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第6話 疑い出したら切りがない
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「くそっ。まさかどでかい陰謀が俺の真横で展開されていたなんて。それに一切気づかなかったなんて。ムカつく!」
軍部に戻り、俺は昼飯の串カツ定食を掻き込みながら叫んでいた。それに、前の席を陣取っていた桜宮貴明はくすくすと笑ってくれる。
「姉上ならばやりかねないことだね。君って跳ね返りだし」
「ああっ!」
絶対にケンカ売ってるだろという言い方をしてくれる男だ。ちなみに名字で解るとおり、あの元帥様の親族であり、弟だ。年は俺と同じく十九歳。階級は俺の一つ下の中佐だ。
「しかし、貴族四家が絡む陰謀か。これはなかなか面白いね。日頃は傍観している北冬家まであっさり乗ったというのも面白いよ。姫神教会は軍部の上層部では問題視されているが、他には知られていないはずだった。なんせ、あまりに一般民衆に溶け込んでいることだからね。貴族様は気にしないだろうと思っていたんだけど」
「あれか。内政に問題を起こすほどに大きくなっていたってことか」
俺は串カツを齧りながら、なるほどねと険しい顔になる。
それまで取り立てて大きな問題ではなかった。テロ活動こそ目障りなものの、それは郡部で何とか出来る程度だった。というのが数年前までの出来事だろう。俺の軍部の入隊は二年前。その少し前から動きが怪しくなってきた、ということか。
「知りたがりの南夏聖夜君を軍部に送り込み、堂々と二つのパイプ役として動かす、か。父君はかなり意地悪な人だね」
真剣に検討する俺に向けて、貴明は優雅にコーヒーを飲みながら言ってくれる。実際、意地悪だ。いや、意地悪なんてものじゃないほど腹黒い。
「勘当するってのも、嘘偽りだったわけだよ。次期当主としての権利は未だ健在らしい」
「ははっ。今日から家への出入りも許可されたんだ」
「はんっ。当分戻る気はないけどな」
「もう、意地張ってもいい事ないぞ。ますます父君の手の上で踊らされるだけだ」
「うるせえ」
俺は思わず加えていた串を貴明に投げつける。が、軽い串はぽてっと貴明の空いた皿の上に落ちただけで終わる。なんだか虚しい。
「今、あの親父の顔を家で見た瞬間に抜刀しそうだ」
だが、これだけは言っておかなければならない。まず間違いなく、他人の目がない場所で聖嗣に会ったら、速攻で斬りかかっている。軍部の人間は常に帯刀するよう命じられている。それは家の中でも例外ではない。よって何が起こるか解らない。
「怖っ。それだけが唯一、父君の誤算かな」
「どうだか。それさえ読んでいる可能性もあるぜ。あの狸」
嵌め方が汚い。俺はあの会議を思い出し、拳をぷるぷると震わせる。何をしても奴の手の上のような気がして、イライラとする。
「まあまあ。見方を変えると、君がやりたかった何でも知りたい。何かしたいに繋がるわけだろ。しかも、調査に予算まで付いている状態だ。多少の無茶が出来る状況になったわけじゃないか」
「はっ。俺の不満を読み取ってやったぜって感じで、ますます納得できん」
「駄目だ。完全にネガティブになってる」
これは何を言っても無駄だねと貴明が両手を軽く挙げておどける。その格好に俺はますますムカついたものの
「ともかく、調査しなきゃならないんだ。だが、俺は親父のせいで姫神教会について何も知らない。だから、お前が教えろ」
と、丁度よく食堂で会ったのだから情報源になれと持ち掛ける。
「いいよ。じゃあ、食堂は拙いから、姉上に会議室を用意してもらおうか」
「はあ。なんか、そう聞くと、お前が俺の一つ下の階級なのも陰謀な気がする」
「ははっ」
疑い出したらきりがないというやつだ。貴明は苦笑すると、先に会議室を押さえてくるねと席を立つ。俺はそれに任せたと手を挙げ、残りを食べながら思案する。
一体どこから陰謀なのか。
姫神教会が問題視され始めたのはいつ頃なのか。
軍部に戻り、俺は昼飯の串カツ定食を掻き込みながら叫んでいた。それに、前の席を陣取っていた桜宮貴明はくすくすと笑ってくれる。
「姉上ならばやりかねないことだね。君って跳ね返りだし」
「ああっ!」
絶対にケンカ売ってるだろという言い方をしてくれる男だ。ちなみに名字で解るとおり、あの元帥様の親族であり、弟だ。年は俺と同じく十九歳。階級は俺の一つ下の中佐だ。
「しかし、貴族四家が絡む陰謀か。これはなかなか面白いね。日頃は傍観している北冬家まであっさり乗ったというのも面白いよ。姫神教会は軍部の上層部では問題視されているが、他には知られていないはずだった。なんせ、あまりに一般民衆に溶け込んでいることだからね。貴族様は気にしないだろうと思っていたんだけど」
「あれか。内政に問題を起こすほどに大きくなっていたってことか」
俺は串カツを齧りながら、なるほどねと険しい顔になる。
それまで取り立てて大きな問題ではなかった。テロ活動こそ目障りなものの、それは郡部で何とか出来る程度だった。というのが数年前までの出来事だろう。俺の軍部の入隊は二年前。その少し前から動きが怪しくなってきた、ということか。
「知りたがりの南夏聖夜君を軍部に送り込み、堂々と二つのパイプ役として動かす、か。父君はかなり意地悪な人だね」
真剣に検討する俺に向けて、貴明は優雅にコーヒーを飲みながら言ってくれる。実際、意地悪だ。いや、意地悪なんてものじゃないほど腹黒い。
「勘当するってのも、嘘偽りだったわけだよ。次期当主としての権利は未だ健在らしい」
「ははっ。今日から家への出入りも許可されたんだ」
「はんっ。当分戻る気はないけどな」
「もう、意地張ってもいい事ないぞ。ますます父君の手の上で踊らされるだけだ」
「うるせえ」
俺は思わず加えていた串を貴明に投げつける。が、軽い串はぽてっと貴明の空いた皿の上に落ちただけで終わる。なんだか虚しい。
「今、あの親父の顔を家で見た瞬間に抜刀しそうだ」
だが、これだけは言っておかなければならない。まず間違いなく、他人の目がない場所で聖嗣に会ったら、速攻で斬りかかっている。軍部の人間は常に帯刀するよう命じられている。それは家の中でも例外ではない。よって何が起こるか解らない。
「怖っ。それだけが唯一、父君の誤算かな」
「どうだか。それさえ読んでいる可能性もあるぜ。あの狸」
嵌め方が汚い。俺はあの会議を思い出し、拳をぷるぷると震わせる。何をしても奴の手の上のような気がして、イライラとする。
「まあまあ。見方を変えると、君がやりたかった何でも知りたい。何かしたいに繋がるわけだろ。しかも、調査に予算まで付いている状態だ。多少の無茶が出来る状況になったわけじゃないか」
「はっ。俺の不満を読み取ってやったぜって感じで、ますます納得できん」
「駄目だ。完全にネガティブになってる」
これは何を言っても無駄だねと貴明が両手を軽く挙げておどける。その格好に俺はますますムカついたものの
「ともかく、調査しなきゃならないんだ。だが、俺は親父のせいで姫神教会について何も知らない。だから、お前が教えろ」
と、丁度よく食堂で会ったのだから情報源になれと持ち掛ける。
「いいよ。じゃあ、食堂は拙いから、姉上に会議室を用意してもらおうか」
「はあ。なんか、そう聞くと、お前が俺の一つ下の階級なのも陰謀な気がする」
「ははっ」
疑い出したらきりがないというやつだ。貴明は苦笑すると、先に会議室を押さえてくるねと席を立つ。俺はそれに任せたと手を挙げ、残りを食べながら思案する。
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