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第27話 予想外
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王宮の中はすでに多くの官人が行き交っていた。それもそのはずで、王宮の始業時間は日の出前と定められている。四時ともなれば、半数以上の職場で始業していることだろう。だが、その官人たちがなぜかピリピリしているのを感じた。特に俺が南夏聖夜だと気づいている奴らの顔が、明らかに引き攣っている。
「ヤバそうだな」
萌音がその反応を見つけて、くくっと笑ってくれる。
「ヤバそう、どころじゃないですよ。ひょっとして俺、死刑になるんじゃないですか。姫神復活が許せないってのが王家と南夏家の立場なんだから、あり得ますよね」
「……」
それあり得ると萌音は大きく目を見開くと、俺の顔を指差してくる。
おいおい。
「せめて否定してください」
俺は素直過ぎる反応に呆れつつ、そうでなければ、官人たちの顔が引き攣る理由なんてないよなと思う。
「享年十九か。辞世の句は考えたか」
「酷いですね。確定事項にしないでください」
注意しつつも、俺の顔も引き攣ってくる。このまま回れ右して帰りたい。
まさかとは思うが、本当に死刑になったらどうしよう。逃げられるだろうか。残念ながら、姫神復活阻止のためとはいえ、そう簡単に死んでやるつもりはない。
めらめらと闘志を漲らせていると、萌音がぽんぽんっと肩を叩いてくる。なんだよとそちらを向くと、人差し指でほっぺたを思い切りぶっ刺された。
「――古典的な嫌がらせは止めてください」
「ははっ。まだ余裕がありそうだな。冗談はともかく、姫神のお気に入りを、いきなり殺すことはないだろう。やるなら姫神が宿ってからだ」
「あっ」
それはそうか。ここで問答無用に俺を殺したら、それこそ姫神の機嫌を損ねることになる。しかも、悟明というお気に入りが別にいるのだ。マジで姫神教会が姫神の力を使って王宮に乗り込んでくるかもしれない。
「なるほど。つまり、殺すにしても、その前に姫神を宿す儀式があるはずだってことですね。姫神の意向を確認しなければ、手出しすることは出来ないはずだ、ってことですか」
「そういうことだ」
「まあ、どちらにしろ、いい展開は待っていないってわけです」
「まあな」
萌音が頷いたところで、前回も貴族四家が揃っていた会議室へと到着していた。
「行くぞ、腹に力を入れろ」
「はい」
萌音の言葉に頷くと、俺はぐっと全身に緊張を漲らせる。これからどういう展開になろうと、俺は俺を押し通す。決着は俺が決める。
ざっと御簾を払って中に入ると、当然のように当主四人が待ち構えている。だが、その四人が四人とも特別な儀式の時に着用する祭服をまとっていたので、俺はぎょっとしてしまった。
まさかすぐに儀式に移るつもりか。しかし、その割にはこの会議室には人払いがされているようで、俺を不意打ちで拘束してくるようなことはなかった。萌音も拍子抜けだという顔で、腰の刀から手を放していた。
「朝早くからすまないね。しかし、今後の予定を考えると、この時間が適していたのだ」
そんな俺たちの警戒っぷりに苦笑しつつ、東春瑞樹が口を開いた。
今後の予定。
それは姫神を宿すことか、死刑か。
俺は緊張を隠すことが出来ず、強張った顔で瑞樹を見る。しかし、瑞樹はあっちが答えると、手で父の南夏聖嗣を指した。その聖嗣はいつになく厳しい顔をしている。そして目は射貫くように鋭かった。
「何を、する気ですか?」
軍部に入ると父に告げた時と同じ、いや、それ以上の眼光に、思わず声が上擦ってしまう。
聖嗣は言うまでもなく最強の呪術師だ。怒らせたら俺を瞬殺することも可能である。それを今、身をもって実感した気がした。
「これからお前にやってもらうのは」
「や、やってもらうのは」
そこで聖嗣は黙り込み、なかなか次の言葉を言ってくれない。俺の緊張はピークに達し、冷や汗がだらだらと流れる。
「やってもらうのは」
沈黙に耐え切れず、俺がもう一度訊ねると、聖嗣がようやく口を開いた。
「婚姻の儀だ」
「……」
想像すらしていなかった単語に、俺はフリーズする。それは横にいた萌音も同じだったようで、見たこともないぽかんとした顔で固まる。
「婚姻の儀だ。それも、姫神と帝、お二人とのだ」
「……えっ?」
結婚。
しかも二人と。
それも姫神と帝だって。
何の苦行ですか?
姫神の器だと言われた時以上に思考が追い付かず、俺はそのまま白目を剥いて、ばたんっと豪快に倒れていたのだった。
「ヤバそうだな」
萌音がその反応を見つけて、くくっと笑ってくれる。
「ヤバそう、どころじゃないですよ。ひょっとして俺、死刑になるんじゃないですか。姫神復活が許せないってのが王家と南夏家の立場なんだから、あり得ますよね」
「……」
それあり得ると萌音は大きく目を見開くと、俺の顔を指差してくる。
おいおい。
「せめて否定してください」
俺は素直過ぎる反応に呆れつつ、そうでなければ、官人たちの顔が引き攣る理由なんてないよなと思う。
「享年十九か。辞世の句は考えたか」
「酷いですね。確定事項にしないでください」
注意しつつも、俺の顔も引き攣ってくる。このまま回れ右して帰りたい。
まさかとは思うが、本当に死刑になったらどうしよう。逃げられるだろうか。残念ながら、姫神復活阻止のためとはいえ、そう簡単に死んでやるつもりはない。
めらめらと闘志を漲らせていると、萌音がぽんぽんっと肩を叩いてくる。なんだよとそちらを向くと、人差し指でほっぺたを思い切りぶっ刺された。
「――古典的な嫌がらせは止めてください」
「ははっ。まだ余裕がありそうだな。冗談はともかく、姫神のお気に入りを、いきなり殺すことはないだろう。やるなら姫神が宿ってからだ」
「あっ」
それはそうか。ここで問答無用に俺を殺したら、それこそ姫神の機嫌を損ねることになる。しかも、悟明というお気に入りが別にいるのだ。マジで姫神教会が姫神の力を使って王宮に乗り込んでくるかもしれない。
「なるほど。つまり、殺すにしても、その前に姫神を宿す儀式があるはずだってことですね。姫神の意向を確認しなければ、手出しすることは出来ないはずだ、ってことですか」
「そういうことだ」
「まあ、どちらにしろ、いい展開は待っていないってわけです」
「まあな」
萌音が頷いたところで、前回も貴族四家が揃っていた会議室へと到着していた。
「行くぞ、腹に力を入れろ」
「はい」
萌音の言葉に頷くと、俺はぐっと全身に緊張を漲らせる。これからどういう展開になろうと、俺は俺を押し通す。決着は俺が決める。
ざっと御簾を払って中に入ると、当然のように当主四人が待ち構えている。だが、その四人が四人とも特別な儀式の時に着用する祭服をまとっていたので、俺はぎょっとしてしまった。
まさかすぐに儀式に移るつもりか。しかし、その割にはこの会議室には人払いがされているようで、俺を不意打ちで拘束してくるようなことはなかった。萌音も拍子抜けだという顔で、腰の刀から手を放していた。
「朝早くからすまないね。しかし、今後の予定を考えると、この時間が適していたのだ」
そんな俺たちの警戒っぷりに苦笑しつつ、東春瑞樹が口を開いた。
今後の予定。
それは姫神を宿すことか、死刑か。
俺は緊張を隠すことが出来ず、強張った顔で瑞樹を見る。しかし、瑞樹はあっちが答えると、手で父の南夏聖嗣を指した。その聖嗣はいつになく厳しい顔をしている。そして目は射貫くように鋭かった。
「何を、する気ですか?」
軍部に入ると父に告げた時と同じ、いや、それ以上の眼光に、思わず声が上擦ってしまう。
聖嗣は言うまでもなく最強の呪術師だ。怒らせたら俺を瞬殺することも可能である。それを今、身をもって実感した気がした。
「これからお前にやってもらうのは」
「や、やってもらうのは」
そこで聖嗣は黙り込み、なかなか次の言葉を言ってくれない。俺の緊張はピークに達し、冷や汗がだらだらと流れる。
「やってもらうのは」
沈黙に耐え切れず、俺がもう一度訊ねると、聖嗣がようやく口を開いた。
「婚姻の儀だ」
「……」
想像すらしていなかった単語に、俺はフリーズする。それは横にいた萌音も同じだったようで、見たこともないぽかんとした顔で固まる。
「婚姻の儀だ。それも、姫神と帝、お二人とのだ」
「……えっ?」
結婚。
しかも二人と。
それも姫神と帝だって。
何の苦行ですか?
姫神の器だと言われた時以上に思考が追い付かず、俺はそのまま白目を剥いて、ばたんっと豪快に倒れていたのだった。
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