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第18話 なんかせいや

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「なるほどね。御当主はそのあたりも考慮しているということか」
 亜弾がくくっと笑うので、俺は反射的にむすっとした顔をしてしまう。これが最初から仕組まれたことだったとしても、姫神教会の動きまで読んでいるのは非常に腹が立つ。
「ということは、父は何か情報を掴んでいる?」
「としても、言わねえだろ」
 萌音は聞くだけ無駄だと一蹴した。軍部のトップとしてずっと姫神教会を警戒してきただけに、その言葉には実感が籠っている。つまり、俺が掴んだこの情報さえ、今まで軍部は掴めないままだったということだ。
「しかし、ここまで放置した責任は南夏家にもあるはずでしょう。この馬鹿大佐のことは横に置いておいても、今まで何ら策を取らず、さらに籠姫山への侵入を許したことに対して、何らかの情報公開があってしかるべきです」
「そう言っても聞く奴じゃないよ。な、馬鹿大佐」
「その名称を広めようとするのは止めてください。まあ、父がこちらに情報を渡さないのは、今までのことを考えると当然のように思います。ともかく、姫神教会は危険すぎる。しかも呪力を暴走させる方法を知っているとなると、こちらが手出しできないのも当然というところです。それに、まだまだ疑問も多いです。あの力の暴走を感じるのが本当に南夏家だけなのか。そして南夏家の全員が反応するものなのか。そこが不思議なんですよね」
 俺はどうにもまだ掴めないことばかりだと首を捻る。あれだけ大きな教会が、城門の外とはいえ存在して、どうして今まで何も感じなかったのだろうか。それともあれは、籠姫山と同じだからか。
「ううん」
「お前が悩んでいるようじゃ、こっちもどうしようもねえな。とりあえず、お前には貴明の他に誰か付ける必要があるな。十和田、やるか」
「嫌です」
「即答!」
 考える様子もなく嫌だと言い切る亜弾に、俺は思わずツッコミ。それに亜弾は冷たい視線を向けると
「呪術合戦に巻き込まれたくない」
 と、端的な理由を述べてくれる。
「俺だって嫌ですよ。っていうか、呪術が嫌だから軍部に来たのに」
 それに対して、俺は一言言わずにはおれなかった。古臭いしきたりを振り切りたくてここにやって来た。それが実は陰謀の結果で、さらに呪術合戦を制することになるなど、微塵も想像していなかったのだ。
「南夏家からは逃れられないということだな。貴族四家に生まれた時点で諦めろ」
「ひどっ」
 亜弾は何を言われても俺は関わらないと、頑なに拒否してくれる。くそっ、いつもならば口うるさい男が、今回に至っては何も言わないうえに首を突っ込まないと断言するだなんて。
「なんかせいや。その名前のとおり、何とかしろ」
 さらに一番言われたくない嫌味を言われる羽目になるのだった。



「聖夜。大丈夫か。お前の周りだけ雨が降っているかのようだぞ」
 萌音の報告を終えて、そのままよろよろと食堂へとやって来た俺に向けて、そんなことを言ってくれるのは貴明だ。その貴明の横には少佐の光琳蛍こうりんほたると軍曹の七宝希鈴しっぽうきりんの姿がある。どちらも小柄な可愛い系女子で、軍部では人気の美少女たちだ。新人募集のキャンペーンには必ず駆り出されることで有名である。
「おう、貴明。お前はいいな。両手に花で」
「ふふっ、羨ましいか。と言いたいところだが、彼女たちは君の武勇伝を聞きたいらしいよ」
「へっ」
 俺がどういうことだと目を丸くすると
「南夏大佐。どうぞ私を、姫神教会の捜査の一員に加えてください」
 蛍がそう申し出てきた。それに合わせて
「私もお願いします」
 と希鈴も訴えてくる。
「ええっと」
 しかし、これは俺にとって意外な申し出だった。さっき亜弾にきっぱり断られたように、この件に自ら望んで首を突っ込みたい奴なんていないんじゃないかと思っていた。それだけにびっくりだ。
「彼女たち、今まで黙っていたけど、姫神教会の捜査をするたびにぞわっとした感覚を味わったことがあるらしい」
 困っている俺に、貴明がそう耳打ちしてくる。なるほど、それでこの申し出なのか。悟明と同様、どういうわけか呪力を得ている人間というわけだ。
 しかし、彼女たちは使いこなすまではいっていない。しかしそれでも、教会の、あの石が持つ呪力には過敏に反応しているというわけだ。
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