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第17話 欲しいのは?
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「ええっと、つまりここにいると呪力が使えるようになるってこと」
そんな睨み合う二人を見て、どういうことなんだと貴明が質問を挟んできた。まったく呪力のない貴明には、ここまでの言い合いが何一つ実感のないものなのだ。
「いや、無理だろう」
「そうですね。才能に左右される部分はあります」
そんな貴明への答えは、俺と悟明で少し違った。俺はぎろりと睨み、まさか本当に分け与えられるのかと疑問を抱く。
「ええっと」
「今は無理です。しかし、南夏聖夜さん。あなたがいれば、今まで以上に多くの人が呪力の恩恵に与れることになる」
戸惑う貴明に答えた悟明が、これこそ、あなたをここに招いた理由ですよと、今までにない、邪悪な笑みを浮かべてくれる。
「俺の力が目的、というわけか」
くくっと、俺も負けずと笑い、ここから無事に脱出できるのかが問題かと、次のことを考える羽目になる。暴走するかと思っていた呪力は、姫神の石から遠のいたせいか、それとも何か仕掛けがあるのか、凪いだように落ち着いていた。
「大丈夫です。この場で何か無理強いするつもりはありませんよ」
「ほう」
「なぜなら、あなたはもう、ここが凄まじい呪力の発生源であることを知っている。絶対に無視できない」
なるほど。それで余裕があるのか。俺は本気でこの悟明が、姫神教会が怖くなっていた。
確かにこれだけの呪力の暴走を起こさせる場所、無視できるわけがない。しかし、南夏家特有のこの感覚を軍部で共有することが難しいのだ。それは横にいる貴明が未だに何が起こっているのか解らないという顔をしていることで解る。
「俺がまたここに戻って来ると?」
「ええ。事実、あなたはここが不可解で仕方ないでしょう。そして、南夏家の人間として、解明せずにはいられないはずです。まあ、それがなかった場合は、強制的にお連れすることになりますけどね」
悟明は目的を告げたからだろう。先ほどまでのような柔和な笑顔を浮かべることなく、俺を挑発してくれる。
「ははっ。やれるものならやってみろ」
俺は一人で調査することはないからなと、その挑発を受け流す。しかし、悟明はそれは無理でしょうと言いい
「調査はあなたの責任で行われることになっている」
と、内部情報を掴んでいることをしれっと開示してくる。
「面倒臭い案件がさらに面倒臭くなりやがったぜ」
俺はこの場では何もないことに安心し、ついそうぼやいてしまうのだった。
「奴らがお前を欲しがる、か。それは一体どういうことなんだ?」
悟明とのお茶会を終えた翌日、俺の報告に萌音は顔を顰めた。さらに横にいた大将のインテリ眼鏡タイプの十和田亜弾も
「お前の力が暴走しかかったことと、あいつらがお前らを欲しがることは因果関係があるんだろうが、どうしたいんだ?」
萌音と同じ疑問をより詳しく言ってくれる。
「解りません」
それに対して、俺の答えは明確だ。奴らの目的は解らない。それしか言えない。
あの後も穏やかとは言えないお茶会が続き、あれこれ姫神教会について会話を交わしたものの、俺を欲しがる理由は見えてこなかった。
そもそも、俺はあそこに長くいると、姫神のように教会を破壊していたはずだ。それなのに、取り込もうとする理由が解らない。いや、姫神の顕現として使いたいのだろうが、その代償は大き過ぎる。
「そうだな。お前が暴走し、姫神の力が本物だと証明することは可能だろう。だが、その力をコントロールできなければ意味がない。さらに言えば、破壊が姫神の力だと解って、信仰している連中は付いて来るのか」
萌音は不可解だと顔を顰める。それは俺も感じていることなので、同意しますと頷いた。しかし、あの不思議な分断した礼拝堂と事務所を考えると、コントロールする術はすでにあるのかもしれない。
「南夏家の人間ならば誰でもいいんじゃないのか」
そこに亜弾が、他は警戒しなくていいのかと訊いてくる。が、これは問題ない。日々、姫神の封印の祭事に追われる南夏家は、こうやって自由に出歩く時間はないのだ。つまり、唯一軍部にいる俺だけが、捕まえるチャンスのある人間ということになる。
そんな睨み合う二人を見て、どういうことなんだと貴明が質問を挟んできた。まったく呪力のない貴明には、ここまでの言い合いが何一つ実感のないものなのだ。
「いや、無理だろう」
「そうですね。才能に左右される部分はあります」
そんな貴明への答えは、俺と悟明で少し違った。俺はぎろりと睨み、まさか本当に分け与えられるのかと疑問を抱く。
「ええっと」
「今は無理です。しかし、南夏聖夜さん。あなたがいれば、今まで以上に多くの人が呪力の恩恵に与れることになる」
戸惑う貴明に答えた悟明が、これこそ、あなたをここに招いた理由ですよと、今までにない、邪悪な笑みを浮かべてくれる。
「俺の力が目的、というわけか」
くくっと、俺も負けずと笑い、ここから無事に脱出できるのかが問題かと、次のことを考える羽目になる。暴走するかと思っていた呪力は、姫神の石から遠のいたせいか、それとも何か仕掛けがあるのか、凪いだように落ち着いていた。
「大丈夫です。この場で何か無理強いするつもりはありませんよ」
「ほう」
「なぜなら、あなたはもう、ここが凄まじい呪力の発生源であることを知っている。絶対に無視できない」
なるほど。それで余裕があるのか。俺は本気でこの悟明が、姫神教会が怖くなっていた。
確かにこれだけの呪力の暴走を起こさせる場所、無視できるわけがない。しかし、南夏家特有のこの感覚を軍部で共有することが難しいのだ。それは横にいる貴明が未だに何が起こっているのか解らないという顔をしていることで解る。
「俺がまたここに戻って来ると?」
「ええ。事実、あなたはここが不可解で仕方ないでしょう。そして、南夏家の人間として、解明せずにはいられないはずです。まあ、それがなかった場合は、強制的にお連れすることになりますけどね」
悟明は目的を告げたからだろう。先ほどまでのような柔和な笑顔を浮かべることなく、俺を挑発してくれる。
「ははっ。やれるものならやってみろ」
俺は一人で調査することはないからなと、その挑発を受け流す。しかし、悟明はそれは無理でしょうと言いい
「調査はあなたの責任で行われることになっている」
と、内部情報を掴んでいることをしれっと開示してくる。
「面倒臭い案件がさらに面倒臭くなりやがったぜ」
俺はこの場では何もないことに安心し、ついそうぼやいてしまうのだった。
「奴らがお前を欲しがる、か。それは一体どういうことなんだ?」
悟明とのお茶会を終えた翌日、俺の報告に萌音は顔を顰めた。さらに横にいた大将のインテリ眼鏡タイプの十和田亜弾も
「お前の力が暴走しかかったことと、あいつらがお前らを欲しがることは因果関係があるんだろうが、どうしたいんだ?」
萌音と同じ疑問をより詳しく言ってくれる。
「解りません」
それに対して、俺の答えは明確だ。奴らの目的は解らない。それしか言えない。
あの後も穏やかとは言えないお茶会が続き、あれこれ姫神教会について会話を交わしたものの、俺を欲しがる理由は見えてこなかった。
そもそも、俺はあそこに長くいると、姫神のように教会を破壊していたはずだ。それなのに、取り込もうとする理由が解らない。いや、姫神の顕現として使いたいのだろうが、その代償は大き過ぎる。
「そうだな。お前が暴走し、姫神の力が本物だと証明することは可能だろう。だが、その力をコントロールできなければ意味がない。さらに言えば、破壊が姫神の力だと解って、信仰している連中は付いて来るのか」
萌音は不可解だと顔を顰める。それは俺も感じていることなので、同意しますと頷いた。しかし、あの不思議な分断した礼拝堂と事務所を考えると、コントロールする術はすでにあるのかもしれない。
「南夏家の人間ならば誰でもいいんじゃないのか」
そこに亜弾が、他は警戒しなくていいのかと訊いてくる。が、これは問題ない。日々、姫神の封印の祭事に追われる南夏家は、こうやって自由に出歩く時間はないのだ。つまり、唯一軍部にいる俺だけが、捕まえるチャンスのある人間ということになる。
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