南夏聖夜は陰謀に好かれる!?~姫神信仰の謎~

渋川宙

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第33話 掌の上

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 たった三十分。
 呪力の暴走に晒された俺は、あっさりとこいつに助けを求めていた。
 苦しくて、気持ち悪くて仕方がない。それなのに逃げられない。小さい頃か厳しい訓練を受け、さらに軍部での訓練も受けた俺は、それなりに耐えられる自信があったのに、あっさりと心が折れてしまった。
 というわけで、俺はこんな馬鹿らしいほど派手な、いかにも王様という衣装を着ることも、足に呪符を貼られることも、無抵抗で受け入れるしかなかった。そしてそれはこの先、ずっと続くことになる。
「――」
 悔しさが徐々に多くなって、思わず悟明を睨んでしまう。しかし、悟明はようやく手に入れた姫神の器にご満悦な様子で笑うだけだ。
 勝敗は決したのだ。現状、俺にこの状況を覆す方法はない。
「すぐに姫神様との融合、王宮側の連中から言わせると婚姻の儀を執り行います」
 俺が何も出来ないと悟ったのを見計らって、悟明がそう告げてくる。
「婚姻、ねえ。姫神はなぜ器を求めるんだ。お前に力を貸しているんだろ? だったら、俺を器として利用する意味なんてないんじゃねえのか」
 ここでじたばたしても仕方がないと、俺も不機嫌さは隠さないまでも、悟明との会話に応じる。ついでに、こいつからずっと疑問に思っていることの答えを引き出すことにした。
「器は姫神の力の総てを使うことが出来る立場です。僅かな力を貸し与えられる我々とはまるで違います。それは王家、南夏家であっても同じです。器の力は姫神の力の百パーセント。それに引き換え、呪術師が駆使できる力はせいぜい十五パーセント程度です」
 悟明は重要性が解っていなかったんですかと、意外そうな顔をする。それに俺は何も知らないんだよと溜め息で返した。
「どういうわけか、俺には姫神の情報が絞られて伝えられていたんだよ。今まで姫神が本当に存在することさえ知らなかった。封印なんて、単なる儀礼的なものだろうと思っていた。もちろん、呪術が使えるんだから、そういう不思議な力が存在していることは身をもって解っている。でも、それが姫神そのものの力だと考えたことはなかった」
 そして、何も知らないんだから全部教えろと開き直る。
「なるほど。姫神はあなたが器であることはすぐに判っていたようですから、あえて情報を絞ることは出来たでしょう。我々に人形を使って布教しろとお教えになったのも、あなたに教えるタイミングを計るためだったというわけですか」
 一方、悟明は姫神教会の役割について納得するところがあると頷いている。それに、俺はどういうことだと、顔を顰めてしまった。
「この教会は、新たに現れる器のために用意されたものです。籠姫山の石の採取一つにとっても、姫神の協力なしには出来ません。それが可能なのは、器が王になるための準備だからに他ならないんです」
「なっ」
 つまり、この団体さえも姫神が用意したものということだ。俺は姫神とは何なんだと、その強烈な動きに絶句してしまう。
「姫神はこの国の根本です。政権交代のタイミングすら、彼女の掌の上なんですよ。今の王家に、彼女は満足できなくなった。そういうことでしょう」
 手助けする悟明ですら、ぞっとしたらしい。あれだけ余裕のあった顔に、僅かだが緊張が走っていた。
「どう足掻いても拒否することは出来ない流れ、か」
 なんで俺なんだよ。それが一番疑問だった。



「くそっ。教会に辿り着くまでが大変だな」
「ええ」
 軍部を出てすぐ、南側の町へと出たところで、萌音たちは民衆の暴動に阻まれることになった。しかも姫神教会の呪術師も混ざっていて、非常に戦い難い。肉弾戦ならば圧倒的に軍が有利だが、不意打ちに呪術による攻撃が来るので、すぐに足並みを乱されてしまうのだ。
「防御!」
 聖姫たちが適宜守りの呪術を使ってくれるが、敵の数が多すぎる。総てを防ぐのは困難な状況だった。
「閣下。ここで全員が戦闘に参加しているのは得策ではありません!」
 と、そこに周囲の状況を確認してきた亜弾が、教会に向かう精鋭部隊を作ってここを抜けさせるべきだと進言する。
「確かにな」
 鍬を持って襲い掛かってきた男を峰打ちにしながら、萌音もそれしかないなと頷く。だが、問題は呪術の中心地でもある場所に誰を送り込むか、だ。
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