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第4話 貴族四家
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「おや。誰を伴っているのかと思えば、南夏家の問題児か」
嘲るような笑みを浮かべてそう言ってくれた。
「お久しぶりです」
が、俺はそんな安い挑発には乗らず、笑顔を浮かべて挨拶を返す。このぐらいの腹芸は、貴族であれば当たり前に出来ることだ。いちいちムカついていたら禿げる。
「ふん。相変わらず可愛げのない坊だ。まあいい。会議を始めよう。すでに北冬の連中は来ているはずだ」
瑞樹の言葉で、そう言えば予算の話だったなと思い出す俺だ。北冬家は財務を担当しており、予算は総てこの家の許可を得る必要がある。現当主の北冬美亜は謹厳実直な性格をした二十五歳の女性で、理由を明示できなければ宰相すら予算を通せないと専らの噂だった。つまり、現在の国家予算は非常に審査が厳しい。
「北冬が同席するならば、勝ったも同然だな」
にやりと萌音が笑う。瑞樹の干渉があったとしても、打ち勝つだけの証拠があるということだろう。
「面倒臭そうだな」
しかしそれなのに、瑞樹は口を出そうとしている。これは何かあるなと悟り、俺はにやにや笑ってしまうのだった。
会議室の中には意外にも、北冬美亜の他に二人いた。それもどちらも貴族のトップ。西秋家当主の西秋心海、さらに俺の家の当主、つまり父の南夏聖嗣だ。聖嗣は俺をちらりと見たが、すぐにふいっと視線を逸らせた。
勘当中の息子がいきなり目の前に現れたのだから当然の反応だろう。ちなみに四家当主の中で最も年上なのは心海で五十二歳。見た目は優しいおばさんだが、舐めてかかってはいけない。西秋は外交を担当しており、つまりは貴族の中で唯一、外の情報を持っている。ちなみに次が父の聖嗣で四十九。他は二十代という世代にばらつきがある構成だった。
「今日はまた、軍部がごり押ししようとしてますよ」
瑞樹は中に入ると、まず心海に挨拶してからそう言った。すると聖嗣がすぐに難しい顔になる。
その顔に俺が反感を抱いたのは当然で、つい眉を顰めてしまう。
「これ以上何をしようとしているんですか」
しかし、言葉を発したのは心海だ。その声は柔和だが、誤魔化しは出来ないぞという圧がある。軍部のごり押しは貴族の間でも有名なくらいだから、予算獲得でも何度か無理を通しているのだろう。萌音をちらっと見ると顔色一つ変えることなく
「テロ組織、姫神教会の壊滅です」
端的に目的を述べる。
なるほど、テロ組織にはそんな名前があるのか。それにしても姫神教会とは安直すぎないか。ここまではっきり姫神を信仰しているとなると、南夏家だけでは荷が重いのは確かだ。
「あの小生意気な組織か。最近では目立つ行動が多いな」
それに対して、聖嗣が知っていると難しい顔になった。
これに俺はおやっとなった。てっきりテロなんて軍部のせいと言い出すかと思ったが、しっかり情報を得ているらしい。どうやら情報統制の管理下にあるのは、息子であっても同じだったということのようだ。姫神教会について、聖嗣は具体的に何をしているか知っているらしい。
翻せば、貴族は意図的に軍部へ視線を向けるよう仕向けていることになる。まさか息子がその一員になることは予想外だったとしても、情報操作は非常に上手く機能しているわけか。相変わらず、小細工が大好きな連中だ。
「宮都の外に教会を建て、姫神を祭り上げているとの情報を得ております。組織としても相当大きくなり、これ以上は見過ごせないでしょう」
南夏家が把握しているとこの場で表明してくれたおかげで、萌音も主張しやすくなったようだ。そう言うと、懐から一枚の紙を取り出し、会議室の机の真ん中に置く。
嘲るような笑みを浮かべてそう言ってくれた。
「お久しぶりです」
が、俺はそんな安い挑発には乗らず、笑顔を浮かべて挨拶を返す。このぐらいの腹芸は、貴族であれば当たり前に出来ることだ。いちいちムカついていたら禿げる。
「ふん。相変わらず可愛げのない坊だ。まあいい。会議を始めよう。すでに北冬の連中は来ているはずだ」
瑞樹の言葉で、そう言えば予算の話だったなと思い出す俺だ。北冬家は財務を担当しており、予算は総てこの家の許可を得る必要がある。現当主の北冬美亜は謹厳実直な性格をした二十五歳の女性で、理由を明示できなければ宰相すら予算を通せないと専らの噂だった。つまり、現在の国家予算は非常に審査が厳しい。
「北冬が同席するならば、勝ったも同然だな」
にやりと萌音が笑う。瑞樹の干渉があったとしても、打ち勝つだけの証拠があるということだろう。
「面倒臭そうだな」
しかしそれなのに、瑞樹は口を出そうとしている。これは何かあるなと悟り、俺はにやにや笑ってしまうのだった。
会議室の中には意外にも、北冬美亜の他に二人いた。それもどちらも貴族のトップ。西秋家当主の西秋心海、さらに俺の家の当主、つまり父の南夏聖嗣だ。聖嗣は俺をちらりと見たが、すぐにふいっと視線を逸らせた。
勘当中の息子がいきなり目の前に現れたのだから当然の反応だろう。ちなみに四家当主の中で最も年上なのは心海で五十二歳。見た目は優しいおばさんだが、舐めてかかってはいけない。西秋は外交を担当しており、つまりは貴族の中で唯一、外の情報を持っている。ちなみに次が父の聖嗣で四十九。他は二十代という世代にばらつきがある構成だった。
「今日はまた、軍部がごり押ししようとしてますよ」
瑞樹は中に入ると、まず心海に挨拶してからそう言った。すると聖嗣がすぐに難しい顔になる。
その顔に俺が反感を抱いたのは当然で、つい眉を顰めてしまう。
「これ以上何をしようとしているんですか」
しかし、言葉を発したのは心海だ。その声は柔和だが、誤魔化しは出来ないぞという圧がある。軍部のごり押しは貴族の間でも有名なくらいだから、予算獲得でも何度か無理を通しているのだろう。萌音をちらっと見ると顔色一つ変えることなく
「テロ組織、姫神教会の壊滅です」
端的に目的を述べる。
なるほど、テロ組織にはそんな名前があるのか。それにしても姫神教会とは安直すぎないか。ここまではっきり姫神を信仰しているとなると、南夏家だけでは荷が重いのは確かだ。
「あの小生意気な組織か。最近では目立つ行動が多いな」
それに対して、聖嗣が知っていると難しい顔になった。
これに俺はおやっとなった。てっきりテロなんて軍部のせいと言い出すかと思ったが、しっかり情報を得ているらしい。どうやら情報統制の管理下にあるのは、息子であっても同じだったということのようだ。姫神教会について、聖嗣は具体的に何をしているか知っているらしい。
翻せば、貴族は意図的に軍部へ視線を向けるよう仕向けていることになる。まさか息子がその一員になることは予想外だったとしても、情報操作は非常に上手く機能しているわけか。相変わらず、小細工が大好きな連中だ。
「宮都の外に教会を建て、姫神を祭り上げているとの情報を得ております。組織としても相当大きくなり、これ以上は見過ごせないでしょう」
南夏家が把握しているとこの場で表明してくれたおかげで、萌音も主張しやすくなったようだ。そう言うと、懐から一枚の紙を取り出し、会議室の机の真ん中に置く。
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