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第9話 箝口令

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「姫神教会の連中が使える呪術がどれくらいか、これを先に知りたいところだな」
 俺はやれやれと思いながらも、姫神教会の手掛かりを掴むべく街中を進み始めた。が、こちらは軍服を着ている上に帯刀している。一般民衆は俺たちの姿を見るだけで家の中に引っ込んでしまうほどだ。
「凄い嫌われようだ」
「軍が上手く機能しているって言って欲しいね」
 俺の揶揄をすぐに貴明が訂正してくる。しかし、その顔は半笑いであり、過剰な反応に辟易していることが見て取れる。
「テロのせいか」
「うん。テロを起こすのは一般民衆であり、その一般民衆はテロリストである姫神教会を支持しているからね。捕まえたり殺したりしている俺たちを嫌ってて当然なんだよ。目の敵にされるってわけ」
 姫神の復活がヤバいなんて知らないからね、と貴明は付け加える。
「知らない? しかし、昔話として耳にしたことはあるだろう。寺子屋なんかでも教えているのではないのか」
 俺は全く知らないってことはないだろうと顔を顰める。すると貴明は
「昔話としては知っていても、実感はないさ。俺も同じ。ただ、呪術家の南夏家がいるのを知っているし、帝が細心の注意を払っていることを知っているから、ヤバいことは理解しているってだけだよ」
 と、俺との間隔のずれを教えてくれる。
 なるほど、呪術が使えず、しかも姫神の怖さを知らない者からすれば、遠い昔のおとぎ話でしかないというわけか。そのくせ、その姫神に縋るというのはどういうことだろう。
「信仰するのと信じるのは別さ。一般市民は心の拠り所に出来るのならば、それこそイワシの頭でもいいんだよ。姫神教会が力をつけ、民衆がそれを受け入れたから、姫神が救ってくれると信じているだけ」
 難しく考える必要はないよと貴明は苦笑する。
「それはそうなんだろうけど、悪い。姫神は信じるべからずで生きている俺からすると、仮に誰かが救われると言ったからといって信じる気持ちが理解できないんだ。それはたぶん、俺が呪術を使えるから、なんだろうな。こんな恐ろしい力の、それも最大出力を出せる驚異の存在。俺はそう実感している。だから、二度と復活させてはならないと考えられるんだけど」
「なるほど。面白いね。南夏家の意見なんてそう簡単に聞けないから、そういうものなのかと驚かされる」
 貴明は茶化すようにそう言うが、彼は呪術の怖さを知っている。実感もしている。そして、身近にいて欲しくないことも知っているのだ。
「俺のこと、怖くないのか」
 だから思わず、そんな質問をしていた。すると貴明は今更それを聞くのと驚いてくれる。
「悪かったな、今更で。っていうか、軍部の中でも南夏家が呪術が使えるなんて知っている奴は少ないだろ。じゃなきゃ、馬鹿みたいにケンカを売って来るはずがない。負けるって解ってるだろってツッコミを入れたくなる」
「はは、まあね」
 貴族のお坊ちゃんが遊び半分で軍部に首を突っ込むな。それも大佐だなんてふざけるな。
 そんな意見は、俺が入った二年前は軍部のあちこちに渦巻いていた。そして実際、ケンカを売って来る奴が後を絶たなかった。
 その全部を俺が返り討ちにしたことにより、下手にケンカを売って来るものはいなくなったが、今でも陰口を叩く奴はいる。しかし、それは翻せば俺が呪術を使えないと思っているから出来ることだ。
「帝が呪術を使えることは知られていても、南夏家が補助をしていることは一般にまで知られていない。これもまた、軍に入ってびっくりしたことだったな」
 俺がしみじみと呟くと
「そういうもんなんじゃない? 桜宮家が貴族だった事実だって、今では知らない奴の方が大半だもん。どこかで情報が伏せられ、語る人がいなくなると忘れられるものなんだよ。その点が姫神とは違う」
「なるほどね」
 人口に膾炙しなければ、事実も忘れ去られてしまう。それを、南夏家も桜宮家も利用しているのだろう。徹底した箝口令により、多くの人の記憶から消し去ることに成功したというわけだ。
 と、こんな大胆な話が出来るのも、徹底的に人々が自分たちを避けるせいだ。おかげで誰かから姫神教会について情報を得るなんていう聞き込み捜査は出来ず、そのまま南の一番端、貧民街まで歩いていた。
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