにそう言われても困る。俺だって、何とかなるのならば暴れずに脱出する方法を模索したい。
「封!」
 と、見兼ねた紫龍が封印術を発動した。俺の中で荒れ狂っていた呪力が、完全ではないものの抑え込まれる。
「くぅ」
 だが、それでも苦しさは変わらない。むしろ、出ようとしている呪力を無理やり封じられ、その苦しさが加算されてしまっている。
「姫神の力で間違いないわ。まだ不完全だけれども、姫神の力の多くが聖夜に流れ込んでいるのよ」
 紫龍は想定していた状況とは違うが、俺が伴侶として適応しようとしているのだと解説する。確かに、俺の実感としても、これは姫神の力だ。姫神が根源としている破壊の力である。そして、王家と南夏家が必死に抑え込んでいる力だ。
 けれども、どうしてこんなにも破壊に特化した力なのだろう。それに、そんな力ならば、国を正しい方向へと導けるわけがない。何かがおかしい。
「姫神は」
 俺は苦しい息の中、呟く。
「なに」
「破壊の力しか持っていないんじゃないよな」
 俺の確認に、紫龍はやや躊躇ったものの
「そうね」
 と頷く。
 そう、破壊だけじゃない。でも、俺たちに伝わっているのは破壊の力と、それを逆反応させる封印だけ。
 ああ、そうだ。この国の王が姫神を裏切ったからこそ、姫神はこの力を駆使し、この地を孤立させた。だから、他の力が解らない。
 そして今、俺を選んだというのに破壊の力ばかりを暴走させようとするのは――

 この状況は姫神が望んだものではない!

「うおっ」
 苦しい中、ひょっとしてと考えていたことが正しいと言うように、俺の足を封じる呪術が消し飛ぶ。それと同時に身体が勝手に悟明を制圧していた。
「聖夜、大人しくしなさい!」
 紫龍が叫びながら攻撃してくるが、俺は視線を向けるだけでその呪術を無効化してしまう。
「なんだ、これ」
 先ほどまでのような、荒れ狂う呪力の暴走はない。しかし、身体の中には今までに感じたことがないほど膨大な呪力が溜め込まれるのを感じる。
「姫神との融合が成功している」
 ぐっと身を起こした悟明が、俺を見て驚いた。何がどうなったのか解らないが、儀式をすっ飛ばして俺は姫神の力を百パーセント使える状態になっているらしい。
「ははっ、これは凄い」
 今ならばどんなことも出来る気がする。それと同時に、何でも出来てしまうという恐怖の感情が生まれる。
 今、俺は国を簡単に滅ぼすことが出来る。
 ずっと破壊の力に晒されていたせいか、それが実感を伴って重圧として襲い掛かる。俺の判断ミス一つで、多くの人間が死ぬのだ。
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