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第16話 御霊石
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教会の奥へと進むと、そこから印象ががらりと変わり、王宮らしい雰囲気になっていた。古めかしく懐かしい雰囲気にほっとする。そこには文机が並び、書類が積みあがる事務所らしい空間が広がっていた。
それに拍子抜けすると同時に、身体を渦巻いていた呪力が落ち着くのを感じる。どうやら力の磁場がおかしくなっているのは、礼拝堂とその手前だけのようだ。
しかし、これはどういうことだろう。説明のつかない状況に、今度は心理的に不安になる。俺は悟明をますます睨み付けていたが
「こちらへ」
畳敷きの応接間へと通され、一先ず腰を落ち着けることになった。すぐに事務所にいた神官の一人が、三人分のお茶を持って来て、それぞれの前に置いて去って行く。
「南夏さんからすると、ここはとても不思議でしょう」
ずずっとお茶を一口啜ってから、悟明はいかがですかと、わざとらしく確認して来る。俺はそれに対して、一度深く息を吐き出してから
「確かに不思議だな」
感情を廃し、冷静な声音で答えた。
一体こんな体験をさせたのはどういう意図があるのか。それがまだ見えない。そして、どうしてこんなことが起こるのか。本当にここに姫神の影響があるのか。解らないことが多すぎた。
「ここは姫神が御座します籠姫山から、御霊石を運び出して建てておりますからね。直接力が流れ込んでくるのは当然なんですよ。特に、修行を積んだ者ならば、すぐに感知できます」
「なっ」
「あそこから」
悟明の説明に俺だけでなく貴明も驚いた声を上げた。
それはそうだ。あの山は難所であるだけでなく、登ることが固く禁じられている。それを見張るために、王家が作った神殿がその登山口を塞ぐように建てられているほどだ。それを、密かに登っただけでなく、石を持ち出しただと。
「なるほど。だから礼拝堂とその手前だけで、あれだけ呪力が乱れるのか」
しかし、今の話で一つ納得することがあった。それは呪力の暴走だ。それが起こった理由が、持ち出された石にあるのは間違いない。そしてその石は、石造りの外壁に使われているわけだ。
だが、今いる事務所は木をふんだんに使った、昔ながらの建物だ。王宮らしく感じるのも、昔ながらの造りを感じるせいだ。畳敷きのこの間はまだ近代的だが、それでも、障子に襖で仕切られた空間は、見慣れたものである。
「石が本物であることは、ご理解いただけたようですね」
悟明は俺の表情から、自分の言葉を納得したのだと知り、より笑顔になる。その反応に、少し意外な気がした俺だ。
「お前も呪力が使えるのならば、気持ち悪さは感じないのか」
そう、これだ。もしも呪力が使え、姫神を傍に感じることが出来るのならば、本堂やその手前で平然としていられるのはどういうことだ。これは長年修行を積んだとしても、克服できるとは思えない。
「ふふっ。それは我々が南夏家の人間でも、王家の人間でもないから、としか説明できませんね。むしろ、私からすれば南夏さんの苦しそうな反応が理解できません。ここには多くの姫神の気が満ち、非常に自分が安定するのを感じます。そしてその力を、多くの方々に分け与えなければという気持ちになるのです」
「何だと」
理解できない。俺は今度こそ本気で顔を顰めていた。もちろん、悟明の言うように、封じることに全力を注ぐ自分たちでは不快なこの力も、単純に呪力が使えるだけの人間には心地いいというのは、何となくだが理解できる。しかし、それを分け与えたいというのは理解不能だ。
「そう、分け与えたいんです」
どこに疑問を持ったのか、悟明はしっかりと理解している。そして、嘘偽りではないと主張してくるのだ。だが、それが俺の脳の奥をひりひりと刺激する。
「嘘だな。そんなはずない」
あえて、何の根拠もないことを言ってみる。ただの感覚的な否定だ。だから、悟明は笑顔になるだけで何も言わなかった。
それに拍子抜けすると同時に、身体を渦巻いていた呪力が落ち着くのを感じる。どうやら力の磁場がおかしくなっているのは、礼拝堂とその手前だけのようだ。
しかし、これはどういうことだろう。説明のつかない状況に、今度は心理的に不安になる。俺は悟明をますます睨み付けていたが
「こちらへ」
畳敷きの応接間へと通され、一先ず腰を落ち着けることになった。すぐに事務所にいた神官の一人が、三人分のお茶を持って来て、それぞれの前に置いて去って行く。
「南夏さんからすると、ここはとても不思議でしょう」
ずずっとお茶を一口啜ってから、悟明はいかがですかと、わざとらしく確認して来る。俺はそれに対して、一度深く息を吐き出してから
「確かに不思議だな」
感情を廃し、冷静な声音で答えた。
一体こんな体験をさせたのはどういう意図があるのか。それがまだ見えない。そして、どうしてこんなことが起こるのか。本当にここに姫神の影響があるのか。解らないことが多すぎた。
「ここは姫神が御座します籠姫山から、御霊石を運び出して建てておりますからね。直接力が流れ込んでくるのは当然なんですよ。特に、修行を積んだ者ならば、すぐに感知できます」
「なっ」
「あそこから」
悟明の説明に俺だけでなく貴明も驚いた声を上げた。
それはそうだ。あの山は難所であるだけでなく、登ることが固く禁じられている。それを見張るために、王家が作った神殿がその登山口を塞ぐように建てられているほどだ。それを、密かに登っただけでなく、石を持ち出しただと。
「なるほど。だから礼拝堂とその手前だけで、あれだけ呪力が乱れるのか」
しかし、今の話で一つ納得することがあった。それは呪力の暴走だ。それが起こった理由が、持ち出された石にあるのは間違いない。そしてその石は、石造りの外壁に使われているわけだ。
だが、今いる事務所は木をふんだんに使った、昔ながらの建物だ。王宮らしく感じるのも、昔ながらの造りを感じるせいだ。畳敷きのこの間はまだ近代的だが、それでも、障子に襖で仕切られた空間は、見慣れたものである。
「石が本物であることは、ご理解いただけたようですね」
悟明は俺の表情から、自分の言葉を納得したのだと知り、より笑顔になる。その反応に、少し意外な気がした俺だ。
「お前も呪力が使えるのならば、気持ち悪さは感じないのか」
そう、これだ。もしも呪力が使え、姫神を傍に感じることが出来るのならば、本堂やその手前で平然としていられるのはどういうことだ。これは長年修行を積んだとしても、克服できるとは思えない。
「ふふっ。それは我々が南夏家の人間でも、王家の人間でもないから、としか説明できませんね。むしろ、私からすれば南夏さんの苦しそうな反応が理解できません。ここには多くの姫神の気が満ち、非常に自分が安定するのを感じます。そしてその力を、多くの方々に分け与えなければという気持ちになるのです」
「何だと」
理解できない。俺は今度こそ本気で顔を顰めていた。もちろん、悟明の言うように、封じることに全力を注ぐ自分たちでは不快なこの力も、単純に呪力が使えるだけの人間には心地いいというのは、何となくだが理解できる。しかし、それを分け与えたいというのは理解不能だ。
「そう、分け与えたいんです」
どこに疑問を持ったのか、悟明はしっかりと理解している。そして、嘘偽りではないと主張してくるのだ。だが、それが俺の脳の奥をひりひりと刺激する。
「嘘だな。そんなはずない」
あえて、何の根拠もないことを言ってみる。ただの感覚的な否定だ。だから、悟明は笑顔になるだけで何も言わなかった。
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