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第19話 ぞわっとする感覚
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「それならば頼もしい。よろしく頼む。とりあえず、飯を食いながら打ち合わせといこうか」
俺がそう言うと、二人はほっとした顔になった。どうやら素人が口を出すなと一蹴されると考えていたらしい。
「イメージ悪すぎだろ」
「それは君の日頃の態度が悪いせいだろ」
「うるせえ」
しっかり俺の心情を読んでるんじゃねえ。俺は貴明をど突くと、本日の日替わり定食であるサバの味噌煮定食を受け取り、空いているスペースへと移動した。三人も昼食を取ってきたから、どうやら俺の話が終わるのを待っていたようだ。
「上層部は」
「勝手にやってくれ、だってよ。呪術は専門外だし、俺だけが狙われているのならば、やりやすいって感じ。何かあればすぐに軍を動かしてくれるが、それまでは手出しできないってわけだな」
サバの味噌煮を口に放り込みながら、完全に手をこまねいているって感じだなと渋い顔をしてしまう。
萌音としても、内部の情報まで掴んでいるのだから動けるだろうと踏んで、あの会議に臨んだはずだ。しかし、それを逆に貴族四家に利用され、俺が単独で調査することになってしまった。それだけ、単純にテロ組織として扱えない組織なのだ。
ではなぜ単純にテロ組織として扱えないのか。それこそ、俺があの教会で感じ取ったことが原因だ。少なくとも、どういう形であるかは不明であるものの、奴らは姫神の力を得ることに成功している。そして、王家や南夏家とは相反する形で利用している。この事実が発覚すれば、国民に動揺が走るのは想像に難くない。
「つまり、奴らは今、国家を転覆できるだけの力を持っているってわけだ」
「ははあ。そりゃあ壮大な陰謀が必要になるな」
俺の説明に、貴明は嫌だ嫌だと苦笑する。しかし、女子二人は思った以上に壮大な話に固まってしまっていた。
「上手くいけば国を救った英雄だが、俺の力が暴走し、姫神教会がそれを利用できるとなると、真逆の大罪人になることになる。動くにはより慎重さが求められるところだな。光琳、七宝、お前らも気持ち悪さを感じられるのならば、注意しろ。奴らは呪力を増幅させることが出来る。何がきっかけでお前らの中にある呪力が開花するか、解ったものではないからな」
「は、はい」
「あの」
頷くだけの希鈴と違い、蛍は質問ですと軽く右手を挙げた。少佐の地位まで上り詰めているだけあって、度胸が備わっている。
「なんだ」
「呪力を増幅させることが出来るのならば、彼らはどうして今までそのことを掴ませずに動くことが出来たのでしょう。もちろん、先ほどのお話から、南夏家本家が何か掴んでいたのは解ります。しかし、大佐の身に起こったことは、今まで誰からも報告されていない、特殊事例なのではないですか。不快や気持ち悪さは感じていたものの、それ以上のことは誰にも起こっていないのではないですか」
「――」
その指摘に、俺は答えるべき言葉がなかった。実際、俺も自分だけに起こったのではと疑っている。だからこそ悟明はあえて教会に招き、俺の反応を窺ったと考えられるからだ。
「でも、二人もぞわっとするんだろ」
黙り込んだ俺に代わって、貴明が質問をした。貴明自身は全く何も感じ取れなかったから、この会話の根本部分から問うことが出来る。
「はい。ぞわっとします。でもそれは、なんて言うんでしょう。生存本能に関わることという感じですね。力が増幅したり暴走したりというよりも、ここにいてはいけないという、危機感のようなものです。ね、希鈴ちゃん」
「ええ。まるで虎を前にしたかのような気分になります」
「ははあ」
虎を前にしたことがあるのか。と訊ねたいのを堪え、貴明はなるほどねと一応は納得した。つまり、あの場所にいては死ぬかもしれないと思う何かがあるというわけか。
「しかも、教会には近づかなくても、あの人形。軒先に吊るされているあの人形からもたまに感じるんです。かなり気持ち悪い存在ですよ、姫神教会は」
「それは本当か?」
あの人形に関して、それほど調べていない。しかし、あれ自体にも何か仕組まれているとしたら、俺の危険度はさらに上がったことになる。
俺がそう言うと、二人はほっとした顔になった。どうやら素人が口を出すなと一蹴されると考えていたらしい。
「イメージ悪すぎだろ」
「それは君の日頃の態度が悪いせいだろ」
「うるせえ」
しっかり俺の心情を読んでるんじゃねえ。俺は貴明をど突くと、本日の日替わり定食であるサバの味噌煮定食を受け取り、空いているスペースへと移動した。三人も昼食を取ってきたから、どうやら俺の話が終わるのを待っていたようだ。
「上層部は」
「勝手にやってくれ、だってよ。呪術は専門外だし、俺だけが狙われているのならば、やりやすいって感じ。何かあればすぐに軍を動かしてくれるが、それまでは手出しできないってわけだな」
サバの味噌煮を口に放り込みながら、完全に手をこまねいているって感じだなと渋い顔をしてしまう。
萌音としても、内部の情報まで掴んでいるのだから動けるだろうと踏んで、あの会議に臨んだはずだ。しかし、それを逆に貴族四家に利用され、俺が単独で調査することになってしまった。それだけ、単純にテロ組織として扱えない組織なのだ。
ではなぜ単純にテロ組織として扱えないのか。それこそ、俺があの教会で感じ取ったことが原因だ。少なくとも、どういう形であるかは不明であるものの、奴らは姫神の力を得ることに成功している。そして、王家や南夏家とは相反する形で利用している。この事実が発覚すれば、国民に動揺が走るのは想像に難くない。
「つまり、奴らは今、国家を転覆できるだけの力を持っているってわけだ」
「ははあ。そりゃあ壮大な陰謀が必要になるな」
俺の説明に、貴明は嫌だ嫌だと苦笑する。しかし、女子二人は思った以上に壮大な話に固まってしまっていた。
「上手くいけば国を救った英雄だが、俺の力が暴走し、姫神教会がそれを利用できるとなると、真逆の大罪人になることになる。動くにはより慎重さが求められるところだな。光琳、七宝、お前らも気持ち悪さを感じられるのならば、注意しろ。奴らは呪力を増幅させることが出来る。何がきっかけでお前らの中にある呪力が開花するか、解ったものではないからな」
「は、はい」
「あの」
頷くだけの希鈴と違い、蛍は質問ですと軽く右手を挙げた。少佐の地位まで上り詰めているだけあって、度胸が備わっている。
「なんだ」
「呪力を増幅させることが出来るのならば、彼らはどうして今までそのことを掴ませずに動くことが出来たのでしょう。もちろん、先ほどのお話から、南夏家本家が何か掴んでいたのは解ります。しかし、大佐の身に起こったことは、今まで誰からも報告されていない、特殊事例なのではないですか。不快や気持ち悪さは感じていたものの、それ以上のことは誰にも起こっていないのではないですか」
「――」
その指摘に、俺は答えるべき言葉がなかった。実際、俺も自分だけに起こったのではと疑っている。だからこそ悟明はあえて教会に招き、俺の反応を窺ったと考えられるからだ。
「でも、二人もぞわっとするんだろ」
黙り込んだ俺に代わって、貴明が質問をした。貴明自身は全く何も感じ取れなかったから、この会話の根本部分から問うことが出来る。
「はい。ぞわっとします。でもそれは、なんて言うんでしょう。生存本能に関わることという感じですね。力が増幅したり暴走したりというよりも、ここにいてはいけないという、危機感のようなものです。ね、希鈴ちゃん」
「ええ。まるで虎を前にしたかのような気分になります」
「ははあ」
虎を前にしたことがあるのか。と訊ねたいのを堪え、貴明はなるほどねと一応は納得した。つまり、あの場所にいては死ぬかもしれないと思う何かがあるというわけか。
「しかも、教会には近づかなくても、あの人形。軒先に吊るされているあの人形からもたまに感じるんです。かなり気持ち悪い存在ですよ、姫神教会は」
「それは本当か?」
あの人形に関して、それほど調べていない。しかし、あれ自体にも何か仕組まれているとしたら、俺の危険度はさらに上がったことになる。
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