7 / 42
第7話 桜宮家の問題児
しおりを挟む
この二点をはっきりさせておかないと、動き方をミスる可能性がある。俺を動かせばいいと、そう判断したのならば、やはり四年ほど前ということになる。その頃から俺は次期当主として、帝への拝謁が出来るようになり、さらに南夏家の行う祭事も手伝うようになっていた。そして、この閉塞感が嫌だと感じ始めていた。
「姫神、か」
閉塞感の原因の一つがこれだ。ひょっとしたら、俺がこちらに興味を持つことにも賭けていたのかもしれない。その場合、すんなり姫神教会の調査をさせたのだろう。ところが、俺の行動は予想外に突飛で、軍部を経由することになった。
「そっちが素直か」
俺は軍部に入ったことまで親父の手の上ではなかったと気づき、一先ず安心する。しかし、その後の無理が通ったこと、元帥の萌音の態度から推測するに、聖嗣が先回りしたということか。
「ああ、やっぱり腹が立つ」
どう考えても聖嗣の影がちらつき、俺はみそ汁を一気飲みすることで何とか誤魔化すしかないのだった。
会議室に行くと、貴明は萌音から資料をもらって用意しておいてくれた。その抜け目なさに色んな思いが去来するが、これ以上イライラしていても前に進まない。俺は素直にその飼料へと目を通すことにした。その中には、あの会議で示された組織図もあった。
姫神教会の組織はしっかりとしたもので、トップは教皇、その次が枢機卿、さらに司祭、神主、呪術師、一般信者という構成になっていた。名称のごちゃごちゃ感は気になるところだが、役割分担がしっかりなされている。
「おい。司祭のところに桜宮悟明って名前があるぞ」
「ああ。それ、俺のお兄ちゃん」
「は?」
関係者なのかと問い詰めようとしたら、あっさり明かされてしまった。それも兄だって。俺は目が点になり、それから
「スパイか」
と訊ねる。俺の逆パターンと考えるのが妥当だ。すると、貴明はそれだったらよかったんだけどねえと苦笑する。
「違う?」
俺のようなケースがあるだろうと、嵌められたばかりなので疑いの目を向けてしまう。すると貴明はマジでないんだと真顔になる。
「本気で裏切っているのか?」
「そう。悟明の場合は何があっても陰謀じゃないんだ。あの人の性格は俺にも把握できない、困ったものなんだよねえ。姉上への反発ってのもあるんだろうけど、ともかく破壊衝動の強い人って感じ」
「ふうむ」
全く想像できん。軍部を司る桜宮家は、かつて貴族だったことから解るように、昔から国の中枢にいる家だ。その中から仮に破壊衝動の強い者が生まれたとして、野放しにするのは不自然だった。
「お兄ちゃんは殺せないよ」
俺の考えが解ったようで、貴明は肩を竦める。
「どうしてだ。軍を司る一族だぞ」
「だからさ。悟明は唯一、呪術を使える」
「なっ」
それは確かに、普通の武術しか修めていないものには手に余る相手だ。だが、呪術は南夏家が独占状態だ。どうやって使いこなせるまでになったのか。
「そこに姫神教会が絡んでくるんだよ。彼らの中には呪術を使える人間が多数いる。それどころか、呪術で軍部に対抗するための呪術師なんて階級があるほどだ。これね」
そう言って貴明は表の真ん中を指差した。そこには確かに呪術師と記されている。
「マジで使えるのか」
そういう名称を使っているだけではなく? これは俺には衝撃だった。
もちろん呪術を南夏家が独占しているとはいえ、他にも使える人間がいることは解っている。そういう者を、南夏家では雇い入れているほどだ。しかし、国に敵対するような組織の中に、それほどの者がいるとは驚かされる。
「彼らの場合は、南夏家と違って姫神から分け与えられた力だとしているね。南夏家は封印の力であり、古代から続くものだと言われてるでしょ。でも、姫神教会は違う。封印を解こうとしている我らに姫神が味方し、力を分け与えたのだと主張している」
「マジか」
想像以上にややこしい組織じゃねえか。俺は思わず前髪を掻き毟る。知りたいと思っていた外とは、これほどまでに複雑怪奇なのか。いや、これは外というより内の問題だ。
「姫神、か」
閉塞感の原因の一つがこれだ。ひょっとしたら、俺がこちらに興味を持つことにも賭けていたのかもしれない。その場合、すんなり姫神教会の調査をさせたのだろう。ところが、俺の行動は予想外に突飛で、軍部を経由することになった。
「そっちが素直か」
俺は軍部に入ったことまで親父の手の上ではなかったと気づき、一先ず安心する。しかし、その後の無理が通ったこと、元帥の萌音の態度から推測するに、聖嗣が先回りしたということか。
「ああ、やっぱり腹が立つ」
どう考えても聖嗣の影がちらつき、俺はみそ汁を一気飲みすることで何とか誤魔化すしかないのだった。
会議室に行くと、貴明は萌音から資料をもらって用意しておいてくれた。その抜け目なさに色んな思いが去来するが、これ以上イライラしていても前に進まない。俺は素直にその飼料へと目を通すことにした。その中には、あの会議で示された組織図もあった。
姫神教会の組織はしっかりとしたもので、トップは教皇、その次が枢機卿、さらに司祭、神主、呪術師、一般信者という構成になっていた。名称のごちゃごちゃ感は気になるところだが、役割分担がしっかりなされている。
「おい。司祭のところに桜宮悟明って名前があるぞ」
「ああ。それ、俺のお兄ちゃん」
「は?」
関係者なのかと問い詰めようとしたら、あっさり明かされてしまった。それも兄だって。俺は目が点になり、それから
「スパイか」
と訊ねる。俺の逆パターンと考えるのが妥当だ。すると、貴明はそれだったらよかったんだけどねえと苦笑する。
「違う?」
俺のようなケースがあるだろうと、嵌められたばかりなので疑いの目を向けてしまう。すると貴明はマジでないんだと真顔になる。
「本気で裏切っているのか?」
「そう。悟明の場合は何があっても陰謀じゃないんだ。あの人の性格は俺にも把握できない、困ったものなんだよねえ。姉上への反発ってのもあるんだろうけど、ともかく破壊衝動の強い人って感じ」
「ふうむ」
全く想像できん。軍部を司る桜宮家は、かつて貴族だったことから解るように、昔から国の中枢にいる家だ。その中から仮に破壊衝動の強い者が生まれたとして、野放しにするのは不自然だった。
「お兄ちゃんは殺せないよ」
俺の考えが解ったようで、貴明は肩を竦める。
「どうしてだ。軍を司る一族だぞ」
「だからさ。悟明は唯一、呪術を使える」
「なっ」
それは確かに、普通の武術しか修めていないものには手に余る相手だ。だが、呪術は南夏家が独占状態だ。どうやって使いこなせるまでになったのか。
「そこに姫神教会が絡んでくるんだよ。彼らの中には呪術を使える人間が多数いる。それどころか、呪術で軍部に対抗するための呪術師なんて階級があるほどだ。これね」
そう言って貴明は表の真ん中を指差した。そこには確かに呪術師と記されている。
「マジで使えるのか」
そういう名称を使っているだけではなく? これは俺には衝撃だった。
もちろん呪術を南夏家が独占しているとはいえ、他にも使える人間がいることは解っている。そういう者を、南夏家では雇い入れているほどだ。しかし、国に敵対するような組織の中に、それほどの者がいるとは驚かされる。
「彼らの場合は、南夏家と違って姫神から分け与えられた力だとしているね。南夏家は封印の力であり、古代から続くものだと言われてるでしょ。でも、姫神教会は違う。封印を解こうとしている我らに姫神が味方し、力を分け与えたのだと主張している」
「マジか」
想像以上にややこしい組織じゃねえか。俺は思わず前髪を掻き毟る。知りたいと思っていた外とは、これほどまでに複雑怪奇なのか。いや、これは外というより内の問題だ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる