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第2話 姫神
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「おい、素の顔が出てるぞ。まったく、お前は相変わらず顔に出やすいな。っと、それはいいとして、今日はあっちで会議だ。が、くそ面倒臭いからな。誰か巻き込まないと気が済まない」
「いや、それで俺って、何の嫌がらせですか?」
「はっ。お前が軍部にいるだけで十分あちこちに嫌がらせしているようなものだろ。面倒事の一つ二つ、押し付けられるのは当然だ」
「うっ」
ぐうの音も出ないとはこのことだ。
本来は軍部にいてはならない存在。王家に連なる貴族は内政を務め、二度と姫神の悲劇を繰り返さないように努めるべき。それを破りまくっている。翻せば、貴族にも軍部にもケンカを売っている状態だ。
「ほら、解ったら行くぞ。どうせ宰相の嫌味を聞くだけだ。適当に聞き流し、予算を分捕れればそれでいい。最近では姫神を祀る宗教団体の活動が活発で、テロも頻発している。軍事費はいくらあっても足りないからな」
萌音はそう言うと、ついて来いと先に歩き出す。俺に拒否権はなく、その後に従うだけだ。
「それにしても、姫神信仰ですか。今でもいるんですね、そんな馬鹿。てっきり、とっくの昔になくなっているものだと思っていました」
俺は今から予算を取りに行くという萌音の言葉に引っ掛かりを覚え、そう訊ねていた。
「ふん。そいつはお前にしては頭の硬い発想だな。今も昔もウジ虫のように湧いて出てくるぞ。まあ、お前は南夏家だから根っからの信仰否定だろうが、外の連中には救世主に見えるんだよ。特に外から新しい文化が入ってくるようになったからな。変化に晒されて困惑すると、姫神様に縋りたいという連中が多いんだよ。何と言っても総てを破壊出来る神だからな」
「ほう」
そういうものなのか。やはり、軍部に来ると見方が変わるものだと俺は頷く。
この国で信仰は罪だ。特に破壊神である姫神への信仰は固く禁じられている。それは封印を担う王家と南夏家も例外ではなく、むしろ面倒な仕事だと思うほどだ。
姫神のせいで自分たちはこの土地に縛られ、不自由な生活をしている。外を拒絶し、ここを守ることに専念するしかない。
そういう意識が強い。
「姫神の封印を解き放て、と主張しているわけですか」
「そのとおり。軍部が創設されたのも、元はと言えば姫神が封印されている神殿を守るためだった。それが今では姫神信仰の取り締まり、それに伴うテロ活動の駆逐だ。外敵を相手にする暇もない」
「はあ。つまり、敵は外におらず、中にいるってことですか」
「ああ。失望したか」
萌音はそこで俺を振り向いた。俺はそれにすぐ首を横に振って否定する。
この国で姫神の影響がない場所は存在しない。そんなことは解っていた。だから、軍部の任務が信仰否定だとしても問題はない。
「俺は今まで、テロ活動が活発だということを知らずに生きてきました。今、俺の見聞は広がったことになります。それだけでも大きな収穫ですよ」
「ほう。つまり貴族の間では、テロはないということになっているのか」
「テロに関しては報告されていますが、それが姫神信仰と直結していることは知られていません。むしろ、軍部が強くなったことへの反発、みたいな捉え方ですね。事実、軍が大きくなったことでテロの回数が増えています。貴族たちは、姫神の話をすることさえ忌避感を覚えますからね」
「はん。お気楽なことだな」
萌音は数字の読み替えもいいところだと鼻を鳴らして嘲笑う。
「いや、それで俺って、何の嫌がらせですか?」
「はっ。お前が軍部にいるだけで十分あちこちに嫌がらせしているようなものだろ。面倒事の一つ二つ、押し付けられるのは当然だ」
「うっ」
ぐうの音も出ないとはこのことだ。
本来は軍部にいてはならない存在。王家に連なる貴族は内政を務め、二度と姫神の悲劇を繰り返さないように努めるべき。それを破りまくっている。翻せば、貴族にも軍部にもケンカを売っている状態だ。
「ほら、解ったら行くぞ。どうせ宰相の嫌味を聞くだけだ。適当に聞き流し、予算を分捕れればそれでいい。最近では姫神を祀る宗教団体の活動が活発で、テロも頻発している。軍事費はいくらあっても足りないからな」
萌音はそう言うと、ついて来いと先に歩き出す。俺に拒否権はなく、その後に従うだけだ。
「それにしても、姫神信仰ですか。今でもいるんですね、そんな馬鹿。てっきり、とっくの昔になくなっているものだと思っていました」
俺は今から予算を取りに行くという萌音の言葉に引っ掛かりを覚え、そう訊ねていた。
「ふん。そいつはお前にしては頭の硬い発想だな。今も昔もウジ虫のように湧いて出てくるぞ。まあ、お前は南夏家だから根っからの信仰否定だろうが、外の連中には救世主に見えるんだよ。特に外から新しい文化が入ってくるようになったからな。変化に晒されて困惑すると、姫神様に縋りたいという連中が多いんだよ。何と言っても総てを破壊出来る神だからな」
「ほう」
そういうものなのか。やはり、軍部に来ると見方が変わるものだと俺は頷く。
この国で信仰は罪だ。特に破壊神である姫神への信仰は固く禁じられている。それは封印を担う王家と南夏家も例外ではなく、むしろ面倒な仕事だと思うほどだ。
姫神のせいで自分たちはこの土地に縛られ、不自由な生活をしている。外を拒絶し、ここを守ることに専念するしかない。
そういう意識が強い。
「姫神の封印を解き放て、と主張しているわけですか」
「そのとおり。軍部が創設されたのも、元はと言えば姫神が封印されている神殿を守るためだった。それが今では姫神信仰の取り締まり、それに伴うテロ活動の駆逐だ。外敵を相手にする暇もない」
「はあ。つまり、敵は外におらず、中にいるってことですか」
「ああ。失望したか」
萌音はそこで俺を振り向いた。俺はそれにすぐ首を横に振って否定する。
この国で姫神の影響がない場所は存在しない。そんなことは解っていた。だから、軍部の任務が信仰否定だとしても問題はない。
「俺は今まで、テロ活動が活発だということを知らずに生きてきました。今、俺の見聞は広がったことになります。それだけでも大きな収穫ですよ」
「ほう。つまり貴族の間では、テロはないということになっているのか」
「テロに関しては報告されていますが、それが姫神信仰と直結していることは知られていません。むしろ、軍部が強くなったことへの反発、みたいな捉え方ですね。事実、軍が大きくなったことでテロの回数が増えています。貴族たちは、姫神の話をすることさえ忌避感を覚えますからね」
「はん。お気楽なことだな」
萌音は数字の読み替えもいいところだと鼻を鳴らして嘲笑う。
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