南夏聖夜は陰謀に好かれる!?~姫神信仰の謎~

渋川宙

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第34話 知らねえよ

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「姉上」
 そこに貴明が駆けつけて来て
「俺と光琳、そして七宝で向かいます。許可をください」
 調査に加わっていた自分たちが適任だと申し出た。萌音はそれに頷いたものの
「十和田。お前も行け」
 亜弾も加わるように命じる。それに、亜弾は意外そうな顔をした。てっきり萌音が赴くと言い出すものだと思っていたのだ。
「私がここで民衆どもを食い止める。十和田は南夏の姫君を守りながら、教会へと向かうんだ」
 戦闘をこちらに集中させるためには、指揮官がここを離れるのは拙い。萌音はお前が行けと命じる。
「解りました。御武運を」
「はっ。私を誰だと思っている。それに、お前らの方が何が起こるか解らん。細心の注意を払え」
「承知」
 亜弾は頷くと、今の命令を聖姫にも伝えるべく動き出す。
「ったく、この国は一体どうなっているんだ」
 萌音は戦線を離脱し始めた部隊を見送りつつ、思わず舌打ちしてしまう。総てが誰かのタイミングの上だとしか思えない。そしてそれは本当に姫神なのだろうか。
「人間の方が怖いぜ、普通はな」
 萌音は再び戦闘に加わりながら、これが本当に姫神が考えたことなのかと頭を悩ませる。そもそも、器である南夏聖夜の存在に気づくことは出来るだろうが、その後の計画を立てることなど可能なのだろうか。それも、ここまでの数年間、綿密な計画が必要となるようなことが出来るのだろうか。
「協力者がいるはずだ。それも、悟明以外に」
 奴が飛び出し、姫神教会で力をつけるまでの間も、ここに向けた計画は動いていたはずだ。そう考えると、協力者は最低でもあと一人必要になる。そいつは軍部の動向を姫神教会に流していた内通者だと考えるべきか。
「くそっ。ゆっくり考える時間があれば、もう少し絞り込めるんだろうが」
 軍を指揮しながら、自らも戦いながら犯人探しなんて出来るはずがない。それもまた姫神の計画の内だと思うと、腹立たしいことこの上ない。
 ともかく、ここに来て事態がバタバタと動き過ぎだ。急な婚姻騒動といい、一体誰が主導しているというのか。
「ん? 婚姻」
 そう言えば、これは王宮側の出来事のはずだ。ならばどうして、このタイミングに組み込まれているのか。
「閣下!」
 と、そこに亜弾から代わって伝令役となった中将の陸奥織奈むつおりなが慌てた様子で駆け寄ってくる。
「どうした?」
「はっ。今、王宮から緊急事態が発生したとの報が入りました」
「緊急事態?」
 すでに緊急事態だろう。萌音は少しイライラとした顔を向けると
「それが――帝が姫神教会にかどわかされたとのことです」
 織奈が申し訳なさそうに報告してくる。
「え?」
 萌音のイライラが一瞬で消えてしまうほど、その報告は意外過ぎ、また、萌音の頭の中でとんでもない可能性を閃かせることになるのだった。



 姫神との融合には三日間の儀式が必要だという。
「三日ねえ」
 俺は出された、時間としては遅めの昼食を食べつつ、そんなにも掛るんだと嫌な顔をしてしまう。とはいえ、融合するのも嫌なのだが、こちらは拒否できない。
「三日でも短縮しているんですよ。南夏家が行おうとしていた儀式は一週間掛かります」
「へえ」
 知らねえよ。
 俺は軍部とは比べ物にならない豪華な食事を食べつつ、心の中でツッコミを入れておく。イセエビやアワビなんて、海が遠い咲夜国では、貴族四家といえども正月や特別な時でしか食べられない。
 本当に、姫神に関することを俺は知らない。「なんかせいや」とからかわれてやったことは、総て外に目が向いていた。家のことも姫神のことも、理解した気になっていて、全く詳しく知ろうとしていなかった。
「姫神か」
 聖姫に宿った形とはいえ、ようやく対面を果たしたはずなのに、未だに実感の湧かない存在だ。もちろん、自分の身体の中にある呪力が暴走しそうになることから、何らかの影響を受けていることは解る。しかし、どうして根源的な破壊衝動しか感じないのだろうという不思議もあった。
 そう不思議だ。
 ようやく冷静に考えられる状況になって、不思議さと不可解さが浮き彫りになってくる。もしも姫神が次の王に求めているのならば、貸し与える力は本来の力である破壊だけでは駄目なはずだ。
 神話だが史書として語られる物語を正しく読み解くならば、姫神は初代の王に力を貸し与え、民衆を導いた。そして、王族が堕落すると同時に破壊へと走った。この流れのはずだ。ということは、最初に与えるべき力は破壊ではないはずである。
 もちろん、今の政治を壊さなければならないと考えていると取ることも出来る。しかし、そのために姫神教会なんて作らせるとは、どういうことだ。
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