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第8話 呪術=破壊する力
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「確かにただの貴族じゃ知り得ない情報だよね。呪術師がいることは知っているだろうけど、兄のことや呪術の話は南夏家も知らないと思う」
貴明は軍部の地道な調査の結果だから気にするなと言うが、事はそういう問題ではないのだ。これは南夏家そのものを揺さぶる、大問題である。
「――呪術の基本は壊す力だ」
「へっ?」
唐突な俺の言葉に、貴明は目を丸くする。しかし、俺は腕を組んだまま、ちょっと聞けと質問を阻んだ。
「呪術は確かに神秘的な力だ。多くは説明できないことが多い。しかし、その中心にあるのは壊す力。現状を変えたいという力なんだよ」
「ほう」
「そしてそれを逆流させることで封印は完成する。守りに関する呪術は総て、打ち破る、破壊する力の反作用なんだ。つまり、俺たちの力の大本は姫神と同じであり、南夏家は姫神の直系の血を引くとまで言われている」
「えっ?」
唐突に語られたにしては、あまりに不穏な話だ。これって聞いてよかったのと貴明は目に見えて慌て始める。
「大丈夫だ。元帥様がどうにかしてくれるさ。それはともかく、姫神がこの国を破壊したと言われるように、呪術の基本は破壊なんだ。もしも本当に姫神教会の連中が呪術を習得し、それが姫神からもたらされたものだと言うのならば」
「破壊する力を得ていることになる」
「その通りだ」
俺の頷きに、思ったよりヤバいじゃんと貴明の顔もマジになった。しかもその呪術の系統は完全に南夏家と一致することになる。
「なるほど。すぐに潰したいのに潰せないはずだ。軍部としてはお前の兄貴のことがあるから、さっさとなかったことにしたいのだろうけれども、貴族は黙っちゃいない」
どうしてこんな搦手のような陰謀を用いたのか、今はっきりした。これは南夏家に大きく関わる案件過ぎるのだ。そして、こっそり捜査するわけにもいかないほど、姫神教会は大きくなっている。
「ははっ、なるほどね」
徐々に理解できた俺は思わずわらってしまう。かつて「なんかせいや」とからかわれた頃のことを思い出す。
「俺にしか出来ないことがやって来た」
にやりと笑う俺に、貴明は溜め息を吐くと
「微力ながら協力させてもらうよ。どうやらこの件、桜宮家もがっつり絡んでいるようだからね」
調査の補助に入ることを決めたのだった。
翌日。俺は貴明と連れ立って、都の中を巡回していた。咲夜国はほぼこの城壁で囲まれた都の範囲しか存在しない。城壁の外に田畑がある農民も、夜には城壁の中にある家に戻って来るほどだ。
そんな城壁の外、さらに田畑の外側は深い森になっている。東西南北、どちらに進んでも森だ。さらに北側には標高三五〇〇メートルを誇る霊峰・籠姫山があり、越えることの出来ない難所として立ちはだかっている。
まさに閉じた空間。それは咲夜国だ。そんな場所だから、見て回るのは簡単である。しかし、そんな狭く閉じた空間も、真ん中で大きく分割されている。町の中心を東西に走る大路で分断され、さらに北側には城壁が築かれているのだ。その北側は貴族や軍部の人間が住み、王宮も存在する、いわば高級住宅街である。商店や娯楽施設も北側に存在するが、それらは貴族や軍部を相手にする、いわば御用達の連中ばかりである。
「久々に南側まで来たな」
だから、城壁を越えて貴明がそう呟いてしまうように、普段、一般庶民が住む南側にやって来ることがない。南側も城壁に近い場所に金持ちが住み、南に行くほど貧民街になっているほどだ。
「出来るだけ安全に調査したいものだが」
「無理でしょ。姫神教会の多くは貧民が信仰しているんだよ。さらに姫神教会の本部である教会は城壁の外。安全は一切保証されていない」
俺の言葉に無茶苦茶言ってるよと貴明が茶化してくる。ふむ、自覚しているのならば問題ない。
「自分の身は自分で守れよ」
「呪術以外ならばね」
「ああ」
それはそうだなと俺は頷く。一般人では呪術攻撃に対応できない。それほど、呪術とは扱い難いものなのだ。
貴明は軍部の地道な調査の結果だから気にするなと言うが、事はそういう問題ではないのだ。これは南夏家そのものを揺さぶる、大問題である。
「――呪術の基本は壊す力だ」
「へっ?」
唐突な俺の言葉に、貴明は目を丸くする。しかし、俺は腕を組んだまま、ちょっと聞けと質問を阻んだ。
「呪術は確かに神秘的な力だ。多くは説明できないことが多い。しかし、その中心にあるのは壊す力。現状を変えたいという力なんだよ」
「ほう」
「そしてそれを逆流させることで封印は完成する。守りに関する呪術は総て、打ち破る、破壊する力の反作用なんだ。つまり、俺たちの力の大本は姫神と同じであり、南夏家は姫神の直系の血を引くとまで言われている」
「えっ?」
唐突に語られたにしては、あまりに不穏な話だ。これって聞いてよかったのと貴明は目に見えて慌て始める。
「大丈夫だ。元帥様がどうにかしてくれるさ。それはともかく、姫神がこの国を破壊したと言われるように、呪術の基本は破壊なんだ。もしも本当に姫神教会の連中が呪術を習得し、それが姫神からもたらされたものだと言うのならば」
「破壊する力を得ていることになる」
「その通りだ」
俺の頷きに、思ったよりヤバいじゃんと貴明の顔もマジになった。しかもその呪術の系統は完全に南夏家と一致することになる。
「なるほど。すぐに潰したいのに潰せないはずだ。軍部としてはお前の兄貴のことがあるから、さっさとなかったことにしたいのだろうけれども、貴族は黙っちゃいない」
どうしてこんな搦手のような陰謀を用いたのか、今はっきりした。これは南夏家に大きく関わる案件過ぎるのだ。そして、こっそり捜査するわけにもいかないほど、姫神教会は大きくなっている。
「ははっ、なるほどね」
徐々に理解できた俺は思わずわらってしまう。かつて「なんかせいや」とからかわれた頃のことを思い出す。
「俺にしか出来ないことがやって来た」
にやりと笑う俺に、貴明は溜め息を吐くと
「微力ながら協力させてもらうよ。どうやらこの件、桜宮家もがっつり絡んでいるようだからね」
調査の補助に入ることを決めたのだった。
翌日。俺は貴明と連れ立って、都の中を巡回していた。咲夜国はほぼこの城壁で囲まれた都の範囲しか存在しない。城壁の外に田畑がある農民も、夜には城壁の中にある家に戻って来るほどだ。
そんな城壁の外、さらに田畑の外側は深い森になっている。東西南北、どちらに進んでも森だ。さらに北側には標高三五〇〇メートルを誇る霊峰・籠姫山があり、越えることの出来ない難所として立ちはだかっている。
まさに閉じた空間。それは咲夜国だ。そんな場所だから、見て回るのは簡単である。しかし、そんな狭く閉じた空間も、真ん中で大きく分割されている。町の中心を東西に走る大路で分断され、さらに北側には城壁が築かれているのだ。その北側は貴族や軍部の人間が住み、王宮も存在する、いわば高級住宅街である。商店や娯楽施設も北側に存在するが、それらは貴族や軍部を相手にする、いわば御用達の連中ばかりである。
「久々に南側まで来たな」
だから、城壁を越えて貴明がそう呟いてしまうように、普段、一般庶民が住む南側にやって来ることがない。南側も城壁に近い場所に金持ちが住み、南に行くほど貧民街になっているほどだ。
「出来るだけ安全に調査したいものだが」
「無理でしょ。姫神教会の多くは貧民が信仰しているんだよ。さらに姫神教会の本部である教会は城壁の外。安全は一切保証されていない」
俺の言葉に無茶苦茶言ってるよと貴明が茶化してくる。ふむ、自覚しているのならば問題ない。
「自分の身は自分で守れよ」
「呪術以外ならばね」
「ああ」
それはそうだなと俺は頷く。一般人では呪術攻撃に対応できない。それほど、呪術とは扱い難いものなのだ。
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