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裏切りの宴

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 ……
 
 王国は悲しみに包まれた。
 勇者が魔物とのとうの末、二度と帰らぬ人となったからだ。

 ぎんゆうじんあいとうの歌を歌い上げると、そのせんりつに心を打たれた人々は三日三晩なみだを流し続けた。
 町はまるで深い湖の底のようにぜいじゃくに包まれ、乙女たちのすすり泣きだけがその静けさをいろどっていた。
 その涙の海が町全体を優しく包み込み、悲しみの深さをものがたるかのようだった。

 「美しい詩ですわね」

 聖女は目に涙を浮かべ、悲しげに微笑ほほえんだ。かたわらでは、戦士と賢者が深くうなだれている。
 勇者と共にゴブリンとうばつおもむいた彼らは、数日前に悲報を王都に持ち帰った。
 勇者の死に、王は言葉を失い、三人と共に深い悲しみにしずんでいた。

 「俺が一番あいつのそばにいたのに、助けることができなかった……」
 「ご自分を責めないでください。彼の分まで、私たちはけんめいに生きましょう」

 肩を抱き合う彼らに、周囲の人々も涙をきんなかった。
 ゴブリン討伐のこうせきとして、戦士は王国騎士団長に、聖女は国教のすうきょうに、賢者は国の学術機関のちょうにそれぞれ任命された。
 そして勇者は英雄としてたたえられ、永遠に王国に語りがれる存在となるだろう。

 「英雄の最後は、ぞんがいあっけないものだったな……」

 王はつぶやいた。
 勇者は魔物から人々を守り、国に希望をもたらした。また、強き者のあるべき姿を示し、はんとなる存在だった。
 しかし、その影響は貴族や王族の間に不安を広げた。勇者の人気が高まるにつれ、彼の存在が権力をおびやかすことをしたのだ。

 「このままでは、我々の地位が危うくなる……」

 王は内心でそう考え、貴族たちも同じ危機感を抱いていた。彼らは密かに、勇者をはいじょしようとかくさくした。王や貴族たちは勇者の仲間に接近し、豊かな地位や財をちらつかせ、その心をこうみょうさぶった。悪人ほど、同類や誘惑に弱い者を見抜くことにけているのだ。

 「国のためには、勇者を犠牲にするしかない……」

 仲間たちは自身にそう言い聞かせ、かつての友へのちゅうせいをあっさり捨て去った。多くの欲望が重なり、勇者はほうむり去られたのだ。
 たとえ生きびたとしても、ゴブリンの群れに囚われた勇者が正気を保つことは難しいだろう。彼らが再びあいまみえることは決してない。

 「あいつは今頃、ゴブリンのおもちゃにされてるんじゃないか」
 「ゴブリンは気に入った者をかこい、なえどこにする習性があるそうですよ」
 「なんて汚らわしい。私なら死んだ方がマシですわ」
 「彼にはくつじょくでしょう。自分だけがこうけつであるような顔をしていましたから」
 「ああ、本当に気にわない奴だった」

 勇者を裏切った仲間たちは、城のごうな一室で上等な酒をみかわしながら、いつもよりじょうぜつに彼への悪口を続けていた。
 彼らは、自分の中にえた小さな罪悪感を隠すために、それを無意識に言葉でめていたのだ。
 しかし、誰もそのことに気づいてはいない。
 これからたまわおんけいを思えば、そんなことはにすぎなかった。
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