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第15話 呪力の暴走
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「あっ、あれか」
と、そこで教会の姿が見えてきて、貴明がほっとした様子で呟く。俺も前方へと目を戻し、その異様な建物に驚いた。
どっしりとした石造りの建物というだけで、この国では珍しい。その屋根は瓦葺きで、単純な鉄筋コンクリート造りとは一線を画していた。二階建ての、それでいて広さを感じさせる建物に、不思議と胸がざわつくのを感じる。
「っつ」
これはあってはならないものだ。そう本能が訴え掛けてきているかのようだ。信じられないことに、破壊衝動が膨れ上がる。
「大丈夫ですか?」
「――ええ」
今すぐ破壊したいという、これまでにない呪術が暴走しそうな感覚を覚えながらも、俺は何とか表情を変えずに頷いた。とはいえ、呪力が暴れていることは、同じく呪術が使えるこの男にはバレていることだろう。
「ここは姫神様の呪力を多く宿す場所ですからね。南夏さんにとっては、びっくりする場所でしょう」
何が起こっているのか解らずに困惑している貴明に向けて、悟明がそんな説明をする。しかし、俺の中に渦巻くのはそんな生易しいものではなかった。
「お前らは、ここで何をしているんだ?」
思わず詰問口調で訊ねてしまう。それに悟明は僅かに微笑むと
「姫神様への忠誠を誓い、そのために日々修行に励んでいるだけですよ」
しれっとそう言ってくれる。
「姫神への忠誠」
俺はその言葉を繰り返し、吐き気がした。この身体に刷り込まれているものと相反する。それがこれほど気持ち悪いものだとは思いもしなかった。
「聖夜、大丈夫か」
「ああ」
貴明は引き返すかと腰の刀に手を宛がいながら訊いてくるが、俺はここで引けばこいつらの思う壺だと拒否する。だが、中に入って呪力が暴走しないのかという不安があるのは事実だ。
「どうする?」
「ヤバいと判断したら俺を斬れ」
「ええっ!?」
「急所は外せよ」
「いや、そういう問題じゃないだろ」
なんてことを言うんだと驚く貴明だが、俺はマジだった。
ここの気の乱れは半端ではない。呪力が強制的に表に出てくる。よって、ヤバいと判断する状況では、俺の力が暴走してどうしようもない状態ということだ。姫神神話の二の舞にならないためには、戦闘不能状態にしてもらうしかない。
「信じてるぞ」
「そんな信頼は要らないよ」
貴明の嘆きは無視して、ここまでのヒソヒソ話を容認していた悟明を見る。悟明はそれににこりと笑うだけで
「それではどうぞ」
と何事もなかったかのように教会の中へと招き入れた。
「くっ」
中に入ると、当然のように呪力の暴走が強くなる。しかし、自分の身体が慣れてきたのか、それを発動したいとは思わなくなっていた。小さい頃、呪術の鍛錬は苦痛でしかなかったが、今は厳しく訓練してくれた聖嗣に感謝するしかない。
「ほう」
教会というだけあって、入ってすぐは礼拝堂になっていた。板張りの間は広々としており、堂の奥、一段高くなった場所には姫神を象った神像が安置されている。神像の横には花が供えられ、手前には野菜や米といった供物も捧げられている。
「ここで毎日、朝と夜に我々は祈りを捧げております。それにより、我々は安定して呪力を使うことが出来るのです」
独特の印を組み、神像に参拝する悟明は誇らしげだ。が、その行為を見た俺の心は、またざわざわと騒ぎ始める。これほど乱されるのは、生まれてから初めてのことだ。それだけ、南夏家にとって姫神は封じる対象だということだ。
「お話はあちらで。どうぞ」
聡明は冷や汗を浮かべる俺に満足そうな笑顔を向け、さらに奥へと案内して来る。貴明は引き返すべきではという顔をもう一度したが、俺はそれを拒否した。
こうなったら、とことん付き合ってやる。
で、力が暴走したら、その時は軍部と南夏家の出番だ。ここがヤバい場所だというのは、俺の暴走で証明される。そうなれば、根回しなんて面倒なことを言っていられなくなるだろう。
と、そこで教会の姿が見えてきて、貴明がほっとした様子で呟く。俺も前方へと目を戻し、その異様な建物に驚いた。
どっしりとした石造りの建物というだけで、この国では珍しい。その屋根は瓦葺きで、単純な鉄筋コンクリート造りとは一線を画していた。二階建ての、それでいて広さを感じさせる建物に、不思議と胸がざわつくのを感じる。
「っつ」
これはあってはならないものだ。そう本能が訴え掛けてきているかのようだ。信じられないことに、破壊衝動が膨れ上がる。
「大丈夫ですか?」
「――ええ」
今すぐ破壊したいという、これまでにない呪術が暴走しそうな感覚を覚えながらも、俺は何とか表情を変えずに頷いた。とはいえ、呪力が暴れていることは、同じく呪術が使えるこの男にはバレていることだろう。
「ここは姫神様の呪力を多く宿す場所ですからね。南夏さんにとっては、びっくりする場所でしょう」
何が起こっているのか解らずに困惑している貴明に向けて、悟明がそんな説明をする。しかし、俺の中に渦巻くのはそんな生易しいものではなかった。
「お前らは、ここで何をしているんだ?」
思わず詰問口調で訊ねてしまう。それに悟明は僅かに微笑むと
「姫神様への忠誠を誓い、そのために日々修行に励んでいるだけですよ」
しれっとそう言ってくれる。
「姫神への忠誠」
俺はその言葉を繰り返し、吐き気がした。この身体に刷り込まれているものと相反する。それがこれほど気持ち悪いものだとは思いもしなかった。
「聖夜、大丈夫か」
「ああ」
貴明は引き返すかと腰の刀に手を宛がいながら訊いてくるが、俺はここで引けばこいつらの思う壺だと拒否する。だが、中に入って呪力が暴走しないのかという不安があるのは事実だ。
「どうする?」
「ヤバいと判断したら俺を斬れ」
「ええっ!?」
「急所は外せよ」
「いや、そういう問題じゃないだろ」
なんてことを言うんだと驚く貴明だが、俺はマジだった。
ここの気の乱れは半端ではない。呪力が強制的に表に出てくる。よって、ヤバいと判断する状況では、俺の力が暴走してどうしようもない状態ということだ。姫神神話の二の舞にならないためには、戦闘不能状態にしてもらうしかない。
「信じてるぞ」
「そんな信頼は要らないよ」
貴明の嘆きは無視して、ここまでのヒソヒソ話を容認していた悟明を見る。悟明はそれににこりと笑うだけで
「それではどうぞ」
と何事もなかったかのように教会の中へと招き入れた。
「くっ」
中に入ると、当然のように呪力の暴走が強くなる。しかし、自分の身体が慣れてきたのか、それを発動したいとは思わなくなっていた。小さい頃、呪術の鍛錬は苦痛でしかなかったが、今は厳しく訓練してくれた聖嗣に感謝するしかない。
「ほう」
教会というだけあって、入ってすぐは礼拝堂になっていた。板張りの間は広々としており、堂の奥、一段高くなった場所には姫神を象った神像が安置されている。神像の横には花が供えられ、手前には野菜や米といった供物も捧げられている。
「ここで毎日、朝と夜に我々は祈りを捧げております。それにより、我々は安定して呪力を使うことが出来るのです」
独特の印を組み、神像に参拝する悟明は誇らしげだ。が、その行為を見た俺の心は、またざわざわと騒ぎ始める。これほど乱されるのは、生まれてから初めてのことだ。それだけ、南夏家にとって姫神は封じる対象だということだ。
「お話はあちらで。どうぞ」
聡明は冷や汗を浮かべる俺に満足そうな笑顔を向け、さらに奥へと案内して来る。貴明は引き返すべきではという顔をもう一度したが、俺はそれを拒否した。
こうなったら、とことん付き合ってやる。
で、力が暴走したら、その時は軍部と南夏家の出番だ。ここがヤバい場所だというのは、俺の暴走で証明される。そうなれば、根回しなんて面倒なことを言っていられなくなるだろう。
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