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第1話 南家聖夜
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「なんかせいや」
俺はよく、こうからかわれていた。
理由は簡単。俺の名前が南夏聖夜だからである。
とはいえ、よくからかわれていた頃のせいやは聖彌だった。漢字が面倒なことと、軍部への入隊に反対してくれた家族への当てつけで改名した。
画数が多すぎるんだよ。なんでこんな面倒な名前にしたんだ。だったら、からかわれない名前にする配慮が欲しかったぜ。そんな家族への不満が、この感じの変更に大いに表れている。
さて、そんな具合にからかわれていた俺だが、軍部に入ると最近では逆に
「お前は何もするな」
と苦り切った顔で言われることが増えている。
ふむ、勝手な話だ。「なんかせいや」とからかわれ過ぎて、とことん何でもやらなければ気が済まない性格になってしまったというのに。せっかく家族の反対を押し切ってまで、軍部に入ってやったというのに。
「何もするな。じゃなくて、波風立てるな、が本音なんだろうなあ」
十九歳、好奇心旺盛な俺は、軍本部から見える王宮を眺めながら、にやりと笑ってしまうのだった。
ここ、咲夜国は呪われた国だと言われている。四方を山に囲まれ、外界とは隔絶した場所にある国は、その昔、輝咲夜姫神が大暴れした結果だと言われているのだ。
実際にその姫神を見た者はもう生きていない。随分と昔の話だ。姫神なんて存在がいたのかさえ怪しい。しかし、それによって他の国との関係を絶たれてしまった咲夜国は、独自の王政を展開している。
姫神の封印を守り、神を否定する王家。現在は紫龍帝の時代であり、この国は初代から数代を除いて女帝だ。年は十七歳で、拝謁したことのある俺の印象では可愛いの一言に尽きる。とはいえ、さすが国を司るだけあって気が強く、つんとした態度でいることが多い。誠に残念だ。それでも
「頼りにしてるわ」
なんて言われたら嬉しくて、俺もちょっと顔が赤くなったのを自覚している。
その王家の親族である貴族が四家。俺の家の南夏の他に、東春、西秋、北冬がある。この貴族四家は基本的に軍部とは別に存在するものであり、内政を司っている。俺の南夏家は呪術による王家の補佐だ。
と、ここまで述べれば解るとおり、俺は本来、軍部にいてはならない存在だ。女帝である紫龍を補佐し、姫神の封印に邁進しなければならない立場である。
でも、それって暇じゃん。俺、そんな昔のことに囚われて生きるのは嫌なんだよね。「なんかせいや」とからかわれても、そんな古臭い場所では何もやることなんてないよ。
そこで俺は鳴り物入りで軍部へ入隊した。軍部は完全実力制というわけではなく、今では貴族に分類されなくなった桜宮家が元帥を務め、統率している。おかげで俺のワガママも、いい顔はされなかったが通ったのだ。
とはいえ、軍部の多くは一般の人たちが占めている。入っていきなり大佐になった俺への風当たりは当然のように強い。しかし、貴族の狭い世界とは違う軍部に、俺はウキウキワクワクしている気持ちが強く、僻みはあっさり聞こえない振りが出来た。
そもそも、お前らより強いからね、俺。
呪術を担う家の訓練が軍部に劣るわけがないのだ。どうせひ弱な貴族だろうと襲ってきた連中を返り討ちにするのなんて造作もない。
しかし、快適なばかりではないのも事実だ。
「おいっ、南夏大佐」
王宮を見下ろせる窓辺に佇む俺に、そう声を掛けてくる奴がいた。
見ると、困ったことに上官も上官、元帥の桜宮萌音の姿があった。二十七歳、緩い巻き髪のナイスバディな女性だが、元帥を務めるだけあって、恐ろしい存在である。ぎろりと睨み付けてくる眼の鋭さと言ったら、虎に睨み勝つのではないかというほどだ。
「何でしょう」
俺は姿勢を正し、萌音と向き合う。彼女のおかげで軍部に入れたのだ。元帥であることを差し引いても、萌音に逆らうのは得策ではない。
「王宮が恋しいようだな。今から行く。付き合え」
「は?」
別に恋しくないけど。っていうか、王宮に付き合えってどういうことだ?
俺は相手への配慮を忘れ、思わず顔を顰めて訊き返してしまう。
俺はよく、こうからかわれていた。
理由は簡単。俺の名前が南夏聖夜だからである。
とはいえ、よくからかわれていた頃のせいやは聖彌だった。漢字が面倒なことと、軍部への入隊に反対してくれた家族への当てつけで改名した。
画数が多すぎるんだよ。なんでこんな面倒な名前にしたんだ。だったら、からかわれない名前にする配慮が欲しかったぜ。そんな家族への不満が、この感じの変更に大いに表れている。
さて、そんな具合にからかわれていた俺だが、軍部に入ると最近では逆に
「お前は何もするな」
と苦り切った顔で言われることが増えている。
ふむ、勝手な話だ。「なんかせいや」とからかわれ過ぎて、とことん何でもやらなければ気が済まない性格になってしまったというのに。せっかく家族の反対を押し切ってまで、軍部に入ってやったというのに。
「何もするな。じゃなくて、波風立てるな、が本音なんだろうなあ」
十九歳、好奇心旺盛な俺は、軍本部から見える王宮を眺めながら、にやりと笑ってしまうのだった。
ここ、咲夜国は呪われた国だと言われている。四方を山に囲まれ、外界とは隔絶した場所にある国は、その昔、輝咲夜姫神が大暴れした結果だと言われているのだ。
実際にその姫神を見た者はもう生きていない。随分と昔の話だ。姫神なんて存在がいたのかさえ怪しい。しかし、それによって他の国との関係を絶たれてしまった咲夜国は、独自の王政を展開している。
姫神の封印を守り、神を否定する王家。現在は紫龍帝の時代であり、この国は初代から数代を除いて女帝だ。年は十七歳で、拝謁したことのある俺の印象では可愛いの一言に尽きる。とはいえ、さすが国を司るだけあって気が強く、つんとした態度でいることが多い。誠に残念だ。それでも
「頼りにしてるわ」
なんて言われたら嬉しくて、俺もちょっと顔が赤くなったのを自覚している。
その王家の親族である貴族が四家。俺の家の南夏の他に、東春、西秋、北冬がある。この貴族四家は基本的に軍部とは別に存在するものであり、内政を司っている。俺の南夏家は呪術による王家の補佐だ。
と、ここまで述べれば解るとおり、俺は本来、軍部にいてはならない存在だ。女帝である紫龍を補佐し、姫神の封印に邁進しなければならない立場である。
でも、それって暇じゃん。俺、そんな昔のことに囚われて生きるのは嫌なんだよね。「なんかせいや」とからかわれても、そんな古臭い場所では何もやることなんてないよ。
そこで俺は鳴り物入りで軍部へ入隊した。軍部は完全実力制というわけではなく、今では貴族に分類されなくなった桜宮家が元帥を務め、統率している。おかげで俺のワガママも、いい顔はされなかったが通ったのだ。
とはいえ、軍部の多くは一般の人たちが占めている。入っていきなり大佐になった俺への風当たりは当然のように強い。しかし、貴族の狭い世界とは違う軍部に、俺はウキウキワクワクしている気持ちが強く、僻みはあっさり聞こえない振りが出来た。
そもそも、お前らより強いからね、俺。
呪術を担う家の訓練が軍部に劣るわけがないのだ。どうせひ弱な貴族だろうと襲ってきた連中を返り討ちにするのなんて造作もない。
しかし、快適なばかりではないのも事実だ。
「おいっ、南夏大佐」
王宮を見下ろせる窓辺に佇む俺に、そう声を掛けてくる奴がいた。
見ると、困ったことに上官も上官、元帥の桜宮萌音の姿があった。二十七歳、緩い巻き髪のナイスバディな女性だが、元帥を務めるだけあって、恐ろしい存在である。ぎろりと睨み付けてくる眼の鋭さと言ったら、虎に睨み勝つのではないかというほどだ。
「何でしょう」
俺は姿勢を正し、萌音と向き合う。彼女のおかげで軍部に入れたのだ。元帥であることを差し引いても、萌音に逆らうのは得策ではない。
「王宮が恋しいようだな。今から行く。付き合え」
「は?」
別に恋しくないけど。っていうか、王宮に付き合えってどういうことだ?
俺は相手への配慮を忘れ、思わず顔を顰めて訊き返してしまう。
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