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第26話 どんな喜劇だよ
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だが、一人で対処しきれないのも事実だ。それに、悟明がいつ心変わりして、力業で向かってくるかも解らない。
「二人は明日も見回りをしてくれ。で、今度は人形以外に怪しいものがないか、チェックを頼む」
俺は人形だけで済むはずがないと、二人には街中に怪しいものがないかの調査を依頼するのだった。
夜。俺は自室に戻ると、久々に姫神についての伝承が書かれた史書を開いていた。
「古びた神話ではなく、今なお生きる神、か」
今まではこれを、どこかで物語だ、フィクションだと思っていた。しかし、自らが姫神に狙われる立場となると、意味合いが大きく変わる。
「さすがにノンフィクションとは思わないけど」
くくっと笑いながら、俺はページを捲っていく。
姫神がこの地に降り立ち、人々を導き、そして破滅させる。
そんなワガママな神様の話は、よくよく読み込んでいくと、人間の身勝手が招いた結果だということが解る。強大な姫神の力に溺れたがゆえに、権力者は好き勝手に振る舞い、それを見兼ねた姫神が王政に終止符を打ったのだ。
「歴史の振り返りはともかくとして、最初の人間の王。こいつが俺と同じ立場だった可能性は高いな」
今では、王は必ず女性がなるものと決まっているのがこの咲夜国だ。しかし、古代は男性が王になるのが当たり前だった。この逆転が起こった理由が、男は姫神の伴侶となり、器となるからだと考えると、すんなり納得できる。
そんな事情は知らなかったから、俺は今まで、姫神とは単純に力のことだと考えていた。その力に姫神という名前を与えているだけなのだと思っていた。だが、事実はその真逆だったというわけだ。姫神は事実存在し、人間に呪力という形で自らの力を貸している。
「借りているから、広めることも可能、ってことか」
そこまで考えて、悟明の言い分が正しいことも理解する。そして俺が、あの場所を無視できない、もう一度訪れるというのも、遠からず当たることになるだろう。
「面倒臭え奴を気に入ってくれたもんだぜ、姫神様は」
俺は史書を開いたまま、どうしたものかと頭の後ろで手を組んでうんっと伸びる。
今、自分は強大な力を手に入れるチャンスに恵まれている。しかし、それは破壊を司る神の力だ。
「しかも器と使う奴が違うらしいってのも引っ掛かるんだよな。王様イコール器ではないのか。それとも、今回のパターンがイレギュラーなのか」
俺と悟明。どちらも必要としている理由は何か。俺が全く姫神そのものに興味を示さなかったからか。だが、それならばここまで完璧な仕組みは出来上がらないだろう。神とはいえ、人間の起こす不確定要素の総てを把握できるとは思えない。
「はっ。神の手の上か」
何にせよ、この地が他から隔絶し、近代化を拒む理由もまた、姫神の力が実在し、器となる人間が現れるからだったのだ。こんなこと、他に知られたらどんなことが起こるか。
それこそ、姫神の力を巡って世界大戦が起きてしまう。こんな小国の、他との交流が極力絞られている場所だからこそ、今まで何もなく平和だったのだ。
「そして、力を使えるのが俺だとなれば、俺が世界中から狙われるってか」
どんな喜劇だよ。
俺は困ったもんだねえとぼやきつつ、しばらく天井を見つめていた。
翌日。また俺は王宮に呼び出されていた。しかし、この呼び出しは予想できた。俺が好き勝手に動いて、姫神の力を宿してしまうことを警戒しているのだ。そのためにも、何らかの手を打ってくるはずだ。が、早朝四時に呼び出されるのは想像していなかった。
「元帥様はもちろん、俺を手助けしてくれるんですよね」
俺は大欠伸をしつつ、萌音と一緒に王宮に向かいながら確認する。
「悟明を捕まえ、姫神教会をぶっ壊したいこちらとしては、出来る限りお前を手元に置きたいと思っているが、どうなるだろうな。そもそも、最初にお前を単独で姫神教会に近付かせたのは、本当にお前が姫神の器なのか確認するためだったんだろう。ということは、確認が終わった今、お前を泳がせておく理由はない。必ず拘束するだろう。そうだな、私ならば牢屋に放り込み、しばらく様子を見るな」
「ええっ」
真っ当な分析なのだが、牢屋に放り込まれるのは勘弁願いたい。俺は軍服を着るのは今日が最後になるのかなあ、なんて考えることで現実逃避することにした。
「二人は明日も見回りをしてくれ。で、今度は人形以外に怪しいものがないか、チェックを頼む」
俺は人形だけで済むはずがないと、二人には街中に怪しいものがないかの調査を依頼するのだった。
夜。俺は自室に戻ると、久々に姫神についての伝承が書かれた史書を開いていた。
「古びた神話ではなく、今なお生きる神、か」
今まではこれを、どこかで物語だ、フィクションだと思っていた。しかし、自らが姫神に狙われる立場となると、意味合いが大きく変わる。
「さすがにノンフィクションとは思わないけど」
くくっと笑いながら、俺はページを捲っていく。
姫神がこの地に降り立ち、人々を導き、そして破滅させる。
そんなワガママな神様の話は、よくよく読み込んでいくと、人間の身勝手が招いた結果だということが解る。強大な姫神の力に溺れたがゆえに、権力者は好き勝手に振る舞い、それを見兼ねた姫神が王政に終止符を打ったのだ。
「歴史の振り返りはともかくとして、最初の人間の王。こいつが俺と同じ立場だった可能性は高いな」
今では、王は必ず女性がなるものと決まっているのがこの咲夜国だ。しかし、古代は男性が王になるのが当たり前だった。この逆転が起こった理由が、男は姫神の伴侶となり、器となるからだと考えると、すんなり納得できる。
そんな事情は知らなかったから、俺は今まで、姫神とは単純に力のことだと考えていた。その力に姫神という名前を与えているだけなのだと思っていた。だが、事実はその真逆だったというわけだ。姫神は事実存在し、人間に呪力という形で自らの力を貸している。
「借りているから、広めることも可能、ってことか」
そこまで考えて、悟明の言い分が正しいことも理解する。そして俺が、あの場所を無視できない、もう一度訪れるというのも、遠からず当たることになるだろう。
「面倒臭え奴を気に入ってくれたもんだぜ、姫神様は」
俺は史書を開いたまま、どうしたものかと頭の後ろで手を組んでうんっと伸びる。
今、自分は強大な力を手に入れるチャンスに恵まれている。しかし、それは破壊を司る神の力だ。
「しかも器と使う奴が違うらしいってのも引っ掛かるんだよな。王様イコール器ではないのか。それとも、今回のパターンがイレギュラーなのか」
俺と悟明。どちらも必要としている理由は何か。俺が全く姫神そのものに興味を示さなかったからか。だが、それならばここまで完璧な仕組みは出来上がらないだろう。神とはいえ、人間の起こす不確定要素の総てを把握できるとは思えない。
「はっ。神の手の上か」
何にせよ、この地が他から隔絶し、近代化を拒む理由もまた、姫神の力が実在し、器となる人間が現れるからだったのだ。こんなこと、他に知られたらどんなことが起こるか。
それこそ、姫神の力を巡って世界大戦が起きてしまう。こんな小国の、他との交流が極力絞られている場所だからこそ、今まで何もなく平和だったのだ。
「そして、力を使えるのが俺だとなれば、俺が世界中から狙われるってか」
どんな喜劇だよ。
俺は困ったもんだねえとぼやきつつ、しばらく天井を見つめていた。
翌日。また俺は王宮に呼び出されていた。しかし、この呼び出しは予想できた。俺が好き勝手に動いて、姫神の力を宿してしまうことを警戒しているのだ。そのためにも、何らかの手を打ってくるはずだ。が、早朝四時に呼び出されるのは想像していなかった。
「元帥様はもちろん、俺を手助けしてくれるんですよね」
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「悟明を捕まえ、姫神教会をぶっ壊したいこちらとしては、出来る限りお前を手元に置きたいと思っているが、どうなるだろうな。そもそも、最初にお前を単独で姫神教会に近付かせたのは、本当にお前が姫神の器なのか確認するためだったんだろう。ということは、確認が終わった今、お前を泳がせておく理由はない。必ず拘束するだろう。そうだな、私ならば牢屋に放り込み、しばらく様子を見るな」
「ええっ」
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