南夏聖夜は陰謀に好かれる!?~姫神信仰の謎~

渋川宙

文字の大きさ
上 下
2 / 42

第2話 姫神

しおりを挟む
「おい、素の顔が出てるぞ。まったく、お前は相変わらず顔に出やすいな。っと、それはいいとして、今日はあっちで会議だ。が、くそ面倒臭いからな。誰か巻き込まないと気が済まない」
「いや、それで俺って、何の嫌がらせですか?」
「はっ。お前が軍部にいるだけで十分あちこちに嫌がらせしているようなものだろ。面倒事の一つ二つ、押し付けられるのは当然だ」
「うっ」
 ぐうの音も出ないとはこのことだ。
 本来は軍部にいてはならない存在。王家に連なる貴族は内政を務め、二度と姫神の悲劇を繰り返さないように努めるべき。それを破りまくっている。翻せば、貴族にも軍部にもケンカを売っている状態だ。
「ほら、解ったら行くぞ。どうせ宰相の嫌味を聞くだけだ。適当に聞き流し、予算を分捕れればそれでいい。最近では姫神を祀る宗教団体の活動が活発で、テロも頻発している。軍事費はいくらあっても足りないからな」
 萌音はそう言うと、ついて来いと先に歩き出す。俺に拒否権はなく、その後に従うだけだ。
「それにしても、姫神信仰ですか。今でもいるんですね、そんな馬鹿。てっきり、とっくの昔になくなっているものだと思っていました」
 俺は今から予算を取りに行くという萌音の言葉に引っ掛かりを覚え、そう訊ねていた。
「ふん。そいつはお前にしては頭の硬い発想だな。今も昔もウジ虫のように湧いて出てくるぞ。まあ、お前は南夏家だから根っからの信仰否定だろうが、外の連中には救世主に見えるんだよ。特に外から新しい文化が入ってくるようになったからな。変化に晒されて困惑すると、姫神様に縋りたいという連中が多いんだよ。何と言っても総てを破壊出来る神だからな」
「ほう」
 そういうものなのか。やはり、軍部に来ると見方が変わるものだと俺は頷く。
 この国で信仰は罪だ。特に破壊神である姫神への信仰は固く禁じられている。それは封印を担う王家と南夏家も例外ではなく、むしろ面倒な仕事だと思うほどだ。
 姫神のせいで自分たちはこの土地に縛られ、不自由な生活をしている。外を拒絶し、ここを守ることに専念するしかない。
 そういう意識が強い。
「姫神の封印を解き放て、と主張しているわけですか」
「そのとおり。軍部が創設されたのも、元はと言えば姫神が封印されている神殿を守るためだった。それが今では姫神信仰の取り締まり、それに伴うテロ活動の駆逐だ。外敵を相手にする暇もない」
「はあ。つまり、敵は外におらず、中にいるってことですか」
「ああ。失望したか」
 萌音はそこで俺を振り向いた。俺はそれにすぐ首を横に振って否定する。
 この国で姫神の影響がない場所は存在しない。そんなことは解っていた。だから、軍部の任務が信仰否定だとしても問題はない。
「俺は今まで、テロ活動が活発だということを知らずに生きてきました。今、俺の見聞は広がったことになります。それだけでも大きな収穫ですよ」
「ほう。つまり貴族の間では、テロはないということになっているのか」
「テロに関しては報告されていますが、それが姫神信仰と直結していることは知られていません。むしろ、軍部が強くなったことへの反発、みたいな捉え方ですね。事実、軍が大きくなったことでテロの回数が増えています。貴族たちは、姫神の話をすることさえ忌避感を覚えますからね」
「はん。お気楽なことだな」
 萌音は数字の読み替えもいいところだと鼻を鳴らして嘲笑う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...