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第5話 嵌められた!
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「ほう」
「これは」
瑞樹まで思わず声を上げたのには訳がある。それは姫神教会の内部組織図だった。構成員についてもしっかり把握されている。そんなものが出てくるとは、さすがに誰も想像していなかったらしい。
「地道な調査により、ここまで掴んでおります。証拠も十分。どうぞ、壊滅のために軍を動かす許可を頂きたい」
正確にはそれを実行するための予算だ。しかし、貴族当主四人の顔は難色を示しているのが手に取るように解った。
「壊滅させることは必要だろう」
聖嗣が、今ではないとのニュアンスを含んだ言葉を呟く。
「影響が出ます。そのための対処が先でしょう」
美亜も予算の配分は別のところが先だと言い出す。俺はどういうことなのかと首を捻ってしまった。
テロをしている。姫神信仰をしている。この二つを理由に、すぐに排除すべきではないのか。
「おい、桜宮。部下の教育はちゃんとしておけ」
そんな俺の反応に気づき、瑞樹が鋭い声で指摘する。さすがに俺もむっとなったものの
「こうして現場を見ることで理解できる奴です。現に一言も発言していないでしょう」
萌音がすぐに庇ってくれたので、無駄な発言は避けられた。
これだけ大物が揃っている会議だ。非公開であろうと、この会議は記録されている。余計なことを言えば、それがどこで足を引っ張るか解らない。それを知らない馬鹿ではない。
「ふん、まあな。顔は生意気だが――おっと、失礼。父君の前でしたな」
瑞樹はそう言って聖嗣に頭を下げる。ここまで自由に発言できるのは宰相故だが、下手に火種は作らないに越したことはない。
「別に構いませんよ。私はこやつに何も教えていませんでしたからね」
それに対し、聖嗣はやれやれという顔をして言ってくれる。やはり意図的に情報を隠していたというわけか。しかし、それは何故だ。
「なるほど。あまりに影響が大きな問題だ。これほどあちこちに首を突っ込みたがる息子に、情報を与えないのも一理ある。そして今、こうして軍部としてこの情報を得たお前は何をするのか。それが重要になるな」
だが、瑞樹がいち早く聖嗣の意図に気づき、俺を見ながら挑発するように言ってくれる。
ふうむ、試されているな。しかし、その挑発にすぐ乗るほど、俺の好奇心は安くない。それに、まだ問題が全く見えていないに等しい。
会議室の中に、僅かだが緊張が走っていた。その中で笑っているのは萌音くらいだ。
この流れも萌音は読んでいたのか。それで俺を同行させた。入隊してからこれまれの行動を見て、俺がテロ組織について知らないと判断した。
俺はどう答えるのが正しいのかと頭をフル回転させる羽目になった。ただ会議に同行するだけだったはずが、何やらとんでもないことに巻き込まれてしまったらしい。
「では、予算は付けましょう。ただし、それは調査のためです。軍事行動はまだ控えてください」
と、そこに二人の間に入るように北冬美亜の声が響いた。ここで行われていることのど真ん中、核だけを取り出しての発言に俺がビビってしまう。
「ほう、それならば構いません。私としても、まだ心許ない部分がありましたからね」
それに対し、真っ先に答えたのは萌音だ。俺は逃げ道を塞がれたと気づくが、反論できる状況にない。
「そうだな。仮にも南夏家が動くのならば問題あるまい」
「愚息ですが、結果を残すでしょう」
さらに瑞樹と聖嗣がそう言い出し、俺は確信した。
この会議は茶番だ。そして俺は、軍部に入ることさえこの父に嵌められていたのだ。
閉塞感を与えれば、俺が飛び出すと見込んでいたに違いない。
「ぐっ」
悔しさに歯軋りをするが、各家の当主を務めるまでに成り上がった連中に勝つ手段を、全く持ちえない。
「つ、謹んで拝命します」
拳がわななく中、俺は何とかその言葉だけを口から吐き出していた。
「これは」
瑞樹まで思わず声を上げたのには訳がある。それは姫神教会の内部組織図だった。構成員についてもしっかり把握されている。そんなものが出てくるとは、さすがに誰も想像していなかったらしい。
「地道な調査により、ここまで掴んでおります。証拠も十分。どうぞ、壊滅のために軍を動かす許可を頂きたい」
正確にはそれを実行するための予算だ。しかし、貴族当主四人の顔は難色を示しているのが手に取るように解った。
「壊滅させることは必要だろう」
聖嗣が、今ではないとのニュアンスを含んだ言葉を呟く。
「影響が出ます。そのための対処が先でしょう」
美亜も予算の配分は別のところが先だと言い出す。俺はどういうことなのかと首を捻ってしまった。
テロをしている。姫神信仰をしている。この二つを理由に、すぐに排除すべきではないのか。
「おい、桜宮。部下の教育はちゃんとしておけ」
そんな俺の反応に気づき、瑞樹が鋭い声で指摘する。さすがに俺もむっとなったものの
「こうして現場を見ることで理解できる奴です。現に一言も発言していないでしょう」
萌音がすぐに庇ってくれたので、無駄な発言は避けられた。
これだけ大物が揃っている会議だ。非公開であろうと、この会議は記録されている。余計なことを言えば、それがどこで足を引っ張るか解らない。それを知らない馬鹿ではない。
「ふん、まあな。顔は生意気だが――おっと、失礼。父君の前でしたな」
瑞樹はそう言って聖嗣に頭を下げる。ここまで自由に発言できるのは宰相故だが、下手に火種は作らないに越したことはない。
「別に構いませんよ。私はこやつに何も教えていませんでしたからね」
それに対し、聖嗣はやれやれという顔をして言ってくれる。やはり意図的に情報を隠していたというわけか。しかし、それは何故だ。
「なるほど。あまりに影響が大きな問題だ。これほどあちこちに首を突っ込みたがる息子に、情報を与えないのも一理ある。そして今、こうして軍部としてこの情報を得たお前は何をするのか。それが重要になるな」
だが、瑞樹がいち早く聖嗣の意図に気づき、俺を見ながら挑発するように言ってくれる。
ふうむ、試されているな。しかし、その挑発にすぐ乗るほど、俺の好奇心は安くない。それに、まだ問題が全く見えていないに等しい。
会議室の中に、僅かだが緊張が走っていた。その中で笑っているのは萌音くらいだ。
この流れも萌音は読んでいたのか。それで俺を同行させた。入隊してからこれまれの行動を見て、俺がテロ組織について知らないと判断した。
俺はどう答えるのが正しいのかと頭をフル回転させる羽目になった。ただ会議に同行するだけだったはずが、何やらとんでもないことに巻き込まれてしまったらしい。
「では、予算は付けましょう。ただし、それは調査のためです。軍事行動はまだ控えてください」
と、そこに二人の間に入るように北冬美亜の声が響いた。ここで行われていることのど真ん中、核だけを取り出しての発言に俺がビビってしまう。
「ほう、それならば構いません。私としても、まだ心許ない部分がありましたからね」
それに対し、真っ先に答えたのは萌音だ。俺は逃げ道を塞がれたと気づくが、反論できる状況にない。
「そうだな。仮にも南夏家が動くのならば問題あるまい」
「愚息ですが、結果を残すでしょう」
さらに瑞樹と聖嗣がそう言い出し、俺は確信した。
この会議は茶番だ。そして俺は、軍部に入ることさえこの父に嵌められていたのだ。
閉塞感を与えれば、俺が飛び出すと見込んでいたに違いない。
「ぐっ」
悔しさに歯軋りをするが、各家の当主を務めるまでに成り上がった連中に勝つ手段を、全く持ちえない。
「つ、謹んで拝命します」
拳がわななく中、俺は何とかその言葉だけを口から吐き出していた。
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