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第23話 器
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「とはいえ、お前があれこれ首を突っ込み、知ろうとしていることは解っているさ。実際、お前は南夏家の中では一番、外というものを知っているだろう。ただ、その中に姫神が含まれていなかっただけだな」
「ぐう」
イジメてくる。帝がイジメてくる。それも萌音と違い、なんだか胃のあたりがしくしくしてくるイジメ方だ。
「おかげで姫神の反応は良かったのだろう。お前の中に入り込み、力を暴走させようとしたってことだ」
「は?」
胃痛の次は頭痛がしてきた。
俺は今、一体何に巻き込まれているのだろう。昨日まで自信満々だった俺がどこか遠くに行ってしまった感覚に陥る。
「お前は姫神に気に入られたのだよ。それこそ、悟明以上にね。それはまあ、南夏家の血に惹かれたというのもあるだろうが、はっきりしていることは、お前は姫神の器になり得るということだ」
「――」
悟明が俺を欲しがる理由。それが、まさかの帝から提示されることになるのだった。
「大問題じゃねえか」
「大問題ですよ。だから速攻で軍部にチクってるんです」
「チクってるって言うなよ」
王宮から戻るや否や、俺は萌音の部屋へと駆け込み、帝との会話を総てぶちまけていた。
正直、一人では抱えきれない問題だった。となれば、信頼できる上司を巻き込むのは当然というところだろう。
「それにしても、姫神の器になる男か。それってまぐわうってことか」
「ま、まぐわ」
「簡単に言えば性交」
「簡単に言い換えなくても解ります!」
なんていうストレートな表現に言い換えてくれるんだ。俺は相手が上官だということを忘れて怒鳴り散らす。
「ははっ。でも、そういうことだろう。適齢期の男に見惚れ、そいつに力を貸す。それが器に選ばれるということなんだよな」
萌音は面白いねえとにやにや笑いながら、冷静さを欠く俺を楽しんでいる。一方、俺はまだ心中複雑だったが
「そうなるんでしょうね。先に悟明に惚れたはずなのに、俺にも惚れたようです」
何とかそう返した。
結局のところ、あの力の暴走に関係しているのは姫神そのものだ。そこに籠姫山の石があったことが媒介となり、姫神は俺を見つけたということらしい。
「でも、これだけで総てが解決したわけじゃないです。それに、俺はますます姫神教会に近付けないことになる。器として認められたという話が本当ならば、悟明は俺を捕まえ、器として捧げようとするはずですからね」
そのことを知っていて俺を呼び出したはずだ。そして、本当に適合するのかを確認した。というのが、前回のお茶会だったのだ。ということは、悟明は姫神が俺に興味を持っていることを知っているということか。
「帝が話されたと言っているのだから、会話は可能なのだろう」
萌音はにやにやと笑いながら訊いてくる。
「みたいですね。俺は何度か儀式に立ち会っていますが、不思議体験はしていないので断言はできませんけど」
俺はむすっとした顔で返す。もしもそんな体験をしていたら、儀式を古臭いものとすることもなかったし、南夏家を飛び出すこともなかった。
「ふうむ。そう考えると、それすら姫神の意思と考えたくなるな」
「えっ」
「お前の心情を読むことなんて、不思議な力を持つ姫神様ならば可能だろう。だったら、自分が話しかけなければ、お前が飛び出すことなんて見通せたのではないか。そして、南夏家当主はその姫神の意思を感じ取っていたのではないか」
「なっ」
俺はどこまで騙されまくっているんだ。いや、他人の掌の上で踊らされているんだ。
本日二度目の絶句&フリーズタイムに突入してしまう。
「くくっ。つまりこの展開は姫神によって運命づけられていたということだな」
「……」
へなへなと、膝から力が抜けていくのを感じる。そのままぺたんっと床に座り込んでいた。
えっと、もしも全部が姫神の企みなのだとすれば、俺はどうすればいいんだ。
まさか本当に姫神の器になってしまうのか?
いやいや、それだとこの国が滅亡してしまうではないか。
ん? ひょっとして俺、姫神の生け贄にされようとしているとか?
この男をくれてやるから、もう少し我慢しておけ、みたいな。
「えっ」
「えっ? じゃないよ。肝心なところで呆けてどうする。南夏家が姫神の意図通りに動いていたとしても、姫神復活に加担するわけはないだろ。ということは、お前にその解決を託したってことだな」
「は?」
人間、想像もしていないことが起こると語彙力が死ぬ。
俺は平然と見下ろしてくる上司に、何を言ってるんだというニュアンスで訊き返していた。
「ぐう」
イジメてくる。帝がイジメてくる。それも萌音と違い、なんだか胃のあたりがしくしくしてくるイジメ方だ。
「おかげで姫神の反応は良かったのだろう。お前の中に入り込み、力を暴走させようとしたってことだ」
「は?」
胃痛の次は頭痛がしてきた。
俺は今、一体何に巻き込まれているのだろう。昨日まで自信満々だった俺がどこか遠くに行ってしまった感覚に陥る。
「お前は姫神に気に入られたのだよ。それこそ、悟明以上にね。それはまあ、南夏家の血に惹かれたというのもあるだろうが、はっきりしていることは、お前は姫神の器になり得るということだ」
「――」
悟明が俺を欲しがる理由。それが、まさかの帝から提示されることになるのだった。
「大問題じゃねえか」
「大問題ですよ。だから速攻で軍部にチクってるんです」
「チクってるって言うなよ」
王宮から戻るや否や、俺は萌音の部屋へと駆け込み、帝との会話を総てぶちまけていた。
正直、一人では抱えきれない問題だった。となれば、信頼できる上司を巻き込むのは当然というところだろう。
「それにしても、姫神の器になる男か。それってまぐわうってことか」
「ま、まぐわ」
「簡単に言えば性交」
「簡単に言い換えなくても解ります!」
なんていうストレートな表現に言い換えてくれるんだ。俺は相手が上官だということを忘れて怒鳴り散らす。
「ははっ。でも、そういうことだろう。適齢期の男に見惚れ、そいつに力を貸す。それが器に選ばれるということなんだよな」
萌音は面白いねえとにやにや笑いながら、冷静さを欠く俺を楽しんでいる。一方、俺はまだ心中複雑だったが
「そうなるんでしょうね。先に悟明に惚れたはずなのに、俺にも惚れたようです」
何とかそう返した。
結局のところ、あの力の暴走に関係しているのは姫神そのものだ。そこに籠姫山の石があったことが媒介となり、姫神は俺を見つけたということらしい。
「でも、これだけで総てが解決したわけじゃないです。それに、俺はますます姫神教会に近付けないことになる。器として認められたという話が本当ならば、悟明は俺を捕まえ、器として捧げようとするはずですからね」
そのことを知っていて俺を呼び出したはずだ。そして、本当に適合するのかを確認した。というのが、前回のお茶会だったのだ。ということは、悟明は姫神が俺に興味を持っていることを知っているということか。
「帝が話されたと言っているのだから、会話は可能なのだろう」
萌音はにやにやと笑いながら訊いてくる。
「みたいですね。俺は何度か儀式に立ち会っていますが、不思議体験はしていないので断言はできませんけど」
俺はむすっとした顔で返す。もしもそんな体験をしていたら、儀式を古臭いものとすることもなかったし、南夏家を飛び出すこともなかった。
「ふうむ。そう考えると、それすら姫神の意思と考えたくなるな」
「えっ」
「お前の心情を読むことなんて、不思議な力を持つ姫神様ならば可能だろう。だったら、自分が話しかけなければ、お前が飛び出すことなんて見通せたのではないか。そして、南夏家当主はその姫神の意思を感じ取っていたのではないか」
「なっ」
俺はどこまで騙されまくっているんだ。いや、他人の掌の上で踊らされているんだ。
本日二度目の絶句&フリーズタイムに突入してしまう。
「くくっ。つまりこの展開は姫神によって運命づけられていたということだな」
「……」
へなへなと、膝から力が抜けていくのを感じる。そのままぺたんっと床に座り込んでいた。
えっと、もしも全部が姫神の企みなのだとすれば、俺はどうすればいいんだ。
まさか本当に姫神の器になってしまうのか?
いやいや、それだとこの国が滅亡してしまうではないか。
ん? ひょっとして俺、姫神の生け贄にされようとしているとか?
この男をくれてやるから、もう少し我慢しておけ、みたいな。
「えっ」
「えっ? じゃないよ。肝心なところで呆けてどうする。南夏家が姫神の意図通りに動いていたとしても、姫神復活に加担するわけはないだろ。ということは、お前にその解決を託したってことだな」
「は?」
人間、想像もしていないことが起こると語彙力が死ぬ。
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