南夏聖夜は陰謀に好かれる！？～姫神信仰の謎～

第３１話 最悪だ

「内通者、ですか」
　時系列に考えるとより不自然さが浮き彫りになったところで、亜弾が断言するように呟く。それに萌音も頷いた。
「あっ」
　そこで貴明は、悟明が聖夜だけが姫神教会の調査を命じられていることを知っていたことを思い出す。
「内通者がいることは確定だな。だが、今はそれを探している時間がない。聖姫、聖夜が姫神の器となり、完全に姫神として力を発揮できるようになるにはどのくらい時間が掛かるんだ？」
　萌音はそれよりも動き始めるぞと、執務室から出ながら確認する。
「我が家に伝わる儀式の手順を踏むと丸一週間は掛るとなっていますが、これは儀礼的な部分も多いからです。それらを飛ばすと、三日で可能になると思います」
「よし。それより前に聖夜を奪還。タイムリミットは今から四十八時間後とするぞ。復活するならば王宮でやってもらわないと、国は大混乱だからな。マジで聖夜がこの国を根底から覆すことになる」
「はい」
「了解です」
　萌音のタイムリミットに、普段ならば一言二言反論する亜弾も頷くだけ、貴明は気合いを入れ直し、ぐっと刀の柄を握る手に力を籠める。
　そのまま揃って本部ビルを出ると、すでに各部隊が武装を終えて整列していた。それに萌音は満足そうに笑うと
「四十八時間以内に南夏聖夜大佐を奪還。王宮に送り届けるまでが仕事だ」
　大声で命じた。



「くっそ」
　さて、軍部が動き始めた頃。俺は姫神教会の教会内部、それも気分が悪くなる礼拝堂の一段高くなった部分に、仰向けに寝かされていた。頭上には姫神を象った神像がある。
　ご丁寧に手足には縄が巻かれ、それぞれが床と固定されているという磔スタイルで、である。格好が夜着のままだから、マジで処刑される囚人になった気分だ。朝の冗談が冗談でなくなったようで、余計に胸糞が悪い。
　しかも、縄にはしっかり呪術が練り込まれている。俺が身体を動かそうとするだけで、びりっと電気のようなものが走るのだから、堪ったものではない。
「手荒な真似になってしまってすみません。しかし、今のあなたはまだ、ここから逃げようとするでしょ。それは困るんですよ。ちゃんと姫神様から許可は頂いていますからね。教会があなたに玉座を用意するまでの間は、不便をおかけするのはご容赦ください」
　そんな俺を見下ろし、悟明は笑顔で言ってくれる。こいつ、マジでドＳだなと舌打ちしてしまった。
「俺を玉座に就けるだって。大それたことを言うもんだな。それで姫神教会に何のメリットがあるんだよ」
　姫神の願いが俺を玉座に就けることだとしても、それを姫神教会が担うことに意味はあるのか。俺は突っ込んだ質問をしてみる。
「何をおっしゃいます。あなたは姫神と同一の存在になるんですよ。我々はあなたを祀ることで、その正当性を主張することが出来る。そんな単純なことは解っていますよね」
　悟明はあえて俺の知りたいことではなく、一般的なことを言ってくれる。それは確かに姫神教会というものを強固な存在にしてくれるが、それだけでは意味がないだろう。何より俺は、姫神教会を信頼していない。
「本音を喋れよ」
　俺は全面戦争の引き金を引いた理由はなんだと睨み付ける。それに対して悟明はくくっと笑うだけだ。
「おい」
「すぐに判りますよ。姫神が思い描く世界への賛同者は、我々だけではないのですから」
「何だって」
　俺は思わず起き上がろうとし、びりっと電気ショックを食らう羽目になる。
「くっ」
「大人しくしてください。まあ、そこに居ればすぐに大人しくなるでしょうけど、なるべく早く外せるようになってくださいね」
「……」
　繰り返し不快な刺激を与えることで気力を挫く。それはあまりに古典的な手法だが、最も確かなやり方だ。僅かな身じろぎですら電気が走る状況に、俺がどれだけ耐えられるか。しかも夜着のままでちょっと惨めさを煽ってくれる。しかもここは礼拝堂。当然、信者だってやって来るだろう。
「ふふっ。聡明なあなたですから、今のうちに歯向かわないと言った方がいいことは解ってるんでしょ」
「……」
　それは確かに解っている。ここで電気ショックを食らいながら磔の晒し者にされるくらいならば、逃げないと言えばいいだけだ。しかし、言えば最後。これはここで姫神を宿した王として扱われることになる。俺は頷いてなるかと、ふいっと目を逸らしていた。
「意外と頑固ですね。では、しばらく頑張ってください」
　悟明は言うや早いか、さっさと俺の傍から離れていった。俺はそれに思わず身体を動かし、びりっと電気ショックを食らってしまう。