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第38話 恋心
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「やはり、姫神は復活してはならない存在ということか」
亜弾も二人の様子に気づき、ふむと大きく頷いた。そして何を思ったのか、刀を仕舞うと、懐から何かを引き抜く。
「なっ」
それは最近、外国から入って来たピストルだ。すでに多くの国では主流になりつつあると言われるもの。だが、この国では軍部の者ですら見たことがない奴のほうが多い代物だ。
「十和田大将、それは拙いです」
「大丈夫だ。聖姫様を殺すようなことはない」
「いやいや。傷をつけても駄目ですよ。相手は南夏家の時期当主ですよ」
ちゃんと考えているのかと貴明が絶叫すると、だから大丈夫なんだろうと亜弾は妙なことを言ってくれる。
「な、なにが」
「他の姫君と違って、聖姫は何が起こっても困ることはない。当主だからな!」
「おおい!」
とんでもない飛躍!
貴明はそんなわけあるかと特大の大声でツッコミを入れる。当主で将来安泰だからどっかに傷が残ってもいいだろうって、どんな発想だよ。
「煩いな。これだけ軍に女性がいるんだぞ。傷の一つや二つ、どうっていうことあるまい」
「いやいや。相手は貴族! 軍人じゃない!!」
その発想を止めろよと貴明がツッコミを続けていると
「面白い方々ですわね。さすが、私の背の君の周囲にいる方々ですわ」
姫神が楽しそうに笑う。
「背の君ねえ」
「つまり、旦那か」
しかし、その言葉が二人を冷静にした。そう言えば、聖夜と姫神、そして帝が結婚するという話が発端だったのだ。だが、二人ともその話に違和感を覚えた。冷静に考えれば、それはあり得ないのではないか。
「旦那といえば、聖夜はどうしてお前の影響を受けると破壊衝動が高まるんだ」
だから、聖夜が延々と悩んでいる質問を、どストレートに亜弾は投げつける。それに貴明もそうだと頷いた。
「あいつは姫神教会の中で苦しそうだったぞ」
「ふふっ。それは彼にはやるべきことがあるからよ」
亜弾と貴明の言葉に、姫神は余裕を崩すことはなく、それどころか、やるべきことがあるなんて言い出す。
「まさか、まずは国を壊さなければならないとは言わないよな」
貴明が警戒して訊ねると
「ちょっと違うわね。別にこの国の基盤を変える必要があるとは思わないもの」
姫神は意外なほど真っ当な答えを返してくる。
「では、あなたが望むのは南夏聖夜だけですか」
「ええ」
亜弾の問いにも、姫神はこくりと頷くだけ。それに、亜弾も尊明も困惑して、互いの顔を見合わせてしまう。
「あの」
と、そこに気持ち悪さを抱えながらも、蛍が質問していいですかと手を挙げた。それに姫神は微笑むと、どうぞと促す。
「つまり、姫神様は南夏大佐に恋をした、ということですか」
そんな質問に、姫神はそのとおりよと嬉しそうに笑った。
恋。
この大騒動が恋のせいだというのか。男たちは絶句するしかない。
「私は聖夜が欲しいわ。でも、姫神教会を作れと命じたり、政権交代を目論んだりはしていません」
姫神は解ってないわねと溜め息を吐いてくれる。しかし、そんな反応をされても、亜弾も貴明もどうしていいのか解らない。
「おおい! 無事か?」
と、そこに血相を変えて萌音が走ってきた。が、予想外に間抜けな雰囲気が漂っている面々を見て、きょとんとしてしまう。
「何がどうなっている?」
だが、すぐに亜弾に報告を求めた。その切り替えの早さは、さすが軍のトップなだけはある。
「はあ。それがその、現在聖姫様に姫神が取り憑いていまして」
報告を求められた亜弾は、どう言えばいいんだと、いつもの歯切れがない。そもそも、自分の頭で全く処理できない話になってしまっている。
「おい。何があった?」
そんな亜弾の様子に、駄目だこりゃと質問を貴明に切り替えるが、こちらも困惑顔のまま報告できない。
「何なんだ?」
「閣下」
見兼ねた蛍がまた手を挙げる。彼女の発言を求める時の癖だ。
「ああ。どうなっているんだ、光琳」
解るならば説明してくれと萌音は発言を許可する。というより、スパッと割って入ってほしいところだ。
「はい。それが、姫神様は純粋に南夏大佐に恋をされたとのことです」
「は?」
さすがにその答えに、萌音も間抜けな声しか出なかった。色々と考えながらここまで来たが、純粋に恋をしたなんて可能性は検討もしなかった。しかし、あらゆる可能性を検討していた萌音は、すぐになるほどねと頷いた。
「どうも動きがおかしいと思ったら、姫神は姫神で別の意図をもって動いていたということか。ん? となると、貴族どもの動きと姫神教会の動きが違うのとも違うのか。ややこしいなあ。なんにせよ、南夏聖夜はモテモテだな」
くくっと笑うと、姫神は萌音の前にやって来た。そしてぺこりと頭を下げる。
「あなたを見込んでお願いがあります」
「な、なんだ?」
まさか神に頭を下げられるなんて思っていなかった萌音は、僅かに引く。度胸は人一倍あるが、さすがにこれは予想外が連続しすぎだ。狼狽えてしまう。
「聖夜と、紫龍を助けてください」
そして姫神は、さらに萌音を狼狽えさせることを言うのだった。
亜弾も二人の様子に気づき、ふむと大きく頷いた。そして何を思ったのか、刀を仕舞うと、懐から何かを引き抜く。
「なっ」
それは最近、外国から入って来たピストルだ。すでに多くの国では主流になりつつあると言われるもの。だが、この国では軍部の者ですら見たことがない奴のほうが多い代物だ。
「十和田大将、それは拙いです」
「大丈夫だ。聖姫様を殺すようなことはない」
「いやいや。傷をつけても駄目ですよ。相手は南夏家の時期当主ですよ」
ちゃんと考えているのかと貴明が絶叫すると、だから大丈夫なんだろうと亜弾は妙なことを言ってくれる。
「な、なにが」
「他の姫君と違って、聖姫は何が起こっても困ることはない。当主だからな!」
「おおい!」
とんでもない飛躍!
貴明はそんなわけあるかと特大の大声でツッコミを入れる。当主で将来安泰だからどっかに傷が残ってもいいだろうって、どんな発想だよ。
「煩いな。これだけ軍に女性がいるんだぞ。傷の一つや二つ、どうっていうことあるまい」
「いやいや。相手は貴族! 軍人じゃない!!」
その発想を止めろよと貴明がツッコミを続けていると
「面白い方々ですわね。さすが、私の背の君の周囲にいる方々ですわ」
姫神が楽しそうに笑う。
「背の君ねえ」
「つまり、旦那か」
しかし、その言葉が二人を冷静にした。そう言えば、聖夜と姫神、そして帝が結婚するという話が発端だったのだ。だが、二人ともその話に違和感を覚えた。冷静に考えれば、それはあり得ないのではないか。
「旦那といえば、聖夜はどうしてお前の影響を受けると破壊衝動が高まるんだ」
だから、聖夜が延々と悩んでいる質問を、どストレートに亜弾は投げつける。それに貴明もそうだと頷いた。
「あいつは姫神教会の中で苦しそうだったぞ」
「ふふっ。それは彼にはやるべきことがあるからよ」
亜弾と貴明の言葉に、姫神は余裕を崩すことはなく、それどころか、やるべきことがあるなんて言い出す。
「まさか、まずは国を壊さなければならないとは言わないよな」
貴明が警戒して訊ねると
「ちょっと違うわね。別にこの国の基盤を変える必要があるとは思わないもの」
姫神は意外なほど真っ当な答えを返してくる。
「では、あなたが望むのは南夏聖夜だけですか」
「ええ」
亜弾の問いにも、姫神はこくりと頷くだけ。それに、亜弾も尊明も困惑して、互いの顔を見合わせてしまう。
「あの」
と、そこに気持ち悪さを抱えながらも、蛍が質問していいですかと手を挙げた。それに姫神は微笑むと、どうぞと促す。
「つまり、姫神様は南夏大佐に恋をした、ということですか」
そんな質問に、姫神はそのとおりよと嬉しそうに笑った。
恋。
この大騒動が恋のせいだというのか。男たちは絶句するしかない。
「私は聖夜が欲しいわ。でも、姫神教会を作れと命じたり、政権交代を目論んだりはしていません」
姫神は解ってないわねと溜め息を吐いてくれる。しかし、そんな反応をされても、亜弾も貴明もどうしていいのか解らない。
「おおい! 無事か?」
と、そこに血相を変えて萌音が走ってきた。が、予想外に間抜けな雰囲気が漂っている面々を見て、きょとんとしてしまう。
「何がどうなっている?」
だが、すぐに亜弾に報告を求めた。その切り替えの早さは、さすが軍のトップなだけはある。
「はあ。それがその、現在聖姫様に姫神が取り憑いていまして」
報告を求められた亜弾は、どう言えばいいんだと、いつもの歯切れがない。そもそも、自分の頭で全く処理できない話になってしまっている。
「おい。何があった?」
そんな亜弾の様子に、駄目だこりゃと質問を貴明に切り替えるが、こちらも困惑顔のまま報告できない。
「何なんだ?」
「閣下」
見兼ねた蛍がまた手を挙げる。彼女の発言を求める時の癖だ。
「ああ。どうなっているんだ、光琳」
解るならば説明してくれと萌音は発言を許可する。というより、スパッと割って入ってほしいところだ。
「はい。それが、姫神様は純粋に南夏大佐に恋をされたとのことです」
「は?」
さすがにその答えに、萌音も間抜けな声しか出なかった。色々と考えながらここまで来たが、純粋に恋をしたなんて可能性は検討もしなかった。しかし、あらゆる可能性を検討していた萌音は、すぐになるほどねと頷いた。
「どうも動きがおかしいと思ったら、姫神は姫神で別の意図をもって動いていたということか。ん? となると、貴族どもの動きと姫神教会の動きが違うのとも違うのか。ややこしいなあ。なんにせよ、南夏聖夜はモテモテだな」
くくっと笑うと、姫神は萌音の前にやって来た。そしてぺこりと頭を下げる。
「あなたを見込んでお願いがあります」
「な、なんだ?」
まさか神に頭を下げられるなんて思っていなかった萌音は、僅かに引く。度胸は人一倍あるが、さすがにこれは予想外が連続しすぎだ。狼狽えてしまう。
「聖夜と、紫龍を助けてください」
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