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第14話 桜宮悟明
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「変な兄弟を持つと苦労するんだな」
「ひどっ。そういう聖夜って一人っ子」
「いや、妹がいるよ。っていうか、一人っ子だったら軍部に入るとか許されるわけないじゃん」
「だよねえ。じゃあ、この二年間、表向きは妹さんが南夏家を継ぐってことになってたんだ」
「ああ」
表向きという言葉にイラっとしたが、父の聖嗣の態度を見る限り、まだ完全に妹を次期当主に指名したわけではなさそうだった。というか、指名していたらそれこそ本当に勘当となり、家への出入りが許可されるはずがない。
「今日無事に生きて帰れても、面倒事が目白押しだぜ」
「ははっ。それは自業自得ってことで」
「何だとっ」
俺がふざけて貴明に殴り掛かろうとした時
「これはこれは。お待たせしてしまったようですね。申し訳ございません」
貴明より少し低い、落ち着いた声音が耳に飛び込んできた。そちらに目を向けると、白い着物に黒の袴という出で立ちの男がいた。背は高く、すらっとしている。そして柔和な笑みを浮かべていた。
「あんたが」
「はい。桜宮悟明です、南夏様」
「ほう」
俺は殴り掛かろうとした手で貴明の軍服の襟首を掴み、悟明と並べてみる。すると、びっくりするくらい似ていなかった。
「似てねえ」
「それ、しょっちゅう言われるんだよね。兄弟の中で俺だけ母さん似なんだ。お兄ちゃんと姉上は父さん似だからねえ」
「ほう」
そう言われてみると、悟明の顔は確かに萌音に似ていた。目なんてそっくりだ。
「ははっ。私が桜宮家の人間であることは納得して頂けましたか」
そこまでのやり取りを黙って見ていた悟明が、くすりと笑ってそう訊ねてきた。少しは感情の乱れが見られるかと思ったが、それさえないとは呪術師としては素晴らしい。俺はますます面倒だと思いつつも
「疑ってたわけじゃないさ。むしろこいつの方が桜宮の人間なのか疑わしい」
俺は貴明の襟首をぐりんっと引っ張って言っておいた。
「ひどっ」
「なるほど。それは少し同意します」
「なんでお兄ちゃんまで同意してんの?」
あっさり頷いた悟明に、貴明はおかしいでしょと全力でツッコミを入れる。それからやれやれと溜め息を吐くと
「どうやらお兄ちゃん一人みたいだね」
周囲には誰もいないことを確認する。この男もふざけながらちゃんと周囲を確認していたのだ。
「それはもちろん。私の目的は南夏様とお茶をすることですから」
「ああ。その堅苦しい言い方止めてくれないか。お茶するなら尚更、その口調は止めてもらいたい」
俺はわざとらしくてイライラすると、あえて不快感を隠さずに言った。しかし、それに悟明は気を悪くする様子もなく
「それもそうですね。とはいえ、いきなり丁寧語を取り払うのも如何かと思いますので、徐々にということで」
と、しれっと言ってくれる。
「ま、それもそうだな。とはいえ、俺も口調を改める気はねえぞ」
「こちらが呼び出している立場ですから、どうぞ、ご自由になさってください」
「ふん」
こうしてついに、俺たちは姫神教会へと案内されることになった。悟明が先を歩きそれについて森の中に入るのだが、普段は森に近付くことのない俺たちは、どうしても緊張してしまう。
「ここらに危険はありませんよ」
そう悟明は言うが、これは本能の問題なので、そう簡単に警戒心を解くことは出来ない。つい腰の刀に手が伸びてしまう。とはいえ、森の中に危険がないだろうことも頭では理解していた。
教会までの道はちゃんと整備され、木々も適度に剪定されている。周囲も見通しがよく、襲撃される可能性は少ないと考えられる。
「ここは一般信者も通る道ですからね。特に安全を配慮しています」
俺の視線に気づき、悟明がそう説明した。
「ということは、他にも教会に行く道があるということか」
「ええ。とはいえ、それは教会の近くに住居を構える者たちの私道ですよ」
「ふうん」
頷きつつも、思った以上に厄介だなと俺は再び周囲に目を向ける。この近くに住むとはどういうものなのか。家の類が見えないだけに、まだまだ教会の実態を掴むには程遠いのだと気づく。
「ひどっ。そういう聖夜って一人っ子」
「いや、妹がいるよ。っていうか、一人っ子だったら軍部に入るとか許されるわけないじゃん」
「だよねえ。じゃあ、この二年間、表向きは妹さんが南夏家を継ぐってことになってたんだ」
「ああ」
表向きという言葉にイラっとしたが、父の聖嗣の態度を見る限り、まだ完全に妹を次期当主に指名したわけではなさそうだった。というか、指名していたらそれこそ本当に勘当となり、家への出入りが許可されるはずがない。
「今日無事に生きて帰れても、面倒事が目白押しだぜ」
「ははっ。それは自業自得ってことで」
「何だとっ」
俺がふざけて貴明に殴り掛かろうとした時
「これはこれは。お待たせしてしまったようですね。申し訳ございません」
貴明より少し低い、落ち着いた声音が耳に飛び込んできた。そちらに目を向けると、白い着物に黒の袴という出で立ちの男がいた。背は高く、すらっとしている。そして柔和な笑みを浮かべていた。
「あんたが」
「はい。桜宮悟明です、南夏様」
「ほう」
俺は殴り掛かろうとした手で貴明の軍服の襟首を掴み、悟明と並べてみる。すると、びっくりするくらい似ていなかった。
「似てねえ」
「それ、しょっちゅう言われるんだよね。兄弟の中で俺だけ母さん似なんだ。お兄ちゃんと姉上は父さん似だからねえ」
「ほう」
そう言われてみると、悟明の顔は確かに萌音に似ていた。目なんてそっくりだ。
「ははっ。私が桜宮家の人間であることは納得して頂けましたか」
そこまでのやり取りを黙って見ていた悟明が、くすりと笑ってそう訊ねてきた。少しは感情の乱れが見られるかと思ったが、それさえないとは呪術師としては素晴らしい。俺はますます面倒だと思いつつも
「疑ってたわけじゃないさ。むしろこいつの方が桜宮の人間なのか疑わしい」
俺は貴明の襟首をぐりんっと引っ張って言っておいた。
「ひどっ」
「なるほど。それは少し同意します」
「なんでお兄ちゃんまで同意してんの?」
あっさり頷いた悟明に、貴明はおかしいでしょと全力でツッコミを入れる。それからやれやれと溜め息を吐くと
「どうやらお兄ちゃん一人みたいだね」
周囲には誰もいないことを確認する。この男もふざけながらちゃんと周囲を確認していたのだ。
「それはもちろん。私の目的は南夏様とお茶をすることですから」
「ああ。その堅苦しい言い方止めてくれないか。お茶するなら尚更、その口調は止めてもらいたい」
俺はわざとらしくてイライラすると、あえて不快感を隠さずに言った。しかし、それに悟明は気を悪くする様子もなく
「それもそうですね。とはいえ、いきなり丁寧語を取り払うのも如何かと思いますので、徐々にということで」
と、しれっと言ってくれる。
「ま、それもそうだな。とはいえ、俺も口調を改める気はねえぞ」
「こちらが呼び出している立場ですから、どうぞ、ご自由になさってください」
「ふん」
こうしてついに、俺たちは姫神教会へと案内されることになった。悟明が先を歩きそれについて森の中に入るのだが、普段は森に近付くことのない俺たちは、どうしても緊張してしまう。
「ここらに危険はありませんよ」
そう悟明は言うが、これは本能の問題なので、そう簡単に警戒心を解くことは出来ない。つい腰の刀に手が伸びてしまう。とはいえ、森の中に危険がないだろうことも頭では理解していた。
教会までの道はちゃんと整備され、木々も適度に剪定されている。周囲も見通しがよく、襲撃される可能性は少ないと考えられる。
「ここは一般信者も通る道ですからね。特に安全を配慮しています」
俺の視線に気づき、悟明がそう説明した。
「ということは、他にも教会に行く道があるということか」
「ええ。とはいえ、それは教会の近くに住居を構える者たちの私道ですよ」
「ふうん」
頷きつつも、思った以上に厄介だなと俺は再び周囲に目を向ける。この近くに住むとはどういうものなのか。家の類が見えないだけに、まだまだ教会の実態を掴むには程遠いのだと気づく。
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