40 / 42
第40話 強大な呪力
しおりを挟む
「まずは受け入れのための精進潔斎です。一日、この拝殿にて姫神に祈りを捧げてもらいます」
悟明に掴まれたことで、俺の呪力が再び暴走を始める。ぐるぐると渦巻き、この教会を破壊しようとするかのように大きくなる。
「精進潔斎だと」
この場所で、そんなことが出来るわけがない。それ以前に、ここに一日もいたら、呪力の暴走が抑えられなくなる。まさか先ほどのように磔にする気か。
「縛るわけないでしょう。ただ、ここで寝ていてくださればいいだけです」
悟明はそんな俺の思考を読み、すでにあなたは王なんですよと笑ってくれる。しかし、そんなことを言いながらも、横に控える男は呪符と注射器を持っている。
寝るというのは、強制的に意識を奪うということらしい。
「はっ。それが王にすることか?」
俺は無理やり進められてなるものかともがくが、足の自由は奪われたままだ。そして、足に力が入らないと、座っていることもままならない。一度体勢を崩してしまうと、そのまま座り直すことさえ出来なかった。
「くそっ」
「そのような御姿を皆の前でなさってはいけませんよ」
いけしゃあしゃあとそう言いながら、悟明は俺の両脇に手を入れて身を起こす。だが、それは助け起こすためだけではなく
「やれ」
動きを封じて注射しやすいようにするためだ。
「ぐぅ」
ただでさえ悟明に触れられると呪力の暴走が強まるというのに、ほぼ身体を密着した状態になると、それはもう暴風に晒されているかのようだった。
「ああっ」
俺は悟明と距離を保とうともがき続ける。その行動は本能的で、考えてやっていることではない。動く手を出鱈目に動かし、上半身を捻って悟明の拘束から脱出しようとする。
「大人しくしろ」
だから、脅すようにそう言われても困る。俺だって、何とかなるのならば暴れずに脱出する方法を模索したい。
「封!」
と、見兼ねた紫龍が封印術を発動した。俺の中で荒れ狂っていた呪力が、完全ではないものの抑え込まれる。
「くぅ」
だが、それでも苦しさは変わらない。むしろ、出ようとしている呪力を無理やり封じられ、その苦しさが加算されてしまっている。
「姫神の力で間違いないわ。まだ不完全だけれども、姫神の力の多くが聖夜に流れ込んでいるのよ」
紫龍は想定していた状況とは違うが、俺が伴侶として適応しようとしているのだと解説する。確かに、俺の実感としても、これは姫神の力だ。姫神が根源としている破壊の力である。そして、王家と南夏家が必死に抑え込んでいる力だ。
けれども、どうしてこんなにも破壊に特化した力なのだろう。それに、そんな力ならば、国を正しい方向へと導けるわけがない。何かがおかしい。
「姫神は」
俺は苦しい息の中、呟く。
「なに」
「破壊の力しか持っていないんじゃないよな」
俺の確認に、紫龍はやや躊躇ったものの
「そうね」
と頷く。
そう、破壊だけじゃない。でも、俺たちに伝わっているのは破壊の力と、それを逆反応させる封印だけ。
ああ、そうだ。この国の王が姫神を裏切ったからこそ、姫神はこの力を駆使し、この地を孤立させた。だから、他の力が解らない。
そして今、俺を選んだというのに破壊の力ばかりを暴走させようとするのは――
この状況は姫神が望んだものではない!
「うおっ」
苦しい中、ひょっとしてと考えていたことが正しいと言うように、俺の足を封じる呪術が消し飛ぶ。それと同時に身体が勝手に悟明を制圧していた。
「聖夜、大人しくしなさい!」
紫龍が叫びながら攻撃してくるが、俺は視線を向けるだけでその呪術を無効化してしまう。
「なんだ、これ」
先ほどまでのような、荒れ狂う呪力の暴走はない。しかし、身体の中には今までに感じたことがないほど膨大な呪力が溜め込まれるのを感じる。
「姫神との融合が成功している」
ぐっと身を起こした悟明が、俺を見て驚いた。何がどうなったのか解らないが、儀式をすっ飛ばして俺は姫神の力を百パーセント使える状態になっているらしい。
「ははっ、これは凄い」
今ならばどんなことも出来る気がする。それと同時に、何でも出来てしまうという恐怖の感情が生まれる。
今、俺は国を簡単に滅ぼすことが出来る。
ずっと破壊の力に晒されていたせいか、それが実感を伴って重圧として襲い掛かる。俺の判断ミス一つで、多くの人間が死ぬのだ。
悟明に掴まれたことで、俺の呪力が再び暴走を始める。ぐるぐると渦巻き、この教会を破壊しようとするかのように大きくなる。
「精進潔斎だと」
この場所で、そんなことが出来るわけがない。それ以前に、ここに一日もいたら、呪力の暴走が抑えられなくなる。まさか先ほどのように磔にする気か。
「縛るわけないでしょう。ただ、ここで寝ていてくださればいいだけです」
悟明はそんな俺の思考を読み、すでにあなたは王なんですよと笑ってくれる。しかし、そんなことを言いながらも、横に控える男は呪符と注射器を持っている。
寝るというのは、強制的に意識を奪うということらしい。
「はっ。それが王にすることか?」
俺は無理やり進められてなるものかともがくが、足の自由は奪われたままだ。そして、足に力が入らないと、座っていることもままならない。一度体勢を崩してしまうと、そのまま座り直すことさえ出来なかった。
「くそっ」
「そのような御姿を皆の前でなさってはいけませんよ」
いけしゃあしゃあとそう言いながら、悟明は俺の両脇に手を入れて身を起こす。だが、それは助け起こすためだけではなく
「やれ」
動きを封じて注射しやすいようにするためだ。
「ぐぅ」
ただでさえ悟明に触れられると呪力の暴走が強まるというのに、ほぼ身体を密着した状態になると、それはもう暴風に晒されているかのようだった。
「ああっ」
俺は悟明と距離を保とうともがき続ける。その行動は本能的で、考えてやっていることではない。動く手を出鱈目に動かし、上半身を捻って悟明の拘束から脱出しようとする。
「大人しくしろ」
だから、脅すようにそう言われても困る。俺だって、何とかなるのならば暴れずに脱出する方法を模索したい。
「封!」
と、見兼ねた紫龍が封印術を発動した。俺の中で荒れ狂っていた呪力が、完全ではないものの抑え込まれる。
「くぅ」
だが、それでも苦しさは変わらない。むしろ、出ようとしている呪力を無理やり封じられ、その苦しさが加算されてしまっている。
「姫神の力で間違いないわ。まだ不完全だけれども、姫神の力の多くが聖夜に流れ込んでいるのよ」
紫龍は想定していた状況とは違うが、俺が伴侶として適応しようとしているのだと解説する。確かに、俺の実感としても、これは姫神の力だ。姫神が根源としている破壊の力である。そして、王家と南夏家が必死に抑え込んでいる力だ。
けれども、どうしてこんなにも破壊に特化した力なのだろう。それに、そんな力ならば、国を正しい方向へと導けるわけがない。何かがおかしい。
「姫神は」
俺は苦しい息の中、呟く。
「なに」
「破壊の力しか持っていないんじゃないよな」
俺の確認に、紫龍はやや躊躇ったものの
「そうね」
と頷く。
そう、破壊だけじゃない。でも、俺たちに伝わっているのは破壊の力と、それを逆反応させる封印だけ。
ああ、そうだ。この国の王が姫神を裏切ったからこそ、姫神はこの力を駆使し、この地を孤立させた。だから、他の力が解らない。
そして今、俺を選んだというのに破壊の力ばかりを暴走させようとするのは――
この状況は姫神が望んだものではない!
「うおっ」
苦しい中、ひょっとしてと考えていたことが正しいと言うように、俺の足を封じる呪術が消し飛ぶ。それと同時に身体が勝手に悟明を制圧していた。
「聖夜、大人しくしなさい!」
紫龍が叫びながら攻撃してくるが、俺は視線を向けるだけでその呪術を無効化してしまう。
「なんだ、これ」
先ほどまでのような、荒れ狂う呪力の暴走はない。しかし、身体の中には今までに感じたことがないほど膨大な呪力が溜め込まれるのを感じる。
「姫神との融合が成功している」
ぐっと身を起こした悟明が、俺を見て驚いた。何がどうなったのか解らないが、儀式をすっ飛ばして俺は姫神の力を百パーセント使える状態になっているらしい。
「ははっ、これは凄い」
今ならばどんなことも出来る気がする。それと同時に、何でも出来てしまうという恐怖の感情が生まれる。
今、俺は国を簡単に滅ぼすことが出来る。
ずっと破壊の力に晒されていたせいか、それが実感を伴って重圧として襲い掛かる。俺の判断ミス一つで、多くの人間が死ぬのだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
人生フリーフォールの僕が、スキル【大落下】で逆に急上昇してしまった件~世のため人のためみんなのために戦ってたら知らぬ間に最強になってました
THE TAKE
ファンタジー
落ちて落ちて落ちてばかりな人生を過ごしてきた高校生の僕【大楽 歌(オオラク ウタ)】は、諦めずコツコツと努力に努力を積み重ね、ついに初めての成功を掴み取った。……だったのに、橋から落ちて流されて、気付けば知らない世界の空から落ちてました。
神から与えられしスキル【大落下】を駆使し、落ちっぱなしだった僕の人生を変えるため、そしてかけがえのない人たちを守るため、また一から人生をやり直します!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!
SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、
帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。
性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、
お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。
(こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる